コラム(67-5) 「不都合な真実」世界に向けて、期待したい日本の製紙産業

わが国の古紙利用率と古紙回収率は年々上昇しており、06年の古紙利用率は60.6%と60%超えを維持・向上、また古紙回収率は72.4%と、ともに世界トップクラスにあります。さらに、古紙利用率は2010年度までに62%の目標を達成すべき、現在、挑戦中です。

ところで古紙の中には、トイレットペーパーなどの衛生用紙や建設用資材のように回収不可能なものや、書籍などのように極めて長時間にわたって保存されるものとか、永久保存されるものもあり、すべてが古紙として回収されるとは限りません。回収可能な古紙の限界率、いわゆる古紙回収可能限界率(回収可能率)は条件によって可変ですが、10年前ころは約68%程度と試算されていました。これだと現状の古紙回収率72%は限界を超えています。そういう面では、現在の古紙回収率はほぼ限界のハイレベルに達していると言えます。

しかし、今後とも廃棄物の減量、資源の有効利用、森林資源の保護などの面からも、「紙のリサイクル」を促進するために、古紙の回収とその再利用は継続し、向上すべき大きな課題であると考えます。ちなみに、06年の内訳をみると板紙向け古紙利用率が92.7%に対し、年々向上しているものの、紙向けの古紙利用率が38.1%と、まだ低いのが現状です。今後この利用率を向上させるためには、紙分野(印刷・情報用紙、新聞用紙など)での古紙利用率を高めていくことが必要です。

このように植林事業を積極的に行い、森の育成と再生をしており、しかも製材の残材や然林の健全育成、保護のために伐採した間伐材などを使っており、棄てられてゴミとか燃料などしかならない廃材を資源として有効活用しています。また古紙も多く使っています。

このように日本の製紙産業は、あまり汚染物質をだしていないし、持続可能な森林経営により育成される森林だけを資源とする木材原料を調達する「森のリサイクル」と、古紙を利用して再生紙を提供する「紙のリサイクル」をし、高いリサイクル率を達成しています。製紙産業は森林と紙という主原料を再生できる極めてユニークな産業で、「環境の世紀」と言われる21世紀はもちろん、将来にわたって最も球環境にやさしい産業であるといえます。決して紙パ産業は森林を破壊する元凶ではなく、むしろ「みどり」を育む環境型の産業であるといえます。この中で、品質・安全性対応など、さらに安心して使用してもらえる製品(商品)作りに努めていると言えます。

高度な「紙のリサイクル」(古紙の再利用)は紙の消費が必ずしも森林破壊につながるとはいえません。大切な森林を多量に伐採しているということは不適当であてはまりません。「森のリサイクル」(植林事業と廃材の再利用)も進んでおり、むしろ捨てられる資源を有効活用している環境に優しい企業であるといえます。

「紙のリサイクル」(と「森のリサイクル」などの早期達成、そしてさらなる向上目標への更新と挑戦による成果向上と、製紙業界のこのような努力と大きな成果と、また製紙連を中心にした道な広報活動などにより、今は理解が進み、かつては「球環境破壊産業」と言われた紙パ産業は「環境対応型産業」と認められるようになってきました。このように、わが国の製紙産業は努力と実績により、過去の悪いイメージもかなり払拭されるとともに、「紙を作るために木を切ることは悪いことだ」という考え方は、わが国では理解が進み、非常に少なく稀になってきていると思われます。

と言うのも以前はたびたび見かけたものでしたが、このごろでは新聞、テレビ、雑誌、インターネットなどのマスメディアで、製紙のために「木を切ることは悪いこと」であると表現されていることは見かけなくなっていたところだからです。それが今回の文部科学省による全国学力テストの問題です。「紙の原料である森林を守るためにも、古紙を利用して、むやみに木を切ることがないようにする必要があります」と、5年前の高校入試問題(鳥取県)の「紙袋は木からできており、沢山の木が切られている」という直接的な表現でなく、かなり柔らかく穏やかな文章になっているものの、まだまだ根深いようです。現在も進行中ですが、製紙業界と各企業のさらなる継続的な努力と熱心な対応が必要と考えます。

これに関連して日本製紙連合会のホームページに「連載コラム 紙のお便り」として第2回「切ってはいけない木。切らなければいけない木。」が載っています。3年ほど前のものですが、ここに引用させていただきます。紙づくりのために「森林を経営する」という考え方で、積極的に植林事業を推進し、再生可能な資源である木材を計画的に使用することは、森林保護とは矛盾していないと、このコラムで十分理解できますが、今なお払拭できていない製紙産業に対する悪いイメージや根強い誤解を取り除くために、「紙の消費は森林を減少させ、破壊するのか?」「製紙のために木を切ることは悪いことか?」そのものずばりに対する回答を日本製紙連合会で整理して、あらためて広く公表、PR等の広報活動していただくと良いのではないでしょうか。

 

切ってはいけない木。切らなければいけない木。(日本製紙連合会)

紙づくりには、原料となる木が不可欠です。だから「森林の保護」は、製紙産業にとって業界の存続に関わる重要課題。そう言うと「木を切りながら森林保護とは矛盾している」という意見をいただきます。そこには、森林と人の関係に対する誤解があるように思います。

日本はもとより、世界中を眺めても、人の手がまったく入っていない原生林はごくわずか。球上の森林のほとんどは、長い時間をかけて人間が育ててきたものです。間伐して木々の間に風を入れたり、余計な枝を払い下草を刈って幼木に陽を当てたりすることで、森林は健康に育ちます。そして紙づくりには、こうした作業で発生した間伐材も使用されます。よく「自然は放っておくのがいちばんだ」という声を聞きますが、もしも人間が手を入れるのをやめると、森林は荒廃してしまいます。人と森は、共存関係にあるのです。木材は、再生可能な資源。切った分、また木を植えれば、森林資源は維持されます。

製紙業界では「紙にする木は自分たちで育て、計画的に使用しよう」と、積極的に植林事業を推進しています。「森林を経営する」という考え方が、今、世界の主流となっていることを、ぜひ知っていただきたいと思います。(紙のお便り2004年10月1日)

 

まとめ…世界に向けて、期待したい日本の製紙産業

そろそろゴア氏の記述に対するまとめをしなければなりません。本書の中にはゴア氏にとって自国である米国が、一人当たりで世界最大の温暖化ガス(温室効果ガス)排出国でありながら、進まない自国の球温暖化対策、いやむしろ先のクリントン-ゴア政権の時代よりは球温暖化対策を進めないで、後退している現政権、また企業などが削減義務を負う手法になお消極的なブッシュ政権である自国に対する焦燥感が窺えます。そして問題の「製紙は、最も汚染がひどく、森林に破壊的な影響を与えている産業の1つである」とか、「紙を作るために木が伐採されている」の記述は、エネルギー対策や古紙の再生利用に遅れをとっている上に、成長量よりも伐採量が多いされる森林を潤沢に使用する自国の製紙産業に対しての不満の表れとも考えられます。これによって温暖化対策に努力不足の製紙産業に警鐘を鳴らしたのではないでしょうか。

ここで最近の米国の動きについて日本経済新聞(6月27日付)「米、草の根から温暖化対策」を載せておきます。「先の主要国首脳会議(ハイリゲンダム・サミット)で『50年までに温暖化ガスを半減』する目標に合意したとはいえ、なお消極的なブッシュ政権の中で、米国の自治体や大学で球温暖化対策に取り組む動きが広がっている。米政府が離脱した京都議定書に賛同する市の数は、全米の市が連携を取り始めた2005年3月の60倍程度に拡大。約300の大学は温暖化ガスの排出を抑制する初の協定を結んだ。域から全米に広がる動きは、大統領選挙など連邦レベルの意思決定にも影響を及ぼしそうだ。」というものです。ゴア氏の「不都合な真実」の影響もあるようですが、米国も少しずつ変わりつつあるようです。

話をもとに戻します。先のゴア氏の指摘は自国(米国)に対してですが、特に最近、経済発展の著しく、新興工業国として公害や森林破壊が問題になっていると伝えられる中国についても、ほぼ的を射たものではないでしょうか。

それではわが国についてはどうでしょうか。ゴア氏自身がどう思っておられるか分かりませんが、努力し、上記のように汚染が少なく、エネルギー対策や古紙の再生利用、植林・育林事業に積極的であり、加えて違法伐採・不法輸入の木材・木材製品の不使用を決めるなど「球環境」対応が進んでいる現在の日本の製紙産業には、ゴア氏の指摘は当てはまらないのではないかと考えます。それは冒頭のように、日本製紙連合会会長がゴア氏の問題記述に不満を述べておられるのが、その証しだといえます。それくらいわが国の製紙産業は努力し、世界のトップクラスの球環境にやさしい資源の「持続・循環型産業」となり、リーダー的存在になったということだと思います。

しかし、それでも「製紙のために木を切ることは悪いことだ」という考えが、わが国にもまだまだ根強くあります。この製紙産業に対する昔の悪いイメージと誤解を拭い去るために、今後とも絶え間ない業界の改善・向上努力と根気のいる広報活動が必要と考えます。そのためにわが国、日本製紙連合会が中心になり、牽引力となって日本のみならず、世界の紙パルプ産業のために是非とも頑張っていただきたいと思います。

(2007年7月1日)

 

参考・引用文献・ウェブ

  • 「不都合な真実」(アル・ゴア/著、枝広淳子/訳、ランダムハウス講談社刊(2007年1月))
  • 日本経済新聞3月26日付「回転いす」
  • ホームページ「不都合な真実」間違いあり…日本製紙連合会会長
  • ホームページ映画「不都合な真実」公式サイト、公式サイト:www.futsugou.jp
  • 日本製紙連合会「紙・板紙統計年報」(平成18年版)
  • ホームページ日本製紙連合会「紙・板紙統計資料」
  • 日本製紙連合会「紙・パルプ」特集号 紙・パルプ産業の現状(2007年版)
  • ホームページ神戸大学附属図書館、新聞記事文庫製紙業(03-183)
  • ホームページ熱帯林行動ネットワーク(JATAN) ~森林破壊の環境問題に取り組むNGO、紙と森林伐採~アメリカ南東部
  • ホームページ第2節 部門別エネルギー消費の動向
  • 日本海新聞2007年6月7日付記事「温暖化対策日本は4位(WWFが成績表)」
  • ホームページ日本紙パルプ商事株式会社、海外レポート(米国古紙事情)(2004.03.10付)
  • 日本海新聞2007年5月18日付海潮音(新日本海新聞社刊)
  • 「紙への道」コラム(1) 紙と森林…木を切ることは悪いことか、紙・紙パ産業は悪か
  • ホームページ日本製紙連合会、環境に関する自主行動計画、違法伐採対策に係る自主行動計画の改定について
  • 「週刊春秋」07年5月3・10日特大号…連載コラム「紙と私」(PAPER Q&A Vol.13 日本製紙連合会提供)
  • ホームページ切ってはいけない木。切らなければいけない木。(2004年10月1日)
  • 日本経済新聞6月27日付記事「米、草の根から温暖化対策」

 


更新日時:(吉田印刷所)

公開日時:(吉田印刷所)