コラム(27-1) 静電気と紙 1

これからの冬季は、静電気が発生しやすくなります。今回は、静電気についておさらいをします。また紙と静電気との関わりについても説明しますが、静電気のことを正確に知り、発生する(であろう)静電気とそのトラブルと上手に付き合い、対応していくことが必要と考えます。

 

静電気とは

特に冬場の乾燥期には、静電気が発生し障害を起こしやすくなりにます。服を脱ぐときなど、衣服が体にまつわりついたり、パチパチと不快な音を経験をした人や、ドアの金属製ノブに触れたときにビリッと電気的なショックを受けた人は多いのではないてしょうか。これが静電気です。

これは服とその下の衣服との間で蓄積された静電気が放電し、ほこりが付着したり、衣服が体にまつわりついたり、不快な音をたてたりするわけです。また、カーペットなどの上を靴やスリッパで歩いているときに人体に溜まった静電気が、ドアのノブに触れたとたん一気に移動して放電し、ビリッと人にショックを与え、感電したりするなどの障害を起こしたものです。しかも、もし、可燃性や爆発性のガスが漏れたり、充満していたら、静電気の放電は危険で大災害に結びつきかねません。

さらに、プラスチック製の下敷き(塩化ビニル、セルロイド)か、モノサシを脇の下で衣類と擦った後、頭上に近づけたり、頭にあてたときに髪の毛が勢いよく毛羽立ったりします。また、机の上に置いた紙の小片に近づけると、紙が踊るように舞い上がり、下敷きやモノサシにくっつくのも静電気のせいですね。

このように物の周りにはいつでも、静電気が付きまとっているのです。そして冬場の乾燥しているときや暖房のきいたところでは、特に目立つようになるのです。

 

静電気は、なぜ発生するのでしょうか

それでは静電気は、どうして発生するのでしょうか。

もともと、人間を含めて球上のすべての物体、物質には正(プラス、+)と負(マイナス、-)の電気が存在しており、通常の状態では、そのプラス、マイナスの数(電気量)は同じでバランスがとれ中和状態を保ち、安定しています。

これをもう少し説明しますと、物質は水素,酸素、炭素などの基本的な構成要素である原子から成っています。その原子は、原子核と電子とから構成されており、さらに原子核は陽子と中性子とから形成されています。

そして原子はほぼ球形で、中心に原子核があり、そのまわりを取り囲むように何個かの電子が存在しています。これを電気的に言えば、原子核にある中性子は電荷を持ちませんが、陽子は陽電気でプラスを帯びており、電子はマイナスを帯びております。それらは上記のように通常は、正負等量の電荷で、電気的に中和で安定状態にあります。

しかし、その外殻にある電子は不安定で移動しやすい状態にあり、例えば異なる2つの物質がお互いに擦られるなどの力が外部から加わると、バランスが崩れ、安定力の弱い電子が外に出て、電子の数にアンバランスが生じます。その結果、電子を出した方がプラスに片寄った状態に帯電し、電子を貰ったもう一方にはマイナスの電気が片寄った状態になります。これが静電気の発生です。

このように2つの物体の間で電子の移動が起こり、電荷が発生する現象を「帯電」といいますが、この状態を「帯電状態」といい、「マイナス帯電」か「プラス帯電」かどちらかになります。普通のプラスチックや合成繊維などの絶縁体(電気を通さない物質)では、こうして発生した電気(電荷)は流れず、蓄積されます。これを「静電気」と呼んでいます。このようにして、すべての物質は静電気が発生しますが、その物質が絶縁物(不導体)だと起きた静電気が流れ出さずにそこに貯まるのです。

この貯まった帯電状態、すなわち静電気状態にある物体が、衣服を脱ぐときなどのように、電気的に反対の帯電物か、何かに触れたときや、またはアースされた物体等の導体と接触したときに「静電気」が流れ出し、「放電」します。このときに「パチパチ」とか気味の悪い音を出したりするわけです。

静電気が発生する原因はどんなものがあるのてしょうか。それは、①絶縁物どうし、または絶縁物と導体の物質同士をすり合わせたとき(摩擦帯電)、②これらの2つの物質が接触したとき(接触帯電)、③接触したものを剥がしたとき(剥離帯電)、④物質と物質がぶつかったとき(衝突帯電)、⑤絶縁性液体や高抵抗粉体のパイプ中の流動(流動帯電)、⑥固体の破砕(破砕帯電)、⑦液体の凍結(凍結帯電)、⑧液体や粉体の噴出(噴出帯電)など種々のケースがあります。

このように物体の摩擦・接触・剥離などが原因で電気が帯電(静電気状態)し、それが放電したりするわけですが、逆に言えば、静電気は動かない物体には起きません。物が動くことによる物体同士の摩擦、時には空気との摩擦などで電子の電気的極性が一方に片寄り、帯電することがあります。そして、これらの電荷は発生した位置に静止しています。

この帯電体の表面に静止して動かない状態にある電気のことを静電気といいます。これに対して、家庭などにあるテレビや蛍光灯等で使っている電気は、銅線など電導体の中を絶え間なく動いて流れている電流を生じますが、これを動電気(単に電気)といい、静電気と区別します。ふつうの電気は、いわば流れている「川」のようなもので、これに対して静電気は、一時的な「水たまり」のようなもので、使う(放電する)とすぐになくなります。

 

なぜ、静電気は冬に発生しやすいのでしょうか

静電気は一年を通して発生しますが、夏季は空気中の湿度が高いことや、体から出る汗などで自然に除電されて静電気があまり溜まらないとか、消滅して静電気は発生しにくくなります。これは水(水分、湿気)はよく電気を通しますので、発生した静電気は水を伝わって逃げていくので、湿気の多い雰囲気では静電気が溜まりにくくなるためです。

これに対して、冬季は湿度が低く空気が乾燥しているため、空気中の水蒸気が少なく、物の表面が乾いており、電気が流れにくくなります。すなわち、夏季のように自然に除電されずに、静電気が発生しやすくなるとともに、発生した静電気は逃げ場がなく、帯電したまま、溜まりやすく、例えば、衣類の中に溜まってしまいます。この溜まった静電気が放電して衣類が体にまつわりついたり、パチパチと音がして不快で不安にさせるのです。

それから冬のカサカサ肌とか、肌荒れは空気中の湿度低下、乾燥による皮膚の水分不足が原因ですね。ちなみに日本の湿度は、もちろん域により違いがありますが、年平均で50~65%RH(相対湿度)くらい、梅雨どきで60~85%RH、冬場で20~50%RHとなります。

このように、空気が乾燥しやすい冬に静電気によるトラブルは多く発生するのです。

 

帯電列表について

物質には、擦ったときなどに、電子を放ちやすく+が溜まりやすいものと、電子を受け取りやすく-が溜まりやすいものがあって、その程度には差があります。言い換えれば、電子が飛び出しやすい物体は、プラス帯電しやすい物質で、また電子を取り込みやすい物体は、マイナス帯電しやすい物質です。その程度を順に並べた序列が帯電列ですが、その主な物質について表に示します。表は接触摩擦が行なわれたとき正(+)に帯電しやすいものを左に、負(-)に帯電しやすいものを右に並べてあります。ただし、物質の成分配合や造り方などの条件によって、この通りにならない場合もあります。

主な物質の帯電列表

+

↑プラスに帯電しやすい

ガラス
髪の毛
ナイロン
ウール
レーヨン
木綿

ビスコース
人の皮膚
アセテート
ポリエステル
アクリル

 

マイナスに帯電しやすい↓ 

-


エボナイト

ゴム
ビニロン
ポリスチレン
サラン
ポリエチレン
セルロイド
セロファン
塩化ビニル
テフロン

 

2物質を擦り合わせたとき、この表で(+側)に近い方が+、(-側)に近い方が-の静電気が帯電します。すなわち、左側にある物質が+極になり、2物質の位置関係が離れているほど電位差(帯電量)が大きく、強い静電気が起きます。また、この+-は、擦り合わせる2物質の関係などに左右されますので、絶対的な定義はなく、ある物質がいつでも+極とか、-極に帯電するとはかぎりません。

例えば、紙とガラスをくっつけると、ガラスは表の左側にあるので+極に、紙は右側なので、-極に帯電します。また、紙とテフロンをくっつけると、今度は紙が左側になるので+極に、テフロンが-極に帯電します。このように、静電気の極性は、擦るものの組合わせによって決まるわけです。

また冒頭の例では、下敷き(塩化ビニル、セルロイド)は-に、髪の毛と紙は+の静電気が帯電しますね。そして下敷きと離れている髪の毛のほうが、紙よりも帯電量が大きいので、引き合い、くっつく勢いが大きいわけです。

なお、通電性の良い金属や、(生木とか水分を含む)木材なども静電気を発生しますが、帯電量は小さくプラスでもマイナスにもなります。それから最近、健康ブームでマイナスイオンが話題になっていますが、これは人がプラスに帯電しやすいために、マイナスイオンによって電気的に中性化される効果を狙ったものです。

 

帯電防止と有効利用について

静電気が発生するといろいろな現象が発生します。静電気の電圧との関係を下表にまとめました。この表はあくまでも目安であり、人によって感じ方が違う場合があります。静電気による痛みは3kV(千ボルト)から感じますが、その電流の流れる時間は1億分の1秒程度だそうです。あっという間ですが、電気的なショックと痛みを感じます。

静電気の電圧と諸現象

(産業安全研究所:静電気安全指針などから)

1kV

身体に感じない

まといつき感…1kV以上

2kV 放電を感じるが、痛みはない

ほこり、チリ、紙粉などが付着しやすくなる…2kV以上

3kV 針で刺されたようにチクリと痛む
5kV 手のひらから前腕まで痛む

パチパチ感…5kV以上

10kV 引火性雰囲気の場合は爆発の危険性あり
12kV 手全体を強打された感じ

 

静電気と人間生活とのかかわりには、静電気がもたらすさまざまな障害や災害をいかに防止するかということと、静電現象を有効に利用する静電気応用という二つの側面があります。

静電気を防ぐ帯電防止法としては、発生する静電気が蓄積しないで速やかに漏洩するように、親水性、導電性の帯電防止剤を、合成繊維(紡糸時)や樹脂(加工前)に添加(練込み)したり、製品表面に塗布あるいはスプレーによって付着させる方法がとられています。繊維の場合には、この他、金属めっきをした繊維やその他の導電性繊維を混ぜることによっても帯電防止効果が得られます(世界大百科事典から引用)。

ここで日常的に実施ておきたい静電気を防ぐ方法を掲げておきます。

 

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更新日時:(吉田印刷所)

公開日時:(吉田印刷所)