8.2 印刷機の動向
印刷物の品質高度化・短納期化などの要求や生き抜くために印刷会社あるいは業界として、印刷機についても多色化、高速化(幅については広幅化、あるいは小幅化などの適正化促進)、自動化・省力化・高生産性化、デジタル化などへの対応が顕著になってきています。
(1)印刷機の傾向
オフセット印刷の需要は増大傾向にありますが、その中でもオフ枚葉(平判)よりもオフ輪巻取印刷の伸びが大きく、現在では、オフセット印刷の中で平判:巻取=4:6と巻取比率が大きくなってきています。
わが国のオフ輪印刷は1940年代後半に始まりますが、経済の高度成長に乗って、その高速性、高生産性が注目され、1960年代に入って急速に普及し、1972~74年ころには、オフ輪ブームといわれるほどオフ輪化が活発となりました。
そのころは薄物のチラシ主体の印刷でしたが、現在では加えて、週刊誌の表紙、カタログ、パンフレットにも拡大、適用され、用紙も微塗工紙・軽量コート紙・コート紙やアート紙・キャスト紙など幅広く使用されています。
そして最近では、オフ枚葉印刷を超え、オフ輪印刷の比率が高まり、オフ輪が主流になってきましたが、その理由として、①印刷物の品質(特にオフ輪特有のブリスター、ひじわ、折り割れなど)がよくなってきたこと、②枚葉印刷に比べ、 3~5倍の速度で、かつ表裏両面が同時に印刷されること、③さらにインラインで折り加工などが行われるため生産性が高く、製品の短納期化ができるなどが挙げられます。
従来、オフ枚葉は小ロットで高級印刷物に、オフ輪は大ロットで高生産性を要求されるものへの適用といわれてきましたが、オフ輪印刷技術の進歩により、大ロットはもとより1万枚程度の小ロットのものも輪転化の受注を可能にしています。
なお、オフ輪機には、カラー4色などの両面刷りの商業印刷用と墨(黒)1色ないしカラー4色などの両面刷り新聞印刷用があります。
新聞オフ輪転機では、用紙の軽量化が進む中で、超軽量新聞用紙(SL…43g/m2)で最大40ページを1時間に15万部[速度…685m/min.(15万部/時=40部/秒)]を刷るのが数年前までは最高でした。
新聞用紙の標準坪量はもともと52g/m2でしたが、省資源・省エネルギーに端を発して軽量化が進み、1976(昭和51)年ごろから49g/m2への軽量化の動きが活発化し、さらに '80年には49g/m2から軽量紙46g/m2へ、91年からは超軽量紙43g/m2へと進んできました。現在、全体のおよそ95%以上が超軽量紙となり、軽量紙時代が定着しています。今後、増ページ(40→48頁)の動きもあり、さらに軽量化志向は高まることが予想されます。
そのなかで2000年10月に日本経済新聞社が試験的に、用紙の軽量化を進め超々軽量新聞用紙(XL…40g/m2)を採用、徐々に拡大しつつあり、40→44ページ、さらに48ページへの増頁実現を可能にしています。
また、最近では印刷部数17万部/時(47部/秒)の登場もあって、より効率的でスピーディな印刷が実現されており、一層の自動化やロボット化、デジタル化などを目指して開発が進められています。
ところで、新聞用紙はすべて巻取紙であり、オフセット、凸版ないしグラビア方式の高速輪転機で印刷されるため、品質的には、①巻取が均一で紙切れのないこと、②白抜け(紙粉、紙むけ等)がないこと、③インキ乾燥性が良く、裏抜けの少ないことなどが要求されます。以前は凸版方式が主体でしたが、次第にオフ化が伸展し、最近では、全輪転機に占めるオフセット化率は約95%になっています。しかも印刷のカラー化・高速化が進み、特にインキ着肉性、裏抜け、表面強度、巻取適性などに対する用紙への品質要求が高まっております。
新聞用紙の呼称 | 略号 | 米坪 |
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重量新聞用紙 | H | 52g/m2 |
普通新聞用紙 | S | 49g/m2 |
軽量新聞用紙 | L | 46g/m2 |
超軽量新聞用紙 | SL | 43g/m2 |
超々軽量新聞用紙 | XL | 40g/m2 |
一方、商業オフ輪印刷機の最高速度は、1980年ころは600rpmであったものが、'90年代初めころから800~1,000rpm(546m/min…9m/秒)が一般化してきました。さらに'98年にはわが国にも、米国製サンデープレス(ハイデルベルグ・ハリス社が日曜日に発案したというギャップレスタイプのオフ輪機)が導入され、さらに高速化・広幅化が進んでいます。
印刷速度(最高)は従来の約1.5倍[10万rph (15.24m/秒=900m/min.)]とグラビアなみとなり、紙幅(最大)も、現状の 1.5倍の1,470mmの広幅化により生産性は2倍以上の世界最高速の4色B・B型オフセット輪転印刷です。
なお、国内の出版用8色(4c/4c)グラビア輪転印刷機(チェルッティ社/イタリア製)の速度は、1980年ころは700m/min(紙幅 1,860mm)でしたが、1996年稼働の高速・広幅出版用8色グラビア輪転印刷機(佐川印刷/京都本社、工場:滋賀県日野)は、830m/min(約14m/秒)[紙幅 2,450mm、最大巻取径 1,300mm]とさらに高速・大型化しています。 ところで、オフ輪機に押され気味のオフ枚葉機は片面刷りが主体ですが、一般的なカラー印刷用の4色機をはじめ特色や補色印刷あるいはニス引きなどをすることによって、より美しい色彩を表現したり、付加価値を得るために多色(5~8色)機が導入されており、さらに近年、多品種・小ロット・短納期化、省力化、高品質化などに対応して両面印刷機の開発・導入も活発化しています。
また、オフ枚葉機の最高速度は、1967年ころが 4,000枚/時、1972年ころ 7,000枚/時、1980年代は、10,000~11,000枚/時となり、現在15,000ないし16,000枚/時と高速化が進んでおり、さらに20,000枚/時を目指して挑戦が行われています。
(参照ウェブ)三菱重工業の製品案内:オフセット枚葉印刷機
印刷機の高速化・広幅化・多色化・輪転化・コンピュータ化および印刷技術のデジタル化、印刷物の高品位化などが進展中ですが、次に印刷機速度の推移をまとめておきます。
印刷機 | 印刷機の動向(主に印刷速度) |
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オフセット枚葉機 | 1965年頃、印刷速度 4,000枚/時間→1970年頃、7,000枚/時間→1980年頃、10,000枚/時間、現在12,000~16,000枚/時間。両面印刷機も登場 |
オフセット輪転機 | 1970年代初め、オフ輪ブーム…速度 300~400rpmの時代→1980年に600rpm登場→1990年頃、800rpm、現在1,000 ~1,300rpm546m/min。さらにギャップレス10万rph[1,660rpm…900m/min(印刷紙幅1,470mm)]の登場 |
新聞輪転機 | (活版印刷…凸版方式)新聞発行当初、250部/時(英国)→1814年(英国) 1,100部/時(蒸気力利用の輪転機)。これが1950年代 7~ 8万部/時に→1960年代は12万部/時。(1970年代、オフセット印刷へ移行、普及、拡大)→1980年頃、14万部/時、現在15万部/時(約 685m/分)。さらに17万部/時(47部/秒)の超高速オフセット輪転印刷機の登場 |
グラビア輪転機 | 1965年頃、約 700m/分×紙幅 1,860mm →1996年約 830m/分×紙幅最大 2,450mmの登場(佐川印刷/京都) |
(2)印刷判の大きさ(寸法)
印刷判の大きさ(寸法)は、主としてチラシ用途には、用紙寸法B系列が使用され、カタログ・パンフレットや、通信販売・婦人雑誌などの出版物は、A系列が主として用いられています。オフ輪印刷機は、もともとチラシ用途の印刷物が主流であったため、B系列のBT半裁機(全体の約6割)やBT四裁機(ベビオフ)、BT全判機が多く、次いでA系列のAY全判機が続き、漸増しています。
なお、オフ枚葉印刷機は、最近、特に大手でサンデープレスといわれる最大紙幅 1,470mmの高速・広幅機が登場してきておりますが、一般には軽オフ(菊四裁、紙幅 440mmが多い)からA倍判機(用紙寸法で1,250mm幅)までであり、菊全判機(用紙寸法で939mm幅)が過半数を占めます。
(3)片・両面刷り、色数など
オフ枚葉は、一般的に片面刷りが多いのですが、省スペース、省力化・短納期化、高生産性を進めるため、両面印刷機を導入するケースが増えており、多品種・小ロット化に対応した1、2色機主体で増加傾向にあります。
なお、枚葉印刷機の色数は4色が主体ですが、加工のインライン化、付加価値付与のために5色以上の多色印刷機が増え、マットニス、ニス引きや金・銀などの特色を付け高付加価値化・高品位印刷を行う動きが活発化しています。
この中で、高級印刷物も視野に入れた高速8色(4c/4c) 枚葉オフセット両面兼用印刷機(12,000枚/時)も次第に増えています。また、オフ輪についても、4色機が全体のおよそ70%を占め増加していますが、枚葉機同様の狙いで、5色以上も伸びてきています。
新設のオフ輪印刷機は、大径化巻取(1,100→1,270~1,300mmφ)が掛かるように設備的には大きくなってきていますが、既設があるため現状の製品巻取りの径は、最大1,100mmφくらいまでの巻取がほとんどです。また、枚葉紙は印刷前のワンプ(包装紙)剥ぎ作業を省略するために連包装品からパレット包装品への移行が強まっています。
(4)自動化・デジタル化
また、自動化の技術革新も進んでおり、全自動刷版交換装置、ブランケット自動洗浄装置、印刷品質検査装置、自動印刷濃度管理装置、自動見当合わせ装置、フィーダー・デリバリーノンストップ装置などを含め新しい技術が導入され、省力化、品質管理への対応が進んでいます。
巻取機についても枚葉機の自動化設備に加え、巻取り自動仕立て装置(ワンプ剥ぎ、粘着テープ張り付け)、折り製品の自動梱包、排出、積み上げ作業等のロボット化、紙粉除去装置(シートクリーナー)、品質欠陥検出器などが導入されており、従来、手動で行っていた見当合わせ、ローラーやブランケットの洗浄、版の交換などほとんどの工程が自動化され、また、熟練を要したインキ濃度調整もリモコンや自動制御で容易に行えるようになりました。さらに今後とも自動化・デジタル化は進むと思われます。