紙の基礎講座(5-2) 測定機器類の用例Ⅰ

測定機器類の用例Ⅰ

それでは次に紙の品質トラブル、クレーム対応のための簡便な測定機器と活用例をいくつか示します。

 

用例1.巻取厚薄測定器(ハンマー)[シュミットペーパーロールテストハンマー]の活用

巻取紙の厚薄、水分ムラを感知し印刷作業性に問題がないかをチェックし、均一な仕上がり程度を調べる検査には、かつては木棒(打音棒)が使われていました。しかし、木棒は叩き方や打音を判定するのに熟練を要するうえに、個人差が出やすく、検査精度が劣ることなどから、今ではハンマー式の巻取厚薄測定器が多く用いられています。それが簡便で有効な測定機器であるシュミットハンマーです。

もともとシュミットハンマーはコンクリート構造物の強度試験機ですが、そのなかの軽量コンクリート用が、衝撃エネルギーが極めて小さいため、傷が付きやすい測定対象物の測定に最適で、紙やフィルムの巻取り硬さの測定に使用されるようになりました。

取り扱いが簡単、反撥度が数値として記録されるため、客観的に紙の均一性が目視されるので、より再現性のある検査法として今では製紙会社の必需品となっています。そして紙を生産する工場で巻取り品の検査に使用されているのはもちろんのこと、出荷後の製品巻取りについても必要により、シュミットハンマーの適用が行われています(上写真3.シュミットハンマー㊧と木棒)。

 

ここで用例を示します。

①巻取紙の印刷で走行中、巻取の片側がたるみ、しわが発生するとのことで、シュミットハンマー(巻取厚薄測定器)等を持って現場(印刷会社)に直行しました。

しわ発生で保留になっている巻取の端から幅方向に約5cm間隔でシュミットハンマーで検品。巻取の硬さ程度が棒グラフ状に高低差として記録されますが、それによると幅方向でしわ発生のないところはほぼ均一ですが、しわが発生しているところは周りよりも低くなっています。

そこでまだ印刷が終わっていない巻取を事前にシュミットハンマーで検品し、その印刷立ち会いをしたが、検品の結果がほぼ均一な巻取のしわ発生はありませんでした。

反面、検品してグラフで高低差のある不安巻取を印刷所の好意で印刷してもらったところ、しわが発生。そこで印刷予定の残り全巻取をシュミットハンマーで検品し、良品と品質不安品とに仕分けし、品質不安品は印刷から除外するとともに、不足分は他ロット品を検品後、補充しました。その後は迷惑を掛けることなく、印刷は順調に推移し完了しましたが、巻取の合否を判断できる道具(シュミットハンマー)が手もとになかったらどうなったかと思うとぞっとします。

一方、当該巻取の生産工場には、巻取№とともに検品の結果、シュミットハンマーのグラフ記録図としわ発生状況、印刷での合否判定をファクスで連絡し、原因の調査を要請しました。

②以前は手元にシュミットハンマーがなくて、木棒による打音判定のみで、品質判定が難しい上に個人差があり、せっかく検品してもトラブルが再発することがありました。そのため当該巻取を工場に返品して検品してもらうか、シュミットハンマーを持って工場から確認に来てもらうかをしていましたが、シュミットハンマーを顧客に近い本社や営業支社(所)等の手元に置くことで、この無駄がなくなりました。しかも時間的なロスもなくなり、より早い対応が可能になりました。

印刷しわが発生するということで、シュミットハンマーと木棒で巻取を調べましたが、異常が認められませでした。そこで印刷会社に対してシュミットハンマーの記録データを示しながら、巻取品質は異常がないことを説明。印刷会社でも印刷機を調べ調整したところ、その後、問題ありませんでした…測定機器の威力に感謝、感謝。

 

コメント

  • シュミットハンマーは、巻取の厚薄形状がグラフと数値で記録され示されますので、木棒の打音と感触による官能判定ではできにくい、確度の高い品質判定が得られるし、客観的で説得力があります。しかし、木棒判定も捨てがたいので、副としてシュミットハンマーと合わせて活用、評価したらさらに良いと考えます。
  • 一般的にシュミットハンマーを巻取紙に5~10cm間隔で押し付け、全巾にわたり硬度を測定しますが、印刷しわなどのトラブル発生の場合には、両端も含めて幅方向に約5cm間隔で検品するほうが良いと思います。
  • シュミットハンマーの棒グラフ数値の最高値(硬さの上限)と最低値(軟らかさの下限)、高低差(最高値と最低値の差)および隣り合った棒グラフの数値差を品種ごとに決めておき、品質管理用として用いると良いでしょう。

 

用例2.紙間温・湿度計および静電気測定器の活用

積み重なった紙(積層紙)は、周りの湿度が高すぎても低すぎても平坦な状態が変わり、局部的に紙ぐせ(波打ち、おちょこ)が悪くなる。特に乾燥期で湿度が低い冬になると、おちょこ(タイトエッジ)状の紙ぐせ現象と静電気によるトラブルが発生しやすくなる。

そこで印刷時に紙ぐせ不良や紙のくっつきトラブルが発生したときには、積み重ねた紙の間にある狭い空間の相対湿度を測定し、紙中の水分が推定できる紙間温・湿度計や静電気測定器などを持参し、調査する(左写真4.紙間温・湿度計、右写真5.静電気測定器)。

さて紙くせ不良トラブルが発生し、立ち会ったときに、まず状況を聞いたうえ、紙くせの形状を確認した後、トラブル当該紙山(印刷物・加工品)ばかりでなく、未使用品(白紙)や良品の紙山の紙間湿度・温度と紙表面、端面などの静電気を測定する。また紙をめくってみて、くっつき状態などを観察する。

さらに状況によって、印刷・加工室内、ギロチン室および外気の温・湿度や静電気を測定して状況を把握する。またそれらの湿度と測定した紙山の紙間湿度との差が適正範囲内(10~15%RH以内)かどうかチェックする。

ここで下記のような知見をあらかじめ持っていると、正常か、異常かを判断するのに役立つので、是非、身に付けておきたいものです。

  • 年間で湿度変化が大きいわが国では、一般に紙の製造水分は紙くせの起こらない範囲に設定されている。すなわち湿度で言えば、紙間湿度の数値が50~65%(相対湿度、RH)くらいにあれば、紙は正常範囲にあり問題ないと考えられる。例えば、紙間湿度50~65%RHは、通常塗工紙の場合、水分換算で5,6%台にあり、上質紙は塗工紙よりも0.5~1%くらい水分含有が低い。
  • また、印刷室内の湿度と紙山の紙間湿度との差が10~15%RH以内ならば問題のない可能性が大きいので、印刷室内や外気の湿度を測って、紙間湿度との差が適正範囲内か、外れているのかなどを知る。
  • なお、紙間温・湿度計のサーベル(センサ)は、外気の影響を受けにくいように、積層紙の最上部から15cmくらい下部の中央パートの間に突き刺し、内部の湿度を測定する。また、積層紙の四隅の紙間湿度を測定する場合にも、センサのあるサーベル先端部を積層紙の上から軽く押さえるなどして、外気の影響を受けないようにすることが重要である。
  • 静電気が検知されれば、静電気の発生が何に起因するのか、紙の保有水分(すなわち紙間湿度)や外気の影響などを調べる必要がある。静電気は気温よりも湿度のほうの影響が大きく、空気中の湿度が低いほど静電気が起きやすくなる。数値的には外気環境が、およそ45%RH以下で起こりやすく、その程度はほぼ直線的に強くなり、特に25%RH以下ならば静電気は必ず発生すると考えてよい。

また絶縁体に属する紙は、一般的に湿度50~60%RHで、表面電気抵抗は1010~1012Ω程度ですが、乾燥されるパリパリした状態となり、風合いやしなやかさを失うとともに、電気抵抗は1013以上となり帯電しやすく静電気が発生し、互いにくっつくなど静電気によるトラブルが発生しやすくなる。

 

さてトラブル当該紙山(積層紙)の中央パートの紙間湿度と温度を紙間湿度計で測定し、数値が50~65%RHの範囲にあれば紙は問題ないと考えられる。

しかし紙間湿度が適正範囲内にあるが、それでも紙に問題がありそうならば、紙の中央パートと四隅の紙間湿度を測定し分布を調べるとよい。そしてそれらの分布に差があれば、紙の製造段階でそのような局所的な分布差はまず起こりえないので、(製品紙山になってからの)原因について、どこで発生したのかなどの詰めを行なう。

なお、印刷室内の湿度が異常に高いとか、低い場合には、印刷会社の人に目の前で、外気やギロチン室の温・湿度のデータとともに機器数値を示し、確認してもらい、環境改善などへの対応を依頼する。

特にトラブルの原因が紙にあるのか、他にあるのかは、見た目だけでは判りにくいことが多い。このようなときに紙の持つ特性値(紙間湿度、静電気など)や、作業・保管場所や外気などの環境状況などを計測する試験機器があれば、トラブルに対する大きな知見を得られ、原因を詰めやすく問題解決の早い糸口に結びつけることができる。

 

用例3.ルーペ (拡大鏡)の活用

ルーペは物の表面を拡大し観察できる有効な道具である。白紙や印刷物の表面、網点の付き、白抜け等の欠陥部、異物などを観るが、倍率5~15倍と30~50倍の2種類を用意した方が良い[(注)1本で低倍率から高倍率まで可変(変化倍率20~60倍)できるルーペならばそれだけでも可(右写真6.各種ルーペ参照)]。

会社で購入して共有するのも良いが個人的に買って活用し、また重たくなく嵩張らないので常時持ち運びするとなお良い。

使い方で注意したいのは観るものによって倍率を変えることである。白紙の表面性やベッセルピックなどの白抜け等は倍率5~15倍のルーペを、また印刷網点の付き具合、形状などには30~50倍のルーペを使ったほうが判断しやすい。

このように観るものによって使い分けたほうが良いので、使い慣れた人の前では注意が必要である。例えば、ある人が印刷物の網点の形状を観るときに倍率5倍と50倍のルーペ2本の中から5倍のルーペを選んで印刷物を覗き込んだとしますと、同席していた印刷会社の人は内心、この人は素人だと判断し、その人を甘く見るようになりかねない。ルーペにも適材適所があることを知っていて、その人が即座に適切なルーペを選ばなかったからである。

気をつけましょう。そのためには日頃から多くの紙やいろいろな印刷物などを観て、判断できるよう充分使えるようにしておきましょう。

 

用例4.非接触式表面温度計の活用

印刷会社オフセット輪転機(オフ輪…4色B/Bタイプ)での印刷で、ブリスター、すなわち、印刷機乾燥部の熱によりコート紙印刷面の一部が膨れ上がって火ぶくれを起こす現象が発生するということで立ち会った。

持参の表面温度計で乾燥機出口の印刷物表面温度を測定すると、印刷機に付いている紙面温度計の指示値と比べると5~7℃高い。ちなみに他の印刷機の測定では差がなく、トラブルの問題もない。そこで、印刷会社の人と相談して少しずつトラブル印刷機の乾燥温度を下げてみることとなった。その後、ブリスターの発生はなく、インキ汚れが生じることもなかった。後日、印刷会社から印刷機の紙面温度計の検定をしたら指示が低めであったので調整をした由、との連絡とお礼があった。

 

表面温度計は携帯形非接触放射温度計(右写真7)で、物体の表面から放射される赤外線のエネルギー量を温度に換算する放射温度計で、物体に触れず、離れた所からでもその表面温度か測定できる。

 

一方、オフ輪、すなわちオフセット輪転印刷における最も重要な品質の一つに耐ブリスター適性がある。ブリスターはオフ輪機の乾燥部で、インキの乾燥とともに用紙中の水分が急激に加熱され、膨張して蒸発する際、塗工層とインキ層に妨げられ、逃げ場を失い、印刷面の一部が膨れ上がって火ぶくれとなる現象のことをいうが、これは塗工紙両面にインキ量の多い、濃い絵柄が重なった印刷の場合に発生しやすくなる。

また、乾燥温度の影響が大きく、温度が低ければインキが乾かなく、汚れが発生。逆に高すぎればブリスターなどのトラブルが生じる。そのため適正温度にコントロールされている。

しかし、ブリスターが発生することがある。原因はいろいろ考えられるが、その原因調査のひとつにオフ輪印刷直後の紙表面温度を実測することがある。そのときに非接触式の表面温度計を適用すると良い。

 

用例5.デジタル式カメラの活用

トラブル、クレームなどで立ち会ったときに、現物をカメラで写したりすることか多い。以前は不便なこともあったが、写した写真が早く見ることができるためにポラロイドカメラを多用した。

ところがもっと便利なデジタル式カメラ(デジカメ)が出現。さらに即時性がよく、パソコンと組み合わせて遠方の当該工場などに画像に文章・メモを付けて送ることができる。しかも元の画像は残るので、必要な複数枚のコピーや編集などができるようになった。情報伝達の迅速性からいっても是非とも揃えたい一品である。

なお、カメラ付き携帯電話もカメラ付きだと同様な機能を持つので、このような用途にも活用したいものである。

 

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更新日時:(吉田印刷所)

公開日時:(吉田印刷所)