コラム(89) 「紙はなぜ」(9) 紙はなぜ食べれないのでしょうか?

紙はなぜ食べれないのでしょうか?

今回のテーマは「紙を食べる」です。

 

紙はなぜ食べれないのでしょうか

人は「紙」(主成分であるセルロース)を分解する酵素を持っておりません。そのため人間は「紙」を食べて栄養源にすることができませんし、無理に食べても消化不良で下痢を起こすでしょう。そのため人は紙が食べれないのです。

 

「紙を食べる動物」といえば、多くの人は「ヤギ」(山羊)を思い浮べるでしょう。「ヤギ」に似ている「羊」は、紙を食べないでしょうか。また、「猿」はどうでしょうか。

それでは、ヤギは本当に「紙」を食べるのでしょうか。ヤギは、ウシ科ヤギ属に属し、「牛」と同じように4つの胃を持つ草食性の反芻(はんすう)動物で、繊維質の多い植物を好んで食べます。草よりもむしろ樹葉・樹皮を好んで食べ、樹木を食害することがあります。

なお、「紙」は主に樹木の「セルロース」という植物性の繊維を主成分としております。そのため「紙」を食べるには、このセルロースを分解し、「消化」できなければなりません。そしてセルロースを分解するのは、「セルラーゼ」という酵素です。

ヤギは、樹葉・樹皮・樹木を好む食性があることから、これらと同じ成分である「紙」も食べる可能性があります。そのためのセルロースを分解する酵素「セルラーゼ」を持っているのでしょうか。

答えは、「イエス」です。ヤギは、セルラーゼそのものを直接、生産することはできませんが、胃の中に「セルロース」を分解する微生物が多数共生しております。そしてこの微生物が酵素「セルラーゼ」を分泌し、「セルロース」を分解し、消化してくれるのです。このことは「セルロース」からできている「紙」も消化できるということになります。

従って、ヤギは「紙」を食べることができます。ただ、「紙」は然品でなく、沢山あるわけではありませんし、まして食料目的ではありませんので、このヤギにしても「紙」を常食しているわけでなく、好んで食べる食性が身に付くまでには至りませんでした。ヤギにとっては「紙」は珍品であって、好き嫌いがあるかも知れません。そう言う意味で、ヤギは「紙」を食べることができ、それを消化できるということです。

そう言えば、ヤギが食べる紙は「和紙」のことで「洋紙」は駄目だと聞いたことがあります。確かに楮(こうぞ)や、三椏(みつまた)などの原料から作られた手漉きの和紙は柔らかく、混ざりものも少なく食べやすいでしょう。今の主流である洋紙は、字を書きやすく、印刷しやすくするなどのために、セルロース以外に薬品や填料・顔料などが混ぜてあります。ヤギに限らず動物にとって、この薬品や填料・顔料などは健康にはよくありません。動物園などで「ヤギ」のところに「お腹をこわしますので、紙をやらないでください」などの表示は、こういう理由からきているのです。そのため動物園などでヤギなどに紙を食べさせないほうがよいでしょう。

これに対して、「ヒツジ」はどうでしょうか。ヒツジとヤギは同じウシ科に属し、ヤギは首が長く、雄には顎鬚(あごひげ)がありますが、比較的よく似ております。もともと同じような祖先で、両方とも紙を食べることができたと言われます。

それが長い歴史の中で、生活する環境が違い、ヤギは、漢字で「山羊」(やまひつじ)と書くように、主として山間部です。ヒツジに比べて性質は活発、動作は敏捷、野生的であり、「野性」の象徴とされ、草、むしろ草よりも樹葉を好み、樹木とか、植物なら何でも食べます。一方、ヒツジは山間に生息するものもいますが、普通は平に近いところに適応しており、より家畜化されておとなしく、エサの好みがどんどん変わっていき、草を好んで食べます。このような嗜好(しこう)性の変化が、ヒツジが樹木を、すなわちセルロース(紙)を食べなくなったということのようです。

他に草食性の動物のうち、ウシ・シカ・キリン・ラクダなどはヤギ・ヒツジと同じように反芻胃(はんすうい)を持ち、そこにいる微生物の働きによって植物体の主要な成分であるセルロースを分解する消化酵素(セルラーゼ)を出します。これらの反芻動物は「紙」を食べ、栄養として利用できます。ただ、その関係は前述のヤギやヒツジと同様で、「紙」をやらないほうが無難です。

ヤギは昔樹皮など食べていましたので 紙にあるセルロースを分解できる胃袋をもっていたのです。胃のなかの微生物とセルラーゼ(酵素)によって 紙を食べても分解できちゃったわけなのです。でも 紙は自然界にないですから ヤギが好き好んで紙を食べるわけではありません。たまたま他の動物と違う消化機能を持っていたことになります。昔の和紙は大丈夫ですが 今の紙はいろいろな薬物を使って作られているので あげないほうがいいのです。

他にも紙を食べられる動物はウシ・シカ・キリン・ラクダ です、反芻胃(はんすうい)を持ち、そこにいる微生物によってセルロース(紙)を分解できます。

また、「サル」は樹皮を食べることがありますが、人間と同じように、普通は「紙」を食べることはありません。

他にも紙を食べるものがいます。こちらは害となるもので、ヤマトシミ、シバンムシ、ゴキブリ、シロアリなどの昆虫のことです。これらの昆虫はいずれも暗くて湿気のある場所を好み、消化器官中にセルラーゼを分泌する微生物が共生しており、和紙や和紙製品、のり付きの紙・本などを食べたり、染み(しみ)を付け汚染します。従って、それら紙類の保存には明るい場所で通風をよくすることが重要です。

もう少し補足しますと、ヤマトシミは、シミ目シミ科の原始的な昆虫である「しみ」の一種です。「しみ」は、漢字では「衣魚・紙魚」と書きますが、これは体形が「魚」に似ており、「衣服・紙類」などの糊気あるものを食害することからきています。体は細長く無翅。一面に銀色の鱗におおわれ、素早い走りをします。

また、シロアリもセルロースを分解する能力をもっており、消化することができるため家の木質の柱や床板などをかじって、食害します。「紙を食べる[トップページ記事]16.紙を食べる」から引用。

 

余談

①「食べる紙」…「紙ニッキ」(ニッケ紙)

子供のころ「紙ニッキ」というお菓子がありました。それを駄菓子屋で買って、食べると言うよりも舐めた覚えがあります。現在は手に入れることができないようです。

紙の表面にニッキが塗りこんであって、噛んだり舐めたりするとニッキの味がするものでした。舐めた後は紙が残るので吐き出しました。「広辞苑」によると、ニッキとは肉桂(にっけい)の樹皮(桂皮)を乾燥したもの。シナモンともいいます。香辛料・健胃薬・矯味矯臭薬とし、また、桂皮油をとります。なお、肉桂はクスノキ科の常緑高木。インドシナ原産の香辛料植物。享保(1716~1736)年間に中国から輸入。高さ約10メートル。樹皮は緑黒色で芳香と辛味がある。古来、香料として有名。葉は革質で厚く、長楕円形。6月頃葉腋に淡黄緑色の小花をつけ、楕円形黒色の核果を結ぶ、とあります。これは食べられる紙ではありませんね。

 

②しかし、人間でも「食べられる紙」? があります。この「食べられる紙」とは、「オブラート」(ドイツ語 Oblate)のことです。

最近では、オブラートを知らない人が多いかも知りませんが、オブラートとは、「でんぷん」(澱粉)と「ゼラチン」(蛋白質の一種であるコラーゲンを、温水処理したもの)で作った薄い半透明か透明の紙のような膜状の物質です。もともと飲みにくい粉薬などを包んだりするのに用いられていましたが、カプセル錠や糖衣錠になってきたため、今では飴玉やキャンデーなどをくるむ包装用に使われています。まさに「食べられる紙」(edible paper)と言えるもので、口に入れるとすぐに溶けてなくなってしまいます。しかし、これは紙のようですが、紙ではありませんね。

なお、飴玉やキャンデーなどを包んでいるものにフィルム状の「セロファン」(フランス語 cellophane)もあります。こちらのほうは「セルロース」を原料にしており、セロハン(セロハン紙)とも言われ、人は食べることができません。

 

③これも食べられる紙とインク

「食べられる紙」に自分や家族の写真・イラストなどを写し、メッセージを「食べられるインク」でプリントして飾り付けたクリスマスケーキやスポンジケーキがあります。この「食べられる紙」は、矢張り「でんぷん」で、「食べられるインク」は「食紅」(主にベニバナから得られる色素)です。そしてこれらを用いて専用の機械で印刷します。なお、人間は「でんぷん」は食べれます。消化する酵素(アミラーゼ)を持っているからです。

このように人間は、いろいろと創意・工夫するものですね。そのうちに、本物の「紙」を食べることが出来るようになるかも知れませんね。いや、人間が「紙」を食べれないからこそ、食糧でなく、今日の「紙による文化」が育まれてきたわけです。「紙」は人間にとって大きな、大きな栄養源になってきたわけです。そして、それはこれからも続くでしょう(2004年1月1日付け[トップページ記事] 「16.紙を食べる」から抜粋)。

 

④紙を食べた

⒜「速度測定記録紙」をのみ込んだ疑い…奈良県警吉野署は15日、スピード違反の記録紙をのみ込んだとして、公文書棄損と道交法違反の現行犯で、兵庫県洲本市の会社員の男(37)を逮捕した。 調べでは、男は15日午前10時40分ごろ、奈良県川上村の国道169号で制限速度を21キロ上回る時速71キロで走行。吉野署員に制止され取り調べを受けている最中に、速度測定機から出ていた幅5センチ、長さ4センチの「速度測定記録紙」を手で引きちぎり、のみ込んだ疑い。 「無免許運転がばれるのが怖かった」と供述しているという。同署は記録紙がなくても、現場の警察官のメモなどで速度違反の立件は可能としている。警察官が記録紙を打ち出した瞬間、男は手で引きちぎって口の中へ。「のんでしもた。もうありまへん」と、その場で公文書毀棄(きき)容疑で吉野署に逮捕されたもの(2006年5月16日付朝日新聞記事より転載)。

⒝「飲酒測定記録紙を食べた男逮捕 公文書毀棄容疑」…内容は「飲酒運転をしたうえ、証拠隠滅のため検問で受けたアルコール濃度測定の記録紙を食べたとして、三重県警四日市南署は24日、同県四日市市万古町、配管業伊藤弘樹容疑者(28)を道路交通法違反(酒気帯び運転)と公文書毀棄(きき)の疑いで現行犯逮捕した。調べでは、伊藤容疑者は24日午後11時20分ごろ、同市本郷町の市道で酒を飲んで乗用車を運転し、検問でアルコール濃度測定の呼気検査を受けた際に、測定器から打ち出された記録紙を引きちぎって口に入れた疑い。飲み込み損ねて伊藤容疑者がはき出した記録紙には、呼気1リットル中0.15ミリグラム以上のアルコールを検出したとの結果が記されていた(2006年11月25日付新聞報道)。

いずれも紙を食べたというよりも紙を飲み込んだり、飲み損なったものです。このように無理に紙を食べるようなことをすると余計な罰(消化不良で下痢、腸閉塞)がひとつ増えます。

(2009年11月1日)

 

参考・引用資料

 


更新日時:(吉田印刷所)

公開日時:(吉田印刷所)