製造工程で紙へ付与される品質特性
これらの品質特性は、紙が製造される段階で織り込まれます。すなわち、紙の持つ種々の品質特性は製造される過程で付与されるわけです。
そしてその決定要因は、使用される木材か、非木材か、古紙などの原料やその処理条件(叩解など)、薬品の種類・添加量やパルプ化条件、紙料調成条件、用具や設備なども含めた抄紙・塗工・加工・仕上げ条件、および温度・湿度などの処理、保管される環境条件などによって変化し決まります。
次に各製造工程において付与される紙の主な品質特性を掲げます(表2)。
工程 | 形態 | 設備・原材料・薬品など | 主な付与品質・関連特性 | |
---|---|---|---|---|
原料 | 原木、チップ(木片) |
針葉樹(N、ソフトウッド) 広葉樹(L、ハードウッド) |
繊維長さ 繊維の縦横 広葉樹…道菅(ベッセル) |
紙の縦横、伸縮、強度(紙力)、地合 ベッセルピック(紙むけ)など |
古紙 | 古紙の種類(新聞、段ボールなど) | 未漂白、漂白 | 白色度、紙力など | |
パルプ化 | パルプ | パルプの種類(古紙パルプ含む) | 未晒、半晒、晒 | 白さ、強度など |
調成 | 紙料 |
パルプの叩解 内添薬品(澱粉、填料、サイズ剤、染料等)、pHの調節など |
叩解度(フリーネス) | 強度、地合など
酸性紙か中性紙か 紙力、不透明度、サイズ度、色相など |
抄紙 | 紙 |
ワイヤーパート プレスパート ドライヤーパート サイズプレス(ないしゲートロールなど) キャレンダーパート リールパート |
シート状に紙層形成(脱水、繊維配向) 圧搾・脱水 乾燥 薬品表面塗布…澱粉、PVAなど 表面加圧処理 紙の巻き取り |
ワイヤーマーク、表裏差、縦・横(紙の目)など フェルトマークなど 紙力、伸縮、水分など 表面強度、サイズ度など 表面性、平滑性など [機器管理…BM(米坪、水分)計、厚さ計、色差計、スポットディテクターなど] (非塗工紙完成) |
塗工 | (塗工紙) |
塗工機(コーター) 機種タイプ、塗工方式(単段か2段塗工、それ以上か) |
塗料薬品(顔料、接着剤等)、組成、塗工量など | 米坪、水分、表面性、平滑性、色相、水分など[機器管理…BM(米坪、水分)計、塗工量計、塗料粘度計、スポットディテクターなど] |
艶出し | (塗工紙) |
スーパーキャレンダー マットキャレンダー |
光沢表面処理 [機器管理…光沢計] |
光沢、平滑性など(グロス、ダル、マット) |
仕上げ | 紙 |
(巻取)ワインダー (平判)カッター ギロチン 選別 |
巻取 平判断裁 平判断裁(小裁ち) 平判 |
巻き姿、入数など 寸法精度、紙粉など |
包装 | 紙 |
包装機(平判・巻取) | 包装紙 | 包み数など |
出荷 | 紙 | 荷姿など |
ここではわが国の紙の主流である木材系を原料とした一般的な紙の製造について簡単に説明していきます。なお、この過程で紙に織り込まれる主な品質特性についても触れます。
紙製造には、多くの原材料・薬品や抄紙用具、設備が使われていますが、紙の種類、品種・銘柄や用途別により、品質スペック(仕様)が違うために、通常使われる原材料・薬品などの種類やその配合、抄紙条件等が異なるのが普通です。
(1)紙料調成工程
紙は、間伐廃材や建築用製材を取った後の残材などを主体にした木材チップ(木片)などの植物体から繊維を分離するパルプ化工程でパルプを造り、紙料調成工程、抄紙工程、(塗工紙・加工紙の場合は)さらに塗工・加工工程を通り仕上げ工程を経てできあがります。
なお、別の工程で製造された古紙を原料とする古紙パルプは、紙料調成工程で木材系のパルプとともに処理され紙になります。
さて紙料調成工程は、抄紙に用いられるパルプ原料や薬品を最終的に調整・配合して、抄紙機(ペーパーマシン)に送り出す直前の工程ですが、機能的にはパルプの叩解、パルプの配合、填料・サイズ剤・染料等の薬品添加や原料濃度、pHの調節などを行い、紙の基本品質が決定される重要な工程です。この中でパルプの叩解とパルプの配合について若干、説明します。
〇叩解…紙質の決め手
パルプ・原紙段階で紙質を決める大きな要因となるひとつに叩解(こうかい)という機械的(力学的)処理工程があります。その程度によって繊維の絡み具合が違い、紙の強度などに影響を与えますが、紙は叩解によって作られるといわれるように、叩解は紙の基本品質を決める非常に重要なキーポイントです。
ところで叩解とは、文字通り叩き解すということで、水の存在下でパルプ繊維を機械的に叩き、磨砕することです。繊維をよく離解し、切断・水和・膨潤・絡み合いを行わせ、かつ適当な長さに揃えるための機械的処理設備を叩解機といい、昔はビーターと呼ばれる機械で行いましたが、現在では、一般的にリファイナーと呼ばれており、コニカルリファイナー、ディスクリファイナーなどがその代表的なものです。
叩解の状態はリファイナーの種類、構造、歯の形状、処理条件(温度、圧力、回転数)などにより決まり、抄紙機上での紙層形成や紙の品質に重要な影響を与えますが、紙漉(抄)きの原理5要素[皮を剥く(調木)、煮る(蒸解)、叩く(叩解)、抄く(抄紙)、乾かす(乾燥)]の中でも紙特性を決める大きなファクターです。
パルプ工程で得られたままのパルプ(未叩解パルプ)から造った紙は、フワフワした感じで毛羽立ちが多く、強度が非常に弱いのですが、このような欠点をなくすために、機械処理を行い叩解するわけです。
パルプ繊維をリファイナーによって機械的に磨砕して擦り潰すと膨潤し、フィブリル化(繊維を枝状に分岐すること)することによって比表面積が増し、抄紙機上で絡み合って水素結合を起こしやすい原料となります。また、繊維が適当な長さに揃い地合いの良い、強い紙を得ることができるようになります。
叩解による紙の特性の変化は、叩解が進むにつれて紙の緊度が増し、引き締まった紙質となり、破裂強さ、耐折強さが増加しますが、反面、一般的に引裂き強さや不透明度は低下します。
ところで、叩解の程度は叩解度あるいは濾水度(フリーネス)で表し、一般的に水切れの量を示すml(以前は㏄)[カナディアン・フリーネス・スタンダード(C.F.S) ]で数値表示し、叩解が進むにつれてパルプの水切れ状態が悪くなり、フリーネスは低くなります。なお、パルプの種類などによって違いがありますが、未叩解パルプのフリーネスは、700ml前後にあります。
〇パルプ配合
次にパルプ配合ですが、パルプの種類には、製造方法によって機械パルプ(MP)や化学パルプ(CP)などがありますが、そのひとつであるクラフトパルプ(KP)は、パルプの主流で化学パルプの中でおよそ98%を、製紙用パルプ全体でも約80%を占めています。
そして原料別には古紙から作った古紙パルプやケナフ、藁、バガス(砂糖きびの搾り滓)などの非木材パルプなどがあり、また樹種によって松などの針葉樹やブナ・ユーカリなどの広葉樹から製造したパルプなどがあります。
これらのパルプは単独で使用されることがありますが、多くは実際に造ろうとする紙の品質やコスト面も考慮して何種類かのパルプを組み合わせて用いられ、それらの配合比もそれぞれの紙に応じて特徴を持たせてあります。
例えば、上質紙(上級印刷紙)などの印刷用紙には、地合いがよく、よりよい印刷適性を与えるために広葉樹パルプ(LBKP)を主体に配合します。一方、袋などに使用され強度が要求される包装用紙の場合には、比較的地合いは劣るが、繊維が長く強度特性のよい針葉樹パルプ(NBKP)が主に使用されます。