紙について(6-2) 紙の特徴《基本特性の決定要因》

2.紙の基本特性の決定要因

紙の基本特性や物性は、使用する原料・原料の処理(叩解など)・薬品、抄紙・塗工・加工・仕上げ条件や温度・湿度など使用、保管される環境条件などによって決まり、変化します。

ここでは原料である植物繊維と環境条件について触れます。

 

(1)紙と植物繊維、その主成分と特徴

紙を作るということは、自然界で生合成(光合成)を経て形成された植物体に、薬品を添加し加温して煮たりすることにより繊維を取り出し、平面で薄状のシートにするということです。

紙はセルロース繊維を基本として構成されています。そのために長所もあり欠点もあります。紙は、木材などの植物繊維を原料としておりますが、植物体から繊維を分離する工程をパルプ化といい、その製品がパルプで紙の原料となります。

そしてその主成分はセルロース、ペントザンなどのヘミセルロースやリグニンで、その他にマンナン、樹脂やカルシウム・シリカなどの無機成分が少量含まれています。

主な繊維原料の化学組成・形態
繊維原料 化学組成(%) 形態
セルロース ヘミセルロース リグニン 灰分 平均長(mm) 平均幅(μm)
針葉樹 47~60 8~12 20~35 0.1~1 2~4.5 20~70
広葉樹 50~66 20~24 17~28 0.1~2 0.8~1.8 10~50
楮(白皮) 60~65 23 3~8 4~6 6~20 14~31
ケナフ 53 22 18 2 2~6 14~33

現在の紙は、ほとんどが木材を原料にしておりますが、その木材はすべてのセルロース原料のなかでいちばん大量にまた広く使われております。

木材の50~55%はセルロースで、10~20%くらいのセルロース以外のヘミセルロースと多糖類、そして20~30%のリグニンからできています。

 

■セルロース

繊維細胞の主成分であるセルロース[繊維素(C6H10O5)n…セルロースの構造式]は、数千個(500~6000個) ものグルコース(単糖類)[ブドウ糖(C6H12O6)]が連結(重合)した長い鎖状の高分子(ポリマー)で、もとは二酸化炭素(炭酸ガスCO2)と水(H2O)とが、葉緑素の触媒作用で太陽光線のエネルギーを得て光合成された化合物です。

いろいろな長さ(重合度)のセルロース分子は、集合してミクロフィブリル[糸状の形態をしているセルロース分子の集合単位]を形成し、さらにこれが他のヘミセルロースやリグニンなどの化合物と複雑に絡み合って繊維細胞を構成しています。

長い高分子が集合するとき、整然とならんだ結晶領域と、不規則な非結晶領域(無定形部分)とができます。ブドウ糖が水によく溶けるのに対し、セルロースは、強固な結晶構造を持っているため、水の無定型部分への侵入によって繊維が膨潤することはあっても、水に溶けることはありません。なお、重合度および結晶領域の割合(結晶化度といいます)が高いほど、繊維は丈夫となります。

また、紙が形を保ち、強さを保持しているのは、繊維の絡み合いによる機械的な力だけでなく、セルロース分子間に水素結合という化学力が働いて繊維同士が引き合っているからです。

この場合の水素結合は、分子内の多数の親水性の水酸基(ヒドロキシル基、OH基)の酸素原子が余分の電子を持って、他から水素原子核を引き付けるために起きます。近くにある水酸基間で、相互に水素を介した酸素の結合(水素結合 -O-H…O<)ができます。その結合力は通常の化学結合(共有結合)よりは弱いのですが、長い高分子が無数の水素結合を行うと全体では強い力となります。

紙になるときに、この水酸基はシートを形成して強度を発現させるという重要な役目を果しています。すなわち、紙製造の段階で、紙料から脱水の過程でセルロースが接近しますと水の表面張力で繊維同士が接近し、さらに水の蒸発にしたがってますます繊維が引き寄せられます。

例えば、ドライヤーなどで乾燥しますと、次第に水が蒸発して繊維同士が接近してくるわけですが、接近しますと水酸基と水酸基の間で、水素結合と呼ばれる結合が発生し、これが紙の強度を高めるわけです。このように接着剤を使わなくてもセルロースの水酸基のために自己接着性が発生するというわけです。そして乾燥を受けると水和していたセルロースから水が除かれて繊維本来の柔軟な硬さにもどり、弾性を持った紙の組織ができ上がります。これが製紙の原理です。

ところで、水分子(H2O)自身も水素結合しやすく、セルロース中の親水性の基である水酸基ともすぐに結びつきます(水和といいます)。つまりセルロースの親水性は本質的なもので、吸湿性あるいは吸水性は紙の宿命であるわけです。

なお、上記のように、紙は繊維と繊維が絡み合い、結合して層を成していますが、絡み合った繊維の間には微細な間隙があり、多孔質構造となっています。その構造が紙独特の風合いをつくり出すとともに、親水性がゆえに水を吸収して膨張し、柔軟性を示すようになります。また、紙にペンによる筆記や油性のインキで印刷ができるのは、この多孔質構造による毛細管現象によって水やインキをよく吸収し、吸着されるとともにセルロース分子の中にインキと親和性の強い親油性の基である>CHー(メチリジン基)があるからです。

この親水性で、かつ親油性で、さらに多孔質構造を持つことが紙の最大の特性であり特徴であり、金属、陶磁器、ガラス、プラスチックフィルムなどの素材にない性質で、このことが水を使い、油性の印刷インキで紙に印刷ができ、しかもインキが取れないように定着する理由となるわけです。

また、紙は厚さ方向に空気(気体)が出入りすることができます。いわゆる通気性を持ちますが、これもこうした多孔質構造に起因した紙の特性でもあります。

 

■ミセルロース

そしてもうひとつ、紙において重要な役割を果たしているものがヘミセルロースです。ヘミセルロースは、グルコースの他に類似の各種の糖類が結合した複雑な構造の多糖類(高分子の炭水化物、重合度50~300)で、植物の細胞壁を構成しています。

成分糖の種類や数、その結合の仕方によっていろいろな種類があり、セルロースとは水素結合などで密接に混合して植物細胞を形成しており、化学的にはセルロースより反応性に富み、水にも溶けやすく、溶けると粘い液となります。そのためパルプ化や叩解などの際に、ヘミセルロースを多く含む繊維は、フィブリル化しやすく、フィブリル化により遊離の水酸基を多く出すため抄紙のときに水和しやすく、膨潤し、よく分散して均一に絡みます。このためできた紙層を乾かすと膠着性を発揮して紙を強くします。

一方、リグニンは、セルロースやへミセルロースが多糖類であるのとは異なり、芳香族核[構成単位(単量体)はフェニルプロパン]が立体的に結合した非結晶性の不規則な高分子物質です。

リグニンは、木材、竹、藁、ケナフ(紅麻)などに多くて、和紙の原料となる楮、三椏などは比較的少なく、植物内で細胞同志を接着して植物体を強固にます。親水性が小さく化学的には抵抗力が強く、パルプ化に際しては高温度でスルホン化されたりアルカリで分解され溶解し、抽出されます。

また、リグニンは着色性があるので、紙にとって品質的に好ましくありません。すなわち、紙を退色させます。リグニンは酸化されやすく、光(紫外線)によってさらに加速される性質を持っていますから、リグニンを多く含んだパルプを多く使用した紙ほど変色、劣化しやすくなります。

リグニンの含有率は針葉樹材で30%内外、広葉樹材で20%内外です。パルプのなかでも、化学パルプ(CP)はパルプ生成の過程でリグニンが取り除かれますが、機械パルプ(MP)はほぼそのまま残ります。したがって、紙の退色や劣化の度合いは、化学パルプを使用した上紙より、リグニンを多く含んだ機械パルプを配合した中・下紙・新聞用紙のほうが大きくなるわけです。

 

[補足] 和紙について

和紙の靭皮繊維は、木材パルプの繊維と比べて長いこと、および着色性があり、紙には益のないリグニンという物質が少ないことや、製紙にむしろ有利に作用するヘミセルロースを多く含むという特徴があります。

洋紙の製造に使われる木材パルプの場合には、この樹木内でセルロースの接着剤の役目をしているリグニンを化学薬品で溶かし出し、セルロースを主成分とする木材パルプを作るのですが、和紙の靭皮繊維の場合にはリグニンがもともと少ないので、リグニンを抽出するような化学的な強い条件を与えなくてもセルロースを取り出せます。すなわち、あまり繊維を劣化させるような強い化学的作用を与えないので、靭皮繊維から取り出した場合の方が木材パルプの場合よりも力学的に強いということがいえます。

しかも和紙の場合、緩和な薬品処理の上、靭皮繊維は緩慢な手作業でパルプ化されますで、繊維の損傷は少なく、抄造直前の工程の叩解も手打ちのために繊維の切断(セルロース分子の重合度の低下)もほとんどありません。ここにも和紙が強く長持ちする特性が生まれる理由があるわけです。

セルロースには水酸基(-ΟH)がいくつかあり、これがあるために非常に水に親しく、和紙も水を吸収するという特性をもつわけです。そのため洋紙の場合には、ペンなどによるインク筆記による滲みを防ぐために、紙の表面に繊維の水酸基が露出しないように、表面処理をして水をはじくような処理をしたり、紙の内部に水を受けつけにくくするように薬品を添加しますが、和紙の場合には逆に、この水酸基を活用して水で書いたりするときにうまくが滲むように調節しています。すなわち和紙は水を吸収しやすいという、もともと紙の持つ性質を活かしているわけです。

参照

  • 和紙の特徴

 

(2) 環境条件

紙の強さなどの物理的性質は、含有水分や外気湿度によって大きく変化します。また、紙の水分は置かれている環境の温・湿度条件により、吸収したり、放湿したりしますので、紙の物性値を測定したり、その特性値を比較する場合、一定の条件下で試験しなければなりません。

このため、わが国の用紙の前処置および試験のための標準条件は、国際的な標準であるISO 規格(国際規格)に準じた温度23±1℃、湿度50±2%RH(4時間以上調湿)と規定(JIS P 8111)されており、1998年から適用されています。これはわが国の湿度を考えて設定し、それまて長く使われてきた標準条件、温度20±2℃、湿度65±2%RH(過渡措置として2000年3月31日まで適用可能)から国際化に合わせ変更されたものです。

 

RH…Relative Humidityの略。相対湿度、関係湿度ともいいます[ある温度において気体中に含まれる水蒸気の量(飽和水蒸気量)は一定です。この飽和量に対して、実際に含まれている水蒸気量の比をパーセントで表示するのが相対湿度です]。

 

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更新日時:(吉田印刷所)

公開日時:(吉田印刷所)