4.各印刷方式について…(平版)オフセット印刷が主流
次に4つの印刷方式について説明していきます。なお、この方式のなかで現在は、平版が主体です。しかも平版のほとんどがオフセット印刷と呼ばれる印刷方式が主流なので、平版印刷といえば、オフセット印刷と考えても差支えません。
(1)凸版印刷
凸版印刷 (letterpress printing) は、画像部が非画像部より高い凸状のある印刷版を用い、画像部だけに選択的にインキを供給し、紙などに転移させる版式です。
もう一度、印鑑の例でお話しますと、名字などを彫った文字の部分が突起しており、この凸部が画線部[朱肉(インキ)の付く部分]で、押して凸部に付着させた印肉を直接、紙などに転移させる印刷(直接印刷=直刷り)する方式です。
①凸版印刷の始まり
ところで、印刷技術は文章や図版を複製して、多くの人に伝えたい、残したいという要求から生まれ、発達していきました。
凸版印刷は各印刷版式の中で、最も古くて長い歴史を持つ版式ですが、印刷術発祥の地は中国です。中国の四大発明(紙・火薬・羅針盤・印刷術)の1つで、最初に登場したのが木版印刷で、随代の6世紀末ごろに始まったとされており、唐代の 7世紀半ばころより経典や暦本が木版印刷で印刷されました。当時の印刷は、木版に文字を彫りそれに煤(すす)を膠(にかわ)で固めて作った墨(板墨)を塗り、上から紙をあて馬連(ばれん)のようなもので文字を刷りとる方法で行われました。
中国の印刷術は、奈良時代に日本に渡来。「百万塔陀羅尼」は、わが国最古の印刷物といわれますが、764年(天平宝字8)から6年がかりの770年に完成したものです。称徳天皇の勅願によって国家安泰等を祈念して作られ、陀羅尼経典の書写を印刷し、木製の小塔百万基に収めて奈良などの10大寺に納められましたが、現存するものは法隆寺に分置されたもののみです。紙は麻紙(まし)と穀紙(楮紙)で、印刷版は木版、銅版またはその両方という説がありますが、今は銅版刷り説が有力となっています。
なお、百万塔陀羅尼は、年代のはっきりした現存印刷物として世界最古のものとされてきましたが、1966年、韓国の慶州にある仏国寺釈迦塔の中から「無垢浄光大陀羅尼経」が発見されました。釈迦塔の創建が751年のことなので、こちらのほうがより古いと言われています。
一方、中国の印刷術は、紙の伝播のように中央アジアを経て、さらに西進してヨーロッパへ伝わり、火薬・羅針盤とともにルネサンス期における三大発明に数えられる活版印刷(洋式活版)の発明に結びついて行きます。すなわち、ドイツのグーテンベルグが活字印刷術の発明者とされていますが、1450年頃、鉛合金(鉛、アンチモン、スズの3元合金)の鋳造活字を初めて作り、また、ブドウ絞り機にヒントを得てプレス式活版印刷機を考案しました。さらに、当時使用されていた油性インキ(油煙と亜麻仁油を混ぜて作ったもの)に工夫をこらし、1455年には最初の活字印刷本である有名な「42行聖書」(一般に「グーテンベルク聖書」といわれる)を出版するなど活版印刷の方法を確立しました。
なお、この「四十二行聖書」は、30部を羊皮紙(パーチメント)に、180部を紙に印刷されておりますが、ヨーロッパでは、それまで書写材料として主に羊皮紙などが使われていましたが、中国で発明された紙の西進・伝播によって次第に使われなくなっていきます。
この活版印刷術は、ヨーロッパにおける活字文化の開幕を告げるものとなり、次第にヨーロッパ全土に広まり、ルネッサンスで大きな役割を果たしますが、さらに産業革命により飛躍的な発展を遂げるとともに、活版印刷以外の印刷方式の発明に結びつくことになります。
②凸版印刷の現状
長い間、新聞や、書籍、雑誌などの印刷に広く適用されてきた凸版印刷ですが、今日、平版・凹版方式に比較して需要は停滞し漸減傾向にあります。わが国では、約20年前の凸版印刷は、およそ30%の構成比率でしたが、一桁になってきております。
その代表的な減少例を新聞用紙に見ることができます。そのころの新聞の印刷は、凸版輪転機による凸版印刷方式が主体(約80%)でしたが、平版式オフセット輪転機によるオフセット化が進み、凸版方式が減少し、現状では5%以下となり、95%以上がオフセット方式に移行しています。
また名刺は、最近、カラー刷りや顔写真入などもあり、かなり多様化してきており、従来の活版印刷から次第に平版のオフセット印刷が増えてきております。
しかし、凸版はインキ膜が厚く、強い印圧による直接印刷のため、力強く鮮明で読みやすく、硬い調子の文字・画像が得られるため、文字欠けがなく、鮮明な印刷でないと問題を起こしかねない医薬品の説明書・注意書やパッケージなどに根強く使われています。さらに、漫画週刊誌などは活版輪転印刷機(活輪)で印刷されている現在の代表例となっています。従来の重たい鉛版はなくなり、軽い感光性樹脂版が装着され、高速で印刷されます。しかも用紙は、低価格のザラ紙で、ふわっとした軽くてリサイクル紙が用いられています。このような紙には、後述の平版のオフセット印刷ではきれいにインキが付きにくいが、印圧の高い活版印刷では、うまく付きます。凸版印刷は、このように捨て難い分野もあります。けれども、この分野も最近、プリプレスの進展や用紙の改良などでオフセット印刷に変わりつつあります。
その中で、期待されているフレキソ印刷を紹介しておきます。フレキソ印刷(flexography)も凸版印刷の一種ですが、フレキソとは融通がきく、柔軟なという意味を持つフレキシブルからきたものです。版材としては、金属の替わりに版自体が弾力性のあるゴムや樹脂が用いられます。インキは、さらさらで流動性がよく、しかも高顔料濃度なので隠蔽性に優れている液状の溶剤乾燥型を使用します。初期にはアニリン染料をアルコールに溶かしたインキを用いたので、アニリン印刷ともいわれました。
フレキソの製版コストは安く、一度原版を作れば簡単に版を複製できるという特徴を持ち、表面が粗い素材、例えば段ボールやクラフト紙などにも印刷ができ、紙の他にも軟包装用に使用されるポリエチレンフィルムやアルミ箔などの非吸収性材料への印刷にも適用されます。
日本フレキソ技術協会の推計によれば、2002年春の時点におけるわが国のフレキソ印刷シェアは、段ボール、紙袋分野が90%、ワンウエイ紙容器が40~50%、ノート・封筒分野は数10%でかなりを占めており、軟包装分野ではまだ数%です。しかし、この分野でも紙オムツの外装体への印刷は、80%強のシェアを占めており健闘しています。
しかも、従来、フレキソ印刷の品質はあまり良くありませんでしたが、最近の技術進歩、特にフレキソCTPによるカラー印刷の品質向上や、溶剤型インキ使用による環境問題からの脱却のためのUV印刷対応などにより改善され、さらにシェア拡大が期待されています。