コラム(65-1) 紙・板紙「書く・拭く・包む」(1)印刷用紙とは、塗工紙とは

私たちの日常生活に紙は欠かせない大切な素材です。役割として「書く」「印刷する」、「読む」「見る」ことで情報を記録・伝達すること、また物を「包む」「運ぶ」こと、さらに汚れや液体を「拭く」「吸う」の3大基本機能のほかに、例えば電気を通しやすくした導電紙のように機能紙と言われる紙もあり、暮らしのなかで、さまざまに使用されています。 それらの紙をここに紙・板紙「書く・拭く・包む」シリーズとして選び適宜まとめていきますが、今回は主に印刷用紙として使用されている塗工紙(微塗工紙含む)を取り扱います。

 

はじめに、印刷用紙とは

現在、わが国における紙の分類は、用途上および統計上の必要性から経済産業省の「指定統計品目による紙・板紙の品種区分」と、それを加味した日本製紙連合会による「紙・板紙の品種分類」が決められております。ここでは日本製紙連合会による「紙・板紙の品種分類」に基づいて説明していきます。

それによれば、紙は「紙」と「板紙」に大分類されたうえ、「紙」は新聞巻取紙、印刷・情報用紙、包装用紙、衛生用紙および雑種紙に、また「板紙」は段ボール原紙、紙器用板紙、建材原紙、紙管原紙、およびその他板紙に中分類されています。さらに例えば、印刷・情報用紙なら印刷用紙として現在、「非塗工印刷用紙」「微塗工印刷用紙」「塗工印刷用紙」および「特殊印刷用紙」の4つに小分類されています。そして「非塗工印刷用紙」なら、さらに上印刷紙→印刷用紙Aという具合に次第に細かく区分されていき、遂には上質紙、模造紙など私たちが使ったり、見たりする具体的な紙が該当することになります(参照…紙について(3)資料 表「紙・板紙の品種分類」)。

ところで本題の塗工紙は印刷用紙に属しますが、トイレットペーパーやティッシュペーパーなどの衛生用紙や電気絶縁紙などを除いて大部分の紙は多かれ少なかれ印刷されますが、これらをすべて印刷用紙と言いません。印刷用紙とは、一般の印刷会社印刷され、印刷物として見たり読んだりすることが主要目的である紙のことを言います。したがって、新聞用紙(新聞巻取紙)は普通は新聞社で印刷され、一般の印刷会社印刷されていませんので、印刷用紙の分類から外されており、新聞巻取紙として独立して分類されています。

印刷用紙は紙の表面に塗料が塗工されているか否か、ないしその量により上記のように「非塗工印刷用紙」「微塗工印刷用紙」「塗工印刷用紙」に3区分されているほかに色上質紙はがき用紙、小切手や手形、証券などの特殊な用途に使用される用紙としての「特殊印刷用紙」に分かれています。

このなかで、これから塗工紙関連について説明していきますが、最初に最近の印刷用紙の生産動向を下記に要約しておきます。

①「印刷用紙」の生産比率は年々伸びており、2006年実績で紙・板紙全体の約3割(31.8%)を占め、板紙を除いた紙全体ではおよそ半分(51.9%) とウェイトが高く、重要度が増している。ちなみに、紙のなかで占める新聞巻取紙の比率は19.8%。

印刷用紙に分類されている「非塗工印刷用紙」「微塗工印刷用紙」「塗工印刷用紙」および「特殊印刷用紙」の構成比は、1990年がそれぞれ43.9%、9.4%、41.8%および5.1%であったものが、2006年では27.6%、16.4%、52.7%および3.2%となっており、印刷用紙の構成内容が変わりつつある。

③その変化は「非塗工印刷用紙」および「特殊印刷用紙」は縮小傾向(1991年~)となり、反面、「微塗工印刷用紙」と「塗工印刷用紙」は拡大傾向にある、と言える。

なお、「微塗工印刷用紙」に区分されている微塗工紙は基本的には塗工紙であり、ここでは同じ仲間として取り扱い、説明していきます。

 

塗工紙とは

それでは塗工紙(微塗工紙含む)とはどんな紙でしょうか。紙は、それぞれが用途に応じた機能・適性を付与されて造られ使用されます。人が綺麗に見せるためにお化粧をするように、紙も綺麗に見せたり、機能を持たせるためにお化粧をします。

印刷用途の場合も、よりよい印刷物を得るために手を加え、お化粧をしたものかあります。そうした紙の一つが塗工紙(微塗工紙含む)であり、塗被紙、コーテッドペーパー(Coated Paper)、コーテッド紙とか、単にコート紙とも呼ぶことがあります。

前述のように印刷用紙に属す「非塗工印刷用紙」「微塗工印刷用紙」「塗工印刷用紙」とは、化粧品が表面に塗られていない上質紙に代表されるような非塗工印刷用紙や、少し塗った微塗工印刷用紙(微塗工紙)、それにもっと塗った塗工印刷用紙(塗工紙)のことです。もう少し言いますと、原紙表面に化粧品に相当する塗料が塗られていないか、その量(塗工量、塗被量、塗布量)は少ないか多いかによって差を持たせているわけです。

ここで塗工紙の製造について簡単に触れておきます。塗工紙(微塗工紙含む)は、塗料(コーティングカラー、単にカラー)、いわゆるカオリンとか炭酸カルシウムなどの鉱物性顔料と澱粉、ラテックス等の接着剤などを混和した塗工液を原紙の両面または片面に、塗工機(コーター)を使って表面塗工して製造されます。しかし、この塗工によって原紙の凹凸は被覆され、面はかなり平滑になるものの、まだミクロの凹凸は残っています。この状態では塗工紙に要求される平滑と光沢などの品質は得られませんので、さらに紙面に光沢を与え、平滑にする目的で一般にスーパーカレンダー掛けを行い、加熱・加圧して平滑で均一な厚さの高い光沢を持つ紙に仕上げます。

なお、加熱・加圧によって紙厚が減るというマイナス面がありますので、それを軽減するためにスーパーカレンダーの代わりにソフトカレンダー装置を用いて、より高温処理をすることによって、少ない加圧段数で高い光沢と平滑性を得ることか行われています。

ところで一般的に、塗工紙の多くはスーパーカレンダーやソフトカレンダーなどで仕上げた光沢(艶)の高いものですが、光沢を抑えた艶消し塗工紙であるマットコーテッド紙やダルコーテッド紙もあります。この艶消し品は、およそ45年前に登場しましたが、次第にその風合いが好まれ、品種・銘柄も増え、(統計的な数値はありませんが)塗工紙全体の約35%を占めているといわれます。艶消し(マット、ダル)塗工紙は、光沢の出にくい顔料である炭酸カルシウムを高配合した塗料組成を適用し、スーパーカレンダー掛けは行なわないか、あるいは軽い処理にしたり、特別なマット用のカレンダーで処理をして造ります。

なお、塗工紙の重要な品質の一つである光沢度は、厳密な区別はありませんが、一般に白紙光沢度で20%以下をマット(mat) 、35%以下をダル(dull)、35~40%をセミダル、45~75%をグロス(gloss) 、80%以上をスーパーグロスと区分けされているようです。

 

印刷用紙の表面と断面および網点再現性比較(拡大写真)
 

非塗工印刷用紙

(上質紙)

塗工印刷用紙

(アート紙)

表面写真

断面写真
 
印刷網点再現性

 

このようにして造られた塗工紙は、塗工していない非塗工印刷用紙と比べて、通気性(透気性)は悪くなりますが、表面により細かい毛細管が多数あり、吸液性が大きく、水やインキを吸収しやすく、印刷した場合もインキのセットが速く、乾燥しやすくなります。また、塗れば塗るほど、一般的に手肉(腰・嵩)などが下がるマイナス面はありますが、紙表面の平滑性が改善され出来栄えのよい面質を持つ印刷物が得られます。

すなわち、塗工量が多くなるほど平滑で緻密な表面となるので、印刷原稿の再現性が良いなど印刷適性に優れるようになり、オフセット印刷はもちろんグラビア印刷、凸版印刷などの方式で多色印刷されるようになります。そして塗る量の多少などによって生じる品質グレードに応じて高美術印刷物、カタログパンフレット、カレンダー、雑誌口絵、本文、表紙やチラシなど幅広く使用されます。

それでは、上掲に非塗工紙(上質紙)と塗工紙(アート紙)の表面と断面および印刷網点再現性の比較写真(拡大)を示します。上質紙の表面にはパルプ繊維が見られますが、アート紙は塗料で被覆されており、パルプ繊維は見られません。断面については、アート紙で上・下層の白っぽくなっている部分が塗料層です。上質紙には当然これがなく、ふわっとした感じの原紙層が見受けられます。これに対して、アート紙は塗膜層の間の原紙層は締まっており、厚みが小さくなっています。また、印刷網点再現性では、上質紙と比べてアート紙のほうが網点の欠落がなく、インキの付きが格段に鮮明であることが分かります。この例示によっても、塗ることによる塗工紙の効果がお分かりいただけたと思います。なお、微塗工紙や後述のコート紙、軽量コート紙上質紙アート紙との間の位置付けになります。

 

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更新日時:(吉田印刷所)

公開日時:(吉田印刷所)