トラブル対応、その前に(1)…測定機器の準備を
今回から「トラブル対応、その前に」というサブタイトルで、何回かに分けて連載します。トラブルに対する前に、基本的な準備をしておきます。事前準備は円滑に対応し顧客から満足され、さすがは「○○さんだ」と認められ、自らにとっても大きな満足になるはずです。備えあれば憂いなしです。
より迅速に、かつ円滑に対応するために
紙を生産、販売している製紙会社において、紙を分析する機能は工場や研究所にあります。しかし紙を買って、使用した顧客で品質トラブルが発生したり、クレームが起きた場合に、原因調査のために市場から離れている工場や研究所にサンプルを送ったり、持って行って調査分析をしていたのでは対応が遅れます。
しかも、問題発生から時間が経てば経つほど解決の糸口は掴み難くなります。そのためにトラブル発生時の初期対応が非常に重要となります。このときの対応で大部分は勝負が決まりますが、このときの初期消火作業によりトラブルを消し止めたり、早い問題解決に結び付けたりすることができます。
また、トラブルやクレームが発生したときだけでなく、コンバーターや代理店・卸商などから調査分析の依頼をされることもあります。
このようなときにも迅速に対応し、その結果、コンバーターなどの顧客に満足してもらえば、この上もありません。そして顧客・代理店・卸商、メーカー相互に満足感が得られ、信頼感のあるきずなができることになります。
しかし、例えばトラブル発生時に出掛けて行くに当たり、準備もせず、手ぶら状態で無闇やたらでは能がありません。逆に相手の相談にもならないばかりか、悪いイメージを与え、信用を落とし、火に油を注ぐことにもなりかねません。予想される事態も含めて応えられるように備えて出掛けることが必要です。
しかも印刷会社などのコンバーターは紙のことに詳しくなっています。その人達に太刀打ちするには相当の勉強が必要で、技能・技術力などで訴えるもの、あるいは何か得意とするところを持つことが大きな対応力になります。そのひとつが有効な戦力となり先手必勝となる測定機器です。
ここでは先ず、顧客の近くにある本社や営業支社・営業支店・営業所等に置き、コンバーターや流通業者などの現場に持って行き活用したい測定機器類について触れます。
注
コンバーターとは、紙、板紙、フィルム・シート、金属箔、鋼板、不織布、合成紙などの連続した材料(ウェブ基材)に何らかの加工を施して、その材料にはない新たな価値(機能)を付与する、すなわちコンバーティングする加工業者をいいます。紙関係では多くは印刷業者をいいます。
なお、基材に新たな価値を付与する方法には、印刷、コーティング、ラミネータィング、蒸着、含浸、エンボスなどがあります。
準備したい測定機器類
先に必要な道具、器具は必ず持参すること、しかも、事前の連絡と実際のトラブル内容が違うことがありますので、持参する器具類は予測されるものを含めて持っていくことと述べました。それではどのような機器類が必要でしょうか。
表1に身近に保有して戦力として活用したい測定機器類の主なものを示します。
機器 | 用途 | 備考(機器類の例など) |
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坪量計 (携帯用計量はかり) (紙坪はかり) (電子天秤) |
紙などの質量を測定 | JIS適合品 |
紙厚計(ダイヤル式) (マイクロメーター) |
厚み測定 |
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紙間温・湿度計 | 紙間湿度や温度の測定(紙水分の推定や外気の温湿度測定も可能) |
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表面温度計(非接触式) | オフ輪印刷時などの紙表面の温度測定 |
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静電気測定器 | 紙表面、端面などの静電気を測定 |
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蛍光検知器(紫外線検知器、ブラックライト) | 蛍光強さ程度や蛍光パターン(模様)などを見て、蛍光染料使用の程度や紙表面の均一性などを判定。また紙銘柄などを同定用にも活用 |
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巻取厚薄測定器(ハンマー) | 巻取厚薄測定器(ハンマー) |
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カメラ
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状況の撮影…証拠写真にもなる | (フラッシュ付き) |
ルーペ (拡大鏡) | 表面を拡大し観察(白紙・印刷物の表面、網点の付き、白抜け等欠陥部の観察) | 倍率5~15倍と30~50倍 |
物差し
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紙の寸法測定や欠陥部の発生位置などを測る | 直尺(金属製)はJIS合格品を使用 |
pH測定ペンないしは紙面pH測定塗布液 | 紙表面のpH測定 |
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中性紙チェックペン | 中性紙・酸性紙の判別に適用 |
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スクリーン線数メーター(IGS線数メーター) | 印刷物の線数測定 | スクリーン線数800線まで計測可能…印刷学会出版部 |
きょう雑物測定図表 | チリなどきょう雑物の大きさ計測用 | 大蔵省(現財務省)印刷局製造 |
色検査用標準光源 | 紙の色検査・判定・色合わせ用に適用 | 昼光色ランプ |
光源の演色性検査カードD65 | 色の判定や色合わせのため照明の良否、チェック用に活用 |
表1に掲げたものは一例であって、比較的、保管場所を取らないで携帯しやすく、しかも効用の大きいものです。
なお、表には載せていませんが、いつでも持っていけるように、巻取の打音検査用の木棒、印刷版やブランケット付着物の採取などに用いるセロテープ・黒シート、巻取紙の端面などに当てて紙のずれを写し取るために使う色チョーク・鉛筆・白紙やビニル袋、紐などを備えておけばよいでしょう。
また、あまり重たくなくて嵩張らないルーペ(拡大鏡、倍率5~15倍と30~50倍の2種)や印刷スクリーン線数メーター、pH測定ペンなどは個人的に持っていて常時持ち運びするのもよいでしょう。万一のときなどにあれば助かります。
ところで紙の質量や厚さ、寸法などは厳密に測ることが必要なときがあります。商取引に使われるからです。そのときに使う機器類はJIS適合品でなくてはなりませんので、それらに合致した規格品を保有しておく必要があります。
例えば、左写真1に紙厚計(ハイブリッヂ紙厚計…紙用マイクロメーター)を示しますが、JIS適合品です。少し高価ですが、是非、身近に置きたいものです。重たいのですが、持ち運びは可能。ただ精密機器のため、慎重に取り扱うことが必要です。
さらに右写真2には、簡便な厚み計…マイクロメーター㊧とピーコック(ダイヤル式)を示しておきます。
なお、本社や営業支社などに機器・評価室のようなところがあって、表1以外にもある程度本格的な機器が揃えてあればいうことはありません。後は如何に有効に使うかです。