コラム(62-4) 紙媒体と電子メディア(2)紙は、今後とも「文化のバロメーター」になり得るのか?

紙は、今後とも「文化のバロメーター」になり得るのか?

これまで述べてきましたが、テレビを含めたニューメディアの登場により、また、この新聞の例のように、かなりインターネットが普及しだした今日、日本においても人びとの、特に若い人の意識・行動が変わり、紙による情報入手・発信は間違いなく少なくなってきているようです。この点だけでも既存の、特に新聞や雑誌、郵便などの紙の情報メディア(媒体)は劣勢にあるといえます。

インターネットに加えて、開発中の電子新聞や電子ペーパー、普及しつつある電子辞書、電子書籍(ブック)などのさらなる進化・伸展・普及により、例えば紙の雑誌が不振ですが、最近話題のウェブマガジン(電子雑誌)、いわゆる、その名の通りネット上でページをめくることもでき、閲覧できる雑誌スタイルのウェブですが、このような電子メディアが、さらに既存の紙分野に進出し、紙に代わり、結果として紙の消費が低迷するのではないでしょうか。

今の「新聞離れ」の層は、イコール「活字離れ」「紙離れ」の層でもあり、この世代の人達が今後、主流になるうえに、後に続く小・中学生でパソコン・携帯電話に馴染んでいる人たちも今以上に確実に「活字離れ」「紙離れ」(新聞離れ含む)が進むことが考えられます。そしてますます紙メディアのウエイトが下がり、それらの分野では本当にペーパーレスになってしまうのではないでしょうか。

このように考えますと、これまで見てきましたわが国の一部の紙のように、また先行していると思える米国の新聞のように、インターネットや電子メール、電子辞書、電子書籍などの電子媒体を駆使するパソコンや携帯電話など現代の「文明の利器」が、文化のバロメーターである「紙」の消費を抑制してしまうことになりかねません。そしてさらに今後、紙・板紙の消費量が横ばいないし減少していけば、そのときは長い間、文化の程度を測る尺度にされてきた紙の消費量は「文化のバロメーター」と言う金言はわが国では通用しなくなるのかも知れません。

特に明治時代以降、伝統的な和紙や、「製紙および印刷事業は文明の源泉」であるとして育まれた洋紙がわが国の文化発展のために大きく寄与してきました。また、明治初年に流行した散切り(ざんぎり)頭が文明開化の象徴とされ、当時、近代化や欧化主義の風潮を謳った「ざんぎり(じゃんぎり)頭をたたいてみれば文明開化の音がする」という俗謡は、今は「パソコンや携帯電話(ケータイ)をたたいてみれば文明開化の音がする」でしょうか。

 

ただ、ここで悲観するのはまだ早いのかもしれません。と言うのは、国民一人あたりの紙・板紙の消費量が世界のトップクラスでは、わが国の245~250kgレベルに対して、350kg台のところがあるということです。また、わが国よりはインターネットなどが進んでいて先輩格である米国の国民一人あたりの紙・板紙の消費量がはるかに日本の上位にあることです。 それを数値で示せば、例えば、世界経済が良好になった2000年の331.7kgと最高になり、その後はわが国と同じような傾向を示し、伸び悩み、横ばい状態にありますが、01年306.4kg、02年314.2kg、03年300.8kg、04年312.0kg、05年300.6kgという具合に300~320kgで推移しております。それでも日本の245kg~250レベルよりは2、3割多く消費されています。この理由は何でしょうか。かりに日本の消費量が米国レベルの300kg位になれば、紙・板紙の生産量はほほ2割多くなり、現状の年間3,100万tよりおよそ600万t増え、3,700万tになります。また、トップクラスの350kg位になれば、約1,200万t/年の増加となります。これは大きな増量です。もちろん、球環境改善や公害防止などに結びつくキーワード「3R」ないし「5R」を実行しての無駄のない消費を踏まえてのことです。

こう考えると、まだ望みがあります。わが国よりも国民一人あたりの紙・板紙の消費量がはるかに上位にあるこれらの国々の消費状況を調査すれば、何かヒントが得られるかもしれません。その中から必要な対策を講じれば、まだまだわが国も消費が伸びる余がありそうです。

2000年以上もの歴史があり、長い間、伝統ある紙はその役割を果たしつつ、文化や産業の発展とともに増え進化してきました。56.3kg、これは現状(05年)レベルの一人あたりの紙・板紙の消費量の世界平均ですが、少しずつ伸びているもののまだまだ少なく、世界的にはこれからも紙は広く、しかも多く使用されていくでしょう。

しかし、その一部の先進国では、わが国も含めて「紙対電子」で終わるか、それとも「紙・電子との共存」への模索をし、そして「紙対電子」から「紙・電子との共存」の時代へとなるのか。今や、電子メディアに追われている紙メディアの対応と、棲(す)み分けが始まっております。わが国の紙文化は、これまでもうまく「紙の危機」を乗り切って育まれてきたように、「時代遅れ」とならないよう新たに成長していきたいものです。

(2007年2月1日)

 

参考・引用文献・ウェブ

 


更新日時:(吉田印刷所)

公開日時:(吉田印刷所)