コラム(72-1) 紙・板紙「書く・包む・拭く」(7)段ボールについて 1

はじめに

段ボール(だんボール)と言えば、みなさんは何を思い浮かべられるのでしょうか。私にとって段ボールと言えば、転勤のときに衣類や書籍類とかを入れた段ボール箱でした。それが今年発生した事件で変わりました。「段ボール入り肉まん」事件です。「仰! 段ボール紙詰めた肉まん販売…中国」、これは今年(2007年)7月11日に中国中央テレビなどから報道されたニュースの見出しです。これにはびっくりしました。「使用済み段ボール紙を劇物のカセイソーダ(水酸化ナトリウム)の溶液に浸して黒っぽく変色させ、さらに煮込んで柔らかくした上で豚肉と混ぜ合わせ、肉まんの中身にしていた」とのことで、写真入で、しかも段ボール紙と豚肉の比率は約6対4で、違法に北京市朝陽区の複数の露店で販売されていたというかなり詳しい内容でした。なお、販売数、健康被害の有無は不明というものでした。

ちょうどこのころ、いろいろな中国産から規制値を超える農薬や化学物質が見つかっており、わが国だけでなくアメリカなど世界で中国産の安全性への不安が広がり、信頼性が揺らいでいる最中での、この「段ボール入り肉まん」報道はその極めともいうもので、信じられないとの思いで非常にびっくりしたものです。しかも国営の中央テレビの報道だということで「お付き」となり、まさかと思いながらも信じたものでした。

その後、北京テレビの「やらせ報道」だったということが分かり、同局の謝罪と番組責任者の免職、局長ら幹部に対し警告や注意などの処分をしたとのことでしたが、予想もしていなかった、この「段ボールを食べる」騒動は「段ボールと言えば、肉まん」と強烈な印象づけとなりました。

それでは今回は段ボール原紙と段ボール、段ボール箱について触れます。なお段ボールは、包装用・運送用板紙のひとつで、波状に成形した紙の片面または両面に厚紙を貼り合せたもので、段ボール箱などを製造するもとになる板紙のことですが、紙だけの強度に加え構造体としての強度が強く働くため、かなりの重量物の包装にも使用できます。それに段ボールは折りたたみができるため、保管性に、また機械適性、廃棄性にも優れているため、段ボールの硬さと緩衝性を利用した輸送用の箱は、今日輸送包装の主流となっています。

ところで段ボールと言う名称は、本来の段ボールシート(段ボールのこと)とか、その製品である段ボール箱や、他の段ボール製品一般を指すこともあり、日常的にはやや曖昧に使われることがありますので要注意です。

 

段ボール原紙とは

まず、段ボール原紙です。次回に触れますが、明治時代に初めて段ボールが作られたときの原紙には書籍の表紙や紙器容器などに使われていた黄ボール(黄板紙、俗称「馬ふん紙」)が用いられました。しかし、今は段ボール原紙という専用紙です。

段ボール原紙(fibreboard)は、段ボールシートとも言われる段ボールの製造に用いられる板紙で、ライナ(ライナー)と中しん(中芯)原紙の2種類に大別されます。なお、ライナは段ボールの表裏に使用される紙で、その間に挟む波状の紙を中しん原紙と言います。

さらにライナは、用途別に外装用ライナ、内装用ライナおよびその他のライナに分かれ、外装用ライナはJIS・P-3902に規定されています。また、原料別にはクラフトライナとジュートライナに分類されます。もうひとつの中しん原紙は原料により、パルプしんと特しんとに分類されています。それを日本製紙連合会「紙・板紙統計年報」の品種分類表から抜粋して表1に示します。

表1.段ボール原紙の品種分類

(日本製紙連合会「紙・板紙統計年報」板紙の品種分類表から抜粋)

品種説明
段ボール原紙 ライナ

外装用ライナ

(クラフトライナ)

クラフトパルプを主原料とし、段ボールシートの表裏に使用されるもの。外装用段ボール箱用。巻取。

外装用ライナ

(ジュートライナ)

表層はクラフトパルプ、中層、裏層は古紙を原料として抄合わされ、段ボールシートの表裏に使用されるもの。外装用段ボール箱用。巻取。
内装用ライナ 古紙を原料として抄合わされ、JISの規定する強度を持たないもの。主として内装用段ボール箱、中仕切などに使用される。巻取。
中しん原紙 パルプしん パルプを主原料とし、段ボールシートの中の「段(フルート)」に使用されるもの。巻取。
特しん 古紙を原料とし、段ボールシートの中の「段(フルート)」に使用されるもの。巻取。

 

なお板紙は通常、表・裏層と中層(中間層)の3層以上の抄き合わせになっていますが、表2に段ボール原紙の層別による主な原料構成を掲げておきます。

表2.段ボール原紙の主な原料構成
品種紙層の構成
表層中層裏層
段ボール原紙 ライナ 外装用ライナ(クラフトライナ)
外装用ライナ(ジュートライナ) × ×
内装用ライナ × × ×
中しん原紙 パルプしん
特しん × × ×

(記号説明)○…未晒化学パルプ、□…セミケミカルパルプ、×…古紙

 

次に品質面ですが、ライナと中しん原紙の品質はJISで規定されています。そのなかで種類や品質、形状、寸法などが決められています。ライナの種類は、圧縮強さ(横)および比圧縮強さ(横)、破裂強さおよび比破裂強さと水分(リール巻取り時)によって、また中しん原紙は圧縮強さ(横)および比圧縮強さ(横)、裂断長(縦)と水分(リール巻取り時)によって、各々A、BおよびCの3級に分けられ、ライナ(linerboard)にはLAのように頭にlinerのLが、中しん原紙(corrugating medium)にはmediumのMが付記されており、各の表示坪量が設定されています。表3にそれをそれぞれ示しておきます。なお、規定されている品質(性能)など詳細についてはJIS P 3902(段ボール用ライナ)およびJIS P 3904(段ボール用中しん原紙)をご参照くたさい。

表3.ライナおよび中しん原紙の種類(別の表示坪量、単位g/m2)

(JIS P 3902およびJIS P 3904)

ライナ LA LB LC
表示坪量 180、220、280
170、180、210、220、280 160、170、210
中しん原紙 MA MB MC
表示坪量 160、180、200 120、125、160、180 115、120、160

 

それではもう少し段ボール原紙(ライナと中しん)について説明していきます。

 

ライナについて

ライナ(linerboard)は段ボールの表裏、いわゆる外側を形成する紙です。多層抄きの板紙で、通常4層抄きです。表1のように、大きく原料別にはクラフトライナとジュートライナに、用途別には外装用ライナと内装用ライナに種類分けされていますが、クラフトライナ(kraft linerboard)は、Kライナともいい、本来は古紙を使用せず、100%未晒クラフトパルプ(UKP)を主原料として抄造したライナです。ただ中には、セミケミカルパルプ(SCP)を配合使用したり、最近は古紙配合のものも多用されています。

KライナのKはクラフトライナ(Kraft liner)のKをとったものです。クラフトはスウェーデン語で強靱の意を持つ言葉で、強度的にも優れており、丈夫で主に青果物・飲料関係・工業製品等の外装用のケースなど幅広い分野で使用されています。またジュートライナ(jute linerboard)は、Cライナともいい、紙の表層にはクラフトパルプ(UKP)を使用し、中層、裏層はセメント袋・雑袋・クラフト印刷損紙・段ボール屑などの古紙パルプを主原料として抄き合わされており、多くの古紙を再生した省資源的なライナです。強度的にはKライナより劣り、古紙含有率が多くなるほど弱くなりますが、価格的に安価で内装箱に多く使われています。

外装用ライナは段ボールシートの表裏に使用されますが、要求される品質は輸送中に破損しないことが重要なため包装・輸送資材としての強度が第一で、強度によってLA、LBおよびLCの3級に分類され、JIS規格で規定されています(表3およびJIS P 3902(段ボール用ライナ参照)。しかし、この業界では昔ながらの慣習的な呼び名が定着しており、ライナはD4、C5、C6、K5、K6、K7との表記で6種類にランクづけされております。このアルファベット後の5、6といった数字は1m2あたりの重さ(坪量)を指しており、C5は170g/m2、C6なら210g/m2で、K5は180g/m2、K6なら220g/m2とそれぞれ決められています。もともと尺貫法で表記されていた名残だそうです。そしてD4の紙質が最も柔らかく、K7が最も硬く、順に強度は大きくなります(表4参照)。なお、正式な包装設計図面などには、多くは例えばK280またはK280g(クラフトライナで坪量280g/m2の意味)とかC200(ジュートライナC200g/m2)などと表記されます。なお、内装用ライナは古紙を原料とし、強度のJIS規定はなく、段ボール箱の特に強度があまり要求されない中仕切用や緩衝材などの用途に使用されます。

表4.ライナの種類(坪量単位…g/m2)
名称坪量説明強度

D4

(N4)

130 ほとんどが古紙なので、安価な段ボールを造ることができる。箱にするには弱い材質で、パット等に使われる。現在あまり使用されなくなってきており、中しんで代用することが多い。

弱い

強い

C5 170 古紙含有率が90%以上と高いCライナを使用。強度をあまり必要としない加工食品など軽量物用の箱やパット、仕切などに使われる。
C6 210 C5よりも厚くて強い。なお、C6は需要が少ないため使用されなくなり、K5で代用されている。
K5 180 バージンパルプの割合が多く、C5よりも古紙の少ない古紙含有率70%程度のKライナを使用しており、一般的な材質である。
K6 220 K5よりも厚いKライナで、強度を必要にするものに使われる。
K7 280 K6よりも厚いKライナで、輸出用や重量のあるものに使用される。

 

このD4の下位グレードとして、中しん原紙を段ボールの表裏に貼合する場合があります。また、最近では印刷効果も要求されるようになり、表面に晒(漂白)パルプで抄いたもの、あるいは染料で着色された赤、白、黄色、木目調などのカラー(色)ライナ、プレプリント原紙など多種多様に生産されています。紙の弱点である水に対しても、撥水(はっ水)ライナあるいは耐水ライナが開発され、冷凍食品などの包装、輸送に使用されています。以下に簡単に説明しておきます。

  • 耐水ないし撥水Kライナ…Kライナの表面に耐水加工や撥水加工をした原紙で、主に青果物(キャベツやレタスなどの野菜類)や果物、冷凍保存する水産物の箱などに使われます。なお、通常、撥水・耐水原紙を使用する場合、ライナに限らず中しんおよび貼合用の糊、グルア用糊も撥水・耐水用を使用します。
  • 白ライナ…KライナやCライナの表層に晒しパルプを使用したライナで、青果物のほか、贈答用や食品関係など高感を出す箱に多く使用されています。

 

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更新日時:(吉田印刷所)

公開日時:(吉田印刷所)