太陽はいろいろな恵みをもたらしています。紙もそのひとつで、太陽の恵みの産物です。
ご存知のように紙は、植物を原料としており、そのセルロース(繊維素)が絡み合って出来ていますが、そのセルロースや母体である植物は、太陽のもとで生まれ、育まれているからです。
太陽、光エネルギーの驚異…光合成(化学反応)
森林などの植物は、太陽の光エネルギーを用いて、空気中から吸収した二酸化炭素CO2(炭酸ガス)と、根から吸収した水分H2Oから、植物の葉緑体にある葉緑素の触媒作用で、有機化合物(炭水化物)をつくり、酸素O2を放出しています。これを光合成(炭酸同化作用の一形式)といいます。光合成という化学反応が起きているわけです。
これを式で表しますと、
二酸化炭素+水+光エネルギー → 炭水化物+酸素 となります。(光合成)
ここで炭水化物は、炭素(C)・水素(H)・酸素(O)の3元素から成り、一般式(CH2O)n の形の分子式をもつ化合物です。すなわち水素と酸素との割合が水の組成(H2O)と同じで、含水炭素とも言います。その代表的なものが、ぶどう(葡萄)糖[グルコース、分子式C6H12O6]です。
また、発生する酸素O2は、水H2Oに由来しておりますので、光合成の全反応を化学式で表現しますと、
6CO2+12H2O+光エネルギー(688Kcal) → C6H12O6+6O2+6H2O となります。
このぶどう糖は、さらに植物体内で、栄養貯蔵物質である澱粉(でんぷん)や植物の骨格物質の働きをしているセルロースなどを合成します。すなわち、この単糖類であるぶどう糖C6H12O6が数千個(500~6000個)、連結(重合)して長い鎖状の高分子である多糖類のセルロースができます。
このセルロースは地球上最多の炭水化物で、繊維素[(C6H10O5)n]といわれるように「紙」などの原料に利用されているわけです。(参照)セルロースの構造式
ちなみに、製紙に用いられる繊維の多くは天然植物繊維で、木材系と非木材系に分けられますが、今日の紙の主原料は木材系です。その種類は国によって差がありますが、世界では平均で9割くらいが木材を原料にしており、約10%が非木材です。発展途上国では、製紙原料に占める非木材パルプの比率が高く、先進国は低く(中国、インドなど途上国…約54%、米国、英国など先進国…約0.4%)、わが国はほとんとが木材で、約0.2%以下が非木材です…FAO(国連食糧農業機関)資料。
非木材パルプは藁、竹、綿、バガス(トウモロコシの絞り粕)、麻、ケナフなど多々ありますが、和紙は楮、三椏、雁皮などの非木材系が主原料です。洋紙の大部分は木材パルプと半分以上が古紙から再生されるパルプ(古紙利用率58.0%)が原料ですが、これらは、いずれも光合成されたセルロースを使っており、太陽の恩恵を受けているわけです。
注
ここで思い出されるのは、「植物の光合成実験」です。暗所に置いておいた植物を日光に当てます。その時、葉の半分くらいには覆いを付け、光が当たらないようにしておきます。しばらく光を当ててから、その葉を熱アルコールで葉緑素を除き、その後、ヨウ素液につけると、光の当てた部分はヨウ素反応によって青紫になり、当てない部分は呈色しなく変化が認められません。このヨウ素で青紫に呈色するのは、有名な澱粉反応ですね。このことから植物が光合成で澱粉を作ることが分かります。
環境にやさしい光合成…二酸化炭素を吸収、酸素の供給
上記の化学式からもお分かりのように、さらに重要なことは、森林などは光合成により、大気中の二酸化炭素(炭酸ガス)CO2を吸収・消費し、酸素O2を放出・生産することです。
現在、地球温暖化ガスとして問題化し、削減対応が迫られている二酸化炭素。人類等、動物などの生物が呼吸し、生きていくために必要な酸素。森林などの植物は、この二酸化炭素を吸収し、酸素を作り出し供給しているわけです。
(なお、一方では自分自身の呼吸のために酸素を取り入れ、二酸化炭素を外界に放出しているわけですから、実際には、この呼吸による放出と光合成によるの吸収との差の分だけ、大気から二酸化炭素を取り込みます)
数量的には、光合成の化学式から、1kgの植物体を作るのに約1.5kgの二酸化炭素を吸収し、約1.1kgの酸素を放出することが計算されます。森林の成長や光合成は、土地の栄養条件や気象条件などによって異なりますが、わが国における森林のガス交換能力は、1ヘクタール(記号ha、1万平方メートル)当たり1年間に、30t(15~30tとも)の二酸化炭素を吸収し、22t(11~23t)の酸素を放出しており、この酸素量は80人(40~80人)が呼吸するのに相当すると言われています。
このように森林などの植物は、環境保護・改善や人類の生命維持のために、必要不可欠で非常に重要な財産です。
ところで、森林などの植物には、いろいろな役割があります。特に森林は、ガス交換・温度調整などの大気保全・地球環境保護機能のほか、洪水・渇水の抑制・緩和、保水・浄水などの水源涵養(かんよう)機能、土砂流出・崩壊などを防ぐ山地災害防止機能、木材などの資源としての機能、森林浴など自然とのふれあい、やすらぎの場や景観など人・動物との共生機能など、たくさんの機能があります。
ただ、この役割や目的は全てが一様でなく、差があります。それぞれの役割や目的にウェイトがあります。それに準じて、これらの機能を果たすべき、育て、活用することが重要だと考えます。
今ここでは紙の「資源」として考えます。
森林など植物の育成・循環を!!
この資源としての財産をただ、消費するだけでなく、積極的に「育成」していくことが必要です。石炭や石油、天然ガスなどは、資源として「有限」で限りがあります。何時かは必ず無くなるわけです。何年で無くなってしまうかを評価した値を「可採年数推定値」といいますが、これは、評価する時点での技術的・経済的に採掘ができる量、すなわち、確認埋蔵量をその年における年間消費量で割った値です。現状でこのままの状態で消費していけば、「可採年数」は石炭が218年(150年とも)、石油が45年、天然ガスが63年と言われております。延命対策が取られていますが、いずれ枯渇します。
これに対して幸いにも「森林などの植物」は、これらの「化石資源」と違い、「再生」可能であり、育て増殖すれば「無限」に供給される可能性があります。しかし、意識して、しかも実行しなければ、減っていき、消滅していく可能性もあります。
また、樹木は生命があり、成長しており、寿命があります。世代交代がうまくいかなければ、やはり死滅していきます。管理しないで、間伐や枝打ちなどの森林の手入れをしなければ、森は死ぬといわれます。さらに、樹木を切るのは悪いことだと言って、自然に「枯木」させることは、資源の無駄ですし、樹木の持っている能力・価値を無視していることになります。
間伐や枝打ちなどの森林の手入れをし、伐採することで、森が生き、環境にもプラスになるわけです。資源として有効に活用し、さらに木を植え、「再生」、循環させることです。
ここで蛇足かもしれませんが、わが国の紙は天然木材の本体そのものを原料に使っているように思われていますが(あるいは、かつて思われていましたが)、実際には、植林材(人工林)や建築用製材を採った後の残材・端材、それに間伐材・枝材・家屋の解体材などを使い、有効活用しております。
このことからも現在の紙パ産業は、「森林を破壊する元凶」であるということは当たらなく、むしろ環境にやさしいリサイクル型・循環型の産業であるといえます。
なお、成長した成木、「老木」(古木・老い木・老樹)よりも成長過程にある「若木」のほうが、光合成が盛んです。「老木」は伐採し、資源として有効に使用、さらに伐採した(あるいは伐採する)以上に、しかも計画的・継続的に、植林をし、「苗」から「若木」「成木」「老木」と育て、いろいろある機能を果たし、再び資源として活用。そして、また植林と。いわゆる、「森の循環」を行うことです。しかも、これを永続的に行なうことです。「森林などの植物」は、このような努力で持続可能となります。
そして紙は太陽の恵みを受け続けることになります。
(2003年2月1日付け)
参照
コラム1.紙と森林…木を切ることは悪いことか。紙・紙パ産業は悪か