印刷は、「原稿」、「版」、「印刷機(印圧、圧力)」、「印刷インキ」および「印刷媒体(紙などの被印刷物)」の五大基本要素以外に印刷速度、印刷室の温湿度、用紙などの保管状態あるいは印刷の固有技術・技能などが加わって行われるため、印刷作業や印刷品質の出来栄えは、それらの条件の総合的な結果であるということを考慮し対応する必要があります。言い換えると、印刷の出来栄えや印刷トラブルは1つの要因というよりも、むしろ複合的な組み合わせで発生することが多いので、紙、インキ、印刷条件(製版、印刷機、紙の前処理や環境条件等含む)などを加味し、その要因を総合的に究明して対策、解決をしていくことが重要となります。
(1)紙はすべての印刷に適用できるが、万能ではない
これまで説明してきましたが、印刷の版式にはそれぞれに特徴があり、相反している面があります。それに適する紙(印刷媒体)の特性が要求され、保有することが必要となります。そういう意味では、出来上がりのよい紙は、その版式や印刷条件に合った専用紙であるといえます。
このことを逆にいえば、すべての印刷(条件)に適する紙はない。前回、紙にはどんな印刷方式(版式)でも印刷ができると述べましたが、これは正解です。ちなみに、プラスチックフィルムや金属箔などは特定の印刷方式しか印刷ができません。
ただ紙の場合も、印刷はできるかもしれないが、紙によっては良質な仕上がりの印刷物とならず、満足する効果は得られないかも知れません。紙にも適材適所が必要であり、紙をうまく使うにはこの点をよく理解することが大切です。
印刷方式や条件によって、用紙に要求される品質条件が違っています。そのため、すべての版式・印刷条件に適用でき、満足な品質が得られる万能な用紙を設計するとなると、印刷の原理からいっても相反している面があることから、技術的に非常に難しさがあります。仮にできたとしても非常に高価な紙となり、現実的でなく一般的に通用しないものであると考えられます。
このように紙は能力はありますが、万能にしないで適材適所的に使用したほうがよく、実際にもそのようになっています。そのため紙の誤使用や品質設計以外の条件で印刷されなように、用紙の発注・受注に際しては最低限、版式に合致した紙なのか、また、印刷条件に適合した紙なのかなどを事前に確認して、適合紙(適正な用紙銘柄)を選定する必要があります。
しかも平判か巻取かによっても紙への要求品質が異なっており、その適性に合った紙をあらかじめ指定することも重要です。
また、初めての紙に印刷や加工をする場合は、あらかじめ先行試験をするか、卸商・代理店・製紙メーカーに相談して、事故防止に努めることも肝要となります。
(2)紙と印刷適性
ここで紙の適材適所を知るために、印刷適性について触れます。印刷適性(printability)とは、目的にかなった良質な仕上がりの印刷物を得るために、紙などの被印刷体およびインキなどの印刷諸材料が具備すべき性質をいいます。印刷諸材料としては、主に紙とインキの両者に重点が置かれます。
インキに求められる性質としては、印刷機上では乾かず、紙などの被印刷体に転移された後に、より速く乾き、インキ安定性がよいことのほかに、粒度、粘度、透明性、隠蔽性などがあります。ここでは紙の印刷適性について述べます。
紙の多くは印刷されますが、印刷用紙に要求されることは異常なく印刷され、かつ期待される印刷上がりが得られることです。前者を印刷作業適性(印刷作業性)、後者を印刷品質適性(印刷効果)と呼び、両方を含めて印刷適性といいます。この2つの適性は必ずしも両立せず、しばしば相反する要求となることがあり、現実には、多くは両者のバランスを取って紙質が決定されます。
例えば、不透明性、インキの受理性、紙の反対側に滲まない(裏抜けしない)適度の吸油性など、印刷物に必要な性質が印刷品質適性(印刷効果)であり、枚葉印刷時に必要な紙の最低剛度(腰)、輪転印刷時の巻取り紙が引っ張られて切れないための紙力、印刷胴が紙から離れる際に発生する応力に対し、紙の表面の塗工材料または繊維が剥離しない表面強度などが印刷作業適性(印刷作業性)です。次に、印刷方式の特徴と用紙の適性などを、印刷方式の違いによる用紙へ要求される品質としてまとめました。
版式 | 凸版印刷 | 平版印刷 | 凹版印刷 |
---|---|---|---|
印刷名 | 凸版・活版印刷 | オフセット印刷 | グラビア印刷 |
原理 | 金属版の凸部(画線部)にインキを盛り、加圧して直接、紙に転移させる(直接印刷)。この方式によるカラー(多色)印刷を原色版という。 | 凸凹版のように高低差はなく、ほぼ同一平面で構成されている金属平版の非画線部(親水部)に水を与え、また、画線部(親油部・感脂部)にインキを盛り、ゴムブランケットに接触転移させ、さらにブランケットから紙に転写させる(間接印刷)。 | 金属版の凹部(画線部)にインキを満たし、加圧して、直接、紙に転移させる(直接印刷)。なお、非画線部のインキは、事前にドクターで掻き落とす。 |
特徴 |
(活版)文字の印刷には便利で、鮮明。力強い。但し、組版に時間と人手が掛かる。 (写真版)耐刷力大。精巧な印刷可能。品質安定性大。 |
水なし平版といって水(湿し水)を使用しない平版印刷もあるが、一般的には水を使う。またブランケットを介しての間接印刷であり、インキタックが高いことが特徴。 |
階調表現が豊富。高度な製版技術が必要。高価。環境問題大。 被印刷物の選択範囲大。エンドレスの版使用可。 |
用紙の形態 | 主に巻取 | 平判と巻取 |
主に巻取 |
紙への主な品質要求 | 金属版による直接印刷であることから、特にインキ着肉性をよくするために用紙として主に次の特性が必要 | 一般的に水を使うこと、インキタックが高いことおよびゴムブランケットを通しての間接印刷であることから用紙として主に、次の特性が必要 | 金属版による直接印刷であるが、凹版であることから、用紙として主に、次の特性が必要 |
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[注]水なし平版について 普通のオフセット印刷は、水(湿し水)を使うが、これを使用しない印刷が水なし平版である。それに適正な用紙は、上記、水あり平版適性用紙と同じ印刷適正でよい。 水なし平版開発当初は、インキタックが高く設計されていたため、紙に対して表面強度アップへの要求があったが、印刷機・インキの改善によって是正された。 |
[注]一般的にインキタック(粘度)が極めて低いことや水を使わないため、紙むけや耐水性不良の心配がなく表面強度付与は緩和できる。そのため表面強度対策の緩いグラビア専用紙は、オフセット印刷への転用不可 [但し、インキに水性インキを使用する場合には、にじみ防止(ペン書き適性の向上)のために水や、筆記用インキなど液体の浸透に対するサイズ性・耐水性などの抵抗性を付与する必要がある] |
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巻取印刷では、たるみ、厚薄、紙力、断紙対応などの巻取作業性適性付与が必要 | 同左
オフセット輪転(オフ輪)方式(巻取)では、
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同左 |
なお、印刷方式による用紙の主な印刷適性(要求紙質)比較を参照。
項目 | 凸版・活版印刷 | オフセット印刷 | グラビア印刷 |
---|---|---|---|
平滑度 | ◎ | ○ | ◎ |
吸油度 | ◎ | ○ | ◎ |
表面強度 | △ | ◎ | △~× |
耐水性 | × | ◎ | ×(水性インキ使用の場合…◎) |
インキ乾燥性 | ○ | ◎ | △~× |
こわさ(剛度・腰) | ○ | ◎ | ○ |
クッション性 | ◎ | ○ | ◎ |
紙力・厚薄(巻取) | ◎ | ◎ | ◎ |
耐ブリスター性 | × | ◎(オフ輪) | × |
(注)◎…関係大 ○…関係あり △…関係小 ×…関係なし
(3)オフセット印刷用紙の一般品質特性
印刷版式のなかで、伸びており主流である平版、オフセット印刷に使用される用紙(オフセット印刷用紙)について具体的に説明していきます。
凸版、凹版の各印刷が直接印刷であるのに対して、オフセット印刷はゴムブランケットを介しての間接印刷です。その上、水(湿し水) を使用すること[湿し水を使わない水なし平版印刷もありますが、一般的には水を使います]、使用するインキのタックが高いなど凸版や凹版印刷と違いがあります。
これらの相違により、凸版や凹版印刷の専用紙と比べてオフセット印刷用紙に対しては、平滑性やクッション性への要求度は小さのですが、水に対する耐水性や寸法安定性、表面強度(紙むけ・パイリング) が良いことなどが特に要求されます。
もちろん平版、凸版、凹版など版式を問わず印刷用紙として必要な共通項目はあります。それらを含めてオフセット印刷用紙に要求される一般的な品質特性を次にまとめます。
- 平滑性が適正であること(良いこと)
- 表裏差の少ないこと
- 光沢が適正であること
- インキ吸油性が適正であること
- インキ着肉むらのないこと
- 紙くせ、伸縮の少ないこと
- カールのないこと
- 紙むけ(ピッキング)のないこと
- 耐水性、ウェットピック、パイリング抵抗性が良いこと
- 厚さ、米坪、水分等が均一であること
- 剛度、腰(こわさ、手肉感)が適正であること
- 不透明なこと
- 白いこと
- 退色しにくいこと
- 紙粉がなく切り口が良いこと
- 断裁精度(寸法、直角性等)が良いこと
- 塵、抄き穴、異物、しわ、汚れ、筋等の混入がないこと
- 地合むら(抄むら)のないこと
- (巻取品に対しては)たるみ、断紙、継手等がなく均一で巻取適性が良いこと
- (ヒートセットタイプのオフ輪用紙に対しては)ブリスター(火ぶくれ)適性を持つこと、ひじわ(乾燥時の熱によって生じる伸縮しわ)が少ないこと、折り割れ・ステッチ(針目)切れを起こさないことなど
ですが、これらをすべて満足することが条件ではありません。同じオフセット印刷でも、枚葉紙か巻取紙(オフ輪用紙) かによって用紙に付与される品質適性には大きな違いがあります。
既述のように、印刷とは絵画・写真・文字などの原稿をできる限り、忠実に再現し多数複写することですが、そのために媒体となる印刷用紙に要求されることは、用途に応じた適合品質(印刷適性)を持つことが最低条件となります。
しかも、この最低条件をクリアして、品質の安定性・再現性(バラツキガないか、許容されること)や他にもマスプロにも対応でき、かつ経済性もよく、有害物質を含まないなど安全性や保存性、リサイクル性などの点も要求され、それらに適合していることも重要な要素となります。