コラム(63-1) 漉く…類似の「和紙」と「海苔」

薄くて平らな「和紙」と「海苔」、似ている点が多くあります。「漉く」もそのひとつですが、今回はこれらのことについてまとめました。

 

「漉く」と「抄く」の違い

まず「漉く」です。以前に「漉く」と「抄く」の違いを説明しましたが、もう一度、その違いをおさらいしておきます。

ところで「紙を作る」とか「紙をすく」ことの用語として、「紙漉き、抄紙」などがあります。また、中国で製紙の意味で使われている「造紙」という言葉は、わが国でも奈良時代には、製紙のことを「造紙」と言いました。すなわち、日本で本格的な紙の国産化が始まったのは奈良時代のこと、中国唐の律令を参考にしたと考えられている「大宝律令」(大宝元年…701年)により、「古事記」「日本書紀」など国史の編集が進められ、それに伴って紙の製造と調達を職務とする「図書寮」が設置されますが、その図書寮には4人の造紙手が置かれました。なお、当時の造紙は古代中国から伝わった「溜め漉き」といわれる方法が行われました。

このように当初は中国の「造紙」が使われましたが、平安時代になると、「延喜式」で簀を「紙を漉く料」と注記しているように、「紙を漉く」と表現するようになりました。例えば、紫式部の「源氏物語」(西暦1010年ころの作)にも、鈴虫の巻に「唐の紙はもろくて、朝夕の御手ならしにもいかがとて、紙屋(かんや、かむや)の人を召して、ことに仰せ言賜ひて心ことに清らに漉かせ給へるに、…」と唐の紙よりも上質な紙が漉かれていたことが記載されています。

少し脱線しましたが、「紙漉き、抄紙」などと使われる「漉」と「抄」の相違について説明しますと、「漉」は「こす・すく」と訓読し、液体のよごれやかすを、こしたり、原料をさらったり、すくい取って紙や、海苔(のり)をすくなどの意があります。すなわち、水に分散させた原料をすくい、簀(す)の上に薄く敷きのばし、紙、海苔などを作ることです。このように紙や海苔は単に「つくる」のではなく、温もりのある人の手で、心をこめて「すく」ものであるとの微妙なニュアンスかあります。

一方の「抄」には、抄紙機(ペーパーマシン)で紙を製造すること(抄紙・抄造)などの意味があります。

この手漉きと機械抄きのように、「漉」と「抄」の使い分けは人手による手作り(handmade)の場合は「漉」、機械によるときは「抄」が一般的に使われます。例えば、和紙関係に出てくる「流し漉き」「溜め漉き」「紙漉き職人」などがあり、洋紙関係で用いられる「抄紙」「抄紙機」「抄造」などがあります。従って古来からある伝統の和紙には、手漉きとか手漉き和紙の文字がふさわしく、機械すき和紙には機械抄き和紙という文字が適しています。なお、「手漉き(てすき)」は紙を手ですくこと。また、そのすいた紙の意ですが、「手抄」という用語は「しゅしょう」と読み、直接自分の手を使って書き抜くこと、書き写すこと。また、その書いたものの意となります(広辞苑から)。

 

  次のページへ


更新日時:(吉田印刷所)

公開日時:(吉田印刷所)