わが国での製紙原料、および機械抄き
中国の紙は長い年月を経て欧米に伝播し、改良されました。わが国に欧米からこの紙が、いわゆる洋紙として伝わったのは、ずっと後のことで明治時代初期の1874(明治7)年のことです。蔡倫から、実に1750年余り後になります。また、ヨーロッパからアメリカに伝わってからでも180年余りにもなります。当時の原料は木綿ボロ(破布)でした。
なお、コラム9.わが国における洋紙の進展…明治初期からの進化(2003年6月1日付け)に述べていますが、あらためてここに概記します。
西洋の技術を導入して日本で洋紙製造を目的として最初に創立・開業したのは有恒社(後の1924(大正13)年王子製紙に併合)で明治5(1872)年のことです。そして初めて洋紙が生産されたのは、同じ有恒社でその2年後の明治7(1874)年6月になります。なお、最初に導入された抄紙機は英国製でした。
そのころのわが国で使用されていた紙は、もとは中国の紙で、改良され日本で育まれてきた和紙が中心で、それに欧米からの輸入紙(洋紙)でした。その中で洋紙製造の産声を上げたわけです。
当初、その原料は綿ぼろでしたが、その後、わが国でも徐々に紙の生産量が増加し、その対応として欧米の技術を導入して木材からパルプを生産するようになりました。1889(明治22)年、静岡県天竜川上流の気田に日本最初の木材による亜硫酸パルプ工場(王子製紙気田工場)を建設し、操業を開始しました。また、90年には富士製紙の入山瀬工場が日本初の砕木パルプ(グランドパルプ)製造に成功しております。これにより、日本でも木材パルプによるマスプロ方式の技術導入がなされたわけです。ヨーロッパに遅れること約45年になります。
なお、材種は砕木しやすい軟質の針葉樹(ソフトウッド)のみが用いられましたが、紙の生産高増加にともなって、原木の入手が難しくなりました。その対策として製紙メーカーは、ハードウッドといわれるように硬質のために、パルプ化が困難なため従来パルプ材として使われなかった、広葉樹のパルプ化技術を開発して、製紙原料に利用されるようになりました。それは戦後のこととなります。そして現在ではパルプ材の約70%弱が広葉樹となっています。
その後の「木材パルプ化法」と「抄紙機」などの改良により、洋紙生産が飛躍的に拡大し、その消費が本格的に増加していきますが、反面、和紙生産が次第に減少していきます。そして1912(明治45)年には、洋紙の生産と消費が和紙と肩をならべ、それ以降、和紙を追い越し洋紙の時代となって行きます。
次に明治初期の洋紙製造と現在との対比を再録しておきます。当時の抄紙機、日産能力、年間生産高などの規模や製紙原料を比較しますと、現在と雲泥の差があります。西洋の製紙技術にわが国の技術を加えて、それだけ洋紙が躍進したと言うことでしょう。
項目 | 明治7(1874)年当時 | 現在 |
---|---|---|
抄紙速度 | 20m/分 | 2,000m/分(最大レベル) |
抄紙幅 | 1,500mm(60インチ) | 10,000mm(最大レベル) |
日産能力 | 約1.5t | 約720t(最大レベル) |
年間生産高 | 約16t(明治8年…約80t) | 2003年…3,046万t(世界3位) |
製紙原料 | ぼろ布(非木材) | 木材(針葉樹と広葉樹)、古紙が主体 |
紙、さらなる発展、進化を!
これまでに紹介しましたように、紙発展のもとになった大きなものは、印刷機、抄紙機の発明と木材パルプの出現ですが、これらにより拡大する情報と、増大する紙の需要、品質向上などに対応しながら紙は大きく進歩、発展してきました。
なお、紙2000年の歴史の中で、今日の紙漉き法は中国で発見、改良された当時と原理的にほとんど変わりがありません。すなわち、その漉き方の原理は、①皮を剥く(皮剥ぎ)、②煮る(蒸解)、③叩く(叩解)、④抄く(抄紙)、⑤乾かす(乾燥)です。
しかし、紙漉きの原理は変わりがなくとも、その中身は、これまで見てきたように大きな違いあります。
手漉きでは、これらの各工程は不連続で、昔ながらの方法で漉かれているものもありますが、製紙作業、原材料、規模、製品の品質・種類などが改良・改善されてきております。一方の機械抄きでは原料の流れがほぼ連続的ですが、④抄く(抄紙)に相当する紙を製造する機械である抄紙機には、紙を抄くワイヤパートと、脱水・乾燥するプレスパート、ドライヤパートなどが一体で構成されており、成紙まで連続して作られます。
そして今日まで、抄紙機の進展すなわち、スピードアップ、広幅化、効率化、省力化などや紙品質の改善、用紙の多様化・機能化と、製紙原料の枯渇対応、古紙の再生化、森林保護、植林などによる地球環境保護などへの対応をしてきております。
このように紙とその製造、およびそれを取り巻く環境は、それぞれの時代で対応し、その中で進化しているのです。紙がさらに発展し、進化しながら生き延びていくためには、環境保護、森林保護などの地球環境に基点をおき、これからも生活に密着し、変わらぬ対応と技術開発を必須とし、それを実行、継続する限り将来とも紙の存続と進展は可能であると考えます。そしてまだまだ、紙は進化していくでしょう。
(2004年7月1日)
参考・引用資料
- 世界大百科事典(第2版 CD-ROM版)…日立デジタル平凡社発行
- 紙の博物館 紙の講座1
- 紙の博物館 紙の講座5
- コラム9.わが国における洋紙の進展明治初期からの進化(2003年6月1日)