コラム(65-2) 紙・板紙「書く・拭く・包む」(1)塗工紙の分類

塗工紙の分類

次に塗工紙(微塗工紙含む)の分類について述べます。次表にわが国における塗工紙・微塗工紙の分類を示しておきますが、「塗工印刷用紙」は、アート紙コート紙、軽量コート紙、その他塗工紙(キャストコート紙アートポストなど) に分かれており、「微塗工印刷用紙」は、微塗工紙1と微塗工紙2に分類されています。そしてアート紙コート紙、軽量コート紙の基準は使用原紙の種類と表面に塗る塗工量の差で、また、微塗工紙はアート紙コート紙などの塗工紙よりは少ない塗工量と白色度によって規定されています。

表1.わが国における塗工紙の分類(日本製紙連合会の資料から作成)
品種

呼称

(記号)

使用原紙

塗料塗布量

(両面)

主な用途
アート紙

上質アート紙

(A1)

上質紙

40g/m2前後

(片面20g/m2前後)

美術書、カレンダー、カタログポスター、ラベル、煙草包か用など

中質アート紙

(B1)

中質紙 (これまで生産実績なし)
コート紙

上質コート紙

(A2)

上質紙 20g/m2前後 美術書、雑誌の本文、口絵、ポスター、カレンダー、カタログパンフレット、ラベルなど

中質コート紙

(B2)

中質紙 雑誌本文、カラー頁、チラシなど
軽量コート紙

上質軽量コート紙

(A3)

上質紙 15g/m2前後 カタログ、雑誌本文、カラー頁、チラシなど

中質軽量コート紙

(B3)

中質紙 (2000年より生産中止)
微塗工紙 微塗工紙1 白色度74~79% 12g/m2以下 雑誌本文およびチラシカタログなどの商業印刷
微塗工紙2 白色度73%以下 雑誌本文およびチラシカタログなどの商業印刷
その他塗工紙 キャストコート紙 アート紙よりも強光沢で、平滑性の優れた高印刷用紙、高美術印刷、雑誌の表紙などに使用されるもの
エンボス紙 アート紙コート紙などに梨、布目、絹目などのエンボス仕上げした高印刷紙、カタログ、カレンダー、パンフレットなどに使用されるもの
その他塗工紙 アートポスト、ファンシーコーテッドペーパー、純白ロールコートなどで絵葉書、商品下げ札、雑誌の表紙、口絵、グリーティングカード、商業印刷、高包装などに使用されるもの

(1)アート紙コート紙、軽量コート紙およびその他塗工紙は印刷・情報用紙の中の塗工印刷用紙に、また微塗工紙は微塗工印刷用紙に分類される。

(2)使用原紙の上質紙印刷用紙Aベースで晒化学パルプ100%のもの、また、中質紙は印刷用紙Bベースで晒化学パルプ70%以上のものをいう。なお、微塗工紙は原紙への規定なし。

(3)実際に市販されている塗工紙の塗料塗布量は、品質のレベルアップのために次第に多くなり、現状は両面でアート紙は45~55g/m2コート紙で35~40g/m2、軽量コート紙は25~30g/m2くらいにあり、本区分(基準)とは大きなズレがある。

(4)中質アート紙(B1)は、これまでに生産実績はなく、アート紙と言えば上質アート紙(A1)のことを指す。

(5)中質軽量コート紙は2000年より生産中止。

 

なお、情報用紙や板紙などの中にも原紙に塗工・加工した紙はありますが、印刷用紙でなく塗工印刷用紙(微塗工紙含む)には分類されていません。ここでは品種分類上の印刷用紙である塗工印刷用紙および微塗工印刷用紙に絞り説明します。

 

品種分類の変遷…塗工紙関係

ところで紙・板紙の品種分類は固定的なものでなく、紙に対するニーズの変化や印刷技術の向上などに対応して、紙・板紙の種類も増減し、品種構成にも変化が見られ、それとともに品種分類も変わっていきます。

塗工紙の変遷も著しく、その品種分類も変わっています。簡単に塗工紙の分類の変化を見ていきますと、1959(昭和34)年まではコーテッドペーパー(含アート紙)という分類でしたが、1960年から塗工印刷用紙は、アート紙コート紙、その他塗工印刷用紙に区分され、さらに1968(昭和43)年には分類細目の改定があり、軽量コート紙が加わりました。

次に「微塗工紙」が登場してきますが、これにより印刷用紙の区分はさらに変わってきました。すなわち、「微塗工紙」が誕生する前の印刷用紙の分類は、紙の表面に塗料が塗布されているか、いないかで「非塗工紙」と「塗工紙」の2つに大別されていました。それが出版界における雑誌創刊ブーム、商業印刷におけるカタログパンフレット類の需要増などにより、ビジュアル化、カラー化の傾向が定着・拡大し、1981年には「非塗工紙」「塗工紙」両者の間隙商品(ニッチ商品)としてごく僅かに塗料を塗布した「微塗工紙」という新しい品種が開発され登場してきました。そして「非塗工紙」として扱われて計上されていましたが、その市場規模が大きくなったことから20年振りに紙の統計上の見直し、改定が行われ、1988(昭和63)年には、微塗工紙は非塗工印刷用紙から分離して、1つの品種として公式に認定され、「微塗工印刷用紙」として独立、分類されました。これにより印刷用紙は、上記のように新たに4つに分類されることとなったわけです。ところで微塗工紙の品目は当初、微塗工上質紙、微塗工印刷紙1・2・3の4区分にされていましたが、1999年1月に整理・統廃合され、微塗工上質紙上質軽量コート紙A3 に編入され、微塗工紙は表1のように微塗工紙1と微塗工紙2に分類されました。なお、後記の表3のなかで2000年の微塗工紙の構成比が下がり、上質軽量コート紙A3の生産量、構成比が大きく上昇しているのは、この整理・編入による影響によるものです。

以上、塗工紙の変遷に伴なう品種分類の移り変わりを簡単に述べましたが、塗工紙の分類法についてもう少し説明します。

 

塗工紙の分類法について

塗工紙は、原紙の種類(晒化学パルプの配合差)と、紙表面に塗布する塗料の塗工量の差に基づく等基準よって、アート紙コート紙(上質コート紙、中質コート紙)、軽量コート紙(上質軽量コート紙、中質軽量コート紙)、および微塗工紙とその他塗工印刷紙に分類され、表1のように区分されています。

塗工紙のもととなる基紙を塗工原紙といいますが、原料パルプに晒化学パルプのみを使用した上質紙ベースの塗工原紙から成る塗工紙を上質アート紙とか上質コート紙などと呼びます。ただー般的には、「上質○○紙」とは呼ばずに「上質」を取り、単に「○○紙」ということが多いようです。

一方、晒化学パルプとその他のパルプ(機械パルプなど)を使用した塗工原紙、すなわち、中質紙をベースにした塗工紙が中質コート紙や中質軽量コート紙です。これら紙の区分には記号(略称)として、上質紙ベースの塗工紙にはA、中質紙ベースはBを用います。また、塗工量の最も多いアート紙から順次、コート紙、軽量コート紙、微塗工紙となりますが、記号として、アート紙には1、コート紙には2、軽量コート紙には3を用います。これと塗工原紙との組み合わせで、(上質)アート紙はA1 、上質コート紙はA2 、以下、中質コート紙はB2 、上質軽量コート紙はA3 、また中質軽量コート紙はB3 の略称を使うことがあります(なお、微塗工紙は略称なし)。

なお塗工原紙は、非塗工印刷用紙である一般の上質紙や中質紙と基本的には同じですが、塗工する目的を持っているため平滑性(滑らかさ)、水分等に若干の品質差があります。非塗工紙、つまり上質紙など化粧をしていない紙の表面は、ある程度滑らかになっているものの、やはり凹凸が目立ち、表裏差があります。この凹凸と表裏差を小さくしたり、無くしたりするために、塗工しますが、塗工量の多いほど原紙は被覆されるため、面の凹凸は減少し、平滑となり、印刷効果が向上します。他にも光沢、白さ、不透明度、インキ受理性などもアップし、印刷網点再現性や印刷効果などが大幅に向上します。したがって、塗工量の多いアート紙ほどその効果が大きく、しかも晒化学パルプのみの配合であるため白色度が高く、高感があり、微塗工紙やコート紙よりも高価なため、実際の用途でもほとんど、より高印刷物に使われます。

 

成長期にある塗工紙

冒頭に「塗工印刷用紙」(微塗工紙含む)が拡大していることを述べました。わが国の塗工紙は戦後からこれまで驚異的な伸びをし、紙の中心的存在にまで成長しています。ここで第二次世界大戦を終え(1945年)、戦後の混乱期を脱した1950(昭和25)年を基点として、50年以上を経た現状の塗工紙の生産量とその伸展を表2に示します。これは紙業タイムス社発行の'04紙業タイムス年鑑(2004年3月刊)にタイトル「塗工紙はなぜ普及したのか~製造技術と品質改善のあらまし」で掲載されたものですが、参考になると思い、加筆して、あらためてここに一部再録しました。なお、表中、下段の( )値は構成比を示し、紙は紙・板紙全体に対する比率を、新聞巻取紙・印刷用紙・塗工紙(微塗工紙含む)は紙に占める比率を表します。

 

表2.紙・板紙の生産量とその伸び(基点:1950年)
 1950(昭和25)年2005年2006年伸びの程度
紙・板紙 870千t
30,951千t
31,106千t
36倍

686千t

(78.9%)

18,900千t

(61.1%)

19,062千t

(61.3%)

28倍
新聞巻取紙

131千t

(19.1%)

3,720千t

(19.7%)

3,770千t

(19.8%)

29倍
印刷用紙

233千t

(34.0%)

9,818千t

(51.9%)

9,894千t

(51.9%)

42倍

塗工紙

(微塗工紙含む)

13千t

(1.9%)

6,730千t

(35.6%)

6,842千t

(35.9%)

526倍

 

上表から、戦後の混乱期を経た1950年を基準にして、2006年の紙・板紙生産量の伸びは約36倍です。また紙全体の生産量伸びは28倍、ちなみに新聞巻取紙は29倍、印刷用紙は42倍であるのに対して、塗工紙の伸びは1950年のおよそ520倍余という驚異的な成長をしております。この数値を見れば、紙や印刷用紙の中でも塗工紙は桁違いの大きな伸びをしていることが分かります。これをもう少し10年単位で小刻みに見ていきますと、1960年が9倍、70年は63倍、80年117倍、90年247倍、そして2000年は406倍となり、05年は518倍と近年になるに従い急成長していることが分かります。これは新たにコート紙や軽量コート紙および微塗工紙が登場し、それらが拡大したことによるものです。

なお、紙部門の中に占める印刷用紙の比率は、1950年当時は約34%であったものが、今日では約52%と半分以上を占め、そのウェイトが高まっております。また塗工紙の比率は、およそ2%であったものが約36%と、紙部門の1/3あまりを占めるまでに拡大しており、印刷用紙のなかでは当時の約6%からおよそ69%を占め、その2/3余が塗工紙となる大きな躍進をしています。

このように塗工紙は、このおよそ55年間で他の品種を凌駕する500倍余という驚くような大きな伸びをし、今では紙・板紙のなかでなくてはならない重要で、かつ主要な位置付けを占めるようになりました。これは世の中のカラー化・多色化、ビジュアル化に伴い、多様化するニーズに対応でき、あるいは対応を可能にし、しかもより高い付加価値を持ち、夢を実現してくれる塗工紙への移行を反映したものと言えます。

 

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更新日時:(吉田印刷所)

公開日時:(吉田印刷所)