(1)上級印刷紙
非塗工印刷用紙のなかで上級印刷紙が最も量が多く、2008年の生産量は半分以上のおよそ55%(55.1%)と大きな割合を占め、また最近の伸びも前年比100%前後でほぼ安定しており、非塗工印刷用紙の主役であるといえます。上級印刷紙はさらに印刷用紙A、その他印刷用紙、筆記・図画用紙に分けられますが、印刷用紙Aが上級印刷紙の約84%の生産量を占め、その中心品種です。それに対してその他印刷用紙と筆記・図画用紙はそれぞれおよそ14%、3%で上級印刷紙と大きな差があります。
上級印刷紙は「化学パルプだけで製造し、印刷、筆記などに用いる紙」で広葉樹パルプを主体とした晒化学パルプ100%に、不透明度、裏抜け防止対策などのために填料を15%前後配合したもので、マシン仕上げが一般的ですが、スーパー仕上げのものもあります。表面は平滑で、均等、白色度も高く、オフセット多色印刷が可能で、しかも万年筆などのインクが滲まないように適度にサイズ処理され筆記適性も付与されています。用途は広範囲にわたりますが、主として書籍本文、雑誌の表紙、カタログ、カレンダーやチラシなどの商業印刷物や筆記用紙などに使用されます。
①印刷用紙Α
印刷用紙Αは一般に上質紙と呼ばれることが多く、洋紙のなかの代表的品種で汎用紙の1つです。用途は広範囲にわたりますが、主として書籍、雑誌、教科書、筆記用紙、カタログ、カレンダー、ポスターやチラシなど紙製品、商業印刷、一般印刷の各種印刷物などに日常的に広く使用されています。なお、規格品の坪量は52.3~209.3g/m2ですが、通常の品揃え定坪量範囲は52.3~157g/m2で、209.3g/m2は少なく、また、製品形態は平判、巻取紙がありますが多くは平判です。
ところで、イミテーションアート紙という品種があります。イミテーションアート紙は、印刷適性を特にあげるために上質紙とコート紙との中間、すなわち塗工紙であるアート紙まがいの紙質にするために、パルプに多量のクレーなどの填料を配合して抄造し、スーパーカレンダー仕上げの強光沢、高不透明度で平滑性、白色度も高く、しなやか感じを持つ非塗工印刷用紙のことです。主に高級印刷物の本本に使われます。
また、模造紙(対応英語はsimili paper)という品種がありますが、模造紙は化学パルプのみで抄造した印刷、筆記、伝票などの事務用品および包装などに使われる上質の用紙です。分類上、スーパーカレンダー仕上げすることで高光沢、高平滑をもたせたA模造紙と、マシンカレンダーだけで処理をしたB模造紙とがありますが、実際に市販されているのはA模造紙だけです。坪量は30、35g/m2の2種類で、34g/m2以下を薄口、35g/m2以上を厚口と区分されています。
ところで模造紙は何を真似て造ったのでしょうか。模造紙という名は、次のような経緯(いきさつ)からきています。1878(明治11)年のパリ万国博覧会に、大蔵省印刷局が三椏(みつまた)を主原料とした高級特製和紙である「局紙」(きょくし)を出品。なお、局紙は溜め漉き法により1877(明治10)年に誕生し、その名称は大蔵省印刷局で作った紙の意からきています。
局紙はジャパニーズ・ベラムと名付けられ、おもにヨーロッパへ輸出されるようになりましたが、その品質は美しく丈夫で光沢があり緻密な印刷ができると好評でしたが高価格でした。そのため1898(明治31)年にオーストリアの製紙会社が亜硫酸パルプを原料で機械抄きし局紙に似せた風合の紙(洋紙)を造り、シミリー・ジャパニーズ・ベラム(Simili Japanese vellum…[注]日本の局紙の模造品)という名前で売り出しました。つまり日本の局紙を「模造」したわけです。
ヨーロッパ製のこの「模造紙」は、局紙とは比較にならないくらい劣る品質でした。しかし、安価なうえに印刷、筆記、包装など広範な用途に使えたので逆に日本に輸入され、評判が良かったので1913(大正2)年に九州製紙(株)がそれを真似たうえ、さらに改良して亜硫酸パルプを使いスーパーカレンダー処理を行って光沢があり、表面が平滑な紙の国産化を行いました。九州製紙が開発した技術で他のメーカーも次々生産に参加し、ヨーロッパの模造紙を駆逐していきますが、これが今日のわが国での「模造紙」の始まりです。
「局紙」は、もともと稀少な木である雁皮(がんぴ)を原料に漉かれた鳥子紙や鳥の子と呼ばれる上質で最高級の和紙を明治初期に大蔵省印刷局抄紙部が「模造」して、三椏を原料に開発したもので、柔軟性があり強靱で、紙幣や賞状、証券などに使われました。いわゆる「局紙」も模造紙であったわけです。
つまり模造紙とは日本の局紙をヨーロッパが真似て造り、今度はわが国がそれを似せて紙(洋紙)を造ったことに由来していることになります。局紙も模造ならヨーロッパで造られたシミリー・ジャパニーズ・ベラムもの模造、さらにそれを日本で真似たのが「模造紙」ということになります。現在、模造紙は滑らかでつやがあり強靱で、製図や発表用の掲示物に使われる大きな紙として使われたり、伝票・帳簿などの事務用品や各種高級包装紙などに使用されています。
②その他印刷用紙
辞典用紙、地図用紙など、用途・目的に応じて抄かれた印刷用紙であるが、代表的なものは書籍用紙です。書籍用紙は目が疲れないようにクリーム系に着色されたものが主流で、製品の性質上、紙の厚さや表裏差など厳しく管理されています。
③筆記・図画用紙
ペンで書いたときに滲まないなどの適性を持ちノート、便箋、帳簿などに使用される筆記用紙と製図、スケッチブックなどに使用される図画用紙が含まれます。
なお、画用紙は絵を描くのに用いる厚手の紙ですが、製図用紙の一つとしてケント紙(Kent paper)という品種があります。18世紀初頭に英国のケント(Kent)地方で初めて製造されたのでこの名称がついているわけです。ケント紙は化学パルプを100%使用し、比較的厚手で白くて引き締まった紙質で表面が滑らかで適度な弾力性と厚みを持っており、鉛筆やペン、水性絵具など、インクが滲まず、多くの筆記具や画材と相性がよく、消しゴムを使ったときに紙面の毛羽立ちが少ないのが特長です。ケント紙の表裏を判別するのは難しく、手で触れたときに若干滑らかに感じる面が表側になります。主な用途は製図・デザイン用ですが、名刺やカレンダーにも使用されています。
(2)中級印刷紙
中級印刷紙の2008年の生産量比率は18.6%ですが後記の下級印刷紙と同様、量、前年比とも年々低下傾向にあり、いわゆる衰退時期にあるといえます(表3参照)。
中級印刷紙には、「セミ上質紙」、「印刷用紙B」、「印刷用紙C」および「グラビア用紙」が含まれます。セミ上質紙、印刷用紙Β、Cそれぞれは、晒化学パルプ配合比の差により白色度の違いがありますが用途は同様で、雑誌本文向けが主体であり、印刷用紙Cのように白色度の低いものは電話帳本文にも使用されています。また、セミ上質紙や印刷用紙Bは雑誌の2色刷りなど多色印刷にも適用されます。グラビア用紙はグラビア印刷適性を持った紙で、機械パルプが配合されていることが多く、クッション性が高く、ほとんどはスーパーカレンダー仕上げとなっており、表面の平滑度が他の用紙よりも高いのが特徴です。
①印刷用紙B
印刷用紙Bはさらにセミ上質紙と印刷用紙Bに区分されています。セミ上質紙は晒化学パルプを上級印刷紙に近い90%以上使用し残余はその他のパルプ)、白色度が75%前後のもので、およそ80~82%の白色度を持つ上級印刷紙より品質はやや劣ります。教科書、書籍、雑誌などの本文用途を中心に、商業印刷、一般印刷物にも使用されます。
印刷用紙B(除セミ上質紙)は70%以上配合した晒化学パルプと、その他のパルプを使用(30%未満)して造った紙をいい、白色度は70%前後で仕上げは普通、マシン仕上げです。中質紙といわれ、主な用途は教科書、書籍、文庫本、雑誌などの本文用紙やチラシなどです。一般的な坪量範囲は54.2~72.3g/m2で、平判・巻取の製品形態がありますが、ほとんどが巻取紙です。
②印刷用紙C
晒化学パルプ配合が、40%以上70%未満で、残余はその他のパルプが使用されています。上更紙とも呼ばれ、一般にマシン仕上げです。廉価ですが、耐久性に乏しく白色度は65%前後とより低位にあります。印刷上がりは中質紙ほど要求されませんが、油吸収性が良いので速いインキ乾燥性を持っています。なお、坪量が49~63.9g/m2(比較的多いのは51.2g/m2)と低いため、裏抜け防止として、パルプ原料面や填料添加などの不透明度対策が施されています。主に雑誌・書籍の本文や電話帳本文、定期刊行物などに使用され、製品形態は平判、巻取紙があるますが多くは巻取紙です。
③グラビア用紙
グラビア印刷用の専用紙で、原料に化学パルプとその他のパルプを混合したものを用い、スーパーカレンダー仕上げで、主に雑誌のグラビアぺージなどに使用され、単色印刷だけでなく多色印刷にも用いられます。比較的、多量の填料を配合し、ダンピング(湿潤)後、スーパーカレンダー仕上げして造られます。
地合がよく、不透明性が高く、平滑性がよく、しかも弾力性(クッション性)が高く、油吸収性のよいことなどがグラビア印刷適性として要求されます。なお、オフセット印刷向け用紙と比較して、表面強度への要求が低いこともこの紙の特徴です。形態は、ほぼ全量巻取紙です。なお、グラビア用紙には非塗工タイプの中質グレードや上質グレードの他に塗工タイプとか新聞用などのグラビア専用用紙があります。