コラム(76-2) 紙・板紙「書く・包む・拭く」(11)包装用紙について(その1-2)

それぞれの品種説明

それではそれぞれの品種についてもう少し説明していきます。包装用紙の中心をなすものはクラフト紙とロール紙です。クラフト紙はクラフトパルプ(kraft pulp、KP)で造った紙で、特に紙力を強くしてあり、主としてセメント用、肥料用、食料品用などの重量物の包装に使用されています。またロール紙は原料として晒パルプを使用しヤンキー抄紙機で大型ドライヤにより片面に光沢をつけた紙のことをいいます。品種として純白ロール、筋入クラフト紙、その他晒包装紙があります。

なお、包装紙は物を包むのだけが役割でなく、物品を包み、同時に装飾を兼ね備えています。物を包む用途には強靭性と耐久性などが、インテリア(装飾)のためにはこのほかに外観の良さや、ある程度の印刷適性が必要とされます。現在では後者のようにほとんど印刷されるため、印刷適性の良好なこと、すなわち紙表面の平滑性などが要求されます。 またクラフト紙は本来、茶褐色(未晒)であるため、色などに気を使う必要はないと思われがちですが、用途によってはユーザーに好まれる色合いがあり、この点への対応と管理も重要となります。その他、用途により湿潤強度、耐薬品性なども要求されることもあるため、それぞれ個別に対応していく必要があります。

 

(1)未晒包装紙

未晒包装紙は漂白されていないパルプを使用しており、重袋用両更クラフト紙、その他両更クラフト紙およびその他未晒包装紙に分類されます。

クラフト紙はクラフトパルプを原料とした強度の強い紙の総称で、語源はドイツ語のKraft(力・能力、もとはスウェーデン語で強靱の意)からきているように、クラフト紙袋は強度(紙力)が強いことが一番に求められます。そのために繊維の長い針葉樹を用い、しかも未晒で茶褐色のクラフトパルプを使用します。なお、クラフトパルプは化学パルプの一種である硫酸塩法(クラフト法、KP法)により、木材その他の繊維原料を水酸化ナトリウム(苛性ソーダ)と硫化ナトリウムを主成分とする薬液を使い、圧力をかけて約170℃に加熱して煮てリグニンを溶かし出してで造ります。強度が高く未漂白品は茶褐色ですが、数度の漂白で白色パルプも得られます。このクラフト法は現在広く行なわれている方法で、亜硫酸塩法で得られる亜硫酸パルプ(サルファイトパルプ、SP)にくらべて強いパルプが得られるため強いという意味のクラフトがついたわけです。

なお、亜硫酸パルプは細片化した木材(チップ)を重亜硫酸カルシウム等の溶液で煮て、木材の中に含まれたリグニンなどの不要の成分を溶出させ、繊維化したパルプのことです。薬品により繊維が傷むため強度に難があります。

 

①重袋用両更クラフト紙

重袋用両更クラフト紙は、針葉樹(N材)の未晒クラフトパルプ(NUKP)を原料とした強度の高い茶褐色の包装紙でクラフト紙の代表的製品です。紙力が強く、主としてセメント・肥料・米麦・農産物・飼料・塩・合成樹脂ペレットなどの重量物を入れる丈夫な産業用の多層大型袋に用いられています。厚さは0.1mm以下ですが15cmの幅があれば大人1人の体重を支えることができます。湿ったときにも強度が保たれるようにメラミンや尿素樹脂を添加して造るものもあります。

 

針葉樹はドイツ語のNadelholz(ナーデルホルツ)から記号「N」で表示。なお広葉樹はドイツ語のLaubholz(ラオプホルツ)から記号「L」と表示)

 

クラフト紙袋は使用目的から強度が高いことが重要ですが、特に荷役中に上から落とすことがありますので衝撃強度が特に要求されます。そのためクラフト紙には、衝撃強度に比例する紙の引張り強さと伸び(引張り強さ×伸び)の大きいことが必要です。またミシンの縫目から破れないために引裂きに対する抵抗性(破裂度)や、一部に圧迫が加わった場合の破れることに対する抵抗性も要求されます。そのため一般には二重や三重の多層袋にして使われます。さらにセメント、肥料、農産物などは湿気により変質するので外の湿気の侵入を防ぐ防湿性が必要です。またセメントなどの袋への充填は圧縮空気によって行うため、空気がよく通過するようにある程度の透気性も併せて必要です。防湿性と透気性というように相反する性質が同時に要求されることがあるために、透気性は一定の範囲内に制限されます。なおクラフト紙の種類や用途により、JIS規格で紙の強度や特性値が規定されています。

クラフト紙の要求される品質は、強度が第一ですが、その中で特に、耐衝撃性を高めるため、引張強さ、伸び、耐湿性が要求されます。この衝撃的な荷重に耐える強さに対応するために開発されたのがクラフト伸張紙です。これは抄紙機上で紙を微細に収縮させることによって伸張性能を与え、耐衝撃性に優れた特性を持たせたものです。このような紙を一般的にクルパック紙といい、原紙に印刷された後、製袋され使用されることが多いが、防滑処理や、耐湿加工や伸び改善のための加工を施したものもあります。

 

クルパック紙とは機械メーカーであるクルパック社(米国)の社名に由来し、その名称が普及したもので、米国ウェスト・バージニア・パルプ・アンド・ペーパー社が開発した紙です。

 

クルパック紙は抄紙機ドライヤーの一部にクルパック装置を設置し、紙匹(湿紙)をニップロールのあるエンドレスの厚い弾性ゴム製ブランケットと加熱ドライヤーの間に通しますが、あらかじめ伸長させておいたブランケットが収縮して走行する紙匹を収縮させ、破断伸びが高められ造られます。なお、できた縮みは後工程で伸びないように乾燥・固定します。クルパック装置では、主にクルパック装置入り側の製造スピードと、クルパック装置出側の製造スピードの比率と、ニップロールによる加圧力によってクラフト紙の横方向の破断伸びを調整することができます。また、この方法によると主に紙匹の横方向の破断伸びを高めることができるだけでなく、縦方向の破断伸びも高めることができます。特に縦方向の伸びが大きくて紙の破断時の仕事量が大きくなるので、主として米麦袋、セメント袋などの重包装用クラフト紙として用いられます。

また、一般クラフト紙(重包装用プレーン)とクルパック紙との中間位置にある伸びを持ったものをセミクルパック紙といいます。セミクルパックやクルパックの定義はありませんが、JIS規格でクラフト紙(P3401) とクラフト伸張紙(P3412) が規定されているため、縦伸びの差で、この3者は一般的に表3のように区分されています。

レー

表3.重包装用プンとクルパック紙
品種縦伸び(%)主な用途
重包装用プレーン 2.2~3 塩袋(3層袋使用多い) 、ワンプ、一般雑袋、一般包装用など
セミクルパック 3~5 粉袋、ゴミ袋(2層袋使用多い) 、米麦袋など
クルパック 5~10 米麦袋、セメント袋、肥料袋、化学薬品袋など

 

 

②その他両更クラフト紙

使用原料により、一般両更クラフト紙と特殊両更クラフト紙とに分けられます。軽包装用途が中心で、重袋用ほどの強度を要求されないため、広葉樹KPが配合される場合もあります。一般両更クラフト紙は、未晒クラフトパルプを原料としたもので、角底袋、小袋などの一般包装用や加工用に使用されます。一方、特殊両更クラフト紙は、半晒KPを原料としたもので、ショッピングバッグなどの手提げ袋や一般事務用封筒に使用されますが、最近は、環境問題およびコストダウンの面から包装の代替え・簡易化・省略が広がりを見せており、需要低迷の一因となっています。なお、封筒も白物やカラー物など高化の進行があり、この面でもクラフト封筒は攻勢を受けていますが、反面、紙袋、封筒などを中心に古紙入り再生紙が伸びています。また平滑性、印刷適性が要求され、主として長網多筒式抄紙機で抄かれます。

 

③その他未晒包装紙

この中には、筋入クラフト紙、片艶クラフト紙および、その他未晒包装紙が含まれます。筋入クラフト紙は未晒クラフトパルプを用いて長網ヤンキーマシンで抄造される片艶のクラフト紙で、筋入り模様のあるフェルトを掛けて抄いた薄い紙で、ターポリン紙、果実袋、封筒などの軽包装用に使用されます。また、片艶クラフト紙も未晒クラフトパルプを用いて長網ヤンキーマシンで抄造した片艶品で、果物袋、タイル用の原紙、合紙、ラミネート加工用の原紙および雑包装などに使用されます。そして上記以外の未晒包装紙で一般包装および加工用ワンプなどに使用されるものはその他未晒包装紙に区分されています。

なお、紙の寸法のひとつであるハトロン判(900×1200mmの大きさ)の由来となったハトロン紙(寸法909×1212mm)は、包装用紙のなかの主にクラフトパルプを原料とする茶褐色の片艶(片面が光沢)の薄紙で、通常ヤンキーマシンで抄造されていて強度が高く印刷適性にもすぐれており、軽包装、封筒などに用いられていました。しかし、現在ではほとんどクラフト紙に取って替わられたため、もう製造されていないようです(紙業タイムス社 (1983年発行)『オールペーパーガイド―紙の商品事典上巻・文化産業篇』より)。語源はドイツ特有の紙であるPatronen papier[ドイツ語のパトローネンパピァー(薬莢紙…弾丸を発射するのに使われる薬莢(やっきょう)を包む紙)]といわれています。パトロン紙と呼ばれることもあります。

 

  次のページへ


更新日時:(吉田印刷所)

公開日時:(吉田印刷所)