環境について(1-1) 紙パルプ産業における取組み1.造林・植林

森林資源保護と古紙・再生紙の活用

1996年2月

「紙の基礎講座」…加工技術研究会発行 月刊誌「コンバーテック」

(1996年1月から98年2月まで連載。本資料はその講座の一つ)

データなど古いけど主旨・骨子は今も変わらないために、ここに載せました。

なお、図表および参考文献名は割愛しました。

 

環境問題への対応

紙パルプ産業では、過去に工場排水による公害問題「田子の浦港ヘドロ公害問題」が発生。大きな社会問題となり、業界のイメージを落とすとともに、その対応に追われた。それからおよそ25年、現状の取り組みと課題を展望する。

 

環境問題は国、企業・団体および一人ひとりが関わりを持つ問題であるが、近年の環境問題は、単に産業レベルの公害防止といった問題だけにととまらず、熱帯林保護や球温暖化、酸性雨、海洋汚染、砂漠化対策といった全世界的な球規模の取り組みが必要になっている。1992年にブラジルで開催された国連環境開発会議(球サミット)において、環境問題は球全人類が取り組まなければならない課題であると認識されたが、これを踏まえ、わが国でも1993年11月に環境基本法が制定され、これを受けて紙パルプ各企業も環境憲章を制定、環境保護のために活動を展開している。

紙パルプ産業を取り巻く環境問題としては主に、①大気・水質・産業廃棄物 ②用水・エネルギー ③原料資源…森林(木材)、非木材、古紙 などがある。

ここでは、球環境に関わりが強い森林資源保護と古紙の活用について触れるが、その前に、紙パルプ産業における大気、水質、産業廃棄物、用水、エネルギーへの取り組みについて簡単に説明する。

 

紙パルプ産業はエネルギーの多消費型産業であり、パルプ廃液(黒液)の回収によって製造工程に必要な全エネルギーのおよそ1/3を賄っている。他に燃料として重油や石炭などをボイラーで使用しているが、「酸性雨」問題に関わるものとして硫黄酸化物(SOx)、窒素酸化物(NOx)の排出がある。SOx対策として、低硫黄分燃料の使用や排煙脱硫装置の設置などを実施し、1974年から92年の間に9割近くの減少になっている。 NOx対策では、低NOxバーナーの採用、脱硝装置の設置などを行ってきた。この他にパルプ工場には、各種のボイラーや排水処理のスラッジ(汚泥)などの焼却装置から出る排煙に含まれる煤塵問題があるが、大気汚染対策として防除設備の設置(湿式スクラバー、電気集塵機等)や、燃焼方法の改善などによりSOx、NOx同様厳しい規制をクリアしている。また、特にクラフトパルプ工場における臭気問題についても、燃焼法改善などによる発生源対策により大幅に減ってきている。

なお、廃棄物問題も大きな課題であるが、紙パルプ業界から出る廃棄物は9割が汚泥である。製造工程での原料歩留り向上対策などにより発生量を減らすとともに、スラッジボイラーを導入するなどで燃焼、エネルギーとしての回収と減量化を進めている。

紙パルプ産業も1973年と1979年の2度のオイルショックを経て、省エネ型設備の導入や設備・操業の工夫などの省エネ対策を積極的に進めてきたが、その結果、過去15年間に製品1tを作るのに要するエネルギー量は3割近い削減となった。これは球温暖化で問題になっているCO2発生量抑制に貢献していることになる。 また、紙パルプ産業は「紙1t作るのに水100t必要」といわれるように、多量の水を必要とする用水型産業である。水は森林資源と同じく大切な資源であり、できる限り新水を使わないように、水を循環して何回も再利用するなど節水に努めている。この結果、製品1t当たりの新水使用量は10年前に比べ約4割も削減されている。

一方、水質汚濁対策については、汚濁物質および用水の節減や酸素漂白の導入などの発生源対策、凝集沈澱や活性汚泥などの排水処理対策の2つを柱に、SS(浮遊物質量)・BOD(生物化学的酸素要求量)・COD(化学的酸素要求量)などの厳しい規制に対応しクリアしている。

なお、1990年10月にダイオキシンが社会問題になったが、91年の環境庁調査では、紙パルプ工場付近の魚介類や水質はー般域と比べても特に有意な差はなく、人の健康に被害を及ぼすとは考えられないとの見解が示されている。最大の発生源は都市ゴミ、下水汚泥、有害廃棄物の焼却であり、他に化学工業やパルプの塩素漂白などがあるとされているが、当業界では自主的に、直ちに塩素漂白を止め酸素漂白の導入などを実施し、目標期限の93年末に、対象となるすべての工場が目標を達成した。このような当業界の迅速な対応と努力は社会的にも評価されるものであると自負される。

以上、大気汚染、水質汚濁、悪臭、廃棄物などの環境問題、およびエネルギー問題について当業界が行なってきた対策と効果を述べたが、その実績は世界的にみても決して劣るものではない。むしろ先行しているといえる。現在もそれらの総量の減少と有効活用や代替え物質への転換を検討、促進しているところであるが、さらに今後とも、絶え間なく技術開発に努め、新技術の導入などによる環境対策・原料確保・省資源を進めることが必要である。

また、1995年7月1日に製造物責任法(PL法)が施行されたが、より安全性の高い製品作りについても気を遣っているところである。

 

1.造林・植林

紙の主原料は木材である。国際的に環境保全・森林保護に対する関心が高まる中で、資源の少ないわが国では、量的、価格的に安定した資源確保は紙パルプ産業の最大の課題である。現在、その原材料のおよそ8割を輸入しており、輸入先としてはアメリカ、オーストラリアのウエイトが高い。「木」は石炭・石油などの「化石資源」と違い「再生」可能な資源であり、木を原料とする当業界では造林事業への取り組みが一層活発化している。

当業界での海外植林は、1970年に紙パルプ9社からなる社団法人「南方造林協会」による試験造林が行われた。そして80年代後半から本格的な植林が行われ、特に近年、そのプロジェクトは活発化している。表(省略。以下同じ)に近々の実施計画も含めた紙パルプ企業の海外植林事業を示す。

場所は大洋州(オーストラリア、ニュージーランド)、南米(チリ)、東南アジアのいずれも南半球に集中している。樹種はラジアータパインなどの針葉樹、早成樹であるユーカリ、アカシアなどの広葉樹であり、伐採は早いもので8年、多くは10~12年が予定されている。造林面積合計は約14万ヘクタールで東京23区(約6万ヘクタール)の2倍強の広さに匹敵する。これらのプロジェクトは、さらに拡大計画を持っているものや、また、新たに予定されているプロジェクトもあり、自然保護・資源確保ために今後、ますます活発な展開が見込まれている。また、紙パ企業は国内に社有林など民間企業最大の31万ヘクタールの森林を所有しており、その維持・活用を図っているが、国内でも約15万ヘクタールの造林を行っている。

なお、日本経済新聞('95年12月2日付)によれば、オーストラリアは森林保護の立場から1996年から木材チップの輸出枠を11%減(対前年比)することを決めたという。依存度の高いわが国にとって痛手である。他国にも同様な動きが波及することも考えられ、輸入比率の高いわが国はパルプ材の供給ソースを長期的にも模索する必要がある。そのためにも、また、環境保全のためにも、ますます「育てる原料」への取り組みが重大となっている。

 

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更新日時:(吉田印刷所)

公開日時:(吉田印刷所)