コラム(25-1) 紙と白さ(その3)退色性について

今回は、紙の退色などの劣化について説明します。

 

世界大百科事典(第2版 CD-ROM版)によれば、劣化とは「材料は、熱、光、放射線、機械的摩擦、反復使用、化学薬品、微生物などの影響を受けて、変色したり、機械的強度が低下したり、亀裂を生じたり、軟化したり、もろくなったりして、ついには実用に耐えなくなることがあり、このような現象を一般に劣化または老化という」とあります。

紙もこのような劣化をしていきます。

紙は、木材などの植物から取り出した繊維状物質(パルプ)を水の中に分散させ、それを網や簀(す)の上に均一な薄い層、いわゆるシート状を形成するように流出させ、からみ合わせて、さらに脱水したのちに、乾燥したものです。そしてこの製造過程で無機や有機物を内部に添加したり、あるいは表層に塗布、加圧など種々の処理・加工をして紙が出来あがります。

このような紙(紙製品含む)の多くは、普通、長期間保存する過程で問題になるのが劣化ですが、その主な品質は退色(黄ばみ・変色)と強度劣化です。色は一般に、白から黄色っぽくなり、次第に黄褐色と濃くなり、強度(紙力)は低下し、次第にボロボロになっていきます。しかし、その程度は紙の種類などによって違いがあります。

以下、説明します。

 

退色性について

まず、退色ですが、退色は紙にかぎらず他のものでも起こります。「退色」とは、これも世界大百科事典に、「染色された各種の繊維製品や、顔料で着色された印刷インキ、塗料、プラスチック製品などは、その製造工程中にも、また使用している間にも、日光、風雨、化学薬品、洗濯、汗、摩擦、真水や海水中の浸漬などの外的作用により変色または退色する」と説明されています。

例えば、日光などによる紫外線は肌や目にとって、有害であることがよく知られていますが、他のものでも影響を受けます。コンビニなどでは24時間、食品やビン入りの清酒などが蛍光灯下で販売されていますが、糖質(炭水化物)を含むものは紫外線にさらされると「褐変(かっぺん)」といって、色が変わって品質が劣化するために防止策として、UV(紫外線)防止用蛍光灯が使用されています。

また、長時間光などにさらされると、紙類は全体に黄色味を帯びるようになる、いわゆる紙焼け(単に「やけ」とも)や、絵の具などの変色・劣化が起こります。そのため博物館、美術館などでは特に重要な絵画・美術工芸品の退色などの劣化を防ぐために、照明を暗くしたり、照明には一般の蛍光灯から出る紫外線をカット(赤外線カットも考慮)するために紫外線吸収膜付蛍光灯を使用したり、館内の温・湿度などの管理がされています。展示内の温度・湿度は年間を通して一定にし、理想的な温度は20±2℃(真夏でも25℃を超えなように管理)、湿度は55±5%が理想で、カビを防ぐためには75%以下とすることなどが良いとされています。

 

もうひとつ、高松塚古墳の壁画の退色について紹介します。

キトラ古墳とともに、奈良県明日香村にある飛鳥時代後半の高松塚古墳(7世紀末~8世紀初め)は、極彩色壁画(国宝)を持つ貴重で重要な遺産ですが、古墳内の石室に描かれた壁画は、32年前の発見時(1972年)に比べて激しく劣化し、消えかかっている部分もあることが判明(2004年8月)。

文化庁は、最新の高画質写真では発見時の写真に比べて描線がぼやけ、退色や変色も進んでおり、ほかに汚れや荒れ、剥落などの傷みが進んでいることを初めて認め、同古墳壁画恒久保存対策検討会に報告しました(2004年8月10日)。石室に描かれた国宝壁画のうち、西壁の白虎が32年前の発見時の状態から激しく劣化し、頭や首の輪郭がぼやけて薄くなり、顔やたてがみの細かい描線はほとんど見えなくなっていたり、朱色に塗られた口や前脚のつめは、退色したり黒っぽく変色したりしており、全体に灰色のカビのような汚れにも覆われている由。また東壁の青竜も、発見時に比べて顔などの輪郭がぼやけ、薄茶色の汚れに覆われているように見えるとのことです。

石室の内部は湿度約100%、温度16度前後とのことですが、「壁面に塗られたしっくいはカルシウム分を多く含み、外気に触れると化学反応で変質する可能性があり、人がはく二酸化炭素や殺菌のための薫蒸剤が風化を早めているのかもしれない」と指摘されており、その保存に頭を悩ませているとか。

これは今まで埋れていたものが初めて、いわゆる「日の目を見た」途端に退色し、劣化が進んだケースです。何とか修復し、保存してほしいものです。

 

紙は、なぜ黄色くなるのでしょうか?

紙以外の退色について話が少し脱線しましたが、本題の紙の退色に戻します。

ときに、「紙は時間が経つと、なぜ黄色くなるのでしょうか?」という疑問や質問があります。紙の退色は、紙の種類や影響する外的条件によって違いがあり、一様に表現できません。そのためこの質問に対して、紙の代表的な品種であり、黄ばみしやすい新聞用紙を例にして、説明した方が分かりよいと思います。

 

「紙は時間が経つと、なぜ黄色くなるのでしょうか?」

紙は日光に曝されると黄色っぽくなり、次第に黄褐色と濃くなります。これは保管されている状態、湿度や温度などにも影響されますが、紙の原料であるパルプ繊維中に含まれるリグニンという物質が、日光(紫外線)によって化学変化を起し、黄変化し退色が促進されて起こります。そして日光が強いほど、また曝される時間が長いほど退色の進行が早く、その程度は大きくなります。

リグニンの量は、パルプの種類や製造方法によって違いがありますが、木材をそのまますりつぶして作られる機械パルプには多く含まれています。そのため機械パルプが多く配合されている新聞用紙や中下紙は、光と反応しにくいセルロースの純度が高く、リグニンがほとんど含まれていない化学パルプを原料としている上質紙などと比較すると退色しやすくなります。

リグニン…菌類や藻類・コケ植物などのように構造の簡単な下等植物にはなく、種子植物・シダ植物のように、維管束があり根・茎・葉などを持つ高等植物の導管・繊維などの細胞壁間に蓄積される木質素とも呼ばれる高分子重合体。リグニンの合成によって細胞は木化(木質化)が進行し、やがて細胞間に硬くて強固な構造をつくります。製紙の際、セルロースを利用したあとの不要副産物となります。木材中の20~30%を占め、セルロースと結合した状態で存在します。リグニンの化学構造は複雑で、メトキシル基 CH3O-や水酸基 OH-部分が異なる3種類のプロピルベンゼン化合物を基本単位とし、これらが樹状(網目構造)に重合したものです。

上記質問に対しては、これで充分だと思いますが、紙の退色についてもう少し詳しく解説します。

 

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更新日時:(吉田印刷所)

公開日時:(吉田印刷所)