コラム(27-2) 静電気と紙 2

  1. 靴底がプラスチックだと静電気が溜まりやすいので、静電気を逃がしやすい素材(本革、木、ウレタンなど)が使われている靴を履く。
  2. 椅子から立ち上がるときは、テーブルや自分が座っている椅子に手を掛けた状態で立つ。
  3. 車から降りるときは、車体の金属部分を持ったまま降りると、発生した静電気は通電性の良い炭素が含まれてるタイヤを通して面に逃げていくのでバチッときません。
  4. さらに、玄関などのドアの金属ノブを握るときは、その前に革や木製の小物(キーホルダーなど)などで触れ、静電気をゆるやかに逃がしてからすると効果的です。また、金属ノブに触るときに指先でなく、手のひら全体を使うと刺激が軽くなります。
  5. 洋服の場合、裏がポリエステルの上着とウールのセーターの組み合わせだと、生じる静電気はかなり高電圧になりますが、同じ上着でも、セーターがアクリルならば、それほど大きな静電気は起きません。このように洋服の組み合わせに気をつければ、静電気の発生が軽減できます。なお、化学繊維は電気を通さなのが多くて静電気が溜まりやすいので、比較的電気を通し、静電気が溜まりにくい木綿やレーヨンなどを衣服、下着として用います。

さらに静電気の発生を抑えるために、やかんでお湯を沸かしたり、加湿器などで部屋の湿度を上げたりするのも効果的です。

それから、ガソリンスタンドなどでよく散水しているのを見かけますが、これも空気中に湿気を持たせ、静電気を穏やかに放電させているためです。また、タンクローリーが金属の鎖を面に垂らして走っているのを見ることがありますが、これも静電気が溜まらないようにしているのです。

一方、静電気現象の有効利用については、例えば電子複写機があります。電子複写機は、まず、原稿台に載せた原稿に光をあてます。原稿からの反射光を感光体上に結像させます。原稿の、インクが乗っている部分は光を吸収してしまいますから反射しませんが、インクの乗っていない部分、すなわち、白い部分では光が反射しますので、結果として白い部分からの反射光は感光体表面の静電気を消去し、黒い部分に相当する感光体上の静電気は残留します。この感光体上に形成された静電気の像、いわゆる静電潜像をトナー(黒い粉)と言う黒いプラスチックの粉で現像すると、感光体上にトナーで現像された元の画像の鏡反転画像ができます。これを紙(普通紙コピー用紙=PPC(plain paper copy の略)用紙)の上に写し取り、紙の上のトナーを熱で溶かして定着させれば出来上がりです。

また、ファックス(ファクシミリ、複写電送装置)の記録方式も静電気を応用しており、その印字方式は静電記録方式といって、帯電した物体の間に働く物理的な力を利用して画像を記録する方法で、基紙上に誘電材料(絶縁樹脂)を塗布した記録紙(静電記録紙)に、高圧を加えた針電極による静電気の潜像(静電潜像)を作り、ここにトナーをつけ現像し定着・記録するものです。レーザープリンターも静電気を応用していますね。

 

紙と静電気について

それでは紙と静電気との関わりについて述べます。

 

物質は、熱または電気の伝わり程度により、導体と半導体、絶縁体に分けられます。導体(良導体)は、熱または電気の伝導率が比較的大きな物質の総称のことで、金属の類をいいます。絶縁体(不導体、不良導体)は、岩石・ガラス・木材のような、熱または電気の伝導率の極めて小さな物体を指し、半導体は、導体と絶縁体との中間の電気伝導率をもつ物質で、低温ではほとんど電流を流しませんが、高温になるに従い電気伝導率が増加します。珪素・ゲルマニウム・セレンや重金属の酸化物の類で、ダイオード・トランジスター・集積回路・光電池などに応用されています。

 

これを電気の流れやすさを表す電気伝導度で示すと、金属のような導体は電気伝導度104~106Ω-1cm-1と、ガラスや磁器などのような絶縁体は10-20~10-12Ω-1cm-1程度に対し、それらの間にある半導体の電気伝導度は、10-10~102Ω-1cm-1程度にあります。また逆に、電気の流れにくさを表す電気抵抗では、導体は表面電気抵抗100Ω以下、半導体10-1.5~108Ω程度、絶縁体108Ω以上となります(世界大百科事典などから)。

 

吸湿性に乏しい合成繊維やプラスチックは電気絶縁性が高く、摩擦などで静電気を発生しやすく、一度帯電するとその静電気はなかなか逃げませんが、紙も絶縁体に属し、一般的に表面電気抵抗は1010~1012Ω程度(湿度50~60%)です。そのため、乾燥するほど、紙はパリパリした状態となり、風合いやしなやかさを失うとともに、帯電し静電気が発生しやすくなります。

 

静電気障害を防ぐには、帯電防止を図ることが大事ですが、その方法には①静電気の発生を防ぐ方法と、②発生した電荷を漏洩させる方法(導電化による帯電防止)の2つがあります。この中で前者の静電気の発生そのものを防止するよりも、後者の方法が一般的に行われています。

そして導電化によって物体(紙やプラスチックなど)の帯電防止を図る方法には、表面的導電化と体積的導電化があります。表面的導電化とは、物体の表面に導電性を付与して表面電気抵抗を低下させるというもので、具体的には帯電防止剤を用いて表面加工処理を行い導電性を高める方法です。また、体積的導電化とは、内部を含めた物全体に金属粉末やカーボンブラックなどの導電剤を添加し、導電性を付与して体積電気抵抗を低下させるというものです。そして、帯電防止をするには表面電気抵抗を1010Ω以下、出来れば106Ω以下にします。

 

低湿度環境下で帯電し静電気が発生しやすい一般紙に対して、積極的に帯電防止を図るとともに、通電性をよくした紙があります。「導電紙」です。これは原紙にカーボンブラックなどの導電剤を内添し帯電を抑え、静電気をカットした特殊紙(機能紙)ですが、その表面電気抵抗値は104~106Ω位にあります。ちなみに合成紙は、一般紙より高めの1012~1013Ω、ポリプロピレンフィルムは1015Ω以上です。

 

紙と静電気トラブル

紙は乾燥期の冬になると、紙ぐせ現象(おちょこ、タイトエッジ)と静電気によるトラブルが発生しやすくなります。

紙は静電気トラブルが皆無だろうとか、無関係だろうと思われがちですが、上記のように条件によっては静電気によるトラブルが発生します。そのため用途によっていろいろと対策が採られています。

かつては特に乾燥期の冬場において、上質紙などの非塗工紙で印刷・加工時に重送(くっつきによる紙の2枚送り)などの静電気トラブルがありましたが、今日では紙造り技術の大幅向上によって、抄紙機幅方向の紙水分のバラツキが減少でき、水分アップと均一化などができるようになったことや、印刷室・加工所などの空調(温度・湿度)管理の実施と普及、静電気除去装置の設置、オフ輪印刷時の乾燥温度ダウンなどによって静電気トラブルは大幅に軽減されてきました。

しかし、それでも、ときには特に冬の乾燥期に発生することがあります。用紙の静電気は、紙の水分が低い時や印刷室内の湿度が低いときに発生しやすくなります。すなわち、紙は乾燥するほどその電気抵抗は増加(導電性が低下)します。その結果、摩擦などによって発生した電気は流れずにそのまま帯電し、重送や排紙時のトラブルを起こしやすくなります。

 

また、いまや紙の中の主流になっている塗工紙は、非塗工紙よりも静電気トラブルは起こりにくいのですが、これは塗工層は、導電性に富む塗料が塗布されており、原紙層よりも電気抵抗が低く導電性が高いためです。しかし、その塗工紙でも、用紙が一般的に100℃以上の熱風乾燥を受けるオフ輪印刷(オフセット輪転機による巻取印刷)では、紙の水分ダウンにより、表面電気抵抗1013Ω以上(普通、紙の表面電気抵抗は、湿度50~60%で1010~1012Ω程度)となり、より静電気トラブルを起こしやすくなります。

 

もし、トラブルが発生し、立ち会ったときには、持参した温・湿度計(紙間湿度計)、静電気測定器(デジタル静電電位測定器)でトラブル当該紙山(印刷物・加工品)ばかりでなく、未使用品(白紙)や良品の紙山の紙間湿度・温度と紙表面、端面などの静電気を測定します。また紙をめくってみて、くっつき状態などを観察します。

さらに印刷・加工室内、ギロチン室および外気の温・湿度や静電気を測定して状況を把握します。そして紙間湿度の数値が50~65%RHくらいにあれば、紙は正常範囲で問題ないと考えられますので、静電気の発生が何に起因するのか、外気の影響などさらに調べる必要があります。

静電気の起きやすい外気環境は、特に湿度20%以下、気温25℃以下とされていますが、気温よりも湿度のほうの影響が大きく、空気中の湿度が低いほど静電気が起きやすくなります。そしてトラブルは、およそ湿度45%以下で起こりやすくなり、静電気の程度はほぼ直線的に強くなります。また、紙ぐせも悪化します。したがって、特に冬場の湿度低下については注意が必要です。

このように機器での測定と観察によって、トラブルに対する大きな知見を得られ、問題解決の早い糸口に結びつけることができます。

また、一般紙においても、静電気トラブルの発生しやすい特定の印刷会社などのコンバーターに対しては、場合によっては、対応策として、納入する紙に食塩などの導電性物質を添加・塗布し、電気抵抗を下げることもあります。

その他、静電気のために諸対策がとられています。ここに印刷用紙の静電気トラブルの主な原因と対策を再録(内容追記)しておきます。本ホームページFAQ(12) 紙と静電気トラブル参照。

紙と静電気トラブルの主な原因と対策

[注]区分:印刷欄中の①③④はオフ輪印刷に適用

区分原因対策
用紙 ①低水分…特に非塗工紙 ①水分アップ…紙ぐせ(波打ち、ウェィビーエッジ)、および特に塗工紙の場合、オフ輪印刷時のブリスターに注意
②低導電性(絶縁体) ②導電性アップ(導電性処理)…食塩等の添加、塗布
印刷 ①高乾燥・温度…過乾燥 ①乾燥性(インキの付着、汚れ)とのバランスを見ながら乾燥温度ダウン
印刷室の空調不足…低湿度(加湿不足) ②・印刷室、ギロチン室の空調整備(湿度55~65%RHの範囲で一定管理)

・加湿器の使用。床に散水、やかん等による湯沸かし、スプレー等での噴霧なども効果あり。

・外気との遮断(特に乾燥期の冬場)

③紙への加湿不足 ③水スプレー(噴霧)による強制加湿
印刷機クーリング部での冷却不足 ④出来る限り冷却温度をダウン
⑤静電気除去装置なし、ないしは作動不十分

⑤静電気除去装置設置ないし点検、整備

除電装置設置(イオナイザーなど)…イオン中和法などの採用

 (2004年12月1日まとめ)

 

参考・引用資料

  • 広辞苑(第五版)…CD-ROM版(株式会社岩波書店発行)
  • 世界大百科事典(第2版 CD-ROM版)…日立デジタル平凡社発行
  • 朝日新聞 ののちゃんのふしぎ玉手箱「静電気はなぜ発生するの」
  • ホームページ 静電気とは(渡辺電機工業株式会社)
  • ホームページ 静電気オンライン -「静電気を科学する」静電気対策情報(株式会社キーエンス)

 


更新日時:(吉田印刷所)

公開日時:(吉田印刷所)