コラム(17) お題「紙」 新春歌会始(昭和39年)

新春恒例の歌会始は1月14日、皇居・宮殿「松の間」で開かれました。今年のお題は「幸」。これまでの歌会始のお題で「紙」もあったような記憶があり、調べましたらありました。今からちょうど40年前の昭和39(1964)年新春のことです。

 

今回は、この歌会始のお題「紙」について紹介します。なお、この恒例の新春宮中行事「歌会始の儀」で朗詠されたお題「紙」のことが、財団法人 紙の博物館の当時の機関誌「百万塔」(昭和39年3月第18号)に掲載されていると知りました。そこで「紙の博物館」にお願いして資料を送っていただきました。ここにあらためて感謝いたします。

 

歌会始(うたかいはじめ)は、宮中における年始の歌会のことで、新年儀式のひとつ。古くは鎌倉前期の歌人で、新古今集(共撰)などを著した藤原定家が1202(建仁2)年正月13日の条に記《明月記》したのが、記録上の初見とされております。毎年の行事ではなく、また、正月に催されるとは限らなかったとのことですが、1869(明治2)年以後、毎年1月に行われるようになりました。

その後、一般の詠進が認められ、選ばれた作を皇の前で披講する形ができました。また、宮内省に御歌所が設置され、歌会始はその管掌するところとなりましたが、戦後の1947(昭和22)年以降改組され、その事務は〈歌会始め委員会〉に引き継がれ、選者は当代に活動している歌人が選ばれて、今日に至っています。

 

さて、お題「紙」の「歌会始の儀」は、1964(昭和39)年1月10日午前10時から皇居仮宮殿「北の間」で行なわれました。

緊張の中にも、のどかな雰囲気で、入選歌、選者、皇族の歌を順に読みあげられ、最後に皇后陛下のお歌が2回、皇陛下のお歌が3回読みあげられて同11時30分に儀式を終えた、と当時の新聞紙上で報じられています。

そのときの皇陛下と皇族方、召人、選者、入選者の歌はここをクリックしてお読みください(昭和39年歌会始お題「紙」の御製・御歌・詠進歌の画面に変わります)。

 

和紙関係を詠んだ歌が多いのですが、洋紙関係もあります。私は洋紙関係の仕事が長く、印刷の立会いなどもしたことがあります。そのため入選歌の

「巻取紙滝なす下をくぐり来てインク香に立つ夕刊を受く」(北海道 工藤ケイさん)

「手ざはりにて紙の斤数よみわくる印刷工となりて三十年」(三重県 広岡有為生さん)などが懐かしく感じられます。

 

みなさんは如何ですか。(ここをクリックして全歌をご覧ください)

 

  • 御製…ぎょせい。皇の作った詩文・和歌。大御歌(おおみうた)。
  • 御題…ぎょだい。子選定の詩歌・文章の題。「勅題」とも言いますが、今では一般的に「お題」と言います。

 

○機関誌「百万塔」(紙の博物館)によれば、「紙」というお題は選者のひとりである鹿児島寿蔵(かごしま じゅぞう)先生が提案されたとのことです。先生は福岡市出身、アララギ派の歌人で、昭和36年に「紙塑人形」の創作者として人間国宝(重要無形文化財保持者)に認定されました。明治31年生、昭和57年没(1898~1982)。

選者、鹿児島寿蔵先生の「紙」のお歌

「ひとくみのまろきひひなにひたすらに手染の紙を貼りかさねゆく」

 

そして「紙塑(しそ)人形」とは、楮・三椏の繊維を主原料として、木材パルプ・胡粉・粘土などの補助原料に、膠(にかわ)や澱粉糊などの接着剤を加えて練り、いわゆる紙粘土で固めて人形の原型を作り、仕上げとしてその上から細かくちぎった手漉きの和紙を幾重にも貼り重ねて制作した人形です。この仕上げの色付け・絵付けには、いろいろな色で染めた和紙を細かくちぎって型の上に貼り合わせる方法と、型の上に貼り合わせ白紙に淡い水彩絵具で彩色する方法があります。

素焼き人形は破損しやすい欠点がありますが、この紙塑人形は和紙のように弾力性があって強く美しいのが特徴とされています。

 

参考・引用資料

  • 機関誌「百万塔」紙の博物館の当時の機関誌「百万塔」(昭和39年3月第18号)
  • 広辞苑(第五版)…CD-ROM版(株式会社岩波書店発行)
  • 世界大百科事典(第2版 CD-ROM版)…日立デジタル平凡社発行
  • 和紙文化辞典 久米康生著、1995年10月 わがみ堂発行

 


更新日時:(吉田印刷所)

公開日時:(吉田印刷所)