コラム(70-1) 紙・板紙「書く・包む・拭く」(5)新聞、新聞紙および新聞用紙とは

「書く・包む・拭く」シリーズ、今回は新聞巻取紙(新聞用紙)です。なお、すでに本コラムで紹介しました内容がありますのでご了承ください。

 

はじめに、新聞の思い出

今からおよそ5、60年前の思い出です。新聞紙を使って紙飛行機を作ったり、冑や騙し船などの折り紙をしたり、丸めた新聞紙を刀に見立ててチャンバラごっこをしたり、また、習字の時間に新聞紙面に毛筆で書いて練習したこと、新聞紙の間に草花を挿み押し葉を作ったことや、新聞紙で包み、さらに小さな風呂敷で包んだ弁当箱を学校に持って行ったこともあります。あるいは煎餅などを新聞紙の上に広げて食べたこと、石焼き芋を新聞紙に包装して貰ったこと、手で揉んで鼻をかんだり、トイレ用の紙に使ったことなども今では懐かしい思い出となっています。特に連載の時代小説「塚原卜伝」を楽しみにして読んだこと、詰め将棋に応募し自分の名前が掲載されたことも思い出として残っています。さらに五右衛門風呂の焚き付けに使ったり、年に一回ある家の大掃除のときに、畳の下に新聞紙を敷いたこと、前の年に敷いた新聞紙が水分を吸って湿った上に、黄褐色に変色していたことなども目の前に浮かんできます。

そのころの新聞は、山陰の元紙(日本海新聞)でしたが、4ページもので、今のように枚数も多くなく、カラー面はなく、一色でした。しかも新聞紙のインキが手に付いたり、白い衣服が黒く汚れたこともありました。また「三面記事」という言葉を覚えたのもこのころのことです。このようにいろいろと思い出されますが、当時の新聞は情報を伝えるだけでなく、読み終わってもさらに「書く・包む・拭く」に使用した上に、焚き付けに使ったり、畳の下に敷き除湿などの用途にも使うという今よりも多くの機能を果たしていた貴重で重要な位置付けにあったわけです。

 

三面記事(さんめんきじ)…もと、新聞紙で、第三面に記載した記事。昔、新聞が四面しかなかったころ、例えば、明治時代の新聞は四面構成が一般的で、一面が広告、二面が政治・経済、三面が社会、四面が連載小説・家庭欄だったので、三面記事とは、社会面の俗称となり、社会記事・ゴシップ記事・事件の報道記事・雑報などを示すようになっている。社会面を三面記事というのは、この名残りである。

 

そして今、新聞は

現在、毎日何気なく手にしている新聞。日常、最も親しみ深い紙のひとつです。今ではたくさんのページ数になり、一色だけでなく、きれいにカラー印刷されたページも増えています。しかも手や衣服が新聞で汚れることもなく、多くの色とりどりのチラシとともに宅配されてきます。また軽くて、薄くて、きれいに印刷され、同じように見える新聞ですが、数種の新聞を比較すると、その用紙の色や厚さ、紙面の滑らかさ、肌合いなどに違いがあります。さらにページ数、活字の大きさなどにも違いがあり、紙面の内容や広告の配置など各社で工夫され、特徴があります。そして読み終われば、時には少年のころのように使うことがありますが、ほとんどは束にして製紙原料の資源としてリサイクル用に提出しており、新聞古紙のリサイクルは今ではもうあたり前になっています。

 

新聞、新聞紙および新聞用紙とは

このように思い出深い新聞ですが、基礎的なことから具体的に勉強していきます。まず「新聞」「新聞紙」および「新聞用紙」の用語説明です。最初に「新聞」ですが、「新聞」という語は、文字通りの「新しく聞いた風聞、新たな話題」を意味する漢語で、中国の唐時代、方で起こった出来事を記した随筆体の読み物「南楚新聞」に最初に使われており、江戸時代の作家・滝沢馬琴の手紙にも使用されていると朝日新聞(ことば力養成講座「新聞」…05年10月3日付)に載っています。

また、「広辞苑(第五版)」によれば、「新聞」の意味として、①新しく聞いた話。新しい知らせ。新しい見聞。ニュース。および②新聞紙の略。社会の出来事の報道・解説・論評を、すばやく、かつ広く伝えるための定期刊行物。多くは日刊で、週刊・旬刊のものもある、と2通りがあります。このうち①の新しく聞いた話、新しい知らせ、新しい見聞が「新聞」のもともとの意味ということになります。

それが今日では、一般的にメディア(媒体)を表す「ニュースペーパー」の意に「新聞」は用いられています。すなわち「新聞」は、国内外の事件、事故や、国内外の政治や経済などの動向などのニュースを報じるためのメディアの一種で、記事文章や写真、図面などが紙に印刷され、折りたたまれただけで、製本されていないものを指すものになっています。この経緯に触れる前に、関連ある「新聞紙」について触れます。「新聞紙」(しんぶんし)は、①上記「新聞」の②に同じ。②新聞として印刷された紙。「しんぶんがみ」とも言う、と「広辞苑」にあります。すなわち「新聞紙」は、毎日配達されて読む「ニュースペーパー」の意と、印刷された新聞紙そのものや、読み終わった後の新聞のことを表す、両方の意に用いられます。

上記のように「新聞」は古来の日本語でなく、中国から伝わった言葉ですが、江戸末期のころ紹介された海外のニュース(news)に対する訳語として「新聞」を当てておりました。また当時、外国から入ってきた「newspaper」(ニュースペーパー)を「新聞紙」と直訳しておりました。例えば、1866~70年(慶応2~明治3)刊行の福沢諭吉の『西洋事情』初編の「新聞紙」の項では、「新聞紙は会社ありて新しき事情を探索しこれを記して世間に布告するものなり。すなわちその国朝廷の評議、吏人の進退、学芸日新の景況……逐一記載して明詳ならざるはなし。ゆえに一室に閉居して戸外を見ずといえども、新聞紙を見れば世間の情実を模写して一目瞭然、西人新聞紙を見るをもって人間の一快楽事となし、これを読みて食を忘るというもまた宣(むべ)なり。凡そ海内古今の書多しと雖ども、聞見を博くし、事情を明らかにし、世に処するの道を研究するには、新聞紙を読むに若(し)くものなし。新聞紙の報告は速やかを趣意とし、議論公平を趣旨とす」とあるように、情報メディアの意で「新聞紙」という言葉が用いられています。

それが当時、発行された新聞名が固有名詞で「○○新聞」というように多く用いられたため、メディアを指す「新聞紙」を「新聞」と略すようになり、明治20(1887)年代ころから「新聞紙」は「newspaper」の意味で使うことは減り、読み終わった後の新聞のことを表す紙自体を意味するようになったということです。ただ今でも「全国紙」「方紙」「日刊紙」「各紙」などと、「新聞」の意味で「紙」という漢字を使いますが、これはニュースペーパー=新聞紙という語法の名残であると言えます。なお、中国では現在も「新聞」をnewsの意味で使い、newspaperは「報紙」と言うそうです。

次に「新聞用紙」ですが、「新聞用紙」は文字通り新聞に使用される紙のことを指し、新聞が印刷されるまでの白紙のことを言います。すなわち、新聞用紙の最大の用途は印刷されて新聞に使われることです。なお、日ごろ一般的に使われている言葉として「新聞を読む」とか「新聞紙に包む」「新聞用紙に印刷する」などがありますが、この3者を理解するために分かりやすい用例だと思います。

ところで、「新聞用紙」は印刷されて使われますが、品種分類上は「印刷用紙」ではありません。トイレットペーパーやティッシュペーパーなどの衛生用紙や電気絶縁紙などを除いて大部分の紙は多かれ少なかれ印刷されますが、これらをすべて印刷用紙と言いません。印刷用紙とは、上質紙や微塗工紙、塗工紙などのように、一般の印刷会社印刷され印刷物として見たり読んだりすることが主要目的である紙のことを言います。したがって、新聞用紙(新聞巻取紙)は普通は新聞社で印刷され、一般の印刷会社印刷されていませんので、印刷用紙の分類から外されており、新聞巻取紙として独立して品種分類されています。

 

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更新日時:(吉田印刷所)

公開日時:(吉田印刷所)