品質クレームへの対応
ところで、印刷トラブルが発生したときに、紙か、インキか、印刷機か、その使用条件か、環境条件かなど、どれが原因か簡単に特定できないことが多いので、事実関係を明確にし客観的に判断することが大事です。決して独断しないことも心構えとして非常に大切なことです。
万が一、クレームが発生し相手に迷惑を掛けた場合、円滑に処理し、その発生源対策と評価法を確立し、歯止めによる再発防止を行い、さらに品質の安定化・レベルアップを図って行くためには、クレームが発生した時点で、現場における第一線の情報把握と迅速な対応措置が最重要になります。この初期対応が良いか、悪いかによってほとんど、勝負が決まるといっても過言ではありません。
このような観点に立ち、市場における品質クレームへの対応について述べますが、その前にクレームに対する基本的な考えを整理しておきます。
クレーム・品質問題への対応は、まず自らの知識・技能を深め、営業力・技術力さらに人間性を高めるよいチャンスであり、品質改善・新製品開発・コストダウンへの一里塚であると認識すべきです。
- クレームは顧客からの「試金石」であり、問い掛けです。その対応の善し悪しによって判定され、良薬になったり、毒薬になったりします。
- 礼を失しなければ、クレームは決して恐くはありません。クレームを被った相手の身になり、その視点で迅速に行動することです。そのために道具(対応能力、良識や技術・ノウハウなど)を身に付け、関係者と連携よく対応することです。
- また、報告だけではよくなりません。自ら実践対応し、必ずフォローを行うことです。
要は、クレームを良薬とすべきです。
(1)市場対応について…顧客満足度アップへの対応
理由のいかんを問わず、トラブルが発生した場合は、お客(発生元)の協力を得て、まず原因を解明し正常化すること、それがわが国における普通の、あるいは優良なメーカーや納入業者の条件です。
不良品は出さない。万一トラブルが生じたら、発生してしまった事故をあれこれ弁解するよりは、「禍を転じて福となす」という前向きの心構えと迅速な対応が必要です。
信頼関係があり、対策を取ってもらうことにより、今後とも安心して、継続的に使っていけるよう願っているからこそクレームをいってくるのであると考え、それに応えることが重要です。そしてまず製造業者として自己責任で対応します。その姿勢が信頼と製品の評価につながり、取引が続く要因になります。誠意のこもった迅速なクレーム処理は顧客の心を動かし、信頼関係をさらに強める好機となり得ます。信頼を得るか失うかは対応の仕方で決まります。クレームは取引拡大のチャンスと心得えることが肝要です。
そしてクレームは単に補償すれば済むというだけのものでもありません。クレームは顧客からの要求・要望であり、「顧客の本音」であり、貴重な情報源でもあります。顧客を知るよいチャンスであり、販売促進の種でもあります。活かすべきです。
逆に品質に不備があったときは交換すればいいという態度や、社内スペック(品質基準)内に入っていると言って無理押しをし、割り切って対応したとします。一見、合理的に見えますが、一方的であり顧客との信頼関係は希薄となり、トラブルの原因解明や対応にも遅れ、また迷惑を掛けることになります。これが重なれば、信頼と信用を失い顧客離れを起こしかねません。
市場からの安心、信頼を失墜し、顧客離れ現象を起こす要因として、
- クレーム件数が多いこと
- 特定ユーザーにクレームが集中、あるいは同じクレームが連続発生すること
- 重大クレームが発生すること
- クレーム対応がまずいことなどがあります。
もちろん、同業他社との比較も要因の一つで無視できませんが、これらの要因のなかで、問題になるのは案外、クレーム件数・内容以上に上記のように、クレームへの対応のまずさにあるようです。
クレームの発生よりも、その対応のまずさが問題であり、話がこじれ、命取りになるのはむしろその処置の仕方にあります。顧客の心も害し、裏切られた気持ちにするからです。
対応のまずさとしては、初期対応のまずさ、回答が遅い、中間報告をしない、回答内容が不十分、回答後にトラブルが再発、営業・技術・工場の連携対応不足、改善対応が遅いなどがあります。
また、クレームの対策回答文のまずさもあります。あて先、前文(挨拶文)の不備、調査内容の独り善がりや分りにくさ、さらに対策として発生源対策とその評価法(検品、印刷など)および歯止め策(設備対策、標準化、教育など)の三本柱が必要なのに、それが欠落していることなどです。
トラブルなどに対する情報把握能力不足と情報不足、突っ込み不足、ポイントのずれ、非常識さが目立ち、そして遅い。まともな回答でないため、賢くなっている顧客にとっては、まだるっこく納得しなく、遂には感情的になってしまう。顧客の要求に打てば響くような対応でなければ満足しないのです。
そのなかでクレームが再発。顧客は裏切られた感情になり、あきれ、怒りとともに不安を持ち、信頼感がなくなり、見切りをつけるようになります。
顧客不在で、自分のほうが一番正しいとお互いに感情的になり、社内でやり合っていてもしょうがないと考えます。そして当該顧客にとって根強く残ります。さらに市場に広まり、市場の理解が得られなく見放されてしまうことになりかねません。このように対応が悪ければ、信頼は一瞬にして崩れてしまいます。
確かに、生産したものが必ずしも顧客(最終消費者含む)に満足され、受け入れられるとは限りません。しかし顧客あっての消費財です。顧客の立場に立っての「もの」、「サービス」の提供が必要です。そのためには組織的に「もの」作りと「サービス」をすることが基本であり、顧客の要望・要求などの情報収集やクレームを真摯に受け止め、かつ日頃から顧客との対話が欠かせません。
(2)営業マンは期待されている…クレーム処理上手は、一人前の営業マン!
トラブルは、相手にとっては損害であり、待ったなしです。顧客の身になって考えることが重要です。せっかく買って使用してもらった商品でトラブルが発生し、しかも納期に追われるような事態になれば、一層、カリカリし、もう2度とこのものは使用したくないと思うのが普通です。このときはお金や補償の問題ではありません。そのようなときに、いわゆる客離れが起こるのは、前にも触れましたがほとんどが対応のまずさにあります。そのために最初の正面担当となる本社・営業の初期対応が重要となってきます。
このため営業マンは、もの(サービスなどのソフトウエア含む)を売るばかりが仕事ではなく、売ったもののフォローをすることも大きな仕事です。クレームに対する姿勢が逃げ腰であり、余分な業務だという認識では、つい顔や態度に表れ、大事な得意先を失うことになりかねません。
もちろん、ここで言っている初期対応とか、営業マンとは、メーカーばかりでなく、卸商・代理店を含みます。しかも、卸商や代理店にはメーカーよりも早く情報・連絡が入るためにその対応はさらに重要となります。最近特に「流通の中抜き」が話題になっておりますが、対応に時間が掛かり過ぎるとか、不備・まずさのために「中抜き現象」を自ら発生させないように、存在感を示すことがますます求められます。
トラブルが発生したら、まず、修復することが急務です。後で原因を究明したら、売った商品のせいでない場合があるかもしれませんが、相手の身になって対応すべきです。しかも、迅速に処理することが重要です。
そしてその解決に当たって、自分がクレームを被った当事者になったつもりで誠意ある、良識と営業的、技術的対応を取ることが急務となります。自ら出来ないところは社内で対応を取るように働きかけるのも大事な仕事です。もし技術対応力(知恵)が不足ならば、素直に訊き、質問などで分からないときは、調べて後で必ず答えるようにするなど、社内等の総合力で補いながら技術力・営業力を蓄えていくべきで、そういう体制を早く作る必要があります。
なお、トラブル発生という緊迫した雰囲気の中で最初に対応するのが、営業マンやセールスエンジニァといわれる技術マンですが、その資質も重要なポイントとなります。
クレーム処理上手は、一人前の営業・技術マンであり、ものを売るだけでなく、クレーム対応の上手い人が、プロの営業・技術マンといえます。
そのプロの営業・技術マンになるためには、努力が必要です。まず日頃から自分を磨くこと。しかも営業力と技術力を持ちバランス感覚のある、プロフェッショナルとして(あるいは成ろうとする)自覚を持つことが大事です。
しかもクレームや品質問題への対応こそ、自分自身への知識、技能を深め、営業力・技術力向上のための良いチャンスであります。
このように考えるとクレームへの対応は、すべての業務に優先してもおかしくはなく、そうすべきです。そのためには、まず現場に飛んでいくことです。すぐに現場に行くことで相手の信頼を得ることが多く、速やかに訪問し、まず陳謝します。原因はともあれ、緊張した場面では、まず謝ることが解決への近道です。言い訳や反論は禁物で、先方の言い分を良く聞き、誠心・誠意・誠実にことに当たることが必要です。しかし、出かけて行くに当たり、手ぶらでは能がありません。相手の相談にもならないばかりか、イメージを悪くし信用を落とすばかりです。応えられるように備えて出かけるべきです。備えあれば憂いなしです。そのためには日頃の蓄積が重要であり、問題意識を持つことと日常における自己研鑽に心掛けることが必要です。一朝一夕でできるものではありません。
また営業マンは、前向きで、明るく、真摯な態度と情報集収能力、問題解決能力、企画開発能力・応用力が持っていることが望ましく、必要です。さらに生産材を扱う営業には、技術を伴った営業能力を持つことが不可欠であり、そのために自分を磨く必要があります。
そして努力によって、同業他社の営業マンとの違いをハッキリさせること、つまり営業マン自身が自らの差別化を図ることが重要になります。
さらに、顧客との日常のコミュニケーションが最重要ですが、顧客に諂(へつら)うことなく、日頃から需要家と接触し情報の交換等を行い、安心され信頼と信用を得ること、いわゆる「つうかあ」の仲になること。このよい人間関係づくりが、トラブル防止・クレーム拡大や顧客離れ防止の大きな第一歩となります。
(3)トラブル発生時の心構えと対応手順
次に品質クレームへの対応のまとめとして、心構えと対応手順について触れます。
顧客に購入され納められた製品(商品)は、安心して使用され、しかも満足度が得られなければなりません。顧客はそう望み、供給サイドもそのように努力しています。しかし、トラブル、クレームは皆無でなく発生します。
欠陥のために出す製品がなくなったとか、顧客が逃げていくような重大クレームの発生は防がなければなりませんが、多少のクレームはまだましであると考えます。クレームがきっかけで、逆にユーザーとの関係が良くなることがあるからです。ただ、この場合も迅速な対応が基本となります。しかもトラブル発生時の初期対応、初期消火が非常に重要です。このときの対応で大部分は勝負が決まります。