トピックス短信(4) 越前和紙、株券電子化が直撃

紙の道は順風満帆ばかりでなく、逆風もあります。今回はそのひとつを紹介します。来年(2009年)1月に実施される株券の電子化の影響で越前和紙が苦境に陥っています。

 

◎越前和紙、株券電子化が直撃

(出所)日本経済新聞 景気ウオッチ 越前和紙、株券電子化が直撃(2007年12月24日)

FujiSankei Business i.株券電子化の余波、「和紙の里」がピンチ!

福井・越前市今立区、従業員半分リストラ/出荷額3分の1に(2007年11月21日)

Web東奥・特集/スクランブル「和紙の里」がピンチ/株券電子化の余波が直撃(2007年11月16日)

2009年に実施される株券の全面電子化で福井県越前市の和紙産が苦境にあえいでいる。同市は株券に使われる特産和紙「局紙(きょくし)」の一大産で株券局紙の99%を製造している。電子化で株券の発行が手控えられ、局紙の年間生産額は最盛期の35%まで激減。各業者は株券に使う特殊技術を生かし、新製品の開発を進めが、苦戦が続いている。

1300年以上の歴史を持つ国内最大の和紙産で「和紙の里」として知られる福井県越前市の今立区が、2009年1月に全面実施される「株券電子化」の思わぬ余波で衰退の危機に直面している。株券用紙として使われる特産の高和紙「局紙」の受注が激減したためだ。苦境に追い込まれた現の業者から悲鳴が上がっている。「局紙」の製造を見守る小畑製紙所の小畑明弘社長=福井県越前市

明治・大正期の雰囲気を残す古民家と木造の製紙工場が軒を連ねる今立。その一角、局紙生産業者「福井特殊紙」の工場には人の気配はほとんどなく、紙の裁断機がほこりをかぶっていた。同社は株券電子化の影響で従業員を半分にリストラせざるを得なかった。酒井重孝会長は「局紙に代わる商品が見つからない」と唇をかむ。

≪99%が今立産≫

越前和紙は日本経済の発展を支えてきた「黒子」だった。福井県和紙工業協同組合によると、1990年度ごろに約9億円だった県産の局紙の出荷額は05年度に4億円程度となり、06年度は約3億2000万円と6割以上の減少。07年度はさらにその3分の1の約1億円に落ち込む見通しだ。なお、右図(日本経済新聞掲載)は同協同組合調べの越前和紙の生産額の推移であるが、06年度までの10年間で半減するという生産額の大幅減が顕著である。

今立は伝統的工芸品に指定された和紙のうち全国の約6割を生産するが、製造事業所数は1995年の83カ所から昨年は69カ所まで減少。協同組合の山田益弘理事長は「局紙業者の売り上げ減は(域の)取引のあるほかの業者にも大きく影響する」と話す。

局紙は、明治時代に大蔵省印刷局で使ったお札印刷用の紙がルーツ。名前も「印刷局」の「局」から付いた。上質なつやと耐久性の良さから、株券用紙としても普及、現在出回る株券の99%が今立の局紙という。知られざる特産品だが今回はそれが裏目に出た。

株券の電子化は2004年に関連法が成立。印刷コストの削減や偽造防止などが目的だ。証券保管振替機構によると、上場企業の発行済み株式のうち9月末時点で8割が電子化を終えた。

≪生き残り模索≫

一方、今立では株券の偽造防止としても使われる伝統の「透かし」技術を活用した新たな和紙商品の開発など、生き残りを図る動きも出てきた。小畑製作所は、「寿」の文字の透かしを入れた和紙のグリーティングカードを製作。リボンをすき込んだはがきも作り、若い女性らに売り込む考えだ。だが、小畑明弘社長は「なかなか納得できる品質にならない」と苦労を語る。山田兄弟製紙も、大阪の淀川河川敷に茂るヨシを原料にした紙で作った便せんや名刺を開発。「今まで焼却していたヨシの有効活用」(同社)と、環境重視の商品としてアピールする。東京学芸大の上野和彦教授(経済理学)は、「都会や海外でも使ってもらえる商品を開発できるかどうかがポイント。伝統的な産の体質を変えないと厳しい」と指摘している。

 

◎越前和紙の里、余波 09年の株券ペーパーレス化用紙受注が半減

(出所)asahi.com:株券電子化特集(2007年6月7日)

上場企業すべての株券を電子化する株券不発行制度が09年に始まるのを前に、株券用紙を製造する全国7社のうち5社が集まる福井県越前市で、受注量が落ち込む影響が出ている。景には、制度導入を控え、有価証券の保管・受け渡しをする証券保管振替機構(ほふり)への預託株が増えたことや、企業のコスト削減意識があるようだ。

製紙業者70社が集まる越前市は、紙幣に使われる透かし技法を生んだ越前和紙の産。偽造防止のため企業名やロゴマークなどの透かしが入ったオリジナル株券用紙は、機械ずき業者5社で作られている(写真…企業名などの透かしが入った株券用紙を製造する製紙業者=越前市大滝町の小畑製紙所で)。

有価証券や卒業証書など透かし入りの「局紙」が主力の小畑製紙所では昨春から、株券用紙の受注量が減り、平年の半分以下の状態が続く。1カ月当たり15~20社の注文があったが、今では3社前後だ。小畑明弘社長(46)は「制度開始の1年前には影響が出始めるだろうと覚悟していたが、こんなに早いとは」と戸惑いを隠せない。

福井県和紙工業協同組合によると、05年10月に電子化された社債を含め、有価証券用紙の年間出荷額は約4億円で推移していたが、06年度は約3億2千万円と20%減。今年度は1億円程度に落ち込む見通しという。

●預託率8割

株券電子化まで1年以上あるが、株券用紙の需要が減っている最大の要因は、ほふりへの株預託率が80.4%(2月末現在)と高まったことだ。

株主が証券会社などを通じて株券をほふりに預けると、株式の売買や譲渡の際に株券そのものを授受せずに口座間の振り替えで処理される。預託株は株主の名前や住所、保有株数などが電子的に記録され、株主は株券を預けたままで権利を行使できる仕組みだ。

個人が自宅などに保管する「タンス株」は、名義が以前の所有者のままだと電子化と同時に所有権を失う恐れがある。ほふりなどでは早めの対応を呼びかけ、預け入れのPRに力を入れている。

企業が株を発行する場合、株券が市場に流通する量とほふりに預けられる量の割合を予測し、実際の作成数を決める。ほふり利用分は一定量を除き作成の必要がなく、株券印刷をしている凸版印刷は「預託率が上昇するほどほふり利用の割合が高く見積もられ、作成数が抑えられる傾向が強まる」と指摘する。

同社によると、06年の株券発行量は対前年比で35%減少。ほふりへの預託率予測を基に、07、08年は対前年比でそれぞれ40%減、50%減となると予測しており、非上場企業の株券だけが残る09年には05年発行量の2%程度になると分析する。

東海方の製紙メーカーも「確かに株券用紙の受注量は徐々に減っている」という。特に企業ごとの特注品の需要はごくわずかで、比較的安い定形パターンの汎用品へと注文が転換している兆しもうかがえるという。

日興コーディアル証券は「いずれ不要になるものにコストを割きたくない企業心理が働いているのだろう」とみる。企業が一定量を保有している予備株券の在庫を減らし始めたとの見方や、新会社法では新規設立会社は原則として株券を作成しないことを定めている側面もある。

●新市場探る

越前和紙の産では株券用紙に代わる新たな市場を探る動きも始まっている。小畑製紙所では、校名や桜の透かし模様を入れた合格通知書用紙の試作や、入場券などとしての需要獲得をにらみ、透かしに加えてICチップをすき込んだ紙の開発を進めている。

また、透かしにこだわらず、和紙の風合いを生かした写真プリント用紙や新たな植物を原料にしたエコペーパーの販売に乗り出した業者もある。

福井県和紙工業協同組合の山田益弘理事長(72)は「株券用紙の需要減をすべてカバーできるものを見いだすのは難しい。透かし偽造防止技術を生かすため、中国など海外での市場開拓にも力を入れたい」としている。

◆キーワード

<株券電子化>株券を発行せず、株取引の手続きを電子化(ペーパーレス化)する。04年6月に関連法が成立、09年6月までの一斉移行日(未定)に全上場企業の株券が廃止される。ほふりや証券会社、信託銀行などは同1月を実施目標とし、電子化以降は無効となる株券のほふりへの預託を推進している。

 

参考・引用文献

  • 日本経済新聞(景気ウオッチ 越前和紙、株券電子化が直撃…2007年12月24日付)
  • 東奥日報社Web東奥・特集/スクランブル「和紙の里」がピンチ/株券電子化の余波が直撃(2007年11月16日)
  • ホームページFujiSankei Business i.株券電子化の余波、こんなところに…「和紙の里」がピンチ!(2007年11月21日)
  • ホームページasahi.com:越前和紙の里、余波 09年の株券ペーパーレス化 用紙受注が半減 - 株券電子化特集(2007年6月7日)

 

(2008年2月1日記載)

 


更新日時:(吉田印刷所)

公開日時:(吉田印刷所)