ティッシュペーパーとトイレットペーパーの違いは?
次に、よくある質問や疑問点で「ティッシュペーパーとトイレットペーパーの違いは?」がありますが、この点について触れます。
ティッシュペーパーとトイレットペーパーはともに身近な紙として使用されています。その特性は、ティッシュペーパーは柔らかくて感触がよくて、吸水性もよく、水に対して適正な強さを持っていることです。またトイレットペーパーは、適度の柔軟性があり、水にほぐれやすくいことです。そして両方の共通点は衛生的で、薄くて柔らかいことです。
このように両者は似たような紙ですが、日常的にうまく使い分けされているようです。まず、製品の形態がトイレットペーパーは、普通は円筒状に巻いたロール紙(巻取り紙)になっているのに対して、ティッシュペーパーは紙自体が矩形(くけい)状のシートになっており、何枚(組)か単位でボックス(箱)に入っており、外観的にも見分けがつきます。
またトイレットペーパーには、今や日本語になっている「トイレ」(トイレット)という言葉がそのまま使われており、「おとし紙用(便所用)」と用途がはっきりしていることも間違えにくくしています。しかも、ティッシュペーパー入りのボックスには「このティッシュペーパーは水に溶けにくいので、水洗トイレでは使用したり捨てたりしないでください」と注意書きがあり、誤使用されないように喚起されています。これも見た目で両者の使い分けや使い道を間違えないようにしている方策のひとつです。なお、「紙が水に溶ける」という表現について説明しておきますと、これは正確な表現ではありません。しかし便利な表現なので、このように使われることがあります。「溶ける」とは液体にある物質が混ざって溶解し、均一な液体になることで、食塩などが水に溶解するときに使います。これに対して、紙の主原料であるパルプ繊維自体は水に溶けないで、水中でほぐれてバラバラに散らばった状態になります。これを分散と言います。従って、繊維が分散している水をろ過するとろ紙上に残り、繊維を回収することができます。
大きな違いは水に対する抵抗性
ここで、このほかの両者の主な違いについて列記しておきます。①シングルかダブルか、すなわち1枚のシングルのもの(1-ply、ワンプライないしシングルプライ)か、2枚のダブルのもの(2-ply、ツープライ、もしくはダブルプライ…2枚重ね)か、②クレーピングとエンボス加工、③水に対するほぐれやす、④パルプ原料差などですが、以下に順不同で説明していきます。
このなかで「両者の大きな違いは何か?」。それはティッシュペーパーは水に溶けにくく、トイレットペーパーは水に溶けやすいことです。これは持って生まれた品質で、見た目や感触では分かりにくいのですが、水に浸(つ)けてほぐして見れば分かります。この水に対する耐性(抵抗力)の差が両者の大きな違いと言えます。この性質はそれぞれの用途に必要な最重要品質であり、それに合うように造られているからです。
ティッシュペーパーは主に鼻をかんだり、化粧時や、時にはテーブルを拭いたりするなどにも使われ、トイレットペーパーはトイレで用を足したときの後始末に使用されますが、このような用途に適した造り方がされています。すなわちティッシュペーパーは、鼻をかんだときなどに水を含んでもすぐにほぐれたり、破れないような強さが最も要求されます。これに対してトイレットペーパーは使用時にすぐに溶けてしまっては困るし、使用後、トイレ(配水管)が紙で詰まらないように、水に流したときにすぐに溶けなくてはは困ります。そのために、そのように製造されています。この性質が両者の品質上の大きな違いです。
そしてその性質を付与するためにティッシュペーパーには、製造の過程で「湿潤紙力増強剤」(湿潤強力樹脂)と呼ばれる柔らかい薬品が加えられ、パルプ繊維同士を結合しています。これによって耐水性を持ち、水に対してすぐには破れにくい強いくなり、しかも肌ざわりが柔らかく弾力がある紙となります。
そのためティッシュボックスに、上述のように「このティッシュペーパーは水に溶けにくいため、(水洗トイレで流すと、配水管を詰まらせる危険がありますので)水洗トイレでは使用したり捨てたりしないでください」などと使用上の注意が表示されているわけです。なお、この「水洗トイレでは使用したり、捨てたりしないこと」の注意書きは、日本工業規格(ティッシュペーパー JIS S3104)で名称、寸法、枚数などとともにティッシュペーパーの箱に表示しなければならないと決められています。
これに対してトイレットペーパーは水に溶けやすいことが必要ですので、ティッシュペーパーのような「湿潤紙力増強剤」は添加されていません。
それでは、ここでティッシュペーパーとトイレットペーパーの比較写真を次に掲げます。この中で水に浸したときの写真1を、また写真2には、それぞれの表面写真を示しますが、各々について説明していきます(写真は王子製紙株式会社 製紙技術研究所資料)。
ティッシュペーパー | トイレットペーパー | |
---|---|---|
写真1(約70倍) | ||
写真2(約10倍) |
写真1は紙を水に浸して、軽くかき回した場合の拡大写真ですが、ティッシュペーパー(左)のパルプ繊維の絡みはまだしっかりしています。これに対して、トイレットペーパー(右)のほうは繊維の絡みがほどけやすい状態になっています。このようにティッシュペーパーはトイレットペーパーより水に強いことが分かります。逆にトイレットペーパーは、かき回せば水中でほぐれてバラバラになりやすいわけです。
それでは湿潤紙力増強剤が含まれていないトイレットペーパーは、どうやってくっついているんでしょうか? それは「薬品」でなくて「パルプ繊維同士」が水素結合して、結びついているのです。もちろん、ティッシュペーパーは「パルプ繊維同士」の結びつきがある上に、適正品質付与のために「薬品」添加が加わって増強されているわけです。
蛇足ながら、もう少し説明します。紙が形を保ち、強さを保持しているのは、繊維間の絡み合いによる機械的な力だけでなく、セルロース分子間に水素結合という化学力が働いて繊維同士が引き合っているからです。この化学的な力が働いて繊維同士が引き合って紙が形成されるのもワイヤーパートからドライヤーパートの過程でできあがります。
この場合の水素結合は、セルロース分子内にある多数の親水性である水酸基(ヒドロキシル基、OH基)の酸素原子が余分の電子を持って、他から水素原子核を引き付けるために起きます。そして近くにある水酸基間で、相互に水素を介した酸素の結合(-O-H…O< 水素結合…の部分)ができあがります。
その結合力は通常の化学結合(共有結合)よりは弱いのですが、長い高分子が無数の水素結合を行うと全体では強い力となり、紙になるときに、この水酸基はシートを形成して強度を発現させるという重要な役目を果しています。すなわち紙製造の段階で、紙料から脱水の過程でお互いにセルロースが接近しますが、水の表面張力で繊維同士がくっつき、さらに水の蒸発にしたがって、ますます繊維同士が引き寄せられます。
例えばドライヤーで乾燥しますと、次第に水分が蒸発して繊維同士が接近してくるわけですが、接近しますと水酸基と水酸基の間で、水素結合と呼ばれる結合が発生し、これが紙の強度を高めます。このように接着剤(薬品)を使わなくてもセルロースの持つ水酸基間で自己接着性が発生するわけです。そしてほどよい乾燥を受けるとセルロースから水和していた水が除かれて繊維本来の柔軟な硬さにもどり、弾性を持った紙の組織ができ上がります。これが製紙の原理です。なお、乾燥し過ぎると、水和していた水分子が喪失して、弾性を失い紙は次第に硬くなります。(注)水和…水分子(H2O)が水素結合して、セルロース中の親水性の基である水酸基と容易に結合し、一つの分子集団を作る現象。
それでは「薬品」でなくて「パルプ繊維同士」が水素結合して、結びついている通常の紙を水に浸けたらどうなるのでしょうか。写真1のトイレットペーパー(右)の説明になるのですが、ちょっと触れます。紙を水に浸けると、水が繊維と繊維の隙間に入り、繊維と繊維を結びつけていた水素結合は解消してしまいます。かき回せばやがて、絡み合っている繊維がほぐれて水中に散らばり、ドロドロしたパルプの懸濁液ができます。これが離解で、紙造りの逆を行っているのです。本来紙は水に弱いものなのです。(注)ほぐれる(解れる)…もつれたり巻きついたりしていたものが、とけはなれる(広辞苑)。ここでは絡み合っているパルプ繊維がバラバラになり水中に分散することの意。
このように紙は水に浸すと弱くなる性質を持っていますが、「湿潤紙力増強剤」を加えれば、水に対する抵抗性が強まり、水に浸けてもある程度の紙力を保たせ破れにくくする性質が付与されます。なお、湿潤紙力増強剤はティッシュペーパー以外にも紙タオルやお札などに使用されています。
「ほぐれやすさ」について
次にトイレットペーパーの「ほぐれやすさ」について説明します。トイレットペーパーの品質は、使用に際しての衛生性と適度のふき取り性および水に対するほぐれやすさを確保するため、日本工業規格(トイレットペーパー JIS P4501-1993年(平成5年3月1日改正))に、使用上の欠点がない項目とこれらを数量的に規定した坪量、破裂強さおよびほぐれやすさが下記のように規定されています。
トイレットペーパーは、衛生的で適度の柔軟性があり、水にほぐれやすく、すきむら、破れ、穴など使用上の欠点がなく、決められた試験方法によって試験し、次の品質の規定に適合しなければならない。
坪量g/m2 | 破裂強さkPa(10枚) | ほぐれやすさ s |
---|---|---|
18以上 | 78以上 | 100以内 |
ここで坪量は紙1枚の1m2当たりの目方を示し、柔軟性への要望に対応して、以前は20g/m2以上でしたが、18g/m2以上と改正されました。しかし、紙の強度(破裂強さ)は、坪量を低減しても弱くならないように従来のままに設定。また、トイレットペーパーの水に対するほぐれやすさの試験方法は次のように規定されています。
ほぐれやすさの試験は、水300m(水温20±5℃)を入れた300mlのビーカーをマグネチックスターラーに載せ、回転子の回数を600±10回転/分になるように調整する。その中に一辺が114±2mm角の試験片を投入し、ストップウォッチを押す。回転子の回数数は試験片の抵抗によって、いったん約500回転に下降し、試験片がほぐれるに従い回転数は上昇し、540回転までに回復した時点でストップウォッチを止め、その時間を1秒単位で測定する。ほぐれやすさの結果は、試験を5回行い、その平均値で表す。
ほぐれやすさの数値は100秒以内と上限値だけが決められていますが、あまりほぐれすぎても使いにくくなりますので、下限値の規定が必要です。これについては今後の検討課題とされています。