コラム(106) 「紙はなぜ」(26) 紙はなぜ静電気が起るのでしょうか?

紙はなぜ静電気が起るのでしょうか?

今回のテーマは「紙なぜ静電気が起るのでしょうか」です。紙と静電気とは無関係だろうとか、紙による静電気トラブルは皆無だろうとか思われがちですが、意外にあります。以下に触れていきます。

 

静電気とは

それでは紙と静電気との関わりについて述べますが、その前に基礎的なことをおさらいしておきます。まず、静電気についてです。

静電気とは「物体に電気がたまる現象、もしくはその電気」であるとされていますが、広辞苑(第五版)にも「帯電体の表面に静止している電気」のことと簡単に説明されています。しかし、分かりにくい説明ですので、具体的にいいますと、特に冬場の乾燥期に、服を脱ぐときなど、衣服が体にまとわりついたりして、パチパチと不快な音を経験をした人や、ドアの金属製ノブに触れたときにビリッと電気的なショックを受けることがあります。これが静電気です。これは服とその下の衣服との間で電子の移動が起こって帯電し、衣服が体にまとわりついたり、蓄積された静電気が放電し、パチパチと不快な音をたてたり、感電したりするなどの障害を起こすものです。このように2つの物体を摩擦したり、接触、剥離したときに、一方が正に、他方が負に帯電し、これらの電荷は発生した位置に静止していますが、この帯電体の表面に静止している電気のことを静電気といいます。

特に冬場の空気が乾いた時季には静電気が発生しやすく障害を起こしやすくなります。乾燥した空気は物体が電気を持ったときに電気の逃げ道をつくらないため、電気が物体に溜まりやすくなるからです。具体的に言えば気温25℃以下、湿度20%以下になると静電気は発生しやすくなります。逆に湿度が65%を超えると静電気は発生しにくくなります。つまり、こういう条件を満たす環境を自らつくることで、静電気の防止ができます。

一般に、摩擦などの原因によって2つの物体の間で電子の移動が起こり、電荷が発生する現象を帯電といいますが、帯電現象が起こると普通のプラスチックや合成繊維などは絶縁体(電気を通さない物質)のため、発生した電荷が流れずに静電気として蓄積されます。これが物体と接触するときに電子が飛び散り、「放電」しバチッといやな音を発するわけです。

静電気は動かない物体には起きません。物が動くことによる物体同士の摩擦、時には空気との摩擦などで 電子の電気的極性が一方に片寄ってしまうことを帯電する(静電気状態にある)といいます。例えば、人は歩いているだけでも摩擦していますので、帯電しています。また、物質によって極性も異なります。塩化ビニールやポリエチレンなどはマイナス帯電し、我々人間はプラス帯電します。これは、この物体を構成する物質の帯電極性によるものです。例えば、ナイロンとテフロンを擦りあわせたとき、ナイロンはプラスに帯電し、テフロンはマイナスに帯電します。また、帯電量がどのくらいかも摩擦させる物質によって異なります。

極性…特定の方向に沿ってその両極端に相対応する異なった性質をもつこと。例えば磁石にS極・N極、動物に頭と尾がある類(広辞苑)。

 

実はある物体が別の物体と接触したとき、その物体はいつもプラスだったりマイナスに帯電するとは限らないのです。そもそも物体がプラスに帯電するとか、マイナスに帯電するかは、発生条件や周囲の環境によって多少、左右されるものだからです。

 

帯電列について

しかし、ある程度の目安はあります。帯電列です。帯電列とは2種類の物体を接触させたり擦り合わせたりしたときにプラスに帯電しやすいものを左側に、マイナスに帯電しやすいものを右側に並べた配列のことをいいます。次の表にそれを示します。

 

帯電列表

(ホームページ静電気とはから引用)

紙と硝子(ガラス)を擦り合わせると、紙は右側にあるのでマイナスに、ガラスは左側にあるのでプラスに、それぞれ帯電します。また、紙と塩化ビニールを擦り合わせると、今度は紙はそれよりも左側にあるのでプラスに、塩化ビニールは右側にあるのでマイナスに、それぞれ帯電します。このようにプラスか、マイナスかいずれに帯電するかは擦り合わせる2種類の物体の位置関係にあります。一般に帯電列表の位置関係が遠い物質ほど大きな電気を発生し、そのことを利用すれば、静電気への対策ができます。

 

紙と静電気について

物質は、熱または電気の伝わり程度により、導体と半導体、および絶縁体に分けられますが、紙は絶縁体に属します。ここで導体(良導体)とは、熱または電気の伝導率が比較的大きな物質の総称のことで、金属の類をいいます。また絶縁体(不導体、不良導体)は、岩石・ガラス・木材のような、熱または電気の伝導率の極めて小さな物体を指します。さらに半導体は、導体と絶縁体との中間の電気伝導率をもつ物質で、低温ではほとんど電流を流しませんが、高温になるに従い電気伝導率が増加します。珪素・ゲルマニウム・セレンや重金属の酸化物の類で、ダイオード・トランジスター・集積回路・光電池などに応用されています。

これを電気の流れやすさを表す電気伝導度で示しますと、金属のような導体は電気伝導度104~106Ω-1cm-1です。また、ガラスや磁器などの絶縁体は10-20~10-12Ω-1cm-1程度です。これに対してそれらの間にある半導体の電気伝導度は、およそ10-10~102Ω-1cm-1です。

 

電気伝導率とは、電気伝導度または導電率ともいいます。単位にはジーメンス毎メートル [S/m]が用いられます。またS=Ω-1ですので、電気伝導率の単位に毎オーム毎メートル-1・m-1] も使用されます。なお、物質(材料)の導電性の尺度としては、一般的に電気抵抗(単位Ω:オームと呼称)が用いられています。

  • オーム【ohm】… 電気抵抗の単位。国際単位系の組立単位。両端において1ボルトの電位差のある導線を1アンペアの電流が流れる時、その導線が示す電気抵抗。記号はΩ。なお、オーム【Georg Simon Ohm】は、ドイツの物理学者。1826年、導体を流れる電流の強さは、その両端における電位差に比例し、抵抗に反比例するという法則(オームの法則)を発表。

 

また逆に、電気の流れにくさを表す電気抵抗では、導体は表面電気抵抗が100Ω以下、半導体は10-1.5~108Ω程度で絶縁体は108Ω以上となります(世界大百科事典などから)。

絶縁体である紙は、一般的に表面電気抵抗が1010~1012Ω程度(湿度50~60%)です。そのため乾燥するほど、紙はパリパリした状態となり、風合いやしなやかさを失うとともに、帯電し静電気が発生しやすくなります。

特に乾燥期の冬場において、印刷・加工時に上質紙などの非塗工紙で静電気により重送などのトラブルを起こすことがあります。そのため場合によっては、対応策として紙に食塩などの導電性物質を添加・塗布し、電気抵抗を下げることが必要になることがあります。

静電気障害を防ぐには、帯電防止を図ることが大事ですが、この方法には①静電気の発生を防ぐ方法と、②発生した電荷を漏洩させる方法(導電化による帯電防止)の2つがあります。この中で後者の方法が一般的に行われています。

導電化によって物体(紙やプラスチックなど)の帯電防止を図る方法には、表面的導電化と体積的導電化があります。表面的導電化とは、物体の表面に導電性を付与して表面電気抵抗を低下させるというもので、具体的には帯電防止剤を用いて表面加工処理を行い導電性を高める方法です。また、体積的導電化とは、内部を含めた物全体に金属粉末やカーボンブラックなどの導電剤を添加し、導電性を付与して体積電気抵抗を低下させるというものです。そして、帯電防止をするには表面電気抵抗を1010Ω以下、出来れば106Ω以下にします。 なお、低湿度環境下で帯電し静電気が発生しやすい一般紙に対して、積極的に帯電防止を図り通電性をよくした紙があります。特殊紙のひとつである「導電紙」です。これは原紙にカーボンブラックなどの導電剤を内添し帯電を抑え、静電気をカットした機能紙ですが、その表面電気抵抗値は104~106Ω位にあります。ちなみに合成紙の表面電気抵抗値は、一般紙より高めの1012~1013Ω、ポリプロピレンフィルムは1015Ω以上です。これらの吸湿性に乏しい合成繊維やプラスチックは電気絶縁性が高く、摩擦などで静電気を発生しやすく、一度帯電するとその静電気はなかなか逃げません。

 

それでは蛇足ながら、紙は電気を通すのでしょうか。通しませんね。木も電気をしませんね。ただ、紙は湿気(水分)を吸いやすいので、大気が湿っているときとか、湿気を吸ったときとか、水に浸したときには電気を通しやすくなります。そのため絶縁体である紙は、乾きすぎていると静電気が発生しやすく、トラブルを起こしやすくなります。逆に適正な水分を持っている紙は静電気トラブルを起こしにくくなります。

 

紙と静電気トラブル

静電気トラブルは、生産・管理技術向上に伴ない紙の水分アップ、印刷室の湿度管理の普及、静電気除去装置設置、オフ輪印刷時の乾燥温度ダウンなどによって減少してきていますが、ときに特に冬の湿度の低い乾燥期に発生することがあります。

用紙の静電気は、紙の水分が低い時や印刷室内の湿度が低い時に発生しやすくなります。すなわち、紙は乾燥するほどその電気抵抗は増加(導電性が低下)します。その結果、走行中に摩擦によって発生した電気は流れずにそのまま帯電し、静電気が発生し、溜まって重送(用紙が2枚以上、くっいて走行するトラブル)や排紙時のトラブルを起こしやすくなります。しかし、その周辺の空気中に水分(湿気)が多量に存在すれば、紙の静電気は速やかに空気中に漏洩しトラブルは生じにくくなります。

なお、塗工層は原紙層よりも電気抵抗が低く導電性が高いので、塗工紙のほうが非塗工紙よりも静電気トラブルは起こりにくくなります。普通、紙の表面電気抵抗は、湿度50~60%で1010~1012Ω程度ですが、通常、用紙が100℃以上の熱風乾燥を受けるオフ輪印刷では、紙の水分が飛び(水分ダウン)により1013Ω以上となり、静電気が逃げにくく、より静電気トラブルを起こしやすくなります。そのために次のような諸対策がとられています。

紙と静電気トラブルの主な原因と対策

[注]区分印刷中、①③④はオフ輪印刷に適用

区分原因対策
用紙 ①低水分…特に非塗工紙 ①水分アップ…特に塗工紙の場合、オフ輪印刷時のブリスターに注意
②低導電性 ②導電性アップ(導電性処理) …食塩等の添加、塗布
印刷 ①高乾燥温度…過乾燥 ①乾燥性(インキの付着、汚れ)とのバランスを見ながら乾燥温度ダウン
印刷室の空調不足…低湿度(加湿不足)

  • 印刷室の空調整備(湿度55~65%RHの範囲で一定管理)
  • 床に散水、やかん等による湯沸かしなども効果あり。スプレー等で噴霧。
  • 外気との遮断(特に乾燥期の冬場)
③紙への加湿不足 ③水スプレーによる強制加湿
印刷機クーリング部での冷却不足 ④出来る限り冷却温度をダウン
⑤静電気除去装置なし、ないしは作動不十分 ⑤静電気除去装置設置ないし点検、整備

除電装置設置(イオナイザーなど)…イオン中和法などの採用

 

なお、ホームページコラム(27) 静電気と紙をご参照ください。また紙の基礎講座 印刷編(6) オフ輪印刷トラブル関係…紙と静電気社団法人日本印刷技術協会Welcome To JAGATprint-better印刷のツボ印刷技術情報をご覧ください。

(2010年2月1日)

 

参考・引用資料

  • 「広辞苑(第五版)…CD-ROM版」(発行所:株式会社岩波書店)
  • 世界大百科事典(第2版 CD-ROM版)…日立デジタル平凡社発行
  • ホームページ静電気とは
  • ホームページはじめに~静電気とは第7回帯電列

 


更新日時:(吉田印刷所)

公開日時:(吉田印刷所)