コラム(111-2) 「紙はなぜ」(31) 紙は、なぜ再生されるのでしょうか? 2

古紙利用率と古紙回収率の推移

ここでわが国の古紙利用率と古紙回収率の推移を次表に掲げます。

わが国の古紙利用率と古紙回収率推移(%)
.1970年80年90年2000年05年06年07年08年
古紙利用率 34.0 41.5 51.5 57.0 60.3 60.6 61.4 61.8
古紙回収率 38.6 46.1 49.7 57.7 71.1 72.4 74.5 75.1

 

古紙利用率と古紙回収率の算出式
  • 古紙利用率…古紙利用率=古紙消費量/製紙原料全消費量=古紙消費量/紙・板紙生産量(製紙原料に占める古紙の比率、すなわち繊維原料の全消費量(全投入量)に対する古紙の比率のこと)
  • 古紙回収率…古紙回収率=古紙回収量/紙・板紙消費量

 

また、次表に紙と板紙と分けて古紙利用率の推移を掲げます。

紙・板紙別古紙利用率の推移(%)

(経済産業省「紙・パルプ統計」、日本製紙連合会「紙・パルプ産業の現状」)


1990年2000年05年06年07年08年

25.2
32.1
37.5
38.1
40.1
40.5
板紙
85.8

89.5

92.6
92.7
92.4
92.8
平均 51.5 57.0 60.3 60.6 61.4 61.8

 

紙・板紙の生産増加に伴い、原料パルプの消費量も増えています。そのなかで古紙利用率が1990年は51.5%で50%と半分以上が古紙となり、2002年は古紙回収率が65.4%、古紙利用率が59.6%といずれも過去最高を記録、2003年はさらに更新し、最近の2008年の古紙利用率は前年より0.4ポイント上昇し、過去最高の61.8%と6割を超えており、製紙原料の多くは主に古紙によってまかなわれていることになります。

その要因は、紙向けの消費が増加しているためです。一方で回収率は過去最高の75.1%となりましたが、2000年に古紙利用率を上回って以降、両者の差は拡大し続けています。

これは古紙のなかには、トイレットペーパーやティッシュペーパーなどの衛生用紙や建設用資材のように回収不可能なものや、書籍などのように極めて長時間にわたって保存されるものとか、永久保存されるものもあり、すべてが古紙として回収されるとは限りません。

回収可能な古紙の限界率、いわゆる古紙回収可能限界率(回収可能率)は条件によって可変ですが、数年には約68%程度と試算されていました。これだと現状の古紙回収率72%は限界を超えています。また、板紙の古紙利用率は90%超えでほぼ限界に達しており、現在の古紙回収率はほぼ限界のハイレベルに達しているといえます。

しかし、今後とも廃棄物の減量、資源の有効利用、森林資源の保護などの面からも、「紙のリサイクル」を促進するために、古紙の回収とその再利用は継続し、向上すべき大きな課題であると考えます。ちなみに、08年の内訳をみると板紙の古紙利用率は、もちろんすべてが古紙でできているものもありますが、平均で92.8%なのに対し、紙向けの古紙利用率は年々向上しているものの、40.5%と、まだ低位なのが現状です。今後この利用率を向上させるためには、紙分野(印刷・情報用紙、新聞用紙など)での古紙利用率をさらに高めていくことが必要と考えます。

 

それにはもう一段、古紙回収システムの構築と古紙処理技術・脱技術の改善・向上や白さ・チリへのこだわりを緩和すること、製紙原料以外への古紙利用の拡大および行政・企業・各団体・消費者の意識改革や、古紙再生品への理解と使用増による需要喚起などを推し進めていくことが重要である。

 

次表に紙・板紙生産量上位10カ国の古紙回収率と古紙利用率を掲げます。

主要国の古紙利用率
 古紙利用率(%)古紙消費量(千t)
①韓国 79.7 8,717
②中国 68.3 50,209
③ドイツ 68.3 15,822
④日本 61.5 19,264
⑤フランス 61.1 6,031
⑥イタリア 55.2 5,581
⑦米国 36.1 30,160
⑧カナダ 31.4 5,454
⑨スウェーデン 17.1 2,022
⑩フィンランド 5.3 766

 

主要国の古紙回収率
 古紙回収率(%)古紙回収量(千t)
①韓国 89.1 7,998
②日本 73.7 23,041
③ドイツ 72.9 15,362
④カナダ 70.3 4,811
⑤スウェーデン 69.1 1,598
⑥フランス 63.5 7,068
⑦米国 54.4 47,594
⑧イタリア 51.9 6,167
⑨フィンランド 43.7 645
⑩中国 37.9 27.650

 

上表のようにわが国の古紙利用率・回収率は世界でもトップクラスにあり、まさにリサイクル先進国といえます。古紙からの「古紙パルプ」で、残りおよそ40%が古紙以外の「バージンパルプ」となっており、誇れる実績であり、世界でも「トップクラスの古紙利用・消費国」となっています。

 

日本では、国土面積が狭いという特徴に加え、古紙回収システムが整備されており、高い回収率を支える結果となっています。日本の古紙回収率は集団回収や行政回収の定着などから2000年頃より急激に上昇し、2008年には75%に達しました。集められた古紙は、例えば段ボール古紙は段ボールに、新聞古紙は新聞用紙に、といったように古紙の種類に応じた用途別に再生されます。特に板紙(段ボール原紙など)や新聞用紙の分野で古紙利用は進み、2008年の紙・板紙全体の古紙利用率は61.8%でした。なお、製紙業界・日本製紙連合会では2010年までに古紙利用率を62%まで高める計画です。もうすぐ達成の見込みです。

 

しかし、板紙向けの利用率が92.8%に対し、紙分野(印刷・情報用紙等)の利用率は40.5%とまだ低いので、伸びているとはいえ今後は紙分野の利用率を高めていくことが必要となります。そのなかでも印刷・情報用紙分野でのさらなる古紙利用が求められています。

 

  • 古紙(消費)原単位=古紙消費量/紙・板紙生産量

新聞巻取紙…0.8679、印刷・情報用紙…0.2522、段ボール原紙…1.0130と印刷・情報用紙の使用古紙量が低い(日本製紙連合会「紙・パルプ産業の現状」から引用)。

生産や販売、生活などの活動を行うとき、一定量の活動成果を得るのに使用・排出される要素(原材料・エネルギー・各種サービス・所要時間・廃棄物など)の数量。活動の効率性を示す指標として用いられる。

  • 原単位…鉱工業製品の一定量を生産するのに必要な原料・動力・労働力などの基準分量のこと。値が小さいほどその消費量が少ない。

 

紙のリサイクル回数は

ジェームズ・ボンド (James Bond)が主人公である「007は2度死ぬ」(YOU ONLY LIVE TWICE)は、1967年、監督がルイス・ギルバートで、ショーンコネリー、浜美枝、若林映子が主演のスパイ映画です。なお、このコードネーム「007」を「ゼロ・ゼロ・セブン」と読む日本人は多いが、正しくは「ダブル・オー・セブン」である由。

このジェームズ・ボンドは2度死ぬということですが、古紙は永遠に使用できるのでしょうか。

 

一方、紙に使用されるパルプ繊維は繰り返し使用すると劣化します。市中で回収された古紙がパルプとして再生されるまでには、脱、漂白、乾燥などの工程を経るため、数回再生利用すると繊維が細かくなり弱くなって、再生することができなくなります。紙のライフサイクルを考えると、すべての紙を平均して古紙の最大配合割合は60~70%が最適とされており、残りは新しい原料でまかなう必要があります。

新しい繊維にはたくさんのひだがあるため、繊維同士が絡みやすく、紙の強度が強まりますが、古い繊維はだんだんひだが擦り減っていき、絡みにくくなります。そのために紙を造り続けるためには、新しいパルプ(バージンパルプ)や古紙パルプを、用途に合わせて適宜配合する必要があります。

それでは、紙のリサイクル回数は、何回くらいでしょうか。

紙の強度は繊維を叩解した時に枝分かれし、それが1本1本絡み合い結合し、強度が増します。また枝分かれした繊維が長ければ、結合は強くなり強い紙になります。

特に、化学パルプはリグニンを薬品で除くのでほとんど繊維だけからなっています。従って、紙にした最初は繊維間の結合が強く、強い紙になりますが、何回か叩解するとように枝分かれしたものが少なくなり、紙の強度が低下していきます。

下の写真は、新しいパルプの繊維と古紙パルプの繊維を比較したものです(日本製紙連合会 環境への取り組み 紙のリサイクルに対する考え方 繊維の再利用)

再生のたびに繊維がこすられてひだが減り、繊維同士がからまりにくく、強度が低下傾向になります。

 

また下図は、リサイクルによる繊維壁構造の変化と、化学パルプのリサイクル回数と強度の変化を表したものです(左図 リサイクルによる繊維壁構造の変化、右図 化学パルプのリサイクル回数と強度の変化)…地球環境にやさしいものとは。

叩解すると左図のように枝分かれしたものが少なくなり、紙の強度が低下していきます。

また、右図のように3から5回のリサイクルで強度は半分になります。

このように紙は3から5回程度のリサイクル回数が限度といえます。

(2010年04月01日)

 

参考・引用資料

 


更新日時:(吉田印刷所)

公開日時:(吉田印刷所)