コラム(103) 「紙はなぜ」(23) 紙はなぜ紙と呼ぶようになったのでしょうか?

紙はなぜ紙と呼ぶようになったのでしょうか?

今回のテーマも「紙はなぜ」シリーズですが、いろいろと気になっていることをまとめてみました。

 

まず、ティッシュペーパーやトイレットペーパーについての疑問です。

ひとつはティッシュペーパーやトイレットペーパーには、なぜ凹凸があるのでしょうか、です。しかもこの凹凸は製造の段階でわざわざ付けられているのです。なぜでしょうか。

それは紙に柔軟性を持たせるためです。ティッシュペーパーやトイレットペーパーが柔らかい感触を持っているわけは、このデコボコしている表面のエンボス構造にあるのです。

 

それではどうしてティッシュペーパーはなぜ2枚重ねになっているのでしょうか。その理由は薄いことにあります。

ここでティッシュペーパー2枚(1組)を取り出してみて、いろいろと観察しましょう。その1枚を見るわけですが、まず、どちら側が2枚重ねのときの外側の面か内側の面かを確認しておきましょう。それではティッシュペーパー1枚を目の前に立てて透かしたり、少し斜めにして見てください。さらに表裏(外側の面と内側の面)を手で触ったり、またルーペ(拡大鏡)があれば、それで見てください。表(外側の面)のほうがツルツルで、少し艶があり手触り感がよく、逆に反対面(内側の面)はガサガサして毛羽立っている感じのはずです。すなわち2枚重ねの外側の手や肌が当たる面は滑らかで、感触がよくなっております。しかし、逆の面はざらざらしており肌触りがよくありません。また1枚を透かせば、スカスカ状に見えますが、2枚重ねにすれば、透けにくくなりしっかりした紙になります。しかも柔軟性はさほど変わりません。

少し脱線しましたが、2枚重ねの理由は薄いと鼻をかんだときなどに破れたり、鼻水がしみ出たりします。それを防ぐために強く、滲みにくく2枚重ねにしてあるわけです。

 

もう一つは、なぜ、薄くしなければならないのでしょうか、です。ティッシュペーパーは鼻紙や顔の化粧落としなどの用途に使われますので、柔らかくて肌触りがよくなくてはいけません。厚ければ丈夫になりますが、ごわごわした紙になり嫌がられます。そのために薄くして柔軟性を持たせますが、あまり薄くすると、強度が劣り破れやすく、滲みやすくなりますので薄くするにも限度があります。

なお、トイレットペーパーのように深めの「エンボス加工」は薄過ぎるので不適です。そこで考え出されたのが、薄い紙の2枚重ねです。しかもティッシュボックスから2枚重ねにして、連続的に取り出せるようにポップアップ式の折り方が工夫されています。2枚を合わせると1枚の紙よりも、間に空気層の隙間ができ、ふんわり感が増し、より柔らかくできるからです。また、水分の吸収性を高める効果もあります。

ほかに2枚合わせのメリットは、2枚重ねのほうがお互いに絡み合って、同じ厚さの1枚の紙よりも破れにくくなることです。これはよく例えに出されますが、1本の太い紐(ひも)よりも細い糸を撚り合わせた紐の方がより強さが増すという具合です。

さらに2枚重ねすれば、紙の裏面同士を合わせて表面(おもてめん)だけを外側に出すことができます。そうすることによって上記確認していただいたように、滑らかで感触のよい面を2枚重ねの外側、しかも両面に持ってこれるわけです。こうした工夫により顔などに当てても肌触りのよい、しかも強度のあるティッシュペーパーが出来上がります。

これまでにも述べましたが、薄くすることによって柔軟性が増し、感触がよくなる反面、破れやすくて、ほぐれやすいという強度面は低くなり、しかも滲みやすくなりますが、2枚重ねは柔軟性と強度・滲みを両立させるための手段であったわけです(以上について「紙への道」コラム(68) 紙・板紙「書く・拭く・包む」シリーズ(3)ティッシュペーパーとトイレットペーパーについて(その1)をご覧ください)。

 

吸い取り紙はなぜインクなどを吸収するのでしょうか。

吸い取り紙(すいとりがみ)は化学パルプ、機械パルプなどを用いたサイジング(滲み防止加工)を一切施していない無サイズでふわっとしており、嵩高で、多孔性で吸水性に富んだ紙です。インクなどで紙に書いたところに上から押しあてて、その水分を吸いとらせて使用します。なお、紙の裏表は見分けにくいのですが、吸い取り紙は紙肌が若干ザラつきのある面が表側で、やや平滑に感じられる面が裏側になります。

なお、吸い取り紙には失敗から生まれたエピソードがあります。紙の豆辞典2から引用しました。

「紙にインクなどがにじんで困る話は分かるが、逆に水を吸うために役に立つ紙かある。いうまでもなく吸い取り紙である。最近は筆記用紙とインクとの両方の研究から、乾きが早くて字がにじむことはほとんどなくなったが、それでもときには吸い取り紙が必要な場合もある。

昔、英国のパークシャー州のJ・スレードという人の経営する工場で、ある日、職人がうっかりしてサイズ剤を添加するのを忘れて紙を漉いてしまった。職人は叱られ、その紙は工場の片隅に放置された。ところがこの紙が水をよく吸うことが分かって、吸い取り紙と名づけて売り出し、工場は新製品として宣伝して大もうけしたという。

この年代は詳しくは知られないが、この経営者が宣伝のために使った作り話であるという人もいる。とにかく、吸い取り紙が機械生産されて大量に市場に出たのは1858年以後である。それまでヨーロッパでは乾いた砂を紙の上に振りかけて余分のインクを吸収させて除いたということであるから、吸い取り紙は大いに歓迎されて机上の必需品となった。

わが国で吸い取り紙が漉き始められたのは明治20(1887)年ころからである。そのころの原料は木材パルプではなくボロ布(赤く染めた木綿の布)類が多く、まだ脱色の技術が十分でないため吸い取り紙は一般に薄赤色をしていた。」というものです。

 

紙が水に溶けるのは、なぜでしょうか。

通常の紙は水に溶けません。厳密には溶けるのでなく、原料の繊維が水で解きほぐされて、あたかも溶けているようにみえるわけですが、水に溶ける紙、すなわち水溶紙は水に溶けるように製造されています。

すなわち、原料である化学パルプを水酸化ナトリウムでアルカリセルロースに変え、モノクロル酢酸を反応させて、カルボキシメチルセルロース(CMCと略称される)をつくり、普通の化学パルプと混ぜて抄いたのち、さらにアルカリで処理して水に溶けやすくしたものです。カルボキシメチルセルロースのアルカリ塩は水に溶けて溶液となります。水溶紙を水に浸けると含まれているカルボキシメチルセルロースのアルカリ塩がたちまち溶けるので、またたくまに水の中に散らばります。以前、秘密のメモ用紙に水溶紙が使われました。また、アメリカでロケットの燃料タンクの漏れの検査用に使われました。

なお、盆の季節になると各で灯籠流しが行われていますが、あの灯籠の紙に水溶紙が使われています。普通の紙で作られた灯籠は溶けないので、バラバラになった紙くずが川を汚します。水溶紙の灯籠はしばらくすると水に溶けて、ドロドロになり、やがて分解されます。水溶紙の灯籠でないと許可されないと聞いています。(少し難しくなりましたが、以上、ぷりんとぴあから引用)。

 

逆に、身近にある水に溶けない紙、ティッシュペーパーは水に溶けにくいので、水洗トイレに流さないで下さいと表示されています。これには湿潤強力樹脂と呼ばれる水に強い薬品が使われているからです(2010年2月1日)。


更新日時:(吉田印刷所)

公開日時:(吉田印刷所)