因州和紙を使って…丸谷さんから寄せられたメールから
さて、ちょうど今発売している「住宅特集」(2002年)7月号に、私こと建築家、丸谷博男の因州和紙訪問記が掲載されています。住宅作品も紹介されています。ぜひ本屋で立ち読みしてください。大きめの本屋でしたら、置いてあると思います。
また、toto通信(衛生陶器の社報)夏号に、広島で取り組んでいるモデルハウスが紹介されています。そのなかでトミタから出されている壁紙を襖に貼っていますが、これも因州の和紙です。
また取材のおり買い求めた手漉きの画仙紙は、青谷町山根の長谷川憲人さんご一家のものでした。それを使い東京で、仲間と「書の会」を楽しみました。みんな大喜びでした。
その時のお礼のメールを仲間の一人(宮城さん)が長谷川さんにお送りしています。下記に引用します。
- 2002年5月16日(木)書を楽しむ会を開きました。
- 参加者は丸谷さん、田中さん、土谷さん、藤原さん、坪谷さんでした。
丸谷さんは予告通り、因州和紙全紙版を四種類持ってきて下さいました。四種は厚みが違います。まあ、何と贅沢にも、どんどん使っていいですよ、とのこと。お仕事で鳥取に出張なさり、因州和紙を深く知って、その良さを確認。この日のためにたくさん買ってきて下さったのでした。こんなに大きな紙を漉くのは、さぞかし重労働でしょう。せっかくの大きさですが会場が狭いので4枚位に切って、まずは試し書きをしました。この日の丸谷さんはもう一つ大きな仕事を持っておいででした。またしても表札です。大きめの白木の板に「上原」と濃墨で大書。「さわやかな風に吹かれ、気持ちよく、前向きに、これからの人生に立ち向かう。」というイメージのステキな表札ができました。上原御一家に祝福あれ!
田中さんは、後から来る人のために墨をたくさん摺って下さいました。まず、感謝。そして因州和紙には、お得意の絵を描かれました。山があって、人が天を仰いでいる絵。どんなストーリーだったのでしょう。お尋ねしそびれました。いい和紙には墨の乗り、滲みがうまくでます。特に薄墨の色がよくわかって、墨絵には最適です。
土谷さんはいつもながらの千字文の続き。真面目です。初めに薄手の紙に書かれ、後で厚手に書かれました。かっきり、しっかりした字、楷書とか隷書などには厚手の紙が向いているようです。その違いをこの日ははっきりとつかんだことと思います。いつもの半紙より、長い紙だと緊張しますか?なかなかいい字が書けたようですね。
藤原さんは王鐸の臨書です。大きな紙に書くとこういう勢いのある字が生きてきます。とても気分良く書かれたのではないでしょうか。筆を持てない時も、王鐸の字を眺めていらっしゃるとのこと、よい心がけですね。見ることもよい勉強です。でも、印刷されたものには限界がありますから、機会があったら本物の肉筆に接することをお薦めします。身近なところでは上野の東京博物館東洋館に王鐸があります(展示替えの時期もあり、要注意)。
坪谷さんは昭和40年製の墨を使って絵を描かれました。坪谷さんはアーティストの感性で墨と接しているようです。いい紙だと、いくらでも墨を吸って行く、といいながら紙の上に熱心に線を描いていました。四角い絵は「家」なのだそうです。皆が懇親会を始めてからもひとり熱心に描いていましたね。
私も久しぶりに少しですが、遊び書きを楽しみました。細長く切った紙を縦に使って七言絶句を行草体で、細筆の先のほうを持って、立って書きました。墨を濃く濃く摺り、筆にまず水を付け、その濃い墨を穂先にサッと付けて書きます。私の師事している今井凌雪先生は超真面目な先生。「普段の練習は臨書」ときついお教えを頂いています。でも、たまにこうして遊び書きをすると実に楽しい。何も考えず、作為をせず、筆の向くままに穂先を走らせます。ああ、楽しかった。紙がいいと違いますね。まるで北海道のゲレンデでスキーを楽しんでいるようなものです。
この日は長い時間書いて、おなかがすきましたね。懇親会は、頂いた美味しいワインを片手にもりもり食べるだけでなく、丸谷さんが、お持ち下さったMacintoshG4ノートを使って因州和紙とその周辺の写真を見ながらレクチャーをして下さいました。
最後まで充実しっぱなしです。美しい日本的な建物の中で、昔ながらの手作りの和紙が作られる行程。これを拝見すると、紙をあだやおろそかには使えないと思います。柳宗悦も絶賛したという因州和紙がこれからも人に愛され、大切に、しかも大いに使われて行くことを祈ります。いつも皆さんのおかげで盛り上がる「書を楽しむ会」ですが、今回は丸谷さんにすっかりお世話になりました。大変勉強になりました。重ねて感謝いたします。
宮城記