新聞用紙、要求される高い印刷適性とその対応
ひところよりも最近の新聞はページ数も多く、カラー刷り面が豊富で、色も白くなってきました。きれいな印刷で読みやすく、軽く薄くなった新聞。新聞はたくさんの情報を正確により早く読者に届けるように、早朝あるいは夕方のほぼ決まった時間までに遅れないように毎日各家庭に配達されています。そのため新聞製作は時間との戦いであり、印刷時のトラブルなどがあってはなりません。すなわち新聞用紙には、高速印刷に耐え、紙切れなど異常なく印刷され、効率がよくて、高い巻取適性を持つ印刷作業適性(印刷作業性)と、カラー化に耐え、期待される優れた刷り上がりが得られる印刷品質適性(印刷効果)が同時に求められているわけです。(注)印刷作業適性と印刷品質適性を併せて印刷適性と言います。
しかも坪量の軽量化、古紙配合増量のなかで印刷のカラー化(美麗化)・高速化が進み、特にインキ着肉性、裏抜け、表面強度、紙切れ(断紙)、巻取適性などに対する用紙への品質要求が高まるばかりです。その新聞に使われる用紙の特徴は、巻取りであること、坪量が小さいことですが、薄い上に高速オフセット輪転機で印刷され、しかも1色だけでなく4色のカラー印刷で湿し水にさらされること、また比較的粘性の高いインキで印刷されるなど過酷な条件下で使われことが挙げられます。
そのため品質的には、紙の幅方向、流れ方向で重さ(質量)・水分・厚さなどがバラツキが少なく、均一で、しかも湿し水の濡れに耐え、紙の流れ目方向に強い力で引っ張られても紙切れや、白抜け(紙粉、紙むけ等)がないこと、またインキ乾燥性が良く、裏抜け(印刷した絵柄や文字が反対側の面から透けて見えること)の少ないこと、さらにカラー印刷された一般紙面や広告面も多くなっており、見た目の美しさなどが求められることから、紙面の平滑性や白さなどが同時に必要不可欠な重要項目です。
ただ、これらの品質特性の中には相反するものが多くあります。すなわち、例えば既述のように用紙の軽量化も求められていますが、軽量化をすれば紙は薄くなり破れやすくなります。そうすれば印刷時に断紙しやすくなります。しかも裏抜けしやすくなります。また、用紙を白くすると裏抜けしやすくなります。白く薄くなっても強くて、断紙しなくて裏抜けしにくくする、この矛盾する品質のジレンマに直面しながら、しかも古紙配合を高めるなかで、バランスをとりそれぞれ対応されています。そのため新聞用紙メーカーは、それぞれそのときどきの最高の抄紙技術を注いでいると言われています。それでは品質改善策の主なものを少し説明します。
①表裏差の改善…ツインワイヤー抄紙機の導入
墨1色で印圧をかけて印刷する凸版輪転印刷機では、さほど問題にならなかった新聞用紙の表裏差は平版式のオフセット輪転印刷機の採用は、特にインキ着肉性の点で大きな問題でした。そこで登場したのがツインワイヤー抄紙機です。ツインワイヤー式の新聞専抄マシンが初稼動したのは1977(昭和52)年ですが、1980年代に入るとツインワイヤー抄紙機の新設と既設のツイン化改造が行われました。その主な狙いはそれまでの長網抄紙機(単層)抄造で生ずる紙匹の表裏差、特にW面のインキ着肉性の改善を解消しようというものでした。これは、従来の片面から脱水する単層の長網式抄紙機とはワイヤーパートが異なり、2枚のワイヤー間で原料を挟み込み、両面から脱水し、紙匹を形成するものですが、表裏とも平滑になり、紙面が向上しインキ着肉性がよくなります。この方式の採用により表裏差問題は大幅に改善された上、さらに他にも抄紙機械・用具メーカーによるプレスパートの型式改善、ワイヤー、フェルトなどの用具の進歩などにより表裏差はなくなったか、少なくなってきました。このような努力により、最近では紙の表裏の識別は次第に難しくなってきています。
この表裏差改善により、紙面の平滑性などの品質が向上し、オフセット印刷化・カラー化が要求する品質へも対応できました。ただ、インキ着肉性の向上は後記(④)にも例示していますが、終わりのない究極の課題であり、その改善対応は今なお続けられているとのことです。
②裏抜け対策…ホワイトカーボン(填料)の添加
新聞用紙のさらなる軽量化への取り組みが行われましたが、軽量化に伴なって裏抜けしやすくなります。その裏抜け対策として裏抜け防止剤である「ホワイトカーボン」という填料が添加されるようになりました。ホワイトカーボンは一般に非晶質シリカ(シリカSiO2、二酸化ケイ素、ケイ酸)といわれているもので、製造方法により種類がありますが、製紙工場では超微粉末の湿式シリカ(含水ケイ酸)が使用されています。また、ホワイトカーボンは数ミクロンの細かい粉末で高い吸油能(インキ吸収性)があり、紙の不透明性を高める効果を持つ多孔質の填料です。そのため印刷インキが紙の裏面まで透けないようにする目的で、新聞紙に抄き込まれています。
さらにもともと新聞用紙は酸性紙でしたが、最近では資源、環境保護の観点から再生化の高まりから古紙パルプ配合が多くなり、新聞を主体にした折込チラシを含んだ古紙が使われるようになりました。チラシには上級紙や微塗工紙、塗工紙が多く用いられており、それらの中性紙に含まれる炭酸カルシウム(炭カル)の影響が無視できなくなりました。炭カルは化学式CaCO3で示されるようにアルカリ顔料であるため酸性抄紙系の中では、酸と化学反応を起こし炭酸ガスを発生して泡立ちが生じるとともに、不溶解性物質であるスケールが生成するためにトラブルとなり不適です。そのため最近、チラシを含む古紙パルプの高配合下では中性抄紙化にする動きがあり、中性抄紙による中性新聞用紙も登場しており、積極的に填料として炭酸カルシウムが使用されています。これも裏抜け対策となるほかに、紙の白色度も高くでき、パルプ分との置換による省資源・コストダウンにも効果的です。
③紙粉対策等…ゲートロールコーターの導入
オフセット印刷は水(湿し水)を使います。多色カラー印刷では、1ページを印刷するために4版を使いますので、さらに水の影響が大きくなります。用紙の軽量化で紙が薄くなっていることもあり、水の影響も強くなり、水切れという断紙(紙切れ)が起こりやすくなります。「水切れ断紙」とは、湿し水の過剰な吸収を原因とする紙力低下による断紙のことですが、ほかにもオフセット印刷化は水を使うので紙表面が弱くなり、しかも比較的粘性の高いインキにより紙粉が溜まりやすくなります。そのため高速オフセット印刷化、カラー印刷化が普及するなかで水に対して強い用紙が求められるました。
その主な狙いが紙粉防止ですが、対応策としてゲートロールという設備が適用されました。解決には、内添薬品の増添による改善も可能ですが、マシンの汚れなど操業面のトラブル増加につながりますので、ゲートロール設備で表面に塗工剤(澱粉など)を塗って、表面強度、サイズ性、オフセット印刷適性などの性能アップを行うわけです。
表面塗布の方法には、それまで印刷用紙などに一般に使用されていたポンド型のサイズプレス、すなわち2本のゴムロールの間に紙を通し形成されるニップ部に塗布液(サイズ液)を供給し、ポンドと呼ばれる塗液溜りを作り、いわゆるドブ漬けすることによって紙の両面にサイズ液を塗布する2ロールタイプの表面サイジング装置が主流でした。しかし、サイズプレスは塗布液濃度が低いため、ゲートロール型よりも紙の乾燥に多くの熱量が必要で、しかもマシン速度が速くなるにつれ、ポンド部で塗布液が飛び跳ね、いわゆる沸騰状になるボイリング現象が発生し、抄速アップ(1,000m以上/分) が困難です。
そのため新聞マシンの高速化が進む中で、塗布液濃度が高くでき増速による高生産性と省エネが可能なゲートロールコーターが採用されるようになりました。なお、サイズプレスのポンド(含浸法)方式に対してゲートロールコーターは転写方式と言われますが、本体は6本のロール(片面3本)で構成され、塗液はロール表面で被膜を形成し、この被膜を紙に転写する形で紙の両面に同時塗工されます。
さらに表面強度を上げ、裏抜けを防ぐ方策もゲートロールで可能となります。例えば軽量化が進めば、裏抜け防止対策として紙内部の填料を従来より多く入れることになり、紙粉が発生しやすくなります。その紙粉を抑えるため表面に塗るゲートロールでの塗工量を増やし、表面強度を上げるといった工夫も行われるわけです。
④インキ着肉性の向上…ソフトキャレンダーの導入
新聞用紙は、軽い、断紙しない、紙がスムーズに流れるといったことは今や当たり前になっており、カラー化が進む最近の新聞用紙のテーマは、紙面のインキ着肉性の向上だそうです。紙面の着肉性というのは、インキの付着程度のことで、原稿画像が忠実に再現されインキがきれいに付くかどうかです。特にカラー広告の品質にとっては重要な課題ですが、紙の表面が滑らかなほうが着肉性はよくなります。
紙の表面を滑らかにする装置が抄紙機にあるキャレンダーパートと呼ばれるところで、これまでは何本かの鉄製の太いロールの間に紙を通して、アイロンをかけるように紙の表面を平らにしていました。しかし、紙の軽量化が進んだこともあって、ただ単に紙の表面を平らにするだけでは紙が薄くなり過ぎ、逆にインキが裏抜けしやすくなってしまいます。そこで、表面が平らで、なおかつ、ふわっとしたクッション性のあるものにするため、最近はキャレンダーパートにソフトキャレンダーが使われるようになりました。つまり、中はフカフカ、表面はツルツルの特徴ある紙を造り出すことができるようになったのです。
加圧によって紙は平滑性は上がりますが、厚さが減るというマイナス面があります。他方、紙の表面を高温処理をすることによって平滑と光沢が上がることから、弾性ロールの材質を工夫して温度を高め、ロールの本数と圧力を減らすなどの小さい加圧下で、紙厚を落とさずに高い平滑や光沢か得られることができるソフトキャレンダーが開発されました。
得られる光沢はスーパーカレンダー処理に比べてやや低いが、厚さを減らさずに平滑で光沢のある紙や平滑で嵩のある紙を得る目的で、新聞用紙などの非塗工紙でマシンカレンダーの代わりに、また、塗工紙などに適用されるスーパーカレンダーの代わりに、近年よく用いられるようになってきました。樹脂製の弾性ロールと鉄製の金属ロールを組み合わせたものですが、鉄のロールは100~120℃ぐらいに加熱されています。鉄のロールが紙の表裏均等に当たるように、2組ないし4組を直列に組み合わされ、高速運転可能で抄紙機や塗工機と直結したオンマシンで使えるように設置することができます。
⑤用紙の均一化…原料濃度調整方式のヘッドボックスの導入
新聞輪転印刷機の高速化への対応も行われています。印刷時の安定性・走行性改善です。高速輪転機のスピードでも断紙が起こらず紙の走行をスムーズにするためには、刷り出しから刷り終わりまで紙を均一に造る必要があります。特に幅方向のバラツキをなくすことが重要で、新聞用紙には特に坪量、水分、厚さが均一なことが要求されます。そのため抄紙機に、例えば原料濃度調整方式のヘッドボックスの導入が行われました。これは幅方向の物性を均一化するもので、このヘッドボックスへの転換により、BDプロファイルとキャリパープロファイルの向上が図られました。以上の例示のように、新聞用紙を抄く抄紙機や付帯設備、抄造方法なども進化し続けています。