コラム(26-1) 新札の偽造防止技術

今回は、お札にからんだお話です。

新札の偽造防止技術

今月(11月)1日から20年ぶりに新しいお札が発行(流通開始)されます。新券(新紙幣)の額面は、現在の紙幣のうち、2千円札を除いた1万円札と5千円札、千円札の3種類です。そして新札に描かれている肖像画は、1万円札はそれまでと同じ福沢諭吉ですが、5千円札は新渡戸稲造から樋口一葉に、千円札は夏目漱石から野口英世に代わりました。また、お札のデザインも変わっています。

財務省と日本銀行によれば、今回お札を刷新しのは、この5年間で10倍近くも偽札が急増し、今年についても年間3万枚を超える可能性があるなど、由々しき事態となっていることが景にあるとのことです。

偽造技術は近年、大きく進歩しており、最新の偽造防止技術を採用した2千円札以外の紙幣については、精巧な偽札が出回っているとのことです。その内容をみると、これまでは「人間の目」をだますことを意図した「1万円券」の偽造が多かったが、最近では自動販売機などの「機械の目」をだまして釣り銭を搾取しようとする「千円券」の偽造が増加している点が特徴であるということです。

このようにわが国で紙幣の偽造が増えた景として、まず現行の1万円券、5千円券、千円券が発行から20年たっており、偽造しやすくなっていることや、パソコン、スキャナー、カラープリンターなどのパソコン関連機器とかカラーコピー機などがここ数年の間に、高性能化、低価格化が進展し、誰でもこうした機器を使用して、容易に紙幣の偽造に手を染め得る環境が整ったことなどがあります。

偽札が増える、こうした状況下の中で偽造防止を進めることが、今回の新札発行の大きな目的であると言うことです。その変更点は、紙幣の角度を変えると画像の模様や色が変化する「ホログラム」や、光にかざすと印刷された模様の後に縦棒が透けて見える「すき入れバーパターン」などを新たに追加して、パソコンやカラーコピー機等で再現しにくい最新の偽造防止技術、8項目が採用されています。

なお、これらの新紙幣に盛り込まれた最新のの偽造防止技術は、日本銀行のホームページで公表されていますが、下記に概要を掲げておきます。詳しくは写真付きの当該ホームページ新しい日本銀行券(千円券)の印刷開始と偽造防止技術についてをご覧ください。

 

<新しく発行された紙幣の偽造防止技術>

ここでは新千円券を例にします。なお、下記のうち(3)~(8)については、現行2千円券において既に採用されている技法です。

 

(1)潜像パール模様

千円券独自の偽造防止技術で、角度を変えると、パール印刷による「千円」の文字と、潜像模様による「1000」の数字がそれぞれ浮かび上がります。なお、五千円券と一万円券では角度を変えると、画像の色や模様が変化して見えます…ホログラム。

(2)すき入れバーパターン

光に透かすと、すき入れられた1本の縦棒が見えます(五千円券では2本、一万円券では3本の縦棒)。従来のすかしよりも、パソコンやカラーコピー機等で再現しにくいものです。

(3)潜像模様

お札を傾けると、裏面右上に「NIPPON」の文字が浮び上がります(なお、五千円券ではお札を傾けると、表面中央下に「5000」の文字が、裏面右中央に「NIPPON」の文字が、また一万円券では、表面左下に「10000」の文字が、裏面右上に「NIPPON」の文字が浮び上がります)。

(4)パールインキ

お札を傾けると、左右の余白部にピンク色を帯びたパール光沢のある半透明な模様が浮び上がります。

(5)マイクロ文字

平成5年12月1日以降に発行されたお札(記番号が褐色または暗緑色)と同様に「NIPPON GINKO」と書かれた小さな文字が印刷されています。従来の文字よりも小さい文字を取り入れているほか、新たに紋(細かい曲線などで描かれたお札の模様)にも大小取り混ぜた文字がデザインされています。

(6)特殊発光インキ

平成5年12月1日以降に発行されたお札(記番号が褐色または暗緑色)と同様に、表の印章(日本銀行総裁印)に紫外線をあてるとオレンジ色に光るほか、紋の一部が黄緑色に発光します。

(7)深凹版印刷

新券の図柄は、従来のお札よりもインキが表面に盛り上がるように印刷されています。

(8)識別マーク(深凹版印刷)

目の不自由な方が指で触って識別できるように、従来の「すかし」に代えて一層ざらつきのある「深凹版印刷」によるマークを導入しています。

なお、旧紙幣の左下にある識別マークは、1984(昭和59)年に目の不自由な人のために、紙を抄造する際に「すかし」を入れる「すき入れ」によって初めて導入されました。透かして見れば、直径4mmくらいのドーナツ状円形のマークが識別できますし、また、手の指でその付近を触ると凹凸が感じられます。これが2000年7月に発行された2千円札では、いっそう判別しやすいように、深凹版印刷による識別マークが入れられようになりました(紙幣の識別マーク…下表参照)。今回の新札発行で、すべて深凹版印刷による方法になったわけです。

 

旧紙幣と2千円札の識別マーク(参考)
種類 マークの形(ドーナツ状円形)マークの意味
千円札 点字の「あ」
五千円札
点字の「い」
一万円札 ◎ ◎ 点字の「う」
二千円札

点字の「に」

 

このように紙幣には、多くの偽造防止対策が採用されておりますが、万が一、世の中の進歩に反し、油断をすれば偽札が横行するようになるでしょう。そのために真似のできないように「更新」して、最新で、しかも最高の技術で偽造防止対策が織り込まれているわけです。

 

ところで新紙幣発行をめぐっては、インターネットなどを通じて「今の紙幣は新紙幣発行とともに使えなくなる」という誤った情報が広がっているようですが、「新券(新紙幣)の発行後も、現在の銀行券は引き続き使えるのでご安心くださいとのことです。

 

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更新日時:(吉田印刷所)

公開日時:(吉田印刷所)