コラム(25-2) 紙と白さ(その3)紙の退色について

紙の退色について

紙はパルプ、填料、サイズ剤、硫酸バンド、紙力増強剤、染料、水など多くの素材を原料にしています。一般的に白さが好まれるため、紙の多くはその原料であるパルプに様々な薬品を使って漂白したり、白色填料・顔料を添加して白色度を高めたり、着色染料による青み付けや、蛍光染料などを添加することによって、視感的に白さが高められています。また、有色染料を入れた赤や緑、黄色などのいろいろな色の色紙もありますが、程度の差こそあれ、いずれも時間とともに変色し、退色していきます。そして多くは黄味傾向になりますが、この黄色に退色することを黄ばみ現象とか、黄化(黄色化)現象といいます。

紙の退色(色劣化・黄ばみ現象)は、通常でも少しずつ進みますが、その程度は紙を構成する成分と置かれている環境条件によって異なります。

外的要因である環境条件の影響についてですが、温度が高いほど劣化という化学変化を促進させたり、さらに湿度が高くなるほど、一般的に原因物質が溶け込みやすくなりますので、紙の退色は速く、強くなります。日光や普通の蛍光灯などの光の下では、それらが強いほど速くて、その程度が大きく、時間が経つにつれ目立ってきます。逆に言えば低温で低湿ほど、かつ暗所に保存されれば色の変化(変色)はほとんどないか、少なくなります。なお、短波長(350nm以下)の光(紫外線)で退色が顕著に進み、長波長(480nm以上)の光では変化が少なくなります。

また空気やその他の気体、溶剤などの影響も受けます。例えば、空気中の酸素が劣化反応を活性化し、大きく影響し退色を促進させますが、不活性な窒素や二酸化炭素は進行なせません。

ところで洗濯が不充分だったり、保管が悪かったりした肌着やワイシャツなどが黄ばむのは、汗に含まれる脂肪酸などの皮脂が酸化するためで、それらのたくさんある繊維間の隙間に、洗剤で洗っても皮脂が少しずつたまって原因となるようです。

さて、紙の原料・薬品などではどうでしょうか。退色の主な原因物質となるものはパルプ中のリグニン、残留塩素、ロジン類、バンド、蛍光染料、填料、顔料、ラテックス(合成ゴム)などです。純粋なパルプ(セルロース)そのものは、リグニンが極少のため退色の原因となることはほとんどないか、あっても極めて小さくなります。

パルプの種類の中で木材を磨り潰して作られる機械パルプは、着色した硬いリグニンを多く含有しており、収率が高い反面、物理的に繊維が傷められています。そのため弱い漂白しかできず、リグニン自身を淡色化するような漂白法が用いられます。これはリグニン中の発色基を変化させるだけの漂白ですので、一時的なものであり、光により再び反応が戻ったり、空気中の酸素による酸化で変化して発色構造に戻りやすくなります。そのため色戻りし、退色していくわけです。

すなわちリグニンは酸化されやすく、紫外線によってさらに酸化が加速されるため、リグニンを多く含むパルプを使用した紙ほど変色、変質(劣化)しやすくなります。したがって、紙の品種の中では、リグニンを分解除去する漂白法で作られる化学パルプを原料にしている上質紙(上紙)よりも、リグニンを多く含む中・下紙である新聞用紙や漫画本などの方がより変色・退色しやすいのです。

なお、パルプ化工程で残留リグニンや着色物質を除き、さらに白色度の高い紙を得るために漂白が行われますが、この漂白剤の残存が変色の原因となることがあります。

さらにロジン酸鉄も変色の原因となります。これは滲み止めなどとして使用されるロジン(松脂…製紙用サイズ剤)が水、その他から持ち込まれる鉄分と反応し、次第に酸化して黄褐色に色づくことによるものです。

ところで、塗工紙は表面を塗料で覆われているため、非塗工紙と比べて紫外線の影響は少なく、退色しにくくなります。しかし、塗工紙の塗料に用いられる接着剤に合成ラテックス(SBR …スチレン・ブタジエンラテックスなど)が多く用いられていますが、このSBR は2重結合を含むため化学的に活性で、紫外線や空気中の酸素の作用で黄変したり、固くなる傾向があります。

また、視感的な白さを増す目的で、蛍光染料や着色染料を添加することがあります。しかし、これらの染料は光に弱いので日が当たれば退色します。

ここで紙やワイシャツなどの増白のために、使用されている蛍光染料について少し説明しておきます。

 

蛍光染料

蛍光染料は蛍光増白剤ともいいますが、視感白さを上げるための最も有効な方法です。それ自身は無色ないし淡黄色ですが、光のなかの紫外線エネルギー(波長300~400nm、1nm(ナノメートル)=10-9m=10-3μm)を吸収し、励起して420~435nmの青紫色の光エネルギーを放射し、視感的に白く発色する染料です。これはパルプ本来の持つ黄色味や退色(黄ばみ)は、400~450nmの青色領域の光を吸収する物質によって起こりますが、このような紙に蛍光染料を添加することによって、青紫色の光を発光し、この黄味(黄ばみ)を消し視感的に白く見せるわけです。

蛍光染料は、視感的な白さを増す目的で塗工紙などの主として塗料中に添加して使用されますが、これによって紙本来の色である黄味っぽさを消し、白く見せるわけです。しかし、光に弱いので日が当たれば、折角の白さが薄くなっていき、色の黄色味となり退色していきます。

このように白っぽい紙が時間とともに白さ薄くなっていき、次第に黄色味を帯びるようになりますが、このことを「色戻り」とか、「紙が焼けた」や、紙焼け(単に「やけ」)と言います。

蛍光強度はキセノン光源を用いて反射率を測定することによってその強さを知ることができ、表示として一般的にZf値を用います。Zf値は蛍光染料に紫外線が当たったとき、どれだけ発光するか、すなわちどれだけ白く見えるかを示す数値であり、Zf値が1以下は蛍光染料なし、1~2はあまりなし、2~3では若干あり、3以上は相当に蛍光染料が入っていることを示します。しかし、このようにZf値を測定する機器を持たなくとも、蛍光強度は判定できます。紫外線灯(ブラックライト、蛍光検知器)を照射すると蛍光染料が混入していればその程度によって、独特の蛍光を発し白く光り、そうでない紙と容易に識別できます。また、この方法は蛍染有無とその程度のチェックのほかに紙銘柄の識別、品質欠陥調査や、それらの原因の究明・判定などに応用でき、重宝です。

さらに、印刷物や表面処理加工品も経時的に変色することがあります。この場合、インキ、加工処理薬品などの素材も含めて、変色が紙か他の要因かの原因を究明し対応する必要があります。

 

退色の程度を示す退色度

退色の程度を示す退色度は、試験片を露光または熱風加熱し、処理前後の白色度の差または色差で表示する方法ですが、装置には紫外線カーボンフェードメーターや、キセノンフェードメーターなどを用います。所定の温度で、一定時間処理し、直ちに白色度または色差(L、a、b) を測定(J.TAPPI・NO.21)して求めます。なお、場合によっては、蛍光強度Zf値も測定し、処理前の値との差で示すこともあります。

色差による退色度は、

色差ΔE=[(ΔL)2 +(Δa)2 +(Δb)2 ]1/2 =[(L0 -L1 )2 +(a0 -a1 )2 +(b0 -b1 )2 ]1/2

の式で計算します。ここに、L0、L1、a0、a1、b0、b1 は、処理前後の各々の色差値を示し、数値が大きいほど退色度が大きくなります。

なお、パルプの色戻り(退色性)の表示法の一つにPC価(Post Colour Number)が適用されています。これは通常105℃で、一定時間、乾燥器中で処理することによる熱老化試験ですが、紙にも応用できます。

PC価を求める本式は繁雑であり省略しますが、実際的には白色度で代用し、次式で求めることができます。

PC価=[(1- R1 )2 /2R1 -(1- R0 )2 /2R0 ]×100

ここで R1 、R0 は各々加熱後、加熱前の白色度です。

このようにそのものの退色性を調べるのに、光・熱などを強制的に使った加速条件で試験をする方法が行われます。本来ならば実際に、その年月を経た自然劣化によるのが本筋ですが、結果が出るまでに相当な日時がかかり過ぎます。そこでこのような加速試験が行われるのです。

なお、後述の強度劣化を調べる試験法として、加速劣化試験(J.TAPPI・NO.50)があります。これは105±2℃の条件下で72時間置いたときの強度(耐折度)劣化は、常温での自然劣化の約25年に相当するといわれています。

 

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更新日時:(吉田印刷所)

公開日時:(吉田印刷所)