深刻な新聞、対ネット
1980年代の紙の危機不安は解消されたものの、その後に今回のように長い間、紙・板紙の需要が横ばい状態にあるのはかってないことです。それに国内での生産も低迷し勢いがありません。
しかし日本の経済は、個人消費がまだ落ち込んでおり、今一歩だと言われながらも緩やかですが回復基調を保っており、02年2月からの景気拡大が続き昨年10月にはこれまでの戦後最長の「いざなぎ景気」(65年11月~70年7月、景気拡大期間57ヵ月)と並ぶ長さとなり、さらにそれを超え、この1月でちょうど5年に達し現在、なお更新中です。
このようにわが国の経済全般は回復傾向にあるなかで、製紙産業の業績は省資源やエネルギー転換などによるコストダウンを継続しているとのことですが、重油・チップ・古紙などの原燃料のコストアップや、加えて原料高につながる為替相場で想定以上の円安が続いていることなどにより、先行き予断を許さない厳しい状況にあるようです。
このような状況下で、昨年(2006年)のわが国の紙・板紙の生産、出荷はとも3年連続前年を上回り、2000年の過去最高に次ぐ水準になると見込まれています。国民一人あたりの紙・板紙の年間消費量についても今までのように頭打ちなのか、それとも上向きになるのか、まもなく実績値がまとまり発表があります。その数値やこれからの生産・消費動向を見なければなりませんが、今後の紙・板紙の需要・生産の伸び程度にやはり不安が残ります。
しかも米国では新聞用紙がネット普及などを背景に不振で、紙・板紙に占める新聞用紙の比率が1994年の13.5%から2004年は10.6%に低下(日本製紙連合会資料)。その米国で最近、新聞の発行部数と広告収入が減少して新聞運営が苦境に立たされているとの報道に接しました。新聞対ネット、深刻な状態のようです。それを次に紹介しますが、ますます不安が募ります。
2006年5月11日付けのフジサンケイ ビジネスアイ(FujiSankei Business i.)に「米国 新聞電子版の閲覧者急増 地方紙の広告収入奪う」という見出しで記事が載っていましたが、その概略は次のとおりです。
米国ではインターネット利用者の3人に1人が、新聞の電子版閲覧者で急増しており、このあおりを受け、新聞の発行部数が減少、しかも新聞の広告収入も電子版に奪われ、苦戦を続けているとのことです。
すなわち大手調査会社、ニールセン・ネットレーティングスによると、06年1~3月期の新聞の電子版総閲覧者数は、ネット利用者全体の37%にあたる平均5600万人で、前年同期比で8%増えたということです。
一方、米国新聞協会(NAA)などの調べによると、05年10月から06年3月までの半年間に発行された新聞の総発行部数は前年の同じ時期に比べ2.6%減少。新聞の読者が紙からネットに移りつつある状況が浮き彫りになったとしています。
新聞の総発行部数の急速な減少は05年4月から続いており、とくに日曜版の落ち込みが顕著で、同年10月から06年3月までの半年間を見ると、前年同期比で3.1%も減っている由。このような傾向について、IT(情報技術)やメディア業界に詳しいカリフォルニア大学デービス校のプレムクマー・デバンブ教授(50)=コンピューター・サイエンス専攻=は「電子版は速報性や簡便性では紙を上回っており、紙の新聞の部数減は止まらないだろう。とくに地方紙は、広告収入の主力である求人関連や地域密着型企業の広告をネットに奪い取られており、部数減と広告収入減の二重苦に悩むことになる」と話しているとのことです。
また、これよりは前の2005年11月9日付のウェブ、メディア・パブには、「米新聞の05年4~9月の発行部数が前年同期比2.6%減となり、底なし状況に陥っている。新聞発行部数の前年割れは定常化しており、今やニュースにならないほど。米新聞の発行部数の下降に歯止めがかからないどころか、発行部数の増減が、05年3月時に1.9%減であったのが、同年9月時は2.6%減になっていて、部数減が加速化しており深刻である」としています。
さらに最近の朝日新聞(2006年12月18日付け「時時刻刻」)に「世界の新聞転換期 対ネットに苦心 減りゆく読者・広告」との見出しで、冒頭に次のように記載されています。
「ネット社会の拡大に伴って、『新聞離れ』が急速に進んでいる。米国やフランスでは、部数の落ち込みや広告収入の伸び悩みから、コスト削減や業界再編の動きが活発化している。反面、分析や解説など新聞の特性を活かした紙面改革や『双方向性』を持つネットとの連携を探る試みも続いている。ネットや無料紙とのすみわけは可能なのか」とあり、米国とフランス、韓国の例が紹介されています。以下、抜粋します。
米国の主な新聞は軒並み株価が低迷し買収されやすい状況にある。新聞収入の7割を占めるとされる広告収入が、ネットに奪われているためだ。05年の米国全体での広告費に占める新聞広告の比率は19.6%で、10年前より2.7%幅のマイナス。逆にネットは0.1%から3.9%に急伸した。新聞の総発行部数も18年続けて減り、昨年は約5300万部と、ピークの84年より約1千万部も少ないという。なお、世界の主要新聞の編集長でつくる世界編集長フォーラム(本部パリ)事務局長の話では、どの先進国も部数は毎年1~2%減少。特に20~30代で新聞を「時代遅れ」と考える風潮が広がっているという。
このようにネット社会の拡大により新聞を取り巻く環境は厳しく深刻で、米国だけでなく、世界的に新聞業界は苦境に立たされているようです。
一方、わが国の新聞対ネットについては電通が毎年発表しています「日本の広告費」が参考になります。昨年(2006年)の広告費実績については、まもなく(2月20日ごろ)公表されますが、以前に本コラム(2006年3月1日記載)で「日本の広告費…2005年の実績について」(電通調べ、資料室 dentsu online)をまとめました。それについて少しおさらいします。
広告媒体には「マスコミ4媒体」と言われる新聞、雑誌、ラジオ、テレビとインターネット広告、および折り込みチラシ、車中広告やダイレクトメールなどの販売促進(セールスプロモーション、SP)広告に大別されます。これらの広告費全体に占める割合は、テレビ34.2%、新聞17.4%、雑誌6.6%、ラジオ3.0%で、マスコミ4媒体合計では61.2%となっています。また、販売促進(SP)広告費は前年比1.3%増で、増えていすが、その総広告費に占める構成比は33.3%で、前年の33.4%、前々年の34.1%よりわずかながら下がってきています。
これに対して、インターネット広告費は前年比54.8%増と好調で全体の伸びをけん引しており、全体に対する割合も前年の3.1%から4.7%に増えています。この数値自体はインターネットが登場した歴史が浅いため、まだ小さいのですが、年々増加しており、ラジオ広告費を追い越し、雑誌広告費に迫る勢いにあります。また、広告費総額はここ2年続けて増えていますが、その増加幅はインターネットの増額分にほぼ相当しており、インターネット関係の影響を大きく受けるようになってきました。
さらに媒体別広告費の推移を見ますと、SP(販売促進)広告費や、「マスコミ4媒体」のうち雑誌、ラジオはほぼ横ばい状態にあり、増加傾向のあったテレビ広告費もおよそ10年ほど前から増減を繰り返し、ここ2年は微増傾向となっています。
しかしながら新聞広告費の縮小傾向が目立っています。次表に総広告費に対する新聞広告費の構成比の推移(電通資料から算出)を示しますが、およそ50年前の1955年には、新聞広告費の構成比は55.5%であったものが、テレビの躍進で5年後の1960年は39.5%と激減しています。それ以降も歯止めがかからず減少傾向が続いており、05年には17.4%まで低下しています。
年 | 1955 | 1960 | 1970 | 1980 | 1990 | 1995 | 2000 | 2001 | 2002 | 2003 | 2004 | 2005 |
---|---|---|---|---|---|---|---|---|---|---|---|---|
構成比 | 55.5 | 39.5 | 35.1 | 31.1 | 24.4 | 21.5 | 20.4 | 19.9 | 18.8 | 18.5 | 18.0 | 17.4 |
なお、1955年当時のテレビ広告費の構成比は1.5%でしたが、1960年の構成比22.3%に示されるように急増し、1959年にはテレビはラジオを抜き、さらに75年には新聞をも抜いて、媒体別で首位を占めるに至りました。それでも1990年ころはテレビと新聞は広告費でそれほどの違いはありませんでしたが、最近では、テレビが新聞の2倍ぐらいの広告費となっており、ますます差が拡大してきています。
さらに最近ではテレビよりも新興のインターネットの躍進が著しくなっています。近々、雑誌にならび、ないし超えて、テレビと新聞に次ぐ「第3の広告媒体」となる可能性も出てきております。
また、インターネットのホームページを見る時間が段々と増加しており、国民1人当たりの平均で2004年には、1日当たりのインターネットの利用時間は37分(2003年は32分)にまで増加し、初めて、新聞を読む時間の31分(2003年は33分)を上回ったとのことです(テレビを見る時間は2004年、3時間31分で圧倒的に大)。
そして過去にテレビが新聞、雑誌、ラジオを追い越したように、今後インターネットの普及に伴って、インターネットが新聞などを超えていくものと考えられます、とあります。
このように日本でも深刻になっており時間の問題のようです。わが国でも若年層を中心に「新聞離れ」が進みつつあり、新聞の発行部数は減少傾向にあります。しかし、逆に新聞用紙の国内生産量、消費量(払い出し数量)は増えていると紹介しましたが、そういう意味では日本の新聞業界は非常に頑張っていると言えます。坪量の軽量化や古紙の高配合化、印刷の高速化・多色化と紙面の美麗化などを進めながら、世界一の品質を維持し、製紙業界ともども大変な努力だと思います。しかも、拡大する「インターネット」と「新聞離れ」対応に精力的に取り組んでいると聞いております。
このような努力にもかかわらず、すでにネットに侵食されている米国の新聞業界をはじめ、世界の新聞業界やわが国のように、今後とも躍進するであろうネットへの広告量拡大で新聞の広告量が減れば、ページ数も少なくなると考えられます。そのうえ時が経てば次第に「新聞離れ」の層が多くなってきて、現状よりもますます発行部数が減ることになります。そうなれば新聞経営不安に陥り、紙の新聞存亡の危機となり、淘汰が始まるかもしれません。そのときは当然、新聞用紙の使用量が減ってきますので、紙全体の消費量が減少するようになります。
新聞がこのまま次第に縮小していくのか、横ばいで維持をしていくのか、あるいは巻き返して再び復権してくいのか、読者にとっても、広告主にとっても必要な「魅力ある新聞」づくりへの関係者のさらなる努力と決断が重要となってきました。