トラブル対応、その前に(7)…印刷の基礎知識Ⅰ
今回からしばらく、「トラブル対応、その前に」シリーズで“知っておきたい"必要な基礎知識が続きます。今回は関連する印刷についての基礎です。相手を知ることは、対応の礼儀であり、大きな自信になります。
1.印刷とは
印刷の基本用語(JIS Z 8123)によれば、印刷とは「印刷物の製造および加工にわたる工程の総称」と定義付けられています。また備考として、狭義には「画像・文字などの原稿から作った印刷版の画像部に印刷インキを付けて、原稿の情報を紙などの上に転移させて、多数複製する技術の総称」であるとしています。
進歩し、変わってきている印刷の概念から、最初の広義の定義が付加されたものですが、従来の一般的な定義、今の狭義の定義を少し具体的に言いますと、印刷(対応英語printing)とは、文字・画像などからできている原稿をもとに、これから作った印刷版を用い、この版の文字・画像部に印刷インキを付けて、これを紙・フィルム・布その他に転写して、原稿の情報(文字・画像など)を多数複製するということになります。
さらに身近な印鑑の例でお話しますと、名前などの文字を記した原稿をもとに彫ったハンコ(判子、版)を用い、ハンコの文字部に朱肉を付け、これを紙などに手押しにより圧をかけ捺印すること、これも印刷です。
ところで、近年、特に印刷業界では「デジタル化」の動きが活発化しています。鉛合金活字と活版印刷機を発明し活版印刷技術を普及させ、今日の印刷技術の基礎をつくったグーテンベルク(1450年ころ)以来の大変革といわれるデジタル化で、印刷が大きく変貌し、これからも変わろうとしています。
印刷物が出来上がるまでには、いろいろな工程を経ますが、一般的な工程は従来、「企画」→『原稿』→(入稿)→「編集・デザイン・レイアウト」→「写植(写真植字)・版下作成」→(校正)→「本稿」→『カメラワーク』(撮影)→(製版用カメラまたはスキャナーによる色分解)→「色分解フィルム(原板、オリジナルフィルム)作成」→(修正・レタッチ)→『製版(プレートメーキング)』(焼付け)→(現像)→「刷版」(版作成)→「印刷」→『アウトプット(印刷物)』→(検品)→「製本・加工」→(検品)→『製品』→(検品)→「納品」でした。
しかし、この工程も近年のコンピュータとエレクトロニクス技術の飛躍的進歩により大きく変わってきています。特に、労働集約型の手作業が多かった「入稿」から「刷版」までの、一般的にプリプレス(prepress)と呼ばれる印刷前工程の技術革新が著しく、工程の淘汰・合理化が進んでおります。
まず、DTP(デスク・トップ・パブリッシング、 desk top publishing)の導入・普及です。DTPとは、デスクトップパーソナルコンピュータの画面上で、文字、画像や図形などの作成および編集を行うことですが、1980年代中ごろに米国で誕生し、その後急速に普及したものですが、当初、わが国では「卓上出版」とか「机上出版」などと訳されていましたが、今や「DTP」の言葉が定着しています。
これによりプリプレス工程で不可欠と考えられていた電算写植、電子組版、版下作成などの中間工程が省略化された上に、文字と、特にカラー画像との統合処理が進み、出版印刷のみならず商業印刷にも適用されています。
さらに印刷情報のフルデジタル化によって、直接刷版工程と直結すること、いわゆるフィルム原版を作成しない、ダイレクト刷版が可能になりました。これが「コンピュータtoプレート」(Computer to Plate、CTP) と呼ばれるものです。コンピュータのデータを版(プレート)に直接移すという意味ですが、これは画像処理をデジタル化することによって、そのデジタル信号に基づいて直接レーザ光などで版を作る技術です。
また、ダイレクト印刷(コンピユータtoプレス 、Computer to Press、CTP)もあります。これは版を作成せずに、コンピュータで処理した印刷情報のフルデジタルデータを、直接紙媒体に印刷するものです。基本的な原理としては、電子写真方式とインクジェット方式があります。この印刷手法を用いているシステムが「オンデマンド・プリンティング・システム」で、オンデマンドプリンティング(オンデマンド印刷、on demand printing)といわれるものです。顧客が必要とするときに必要とする部数を印刷、製本し、在庫をもたないで供給する手法ですが、版を作成しないため,コスト削減や納期短縮の効果があり、また印刷1枚ごとに内容を変えることができるため、少部数の印刷に適しています。
このように印刷版を用いない、いわゆる無版印刷や、印圧を必要としない無圧印刷とか、ノンインパクトプリント(無衝撃、無印圧)方式といわれる印刷の出現。さらに多数複製することなく、必要な人に、必要な少量だけ印刷することも出来るようになりました。
その上、従来からある紙などの媒体以外に、新たに電子媒体としてフロッピーディスク、CD-ROM、ICカードなどの有形媒体と、パソコン通信、インターネット、オンラインデーターベースなどの通信媒体が登場してきて、われわれの生活に欠かせないものになりつつあります。
そして電子出版(EP、電子図書、電子ブック)、電子ペーパー、電子新聞…という文字や言葉が目につくように、いろいろな電子メディアの登場を促しています。
技術進歩により今日、印刷も大きく変わってきました。これからも変わろうとしています。そして従来の印刷の方法や内容、その概念も変化し、進化しております。
このことを踏まえて、ここでは狭義の「原稿をもとにして作った版に印刷インキを付け、紙その他に同一画像を多数複製する技術」という印刷について触れていきます。
2.印刷の5大要素とは
上記のように、印刷は「原稿」「印刷版」「印刷機(印圧、圧力)」「印刷インキ」および「印刷媒体(紙などの被印刷物)」が備わって可能となります。すなわち、印刷は原稿から印刷版を作り、これを印刷機に装着し、版の画像部に印刷インキを与え、直接的または間接的に紙などの被印刷物の表面に圧着・加圧して、インキを転移させる方法が一般的です。
そこでこの「原稿」「印刷版」「印刷機」「印刷インキ」および「印刷媒体(紙など)」を印刷の5つの基本要素といいます。
なお、印刷媒体としては、空気、水以外は何でも印刷ができると言われており、メインの紙以外でも、金属・プラスチック・布・陶磁器・ガラス・合板などいろいろな素材に印刷が可能となっていますが、ここでは紙を主体に説明していきます。
3.印刷の版式と3大方式とは
版式とは、印刷版の形態(形式・様式)のことです。その形態は、版面が凸か凹になっているのか、平らか、または孔が開いているかによって区別されており、それぞれ凸版、凹版、平版および孔版と呼び、版式はこの4つに分類されます。
そして、この4つの版式の中で、孔版印刷は汎用というよりも比較的、特殊な印刷分野に使用され大量印刷ができにくいこと、凸版印刷は現在、減少(衰退)傾向にあるものの、最も古くて伝統のある版式であることや、また平版・凸版・凹版の普及比率が高いことなどから、孔版印刷以外の凸版、平版および凹版を印刷の3大方式といいます。
なお、印刷版とは、版または刷版(さっぱん)ともいいます。さらに印刷版は、画像部と非画像部からなり、画像部だけに選択的に印刷インキを受理させ、これを紙などの上に転移させて印刷画像を形成するためのものです。そして画像部とは、印刷インキが付着する部分ないし、印刷物でそれに対応する部分をいい、画線部ともいいます。また非画像部は、印刷版面のうち印刷インキの付着しない部分、あるいは印刷物でそれに対応する部分をいい、非画線部ともいいます。