世界的に話題になっている映画と同名の書籍版「不都合な真実」(アル・ゴア前米副大統領著)の中に「製紙は、最も汚染がひどく、森林に破壊的な影響を与えている1つであることは言うまでもない…」というくだりがあります。これには大きなショックを受けました。今回はこの辺りのことを是非、まとめてみようと思い筆を執りました。
不都合な記述とは
書籍版「不都合な真実」(ランダムハウス講談社発行)の本文315ページに「紙をむだにしないようにしよう」という見出しで、「製紙は、最も汚染がひどく、森林に破壊的な影響を与えている…」という記述があります。これにはびっくりし、大きなショックを受けるとともに非常にがっかりしました。製紙会社に席をおき、業界の環境問題、対応などをいくらかPRしてきたものにとって思いもよらない表現で、考えられないものでした。
その部分を全文載せておきます。
「製紙は、最も汚染がひどく、森林に破壊的な影響を与えている産業の1つであることは言うまでもないが、エネルギー消費量でも第4位に位置する産業である。毎週、米国人に新聞の日曜版を供給するために、森1つ分にあたる50万本以上の木が必要となる。古紙のリサイクルに加え、自分が消費する紙全体を減らすためにできることがある。紙タオルの消費を制限して、代わりに布のタオルで手をふくこと、ナプキンは、使い捨てのものではなく、布製のものを使うこと。可能な場合はできるだけ、紙の両面を使うこと。そして、どうせすぐにゴミ箱に捨ててしまう不要なダイレクトメールを止めること」
です。
さらに続く「マイバッグを持って行こう」の項のなかに
「紙袋も問題だ。いつぱいに詰めても破れないように、ほとんどの紙袋は、再生紙ではなく新しい繊維から作る紙から作られている。そのためには二酸化炭素を吸収してくれる木を切り倒さなければならない。毎年、米国で使われる100億枚の紙袋を作るために、毎年1500万本の木が伐採されていると推定されている。…」
とあります。
この文章は、本書のまとめとして「気候の危機の解決に手を貸すためにできること」として、私たち誰にでもできるさまざまな具体的な取り組みが記載されていますが、その中の「消費量を減らし、もっと節約しよう」で紹介されている一文です。
「もっと節約しよう」という主旨は非常によいことですが、この中の「製紙は、最も汚染がひどく、森林に破壊的な影響を与えている産業の1つであることは言うまでもないが、」と「紙を作るために木を切り倒さなければならない。毎年、米国で使われる100億枚の紙袋を作るために、毎年1500万本の木が伐採されている」と言うところが気になる問題の文章です。皆さんはどう思われたのでしょうか。
そしたら3月26日付の日本経済新聞の経済面にある「回転いす」欄に日本製紙連合会会長 鈴木正一郎氏がこの件について、不満を述べられておられることが載っていました。さすがだと意を強くしました。その記事も次に転載しておきます。
ゴア氏著書に不満▽…アル・ゴア米前副大統領の著書『不都合な真実』を読み、「いまだに『紙を使うと森が減り、環境が破壊される』と書いてあるのは、昔の固定観念にとりつかれている」とちくり。製紙業界は森林を育て、資源のリサイクルも進め、地球環境に優しい産業だとアピールしてきただけに不満が漏れる。▽…日本では「排水で海を汚し、木を切って森を荒らすという昔のイメージをぬぐえてきた」と感じているが、地球規模ではPR不足。「ゴアさんですら、こんな認識だから、世界的に製紙業界の実情を理解してもらうのは大変だ」と反省することしきりだった(日本経済新聞3月26日付「回転いす」)
というものです。
また、この件でインターネット検索したところ、「不都合な真実」間違いあり…日本製紙連合会会長という見出しで載っていました(4月4日付、夕刊フジのインターネット版…産経新聞社系)。上記、新聞記事とほぼ同じですが、それによりますと、
「不都合な真実」間違いあり…日本製紙連合会会長「紙を使うと森が減る、環境が破壊されると言う人がまだいるとは」と嘆くのは、日本製紙連合会の鈴木正一郎会長。米国のアル・ゴア前副大統領の著書「不都合な真実」の中で「製紙は最も汚染がひどく、森林に破壊的な影響を与えている産業の1つ」と書かれているのは間違いだ、と強調する。「排水で海を汚す、木を切って森を荒らすかつてのイメージが残っている」ことが誤解を生んでいると指摘する。製紙業界では現在、違法伐採された木は使わず、計画的に植林を行い、「自分で出した炭酸ガスは自分の森林で吸収している」という。今年は製紙連合会として、資源循環型産業であるとアピールしていく方針だ。
とあります。
これらの記事によって思いが晴れ、スカッとしたものの、それにしてもこのような認識が米国のトップクラスの人にまだあることに、がっかりするとともにその国の製紙業界の問題点と製紙産業が負っているマイナス部分の根深さをあらためて知りました。
「不都合な真実」と、アル・ゴア氏について
ここで話題の映画「不都合な真実」(An Inconvenient Truth)と同名の書籍版(アル・ゴア/著、枝広淳子/訳)の紹介をしておきます[出版社名…ランダムハウス講談社、出版年月…2007年1月、税込価格…2,940円(税抜き2800円)、頁数…325ページ](右写真参照…「不都合な真実」表紙(帯付き))。
日本では映画「不都合な真実」は今年1月20日に封切られ、地球温暖化防止への取り組みを訴え、世界に警鐘を鳴らすドキュメント映画として異例のヒットを続けました。その公開に合わせて発行された同名の邦訳書籍版は、ノンフィクションとして異例の売り上げを記録し、2月末までのわずか1カ月半で発行部数15万部を突破。特に2月26日の映画「不都合な真実」のアカデミー賞発表後は人気が再燃。映画の拡大上映が決まったり、同書籍がベストセラー化するなど社会現象化し、全国の書店から発行元のランダムハウス講談社(本社・東京)へ問い合わせが殺到したため、すぐに18万部までの増刷を決めたといわれます。「近年、環境問題への関心は高まっていますが、この書籍は堅い内容で値段も高価。当初はよくて3~5万部と発行部数を予想していただけに正直、反響の大きさに驚いています」と同社はびっくりされたとのこと。
同書は25カ国で出版され、各国でベストセラーになっているということですが、読み手が大人対象に作られていることから、米国の発行元ランダムハウスでは、中学生など子供を対象にした分かりやすい解説付きの書籍の発行を決め、現在、編集作業中とのことです。また、ランダムハウス講談社でもその日本語訳の発刊に向けて準備を進めている由。
本書「不都合な真実」でゴア氏は、「地球温暖化」による地球の終末的事態に警鐘を鳴らします。人類にとって「不都合な真実」とは温暖化の元であるCO2の増加による人類壊滅の真実だと彼は結論づけました。そして「京都議定書」の理念を守り、世界中の人がCO2の削減にできることをすぐ行動してほしいと具体的なメッセージを出しています。その中に前述の気になる部分があるわけです。
さらに本書の印象的な箇所について触れます。序文で「『死と税金以外に確実なものはなにもない』とよく言われるが、私(ゴア氏)は少なくとももう1つ、動かしがたい事実があることを知っている。人間が引き起こした温暖化はそれが確かな事実というだけでなく、どんどんと危険になりつつあり、その勢いから今や地球全体の緊急課題となっているということだ。」。私たちが直面している気候の危機は、ときにはゆっくりと起こっているように思えるかもしれない。しかし、実際にはものすごい速さで起こっている、とし、紹介してるのが、おなじみの「昔の科学実験」(ゆでカエル現象)です。「沸騰しているお湯にカエルが跳びこむと、カエルは次の瞬間、ぴょんとお湯から跳び出します。瞬時に、その危険がわかるからです。同じカエルを生温かい水の入ったお湯に入れて、沸騰するまで少しずつ温度を上げていくとどうなるでしょう? ただじっとしているのです。熱湯になっても気づかず、そして最後にカエルはゆで上がって、やがては死んでしまう」という話です。今の人類はこのカエルと同じ程度の危機察知能力しか持ち合わせていないということを、この「ゆでカエル現象」で例示していますが、ゴア氏はこの最後の一文を「…そして最後にカエルは救出されるのでした」としています。
「地球のためにあなたができる最初の一歩は、この事実を知ることだ。切迫する地球温暖化へ危機感を持つこと」。そして「温暖化は大きな危機だが、そこには状況を改善するチャンスが残されている」。「『不都合な真実』も、警鐘を鳴らすだけでは終わらない。私たちにできること、例えば白熱灯の電球を省電力型の電球に変えるなど省エネ家電を使う、リサイクルを心がけるとか、冷暖房の設定温度を2度緩める、移動に公共の交通機関を意識的に使う、車の燃費基準を上げる、再生可能エネルギーを使うなど、環境にやさしい生活を続けることでCO2の排出量を70年代のレベルに引き下げることが可能だ」とゴア氏は力説しています。
なお、「不都合な真実」の著者である米国のアル・ゴア前副大統領は、自らが地球温暖化の実態を解説し、地球温暖化の現状についてリポートし、訴えているこの映画で米国アカデミー最優秀長編ドキュメンタリー映画賞・最優秀オリジナル歌曲賞を受賞しました。そのゴア氏は下院議員だった1970年代後半から環境政策を訴え、92年にはブラジルでの地球サミット、97年の京都議定書では副大統領として交渉にも参加。世界中の議員と環境問題について意見交換する国際的なネットワークをつくってきました。現ブッシュ大統領に僅差で敗れた2000年の大統領選挙後は、地球温暖化の実態を直接市民に訴えるため資料映像を抱えて世界各地を講演しながら回っているということてす。
追記…2007年10月13日
ゴア氏にノーベル賞!!
ノルウェーのノーベル賞委員会は10月12日、2007年のノーベル平和賞を、地球温暖化問題について映画などで世界的な啓発活動を行った前米副大統領のアル・ゴア氏(59)と、国連の「気候変動に関する政府間パネル(IPCC、事務局・ジュネーブ)」に授与すると発表しました。授賞理由は、人間の行為によって起きる地球温暖化問題について広範な知識の蓄積と普及に努め、必要な対応策の基礎づくりに貢献したことだそうです。
なお、著書「不都合な真実」のシンプル版が米国でこの春に刊行されましたが、その日本語版「不都合な真実 ECO入門編」(廉価版、定価1200円、ランダムハウス講談社刊)が6月末に、また7月の初めには、映画「不都合な真実」の日本語版DVDも発売されています。