9.3 印刷インキの動向
印刷の動きに対応して、より印刷適性(品質効果、作業性)がよく、安定性のあるインキの追求も顕著です。
- 棒積み適性…インキセット、乾燥性~印刷光沢の向上改善
- 高速化適応性…温度安定性、機上安定性(スタビリティ)、流動性改善等
- 湿し水ノンアルコール化対応(環境対策)…乳化適性等
- 高精細印刷対応…インキの高濃度化。乳化適性、連続印刷安定性等の改善など
また、最近特に環境保護、エコロジー問題への対応が急務になってきております。
- 環境・安全対応インキの開発…アロマフリーオフセットインキ(溶剤に芳香族炭化水素を含まないインキ)やグラビアインキでの水性化とノントルエン化の登場、さらに、電子線(EB)や紫外線(UV)でインキを硬化させる無溶剤化技術の開発も進んでいます。
大豆油インキ
最近、もう一つ注目されているものに大豆油インキがあります。環境に優しいインキとして、その市場性が次第に浸透してきています。
大豆油インキ(SOY INK) は、既存の一般インキに含まれている有限な石油系溶剤の一部を、再生可能な植物油である大豆油に置換したインキですが、1987年に大気汚染やガン発生などの原因となる揮発性有機物を減らすことを狙って米国の新聞印刷業者団体が開発、使用し始めました。
わが国には、1993年に輸入販売されたが、コストが高いこと、インキ乾燥性などの品質が劣ることなどで、市場性が乏しかったのですが、'97年7月に新たに日本環境協会認定のエコマーク商品の対象になったこと、また、米国大豆協会が認可する大豆油使用の認証マークで
ある「ソイマーク(Soy Mark)」が表示できることなどから、時流に乗って「環境に優しいインキ」として注目され、その採用が目立ち、拡大してきました。
その主な特徴として、
- 揮発性有機化合物(VOC=Volatile Organic Compound)減少による大気汚染減
- 使用職場の環境・安全性改善と発ガン性減少
- 有限な化石資源(石油)の使用減…大豆は再生可能な無限資源、さらに、
- 紙とインキが分離しやすいために古紙のリサイクル化が容易
- 生分解性がよいために廃棄処分した場合に、土中分解が早いなどが期待でき、人・環境・地球に優しいことが挙げられます。
もうすこし大豆油インキについて触れます。
なぜ大豆油なのか
大豆油インキの開発は2次にわたる石油ショックが引き金となりました。1970年後半にアメリカ(アメリカ新聞協会)において、脱石油系溶剤の観点から 2,000種に及ぶ動植物油について検討し、その中から大豆油を選定し、ノンヒート(クイックセット)新聞インキとして処方化したのが最初です。
アメリカは全世界の約50%の大豆生産国であり、豊富にあり安く、それを活用することは自国の農業振興に結びつくこと、さらに有限資源である石油の代替としての資源保護や環境保護の観点から、かつ環境に優しいとする「ソイシール」認定の導入などによってますます大豆油化率を高めた大豆油インキの普及がアメリカでは加速されています。
なお、石油系溶剤の代替として使用されている植物油は大豆油が圧倒的に多いのですが、東南アジアの新聞インキには一部、パーム油(半乾性油)が使われているとのことです。
一方、欧州では、「大豆油インキ」そのものを求めるのでなく、植物油含有量の多いインキへの関心が高く、ドイツでは、鉱物油をまったく含まないインキが「グリーンインキ」として普及しているといわれる。
環境への配慮以外に大豆油が他の溶剤より優れている点があるか
大豆油インキは、オイルショックを契機に非鉱物油(石油系)インキの開発を端を発し登場しましたが、大豆油化率を高める中で従来から使用している石油系溶剤やアマニ油などの植物油と置換してきました(次表参照)。
従来インキ | 大豆油インキ | 備考 | ||
---|---|---|---|---|
石油系溶剤 | 25~40% | 10~25% |
左表は概略数値(メーカーにより若干差あり) 顔料、樹脂、その他助剤は省略 |
|
植物油 | 大豆油 | 0% | 20~30% | |
アマニ油 | 10~25% | 5~15% |
なお、「ソイシール」認定が受けられるインキ中の大豆油の配合比率は、オフ輪インキ7%以上、枚葉インキ20%以上、フォームインキ20%以上、新聞墨インキ40%以上、新聞カラーインキ30%以上が条件になっています。
ところで、アマニ油などは乾性油であるためにインキの乾燥性は良好です。これに対し大豆油は、半乾性油であるため乾きが遅くなります。このため印刷後のインキセット・乾燥性が遅くなり、裏移りやブロッキングが発生しやすい恐れがあり注意が必要となります。これが唯一の弱点です。
しかし、その分、紙への浸透が少なく印刷物のドライダウン(光沢の沈み)が少なく、光沢が出やすく、鮮やかな発色が得られます。また、揮発性が少ないために(大豆油は常温、常圧で蒸気圧を示さない)、乾燥しにくく印刷機上でのインキ粘度の上昇が少なく安定しています。このため紙質の弱い紙でも印刷しやすい傾向になります。
環境への配慮以外に、このような利点もある上に豊富なことなどにより、大豆油が使用され始めました。そして従来使用されていた亜麻仁(アマニ)油や桐油、高沸点石油系溶剤の代わりに使われ、「環境への優しさ」を謳って、拡大し、現在では、新聞インキ、平版インキの64%が大豆油インキになっているということです(印刷インキ工業連合会ホームページから)。
(2007年3月27日修正・追加)