塗工紙の品種別の盛衰について
非塗工印刷用紙の低迷ぶりに対して、塗工紙全体(塗工・微塗工印刷用紙)では、他の品種を圧倒して大きく伸びています。しかしアート紙、コート紙などの品種別でみると、大きな浮き沈みがあります。それを塗工紙の品種別生産量推移で見ていきますが、20年前の実績から次表に示します。
品種 | 1985年 | 1990年 | 1995年 | 2000年 | 2005年 | 2006年 |
---|---|---|---|---|---|---|
アート紙 |
187 (9.9%) |
256 (6.5%) |
224 (4.4%) |
153 (2.3%) |
99 (1.5%) |
86 (1.3%) |
(A2) |
838 (44.5%) |
1,618 (41.1%) |
1,898 (37.5%) |
2,520 (37.4%) |
2,608 (38.8%) |
2,652 (38.8%) |
中質コート紙 (B2) |
312 (16.5%) |
373 (9.5%) |
426 (8.4%) |
489 (7.3%) |
251 (3.7%) |
232 (3.4%) |
(A3) |
236 (12.5%) |
606 (15.4%) |
1,103 (21.8%) |
1,935 (28.8%) |
2,068 (30.7%) |
2,107 (30.8%) |
中質軽量コート紙 (B3) |
49 (2.6%) |
128 (3.3%) |
106 (2.1%) |
(2000年より生産中止) | - |
- |
微塗工紙 | - |
719 (18.3%) |
1,121 (22.2%) |
1,451 (21.6%) |
1,574 (23.4%) |
1,626 (23.8%) |
その他塗工紙 |
263 (14.0%) |
232 (5.9%) |
179 (3.5%) |
183 (2.7%) |
131 (1.9%) |
140 (2.0%) |
合計 | 1,885 | 3,932 | 5,058 | 6,730 | 6,730 | 6,842 |
現状の動向は品種別には、中質軽量コート紙B3は生産中止となり、アート紙と中質コート紙B2、その他塗工印刷用紙が減少傾向で、反面、上質コート紙A2と上質軽量コート紙A3、および微塗工紙は増加傾向にあります。
わが国の塗工紙の変遷をたどりながら、もう少し詳しく見ていきます。次表にわが国における塗工紙の変遷を簡単に示しましたが、区分などの年代は厳密なものでなく幅があり、重なっているところもありますのでご承知おきください。
区分 | 主な内容 |
---|---|
●第一段階(1916年~1960年ごろ) |
|
●第二段階(1959年~2000年) |
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●第三段階(1961年~1989年) 塗工紙多品種・品質多様化時代 |
|
●第四段階(1990年ころ~) |
わが国で塗工紙(アート紙)が誕生したのは1916(大正5)年ですから、今日までおよそ90年経ちます。この間時代の変遷や経済の動向、市場の変化などにより塗工紙も大きく移り変わってきています。
すなわち戦前、戦後のアート紙独占時代からコート紙A2 ・B2 の誕生、また軽量コート紙A3 ・B3 、さらに微塗工紙などの新品種の登場に代表されるように多品種、軽量化、巻取化、再生紙化、低価格化等の多種多様な市場ニーズや、品質・安全・安心の改善向上、生産性向上、コストダウンなどに対応しながら、塗工紙全体では大きく拡大してきました。その反面、前述のようにアート紙などの落ち込みがあり、品種の選択と整理が進んでいます。
この推移を表3とともに説明していきますが、わが国の塗工紙の歴史を表4.塗工紙の変遷のように、第一段階から第四段階の4つに区分しました。
まず第一段階ですが、アート紙誕生からアート紙の独占時代に相当する時期です。塗工紙(アート紙)の国産化(日本加工製紙株式会社)は1916(大正5)年ですが、1959(昭和33)年ごろまでは、塗工紙といえばほとんどがアート紙で、他にわずかにポスト紙や艶紙があったものの、アート紙の独占時代といえます。用途は高級印刷物(豪華な美術書、高級パンフレット、カレンダー用紙、ラベル、雑誌や週刊誌の表紙など)に限定されていたようで、紙の中では高級で希少価値がありました。
戦後のアート紙の年間生産量は、1947(昭和22)年が476t、48年1,303t、49年6,836t、50(昭和25)年12,412tと終戦直後の混乱期を経て1950年以降、ようやく消費文化が芽生えてきました。アート紙の生産も順調に推移し、1959年までの10年間に4.7倍と大きな伸びを示しました。参考までに、このころのわが国の国民一人あたりの紙・板紙の年間消費量(kg/年・人)を示しますが、終戦の1945年は3.6kg、47年が3.7kgで、その後の1950年は10.2kgです。現在の消費量は246.3kg(2005年)ですので、戦後当時の紙・板紙は貴重で希少価値のあるまさに「宝物」であったことがうかがえます。
それから1959(昭和34)年には、紙・板紙の年間消費量は40.1kgと順調に上昇していますが、この年にアート紙より安価なコート紙(A2)が登場しました。多色オフセット印刷機の普及により、安価なコート紙でも上質紙に比べて格段の印刷効果が得られるようになりました。これを契機に出版物の多色化や、商業印刷の伸びが顕著で、コート紙の需要が拡大し、第二段階のコート紙の急成長から全盛期時代となっていきます。1962年にはアート紙の生産量を超え、10社に及ぶ国内製紙メーカーがコート紙分野に参入したのもこの頃です。コート各社間の品質競争激化も始まり、コート紙A2の一層の品質レベルアップが図られるようになりました。これを期にコート紙は急成長していきますが、アート紙の需要減少は決定的になり、アート紙の成長は鈍化し、1990年をピークに漸減傾向をたどることになります。
さらに、コート紙A2が登場したころから、まもなく第三段階の塗工紙多品種・品質多様化時代になるのですが、マットアート紙やオフ輪用コート紙などが登場したり、幾多ある製紙メーカー間の競合とコストダウン、グレードダウン化の動きから、印刷物の軽量化(薄物化)に伴い軽量コート紙(A3)や中質コート紙(B2)、中質軽量コート紙(B3)および微塗工紙が誕生しました。また、コート紙A2の品質のレベルアップにより一般アート紙A1との格差が縮まったことから、さらに上位を狙ったA0と言われる高級アート紙A0や超高級アート紙A0などのスーパーアート紙が登場したのもこのころです。
この塗工紙多品種・品質多様化の時期から今の第四段階(1990年ころ~)である品種選択と淘汰の時代となってきました。この段階は各種塗工紙の優勝劣敗がはっきりしてきた時期にあたります。すなわち、アート紙挽回のためにコート紙A2との品質格差を広げようとの改善やスーパーアート紙が期待されて投入されたにもかかわらず、アート紙の生産量は1990年をピークにして91年から年々減少、また塗工紙全体に占める構成比も、1950年が92.3%、60年67.2%、70年23.3%、80年11.2%、90年は6.5%と1桁になり、続く2000年は2.3%とさらに低下傾向となり、昨(06)年は僅かに1.3%を占めるに過ぎなくなりました。
これと同じように、中質コート紙B2とその他塗工印刷用紙も生産量は減少傾向を示し、昨年の構成比もそれぞれ3.4%、2.0%と風前の灯の状態になっています。また年々漸減していた中質軽量コート紙B3は2000年より生産中止に余儀なくされています。
これに対して上質系の上質コート紙、上質軽量コート紙および微塗工紙は大きく成長しており、塗工紙3強時代へと進んできています。塗工紙の中でも品種によって繁栄と淘汰が起こっているわけです。しかし、3強のなかでも動向が少し違います。上質軽量コート紙および微塗工紙は生産量、構成比とも増加していますが、アート紙に次いで歴史のある上質コート紙は現在も生産量は増えているものの、その構成比は表3のように下降傾向にあります。すなわち、上質コート紙の構成比は、市場に登場した当初の1960年が2.9%ですが、65年は48.7%と急成長し、アート紙を超え市場を席巻していきます。さらに5年単位で見ていきますと、70年は55.9%と上昇、75年の67.4%をピークに塗工紙の中心的存在となっていきいきますが、上質軽量コート紙や中質コート紙の登場と普及、その後の微塗工紙の影響もあり、80年65.0%から85年44.5%(以下、表3を参照)のように下降傾向にあります。これは商品にも栄枯盛衰があることを物語っています。しかし、まだまだ上質コート紙は数量的にも最大であり、塗工紙の中心的存在であることに変わりありません。
このように、塗工紙のなかで高品質・高価格のアート紙A1が減少・衰退し、その下位の上質コート紙A2と上質軽量コート紙A3および微塗工紙が伸びている傾向は、価格がより安く、かつそれらの品質のレベルアップ(底上げ)、市場の軽量化・巻取化などのニーズと伸展に対応したこれらの品種に需要が流れていることを示しています。