トラブル対応、その前に(8)…印刷の基礎知識Ⅱ
印刷の基礎知識、今回は版式別印刷物の特徴と見分け方についてです。
各版式の主な対象印刷物
現在、平版方式のオフセット印刷が主流であることはすでに述べました。オフセット印刷は、カレンダー、ポスター、パンフレット、チラシなどといった商業印刷物を中心に広く利用されていますが、多色刷りが非常にきれいに仕上がることや、製版時間が短いうえに製作費用が安価であることなどから印刷物の多くに使われるようになったわけです。
なお、経済産業省の統計によりますと、印刷物の2000年品目別出荷額(従業者4人以上)の比率は平版印刷物(オフセット印刷物)68%、紙以外のものに対する特殊印刷物10%、凹版印刷物(グラビア印刷物)6%、凸版印刷物(活版印刷物)7%、その他となっています。
このように圧倒的にオフセット印刷(平版)が占めておりますが、これは1980年を基準にしますと、平版印刷物、凹版印刷物および特殊印刷物などが2倍以上増加している反面、凸版印刷物は半分近くまで落ち込んでいることになります。ここで各版式の主な対象印刷物を表1に示します。
版式 | 印刷方式 | 主な対象印刷物 |
---|---|---|
凸版 |
活版・感光性樹脂版 原色版(活版方式) 亜鉛版・銅版(写真版) 鉛版・樹脂版 フレキソ印刷(ゴム版・樹脂版) |
新聞、名刺、書籍・漫画本、医薬品の説明書など 豪華本(多色刷り)など 写真・絵画等の複製など 新聞、雑誌など 製袋、紙器、軟包装など |
平版 |
コロタイプ(直接印刷) |
|
凹版 |
グラビア 彫刻凹版 |
出版物、カタログ、紙器、軟包装など 証券、株券、紙幣、高級な版画など |
孔版 |
タイプ孔版・謄写版 シルクスクリーン |
プリント教材など ポスター、看板、プリント配線・目盛類など |
注
ここで、今は珍しい印刷方式である原色版とコロタイプについて説明しておきます。
- 原色版…カラー印刷法のひとつで、凸版(活版)方式による多色印刷をいいます。現在のようにオフセット印刷が台頭する前はこの方式しかカラー印刷がなく、カラー印刷は、すべてこの方式で刷られていたためにこの名前があります。
- コロタイプ(collotype)…版材にガラス板を用いることから玻璃(はり)版ともいわれ、版面にゼラチンを用いる平版印刷法の一種です。写真製版で行う最も古い印刷で、1855年、フランスで生まれ、1870年頃ドイツのアルバート(J. Albert)によって実用化されました。ちなみに、オフセット印刷の発明は1904年です。
- その方法は、ゼラチン、重クロム酸アンモニウムなどが配合された感光液をガラス板に塗布し、ネガフィルムを密着して露光すると、露光部分は硬化し、そのとき濃淡に応じてゼラチン特有の微細な縮緬(ちりめん)状のしわ(レチキュレーション)が発生した印刷版ができあがります。この版に水とグリセリンを与えて膨潤させ、インキを付けてコロタイプ印刷機で印刷しますが、小さなしわの程度に応じてインキ付着量の大小が生じ、連続した濃淡が出来ます。
- コロタイプ印刷の特長は、オフセット、活版などのように網点により不連続に濃淡を出すのではなく、濃度の調子を写真のように、連続的に変えることが出来る連続階調になることです。このため滑らかで深みのある表現が得られます。しかし、ゼラチン質のため版面が弱く耐刷力が劣り、1つの版で数千枚しか刷れないこと、印刷スピードが遅いことなどで大量印刷が難しく、かつ印刷に熟練した技能を要することや、製版、印刷とともに大変手間ひまが掛かります。そのため以前は、スミ(墨)の単色(モノクローム、モノクロ)で卒業アルバムなどに広く利用されましたが、カラー化の動きもあり、これも平版オフセット印刷に転換し減少しました。
- ところで、従来のコロタイプ印刷は単色のみでしたが、便利堂/京都が多色刷(カラーコロタイプ、色コロ)の技術開発に成功。洋紙はもちろん、和紙・布・板などにも印刷できるし、耐久性の強いコロタイプインキ(酸化重合乾燥型)と優れた印刷再現性・表現力などにより、貴重な印刷として現在も存在感があります。有名なものとして法隆寺金堂壁画の原寸大の複製がありますが、文化財の複製、美術館などの高級絵画、書画、水墨画などの複製や絵はがき、豪華な出版物などに適用されています。