紙について(6-3) 紙の特徴《紙と湿度》

紙の基本特性のうち、紙を印刷ないし加工するときに、特に重要な特徴は水または湿度に敏感なこと、および紙の縦横、表裏を示す異方性(方向性)と両面性を持つことです。

このうち紙の縦横、表裏を示す異方性と両面性については、FAQのところをご覧ください。ここではもうひとつの重要な基本特性である水または湿度に敏感なことについて説明します。

 

3.紙と湿度

多くの紙は、機械で抄造され薄くて平面状であり、植物繊維を主原料として作られております。そのパルプ単繊維自体、水分を保有し、親水性で水と新和性が大きいため水分変化に敏感です。したがって、それを原料にしている紙も、水分すなわち、湿度変化に敏感となります。これは紙の最も重要な特性ですので、少し詳しく触れ、理解を深めます。

 

(1) 平衡水分

1枚の紙を湿度の異なる環境に移すと紙の中の水分は直ちに変化し始めます。湿度が高ければ紙は水分(湿気)を吸収し、低くなれば放出し、ごく短時間にその変化は完了します。

紙の水分がこれ以上変化しない状態(飽和状態)になることを水分が平衡するといい、このときの水分値を平衡水分といいます。

紙はそれぞれ、湿度に応じた平衡水分を持っていますが、親水性に富む紙ほど、ある湿度での平衡水分は高く、親水性が乏しいほど低くなります。なお、紙の脱吸湿速度は、紙の多孔性に影響され一般的には粗い紙のほうが速くなります。

一方、積み重なった紙(積層紙)は外気の湿度と平衡するのは周辺のみで、外層までには時間が掛かり、内部はほとんど変化しません。

 

また、紙は高湿度(例えば95%)の状態からある湿度(例えば65%)に下げたときの紙の含有水分は、低湿度(例えば 5%)からその湿度(例えば65%)に上げたときの含有水分とは異なり、高い状態で平衡になります。すなわち、湿度の下降過程と上昇過程とでは、同一湿度に対する平衡水分は異なります。これを紙のヒステリシス現象といい、また、描くカーブをヒステリシスカーブといいます。

このため、強制的に湿度を変え、高・低の湿度状態を繰り返すと、紙の水分変化幅は小さくなり、一定の値に近づくとともに紙の伸縮程度(伸縮率)も小さくなっていきます。このように、紙は時間を掛けて吸・脱湿を繰り返すと含有水分や伸縮程度が安定した状態になります。これをエージング効果といいます。

なお、湿度は温度の影響を受けます。特に、密封状態にある積層紙を温度変化が大きい環境(倉庫)に置いた場合、外気温度が下がっていけば、相対湿度 100%を超え、ついには外包装が濡れ、いわゆる「結露」を起こし、トラブルとなることがあります。防止策として、保管時などに倉庫壁から10~15cm以上離して製品を置くなどの注意が必要です。

 

(2)湿度変化と紙強度

紙の強度(紙力)は、繊維自体の強さと繊維の絡み合い(水素結合含む)によって生じます。長繊維である楮、三椏、亜麻、マニラ麻などはいずれも大きな強度を与え、クラフトパルプ(KP)もまた強度の大きい紙をつくります。亜硫酸パルプ(SP)、木綿パルプなどは強度がやや劣り、藁、エスパルト、葦などは繊維が短く強度が小さく、また、砕木パルプも弱い。

ところで、水分の増減は繊維間結合および組織の剛直性、柔軟性という両面で紙の強度に影響します。水分が低くなると紙は剛直性を増すと同時に脆くなります。したがって、繊維または組織は折れやすくなり、強度は低下します。逆に、水分が多くなると繊維組織に緩みを生じ、繊維間結合が弱くなり紙の引張り強さや破裂強さ等の強度は低下しますが、柔軟性が増すため、耐折強さ、引裂き強さ、伸びなどは向上します。

なお、紙に関わる力学的作用としては、

  • 引張る力に対する抵抗性…引張り強さ
  • 紙面に垂直な圧力をかけたときにその紙を破裂させるのに要する力…破裂強さ
  • 紙を引裂くときの抵抗性(仕事量)…引裂き強さ
  • 折り曲げに対する抵抗性…耐折強さ
  • たわみを与えたときの抵抗性…こわさ
  • 紙の厚さ方向の変形しやすさ…圧縮強さなどがあり、それぞれに評価法があります。

そして、これらの値は紙の坪量(質量)で変化しますので比較値として、坪量で除した裂断長、比破裂強さ(または力比)、比引裂き強さ、比圧縮強さなどで示すことが多々あります。

また、上記のように、紙の含水量は外気の温度・湿度に左右され、紙の強度や伸びは、特に湿度によって変化が大きいため、紙の試験は一定(標準)条件に保たれた恒温恒湿室内で、一定時間前処理し、試験片の水分が平衡状態に達してから行わなければなりません。JIS では、この標準条件として温度 23±1℃、湿度 50±2%RHと規定しています。

 

(3) 湿度変化と紙の伸縮

さらに重要なことは、水分の増減により植物繊維は伸縮することです。繊維は吸湿および脱湿によってそれぞれ膨張ないしは収縮し、その程度は単繊維の横方向[直径方向(胴面方向)]において著しく、縦方向[長さ方向(軸方向)]では小さい。比率で示すと単繊維の横方向の伸縮は、縦方向のおよそ30倍以上になります。すなわち、相対湿度を 0から 100%に変化させると、1本1本のパルプ繊維は吸湿して長さ方向には 1%以下しか伸びませんが、直径方向には30%くらい太り、脱湿(乾燥)によって反対に縮みます。

 

紙にした場合、湿度変化による紙全体の伸縮は、個々の単繊維の伸縮が繊維間結合を通じて全面に波及することによって起こります。抄紙時に繊維は流れ方向に配列する傾向があるため、マシン流れ方向(縦方向)よりも直角方向(横方向)のほうが湿度変化による伸縮が大きくなるわけです。もし繊維が完全に流れ目の方向に配列していれば、紙の縦横の伸縮比は単繊維の場合と同じ 1:30程度になるのでしょうが、実際には、繊維は目の方向に平行に比較的多く並んでいる程度で、あらゆる方向に配列しているため、紙の場合は、単繊維のように大きくはありません。その比は紙の種類、繊維配向の程度などによって異なりますが、一般的に 1:2~3(紙の種類によっては5倍)くらいになります。

 

なお、湿度変化による伸縮の少ない紙を寸法安定性の良い紙[(注)断裁精度のことではありません]といいます。すなわち、寸法安定性とは、水分(湿度)変化に伴う紙の寸法変化の程度をいい、試験法として装置内を種々の相対湿度にし、試験片の水分を変化させ、基準湿度時の原寸に対する伸縮量を測定し伸縮率%(湿度伸縮率)で表す方法があります。その他に、紙を水中に一定時間浸漬して、その伸びの程度をみることがありますが、これは浸水(水中)伸度と呼ばれ、繊維が完全に湿潤したときの伸びを表しています。紙の浸水伸度は、一般的に縦方向 0.1~ 0.5%、横方向 2~ 3%程度ですが、紙によっては、もっと大きく縦方向に 1~2%、横方向に 3~5%程度も伸びるものもあります。

 

(4) 湿度変化と紙くせ

紙は湿度に敏感なため、その変化に応じさまざまな挙動がみられます。その中でも、代表的なトラブルである紙くせ不良として「波打ち」、「おちょこ」および「カール」があります。

 

■波打ちとおちょこ

積層紙の周囲の相対湿度が変化すると、紙の周辺が吸湿あるいは脱湿するので周辺部分が局部的に伸び、ないし縮みが起こります。これが紙くせトラブルの主体を占める「波打ち」や「おちょこ」であり、印刷時に見当狂いあるいは印刷しわなどの原因となります。

波打ち(ウェイビィエッジ、Wavy Edge)は紙の端部が大気中の水分を吸って部分的に伸び、波状になるもので、紙が大気などの周囲から吸湿することによって発生する現象で、高湿環境下で、紙が低水分(低紙間湿度)状態のときに発生しやすくなります。それを印刷すると紙の中央部からくわえ尻部に掛けてしわが入りやすくなります。

 

枚葉紙に印刷の際、印刷機のくわえ爪(グリッパー) によって、紙の端をくわえ印刷部に持っていきますが、くわえられる側をくわえ端ないし単にくわえといい、その反対側をくわえ尻といいます。

 

一方、おちょこ(タイトエッジ、Tight Edge)は波打ちとは逆の条件下で発生します。すなわち、紙周囲から外気中に水分を放出して紙の隅がせり上がり、ちょこ(盃)状のような形になる現象で、紙からの放湿(脱湿)が原因で、低湿環境下の高紙間湿度状態で発生しやすくなります。

印刷では紙の中央部にしわが入りやすが、このように波打ちとおちょこでは、印刷しわの入る場所が異なりますので、欠陥サンプルを見て、いずれの現象か判別することができます。

 

■カール

カールとは紙が湾曲すること。すなわち、紙が一方向に丸まる状態を指します。湿度変化、機械的応力などによって起こりますが、カールは水分の吸収・脱湿による紙の伸縮に起因する「構造カール・水分カール」と巻取の長期保存等による「巻ぐせカール(巻きカール)」とに大別されます。

構造カールは、水分カールともいい、紙のワイヤー面またはフェルト面のいずれかへカールする現象で、紙の表裏差(構造差、水分差)による伸縮の度合が異なるために生ずるものです。したがって、湿度変化によって紙が伸縮しても、オモテ、ウラとも同じ程度伸縮する場合にはカールは起こりません。

なお、表裏のどちら側にカールをするかは、「伸びの小さい側」ないし「縮みの大きい側」にカールをするという基本原則があります。しかもその程度は、表裏の伸びまたは縮みの差が大きいほど大きくなります。

構造カールの場合、カールの軸は一般的にマシン流れ目の方向(MD)ですが、場合によっては流れ目に直角な方向(CMD) のこともあります。

カール対策(表裏差減少対策)として、ドライヤー乾燥条件を修正することによって表裏の水分差の是正や片面塗工(加工)品の場合などには、逆面に水または水系のものを塗布することなどが行われます。

 

ところで、カールは紙の表裏差以外に後加工における貼合物質、塗工物質が温度変化、湿度変化によって伸縮した場合や加工条件(例えば張力の掛け方など)によっても発生することがあります。このときには、後加工条件や保管環境条件などを把握し、対応することが必要となります。

また、巻きカールは、紙シートが巻取コア(紙管)の回りに癖がつくほど固く、長期間巻きつけられたために発生することが多く、カールの軸は常にマシン流れ目に直角なクロスマシン方向(CMD) で巻取の内側(裏面側)に起こるカールです。こわさ(剛度)の大きい厚い紙ほど生じやすく、巻芯に近いほどその程度は大きく、湿度には直接関係なく上記のように物理的な要因で発生します。このようなカールは、シートデカーラー等を設置し機械的に紙をしごくことによって改善されます。また、巻取状態での保管を短縮することや、コアの径を大きくすることなども効果があります。

 

■「湿度変化と紙くせ」まとめ

これらの紙くせ不良によって、印刷・加工時などにトラブルを引き起こしやすいのですが、対策として、まず、紙の含有水分(紙間湿度)を使用時の環境湿度に合わせておくことが重要です。

大気の湿度は、季節・候・時間・場所・風向きなどによって大きく異なりますが、わが国では、一般的に冬は乾燥期となり湿度が低く、逆に夏の梅雨期は高く、域により冬の乾燥期には湿度が20~40%に、梅雨期には70~90%になることがあり、年間での湿度差が大きく動きます。しかし、全体的に年間の平均湿度は50~65%にあるため紙の含有水分は、通常、年間を通じてこの範囲(一般に水分 5~7%、紙間湿度55~65%RH)に入るようにコントロールされ、吸放湿しないように防湿包装し出荷されております。ただ湿度の下がる冬場の乾燥期に限って、対策として紙の水分を通常よりは(0.5~1%くらい)低く設定して出荷されるケースもあります。

 

「紙と湿度」まとめ

紙はこのように管理され出荷されていますが、さらに大切なことは実際に保管され、使用される環境です。紙の包装を開封し使用する場合は、二重扉などを設け外気と直接的な接触を避けた室内で行うとか、印刷室(できればギロチン断裁室も)には空調装置を入れ湿度・温度管理を実施することが望ましい。しかし、もし調湿されていない場所や、あるいは夜間などで調湿装置を停止した場所に、包装紙を解いた裸の紙(印刷紙含む)を置く場合には、プラスチックフィルムやヤレ紙などを防湿カバーとして活用し、一時的に積層紙を覆うだけでも効果があります。

なお、場合によっては、使用前に用紙をシーズニング(調湿またはコンディショニングともいい、自然調湿と強制調湿とがあります)することも必要なことです。

 

紙は温度より湿度の影響を大きく受けますから、特に湿度対策が重要ですが、湿度変化・変動による紙くせトラブルは多い。最近は調湿した印刷所や加工所が増えており、環境も改善されてきていますがまだ完全ではありません。域差が大きく、変化しやすい気象条件下にあるわが国では、今後とも湿度・温度問題は、配慮しなければならない重要な課題です。

 


 

  次のページへ


更新日時:(吉田印刷所)

公開日時:(吉田印刷所)