古紙利用率と古紙回収率も低位の米国、途上国なみのレベル
大量生産・大量消費の超製紙大国、米国は大国ゆえに古紙の消費量、回収量についても他の国と比べると群を抜いて多いのですが、その効率を表す古紙利用率と 古紙回収率でみると劣っています。それを下表に示します[日本製紙連合会「紙・パルプ」紙・パルプ産業の現状(2007年版など)…素資料:RISI、 PPIアニュアル・レビュー(注)古紙利用率=古紙消費/紙・板紙生産量]。
古紙利用率(%) | 古紙回収率(%) | |||||||
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2000年 | 01年 | 04年 | 05年 | 2000年 | 01年 | 04年 | 05年 | |
米国 | 42.0 | 41.2 | 38.1 | 39.8 | 48.7 | 48.7 | 47.5 | 52.4 |
EU | 43.5 | 46.6 | 46.7 | 47.2 | 48.5 | 54.3 | 56.1 | 60.3 |
日本 | 57.3 | 58.0 | 60.7 | 60.4 | 57.8 | 61.5 | 68.4 | 70.9 |
上表は最近の古紙利用率・回収率を日米欧(EU)で比較したものですが、米国の古紙利用率、回収率ともここ数年大きな伸びがなく、ほぼ横ばい状態にあるといえます。すなわち、米国の古紙利用率は40%前後で、古紙回収率は50%前後で推移しています。これに対して、EU(欧州連合)と日本は古紙利用率、回収率とも年々着実に向上しており、しかも米国よりもそれぞれEUは10%くらい高く、日本はおよそ20%高いレベルにあります。例えば、2005年の米国の古紙利用率は39.8%、回収率は52.4%であるに対して、日本はそれぞれ60.4%、70.9%で、米国はわが国と比べて20ポイントくらいも大きく低下しています。それぞれの国の事情があるにしても、数値的に見れば古紙利用率はわが国の80年(41.5%)のレベルであり、また古紙回収率は97年の53.1%とほぼ同じ水準であると言えます。特に紙のリサイクルを示す古紙利用率は、日本の25年前の水準であり、随分遅れていると言わざるを得ません。
このように古紙利用率、すなわち一度使った紙の再利用の面では米国は進んでいません。このことは米国は紙・板紙の多量生産・消費国で、古紙の多量消費国ですが、その再生利用については途上国であり、まだまだ不十分と言えます。前世紀的な経済最優先の大量生産・大量消費の大国であると言えます。これに対して、わが国は世界でも有数の紙・板紙の生産・消費国であり、古紙の消費国ですが、古紙利用率と古紙回収率の両面で大きく進んでいる世界トップクラスの先進国のあると言えます。
なお、古紙のリサイクル、すなわち古紙利用率の程度は各々の国の事情によって大きく異なるようです。例えば森林国で主要製紙国である北欧、カナダ、米国等においては主として木材パルプを利用しており、古紙リサイクルというよりも、むしろ森林の持続的経営を目指して植林などに関心があるようです。ちなみに、これらの国の古紙利用率(05年)はフィンランド5.5%、スウェーデン17.4%、カナダ30.2%、米国39.8%というように低位にあります。逆に、世界ナンバーワンの韓国の79.5%、さらにドイツ63.2%、中国62.7%、そして日本の60.4%が続きます。韓国の古紙利用率が高い理由として、まず森林資源が乏しいことが挙げられます。自国では木材からの新しいパルプ製品があまり生産されず、古紙利用製品の生産が主体となっているからです。また、古紙利用率の高い板紙の比率が多いこともその要因です。このように国によって紙の主原料が、森林か古紙か、あるいはその両方かの違いにより古紙利用率に影響し、製紙業における消費エネルギー原単位などにも差を生じてきます。
地球環境対策に消極的な米国?
こう見てきますと、ゴア氏の記述もあながち間違っていないのかも知れません。これまで米国の製紙産業レベルを見てきましたが、ここで「地球環境」(温暖化対策)に取り組む米国について最新評価を掲げておきます。
6月7日付の日本海新聞(共同通信社配信)によれば、国際環境保護団体「世界自然保護基金」(WWF)は、地球温暖化問題が焦点の主要国首脳会議(ハイリゲンダム・サミット…6月6~8日開催)に出席する8カ国の温暖化対策を評価した「気候成績表」を6月5日までに発表した。成績表は、温室効果ガスの削減実績、国民1人当たりの同ガスの排出量、エネルギー効率、国内対策など12項目について検討し、総合的に評価した結果を-2.5~+2.5の範囲で点数化したもの。中間点のゼロは、地球の温度上昇が危険なレベルに達しないために最低限必要な対策を取っていることを示す。
集計の結果、上位は議長国ドイツが+0.10の最優秀で面目を保ち、京都議定書の基準年(1990年)より排出量を減らしているフランス(+0.04)、英国(+0.00)と続いた。
日本は4位で、成績は芳しくない。産業分野でのエネルギー効率などではトップだが、基準年から排出量が増えている上、強制的な削減措置と長期的な削減目標がないことが響いて-0.22という低い評価だった。最下位は排出量を大幅に増やし、政府レベルでの国内対策もあまりない米国の-1.24。イタリア(-0.38)、ロシア(-0.94)、カナダ(-1.12)も点数が低かった。WWFは「ドイツ、フランス、英国は合格点だが、対策を強化しないと排出量が上向く。日本、イタリアは努力しているが、十分には程遠い。ロシア、カナダ、米国は落第」と評価している、と報じています。米国はここでも環境対応を示す地球温暖化対策で主要8カ国中、最下位の落第評価となっています。
このように米国は政府レベルでも地球温暖化対策対応について遅れをとっております。自国の「経済成長」を最優先にし、米国は世界一のエネルギーの最多消費国であり、地球温暖化の主力原因物質である二酸化炭素の最大の排出国でありながら、「京都議定書」を離脱し、「地球環境問題」への対応を従にしている現状が浮き彫りになっています。この政府レベルの「環境」に消極的な姿勢が米国の産業・企業レベルでも「環境」よりも「経済」を優先することに結びついていると思われます。そのため米国の紙パ産業が上記のように「環境」よりも、いまだに前時代的な「大量生産・大量消費主義」の状態にあると言えます。どうして「経済」(大量生産・大量消費主義)と「環境」の両立、共存を模索しないのでしょうか。
なぜ、米国では古紙の再利用があまり進まないのか
それでは、なぜ米国において古紙の再利用があまり進まないのでしょうか。このことについて、日本紙パルプ商事株式会社のホームページ「海外レポート(米国古紙事情)(2004.03.10付)」に載っていました。それには広い国土を持ち森林資源が豊富な米国特有の理由があるようだと、次のように説明されています。「米国において、製紙原料に古紙よりも木材チップが多く使われている理由として、まず挙げられるのが、木材チップ調達の容易さです。製紙原料となる木材チップには、製材過程で生じる端材が利用されます。米国では、製紙会社の多くが大規模な森林経営や製材事業を兼営しているため、自社の製材事業で生じた大量の端材を安定的に、低コストで入手することができるのです。
一方、古紙には、オフィスや住宅が多い都市部での発生量が圧倒的に多く、地方での発生量が少ないという事情があります。一般に製紙工場は、都市部から離れた郊外や地方に立地しており、国土の広い米国では、都市部で回収された古紙を遠方の製紙工場に運搬するために多大なコストがかかるのです。
以上のことから米国では、製紙会社が古紙を製紙原料として使用するメリットは、それほど大きくありません。紙を使用する側の、再生紙を求める声も高くはないようです。米国では白い紙が好まれる傾向が強く、環境負荷の低減に配慮し、古紙の配合率が高く紙の白さを抑えた印刷用紙やコピー用紙を積極的に使うという、日本のような動きは見られません。国土が広く資源豊富な米国では、歴史的に使い捨て文化が定着しており、このことが古紙利用の気運が高まらず、古紙回収率が上がらない要因になっているとも言われています」。
そして米国では、古紙の再資源化に限らず、一般的に経済性が伴わない事業には積極的ではないといわれます。そのため、今後、米国において古紙の回収率や利用率をより向上させるには、分別回収や再資源化を経済性の高いビジネスとして確立していく必要があると考えられています」と結ばれています。
古紙リサイクルの意義
ここで今一度、古紙リサイクルの意義についておさらいしておきます。紙は、主として情報伝達媒体、包装材、衛生用として利用される消費財であることから、一般的に多量生産、多量消費されるものの、産業活動、国民生活に不可欠なものです。一方、紙は、主として植物繊維を絡ませてできたものであることから、リサイクルが比較的容易であるとともに、一般に、環境に優しい素材であると言われます。また、紙は、必ずしも枯渇資源を消費して造られるものではなく、その主原料である木材などは植林等により再生可能な資源であるという側面もあります。このような素材である紙のリサイクル、いわゆる古紙の再利用を進めることは、以下のような意義があると考えられています。
①廃棄物の減量化
いわゆる、ごみの減量に結びつきます。
②資源の有効利用
古紙は製紙原料として重要な位置付けにあり、今後とも有効に活用すべき資源です。
③森林資源の保護
そのため古紙リサイクルの促進は、古紙利用分だけ森林資源の利用を減少させ、その意味で森林資源の保護に寄与することとなります。
ただし、紙パルプ業界で利用するパルプ材(木材チップ)については、わが国のように通常、低価格の製材用の残材や曲がった木などの低質材を利用したり、積極的に進めている持続可能な植林材(人工林)を活用しており、製紙原料目的で天然林を伐採するようなことはほとんどありません。したがって、パルプ材の利用が森林の減少の直接的な原因となるわけではありません。しかし、製紙原料として良質な木材を使用しているような国などでは古紙の再利用は森林資源の利用を減少させ、森林を保護することになります。
以上の三つの観点から、古紙のリサイクルを促進していくことが望まれるわけです。古紙回収率と古紙利用率が先進国の中でも劣り、低迷している米国は、少なくとも「棄てればただの紙屑で有料ごみ、利用すれば有益な資源」となる古紙の有効活用に遅れをとっていると言えます。