コラム(10) 王子製紙、中国に製紙工場進出紙の進化に期待!!

今回のタイトルは、新聞のような見出しです。それもその筈、去る6月10日に、わが国、最大手の王子製紙株式会社が「中国における製紙工場建設の計画について」を発表し、翌11日に新聞報道されました。

 

ところで、前回は「わが国における洋紙の進展…明治初期からの進化」というタイトルで、欧米から洋紙技術が伝わった明治時代初期と現状の洋紙製造の規模を比較し、洋紙の進歩を概観しました。今回はこの中国への本格進出のニュースをもとに、さらに進化するであろう製紙の技術と設備を思い浮べていきます。

 

中国への進出の理由はこうです。

わが国の製紙業界は、国内消費に依存する典型的な内需産業ですが、ここ数年、国内の紙需要が頭打ちとなり、海外進出が注目されていました。

一方、中国では2008年に北京オリンピック、2010年には上海万博の開催が予定され、今後も年7%の経済成長が見込まれ、商業印刷などに使用される上質紙、塗工紙の需要の伸びが期待されます。

このような景から、急増する中国の紙需要に対応する狙いで、今回王子製紙が単独で初めて中国に本格進出するというものです。

 

ここで王子製紙の資料から、製紙工場建設計画の基本構想と生産規模などを次表にまとめます。なお、比較として中国第1期工事の生産規模が同レベルにある米子工場(同社塗工紙専抄工場)を掲げました。

 

 王子製紙の中国における事業計画王子製紙 米子工場(比較)
基本構造 2010年をめどに、年産能力120万t規模の印刷用紙(上質紙・塗工紙)を中心とした紙パルプ一貫工場を建設(総投資額は概算2,000億円) パルプから紙(抄紙・塗工)の一貫生産体制を持つ高塗工紙専抄工場
生産規模
  • 塗工紙60万t/年…第1期工事:2006年末稼動を目処。投資額は約600億円
  • 年産能力120万t規模…2010年を目処。投資額は約1,400億円
年間生産能力60万t
紙生産設備
(未発表) 抄紙機 4台
塗工機

5台

(約5万t/月)

面積
200万m2 工場敷 54.5万m2
社宅用 17.7万m2
場所 中国江蘇省南通市 鳥取県米子市

 

今回の計画では、2006年末稼動を目処に約600億円を投資して、第1期工事で米子工場並みの生産量60万t/年の塗工紙工場が完成し、さらに2010年を目処に、約1,400億円を追加投資して王子製紙最大規模の苫小牧工場に匹敵する年産能力120万t規模の印刷用紙(上質紙・塗工紙)工場が中国に出来上がる予定です。

 

なお、塗工紙は印刷用紙の中でも、高品質で作るのに高度な技術力が必要であり、わが国は高い評価を得ておりますが、その中でも王子製紙はNO.1のシェアを持ち、リーダー的な位置づけにあります。

 

今、国内で塗工紙を生産している最大で最新鋭のマシンは、1997年ころに設置されたものですが、原紙を抄く抄紙機で幅(網幅)がおよそ8,000mm、塗工機で幅(最大塗工幅)が7,230mmです。さらに抄速は最高1,300m/分、塗工速度で最高1,500m/分、日産700tレベルのものです。これ1系列ですと、生産量は月間2万t強、年間では約25万tですので、中国での第1期工事の生産量60万t/年の半分以下に過ぎません。今回の具体的な紙生産設備は未発表ですが、広大な土を含めて、生産規模から判断してスケールの大きさが如何に大きいかが想像できると思います。

 

また、米子工場と苫小牧工場は、いずれもわが国屈指の工場です。第1期工事の生産量が同じくらいということで、上表に掲げた米子工場は、王子製紙14工場の中で生産規模が4番目。さらに苫小牧工場は、昨年(2002年)の生産量が119万t(抄紙機9台)で国内では大王製紙の三島工場に次ぐ2番目ですが、新聞用紙の国内需要の約1/4強を供給し、新聞用紙生産工場としては日本のみならず世界でナンバーワンの規模を誇っている大きな工場です。

しかも、米子工場で初めて抄紙・塗工機が設置されたのは、1963年ですので40年簡の歴史があり、また、苫小牧工場は1910(明治43)年の創業開始ですので、およそ100年の伝統と重みがあります。

 

まもなく中国に、これらに匹敵する工場が短期間のうちに出来上がるわけです。製紙の大きな進化です。中国では欧米企業との競争にさらされますが、それらに負けないばかりでなく、リーダーシップをとる、追従を許さない優位性が求められます。どんな新しい技術や設備が披露されるのか今から楽しみです。

(2003年7月1日付け)

 

参考

  • 王子製紙 ホームページ(紙と森のエトセトラ)
  • 王子製紙資料「中国における製紙工場建設の計画について」(2003年6月10日付)
  • 王子製紙パンフレット「米子工場案内」
  • 日本製紙連合会「紙・板紙統計年報」(平成14年版)

 


更新日時:(吉田印刷所)

公開日時:(吉田印刷所)