コラム(68-4) 紙・板紙「書く・拭く・包む」(3)ティッシュペーパーとトイレットペーパーの違いは? 2

もうひとつの違いと特徴、紙表面へのクレープ付けとエンボス加工

ここで上掲の写真2の説明をします。写真2はそれぞれの表面写真ですが、ティッシュペーパーの方にはクレープ(しわ、ちりめん皺)状の凹凸が見えます。一方のトイレットペーパーはクレープのほかに、肉眼でも分かるエンボス加工による少し大きめで深めの凹凸があり、そのため紙表面にデコボコが目立ちます。ところで新聞用紙やコピー用紙、チラシなどに使われている塗工紙などの印刷される紙の表面は、デコボコが少なく手で触っても滑らかで、むしろ平滑な紙が好まれるのですが、ティッシュペーパーやトイレットペーパーには凹凸があります。しかもこの凹凸は製造の段階でわざわざ付けられているのです。何故でしょうか。

それは紙に柔軟性を持たせるためです。ティッシュペーパーやトイレットペーパーが柔らかい感触を持っているわけは、このデコボコしている表面のエンボス構造にあるのです。

それでは各々について説明します。まずティッシュペーパーですが、薄く抄きあげた湿紙は大きなヤンキードライヤーで乾燥されます。そのドライヤーから紙を剥がすのに、クレーピングドクター(皺つけ掻き取り装置)と呼ばれるブレード(刃)が使われますが、そのドクターでクレープと言われる細かなしわ(襞(ひだ))がつけられます。それによって薄い紙は膨らんで、弾力を持った柔らかい紙が出来上がります。

またトイレットペーパーには、このクレーピング(しわつけ)に加えて、さらに紙に凹凸のある型を押し付けて、エンボスといわれる凹凸を入れます。この加工法を「エンボス加工」と言いますが、このエンボスによってさらに柔らかくて肌触りがよく、フンワリとボリューム感のある紙に仕上げられます。なお、ティッシュペーパーの標準坪量13g/m2に対して、トイレットペーパーは20g/m2ですので、重いほど柔軟性が下がりますが、これをエンボス加工で補っているわけです。

ところでティッシュペーパーやトイレットペーパーへのクレープは、ドライヤーとリールの間にわずかな速度差をつけて、すなわち「ドライヤーパートまでの回転速度」>「巻取り(リール)の回転速度」として、ドライヤーに当てたクレーピングドクターで紙を剥がすときに作られますが、しわ(皺)の深さやピッチなどの程度は掻き取るブレードの角度で調節します。この場合、紙を完全に乾燥した後にしわを付けるので「ドライクレープ」と呼ばれています。

 

ティッシュペーパーは2枚重ね、その効果は

次にシングル、ダブルかについてです。トイレットペーパー製品には、1枚のシングルのものと2枚のダブルのもの(2枚重ね)があります。シングルものを使うか、ダブルのものを使うかは、購入する人や使う人に選択できます。これに対してティッシュペーパーは3枚重ねもあるということですが、1枚ものはなく、そのほとんどは2枚重ねです。これもトイレットペーパーとの違いのひとつであるといえます。それではどうしてティッシュペーパーは2枚重ねになっているのでしょうか。その理由は、薄いことにあります。

ここでティッシュペーパー2枚(1組)を取り出していろいろと観察しましょう。その1枚を見るわけですが、まず、どちら側が2枚重ねのときの外側の面か内側の面かを確認しておきましょう。それではティッシュペーパー1枚を目の前に立てて透かしたり、少し斜めにして見てください。さらに表裏(外側の面と内側の面)を手で触ったり、またルーペ(拡大鏡)があれば、それで見てください。表(外側の面)のほうがツルツルで、少し艶があり手触り感がよく、逆に反対面(内側の面)はガサガサして毛羽立っている感じのはずです。すなわち2枚重ねの外側の手や肌が当たる面は滑らかで、感触がよくなっております。しかし、逆の面はざらざらしており肌触りがよくありません。また1枚を透かせば、スカスカ状に見えますが、2枚重ねにすれば、透けにくくなりしっかりした紙になります。しかも柔軟性はさほど変わりません。

少し脱線しましたが、2枚重ねの理由は薄いと鼻をかんだときなどに破れたり、鼻水がしみ出たりします。それを防ぐために強く、滲みにくく2枚重ねにしてあるわけです。それでは何故、薄くしなければならないのでしょうか。ティッシュペーパーは鼻紙や顔の化粧落としなどの用途に使われますので、柔らかくて肌触りがよくなくてはいけません。厚ければ丈夫になりますが、ごわごわした紙になり嫌がられます。そのために薄くして柔軟性を持たせますが、あまり薄くすると、強度が劣り破れやすく、滲みやすくなりますので薄くするにも限度があります。

なお、トイレットペーパーのように深めの「エンボス加工」は薄過ぎるので不適です。そこで考え出されたのが、薄い紙の2枚重ねです。しかもティッシュボックスから2枚重ねにして、連続的に取り出せるようにポップアップ式の折り方が工夫されています。2枚を合わせると1枚の紙よりも、間に空気層の隙間ができ、ふんわり感が増し、より柔らかくできるからです。また、水分の吸収性を高める効果もあります。

ほかに2枚合わせのメリットは、2枚重ねのほうがお互いに絡み合って、同じ厚さの1枚の紙よりも破れにくくなることです。これはよく例えに出されますが、1本の太い紐(ひも)よりも細い糸を撚り合わせた紐の方がより強さが増すという具合です。

さらに2枚重ねすれば、紙の裏面同士を合わせて表面(おもてめん)だけを外側に出すことができます。そうすることによって上記確認していただいたように、滑らかで感触のよい面を2枚重ねの外側、しかも両面に持ってこれるわけです。こうした工夫により顔などに当てても肌触りのよい、しかも強度のあるティッシュペーパーが出来上がります。

これまでにも述べましたが、薄くすることによって柔軟性が増し、感触がよくなる反面、破れやすくて、ほぐれやすいという強度面は低くなり、しかも滲みやすくなりますが、2枚重ねは柔軟性と強度・滲みを両立させるための手段であったわけです。

 

さらにパルプ原料の違いも

両者の製造工程はどちらも似たようなものですが、パルプ原料の違いがあります。その違いのひとつは、木材パルプ100%か古紙パルプ100%かです。日本で生産・消費されるティッシュペーパーは、木材から直接得られたパルプ100%を原料につくられたものがほとんどで、古紙配合製品のシェア(5~6%程度と推定)は伸び悩んでいます。一方トイレットペーパーは、原料に木材パルプを使うものと古紙を使うものに分けられます。もともとトイレットペーパーは中小メーカーで製造される古紙パルプ100%でつくられた製品がほとんどを占めており、1988年ころまでシェアは80%を超えていました。ところが、大手メーカーの進出により純パルプものが徐々に増え、古紙製品のシェアが94年以降は70%を切るようになっています。なお、使用される古紙は上質系古紙が多く、飲料パックも古紙原料として使われています。

一般的に製品を古紙から製造した場合、木材をパルプ化して製造する場合に比べて総エネルギー消費量や総CO2排出量は減少します。さらに古紙製品の方がパルプ製品よりも一般的に安価であり、経済的なメリットもあります。しかし、他の用紙では古紙利用が進んでいるのに、トイレットペーパーではじわじわと古紙製品が減り続けています。いわゆる「再生紙物」が好まれなく、価格が高くても純パルプものが伸びているのは、清潔、綺麗好きの日本人の感性に合ってのことですが、使われたら二度と再生されることのないティッシュペーパーやトイレットペーパーの問題点と言えます。例えばトイレットペーパーは、ドイツでは灰色の「再生紙物」が使用されており、日本のものは世界で最も質が高いということです。

もうひとつは使用する樹種が針葉樹主体か、広葉樹主体かの違いです。すなわちティッシュペーパーには、ほぐれにくくして破れにくくするために、パルプ繊維同士が絡み合って強くなる繊維の長い針葉樹が主原料として多く使われます。逆に、ほぐれやすさが必要なトイレットペーパーには、ティッシュペーパーに比べて長繊維である針葉樹より、繊維長が短い広葉樹の割合が多くなっており、水に浸けたときに繊維の絡みがほどけやすい状態になるよう造られています。

ここでもう一度、紙を見てみましょう。ティッシュペーパーとトイレットペーパーの各々1枚を縦側と横側に沿って別々に手で破ってください。如何でしたか。

一方向に沿ってほぼ直線状に破りやすく、その直角方向は蛇行状になり裂けにくかったのではないでしょうか。比較的容易に直線的に破れ、毛羽だちが少ないほうが紙の縦方向(抄紙機の進行方向)です。反対に抵抗があり、真直ぐに破りにくく蛇行状になり、裂け目部の毛羽だちが割りと多いほうが横方向(抄紙機の横方向)です。ティッシュペーパーサンプルの長辺方向が、またトイレットペーパーの巻取り方向が比較的破れやすかったと思いますが、この方向が縦方向で、抄紙機の進行方向です。真直ぐに破りにくかった逆の側が横方向です。なお「横紙破り」という諺は、この破りにくい横方向を無理して破ることに由来するのは有名ですね。ところで、ティッシュペーパーとトイレットペーパーを比べると、羽のように軽くて薄いティッシュペーパーのほうが、むしろ破りにくかったのではないでしょうか。また、裂け目部の繊維状の毛羽だちもトイレットペーパーより目立っていると思います。これは上記のように、ティッシュペーパーのほうに長繊維の針葉樹が多く使用されていることに起因しています。それでは、ほかにも新聞紙、コピー用紙など、いろいろな紙で試してみてください。

 

以上がティッシュペーパーとトイレットペーパーの主な違いであり、特徴です。

 

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更新日時:(吉田印刷所)

公開日時:(吉田印刷所)