コラム(59-1) 紙と安全性

最近、後述のようにシュレッダーなどの生活用製品で死亡、重傷、火災などの重大事故が絶えません。また、いつころか新聞の記事以外にも、告示・広告欄に商品の不具合(欠陥)発生で「お詫びと回収のお知らせ」や、車・バイクのなどのリコール(回収・無償修理)による「お詫びとお知らせ」などが、社名入りでほぼ毎日のように載っています。

このように身近なところで、死亡や怪我などの健康被害を被るような事故が相次ぎ、発生して大きな問題になっていますが、それでは紙および紙製品についてはどうでしょうか。今回は紙と紙製品の安全性について考えます。

 

多発する生活用品などでの重大事故

今、いろいろな面で安全、安心が叫ばれ、求められています。この景には日常生活のいろんなところで、便利に使っている生活用品や車などが一転して凶器になる事故・事件やトラブルが発生し、不安を与えていることがあります。

その中でも最近、特に生活用製品での事故が多発しています。昨年(2005年)の松下電器産業製の石油温風機の一酸化炭素(CO)中毒死亡事故。対応が遅くなったことは悔やまれますが、松下電器は年末商戦の中、テレビの全広告を温風機の危険告知に切り替えたり、国内全家庭に通知書を出して問題機種を回収、買い戻すという異例の対応を打ち出したことは記憶に新しいところです。しかし、その後も他メーカー品で事故が続きます。例えば、

  • シュレッダーでの幼児の指切断事故
  • ガス瞬間湯沸かし器によるCO中毒による死亡事故
  • パソコン搭載リチウムイオン電池による出火トラブル
  • インターネットモデムのコード接続部分から火花トラブル
  • レンジ加熱式湯たんぽでの「やけど」事故
  • 通信機器向け電源アダプターの回収、無償交換(感電・やけどの恐れがあるため)
  • 電動車イスおよび電動スクーター搭載バッテリー回収・交換(最悪の場合火災の恐れあり)
  • 自転車用空気入れ破損と指切断事故(国民生活センター…2006年10月6日:公表)

など身近な製品による事故が相次いでおります。

ほかにも今年、東京都港区の公共住宅で男子高校生がエレベーターに挟まれて、また埼玉県ふじみ野市の市営プールでは小学生が排水口に吸い込まれて、いずれも死亡するという悲痛な大事故が発生しました。しかも、それを契機に調査した全国にある多くのエレベーターやプールでも同様に設備・施設などの不備と安全管理に問題があることが判明しました。

さらに、クローズアップしたのは去年のことですが、いまだ尾を引いているマンション耐震強度偽装事件(2005年11月発覚)や、アスベスト(石綿)による健康被害(2005年6月初報道)は、その後拡大した同事件・被害に多くの国民に不信と不安を及ぼしています。このように身近なところで、重大な安全問題が発生しており不安を与えています。

 

ところで製品や設備・施設などは、それぞれその役割を果すべく機能を持っていますが、品質が良く、かつ安全に、かつ人などによる誤使用がなく、その機能を満足に果たせば事故やトラブルが発生しないはずです。しかも満足な品質・安全は一過性でなく継続的に維持されれば、なお安心されて使用されるようになります。

そのため「安全・安心」を確保するように対策、対応が採られています。ここで安全とは、安らかで危険のないこと、物事が損傷したり、危害を受けたりするおそれのないことです。また、安心とは心配・不安がなくて、心が安らぐこと。また、安らかなこと(いずれも広辞苑から)を言います。が、しかし、先の例のように日用製品などで事故やトラブルが発生しており、「安全・安心」からかけ離れた不安な状態が続いています。

 

大きな事故・クレームに潜むヒヤリ・ハット

なお、安全管理で用いられる用語のひとつに、「ハインリッヒの法則」があります。これはアメリカの安全技師ハインリッヒが1930年代に発表した「1:29:300」という法則で、「1の重大災害の下には、29の軽傷事故があり、その下には300の無傷事故(間一髪難をまぬがれたもの)がある」といわれるものです。すなわち、「ひとつの重大事故(死亡・重傷・休業災害)が発生する景には、29件の小さな(微傷)事故があり、さらに怪我にならないような300件の事故(災害のチャンス、ヒヤリ・ハット)が隠れている」という意味で、労働災害の事例に基づいて分析した結果の統計確率から導き出されたものです。

この「ハインリッヒの法則」は逆に言えば、300件の小さな事故を防止することが、1件の重大災害を防止することを意味しています。

これに関連して「ヒヤリ・ハット」という安全用語があります。1件の死亡・重傷事故には300以上の事故の芽があるというこから、大きな事故が起きる裏には、ヒヤリとかハッとするような災害のチャンスに結びつくような小さなできごとがいっぱい起きており、大きな事故に至らないものをいいます。

日常、ヒヤリ・ハットの状態までいかなくても、いつもやっていることだから、今までも平気だったので、という不安全行為が、いつヒヤリ・ハットを飛び越えて一気に重大災害になるかも知れません。いつやって来るか分からない災害を未然に防ぐには、不安全な状態や行為を認識し、ヒヤリ・ハットの段階で真剣にしかも道に対策を考え、実行し、よい習慣とし身につけておくことが重要です。そのために、「ヒヤリ・ハット」は大きな事故を未然に防ぐという目的で、警告として、安全活動の中で多く採り上げられている言葉です。

例えば、昨年4月に兵庫県尼崎市で起きたJR宝塚線(福知山線)の脱線事故がありました。107人の死者と555人の重軽傷者を出し、鉄道事故としては戦後、4番目の甚大な被害となりましたが、原因は死亡したJR西日本の23歳の運転士のスピードの出しすぎ(70キロ制限のカーブに115キロ前後のスピードで進入)とされていますが、その後にある要因は明確に特定されていないようです。

その後、JR西日本は事故に至らないような小さなミスやヒヤリ・ハット情報を従業員の自己申告による報告で収集し、それを分析して、大事故の防止に役立てることを狙って、同年9月から「事故の芽」報告制度を導入しました。この報告制度は02年末から収集を始めたということですが、運転士が減給、ボーナスカットやマイナス評価に使われる例もあり、ほとんど報告はなかったようです。

そのため、今回の脱線事故を受けて、このようなペナルティーを科さない方針に転換しての新スタートとなったわけですが、その結果、今年9月までの1年間の報告件数が4,644件の多くに上ったとのことです。

これに対して、国土交通省は10月20日、事故を踏まえた取り組みは相当程度評価できるが、「事故の芽」情報の分析や活用が十分に行われておらず、内部監査の実施体制の確立も遅れているなどと問題点を指摘。また、社内での安全意識の浸透状況を把握するため、社員に対する意識調査などに継続的に取り組むよう同社に求めたとのことです。

せっかく設けた「ヒヤリ・ハット情報」制度ですが、まだまだ、効果的に運用するための課題があるようです。

また、上述の今年6月に発生した東京都港区のマンションで起きたエレベーター圧死事故では、事故機とその隣のエレベーターが、3年間に40件以上のトラブルを起こしていたことが分かったそうです。その多さには驚かされますが、きちんとトラブルや故障に対応していたら、この悲惨な重大事故は防げていたのではないでしょうか。しかし、その前兆が生かされていませんでした。これは「ヒヤリ・ハット情報」として活かされていなくて、大事故に至った例です。

それから、ちょうど今年9月10日付の日本経済新聞の記事(クイックサーベイ)に、日常身近な製品での「ヒヤリ・ハット体験」が載っていました。それによれば、自分の身の回り製品でケガなどをした人は14.0%、被害はないが危ない思い(ヒヤリ・ハット体験)をした人は27.2%と、全体の41.2%にも達しており、多くの人が身の回りの製品で怪我や危険を体験しています。そして問題を起こしたメーカーに対しては、「何年間か様子を見る。改善していれば購入するが、それまでは買わない」…34.0%、「以後一切買わない」…21.2%と考えており、合わせて少なくとも半分以上の人は当面、買わなくなるわけで、企業にとって品質問題は重要だ、としています。

 

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更新日時:(吉田印刷所)

公開日時:(吉田印刷所)