2.古紙と再生紙
次に古紙と再生紙について触れる。紙パルプ産業といえば、木材を大量に使用する森林破壊・地球環境破壊の元凶とみられがちであるが、実際は異なる。
製紙原料の半分以上に古紙が使われている他、製材の木屑や間伐材などの有効利用や、また、自ら育てる原料として積極的に植林事業へ乗り出すなど様々な対応をしている。すなわち、「木」~「古紙」再生~「造林」へ、しかも上述のように「工場レベル」での環境対策も積極的に進めており、製紙産業は地球に優しいリサイクル型産業であるといえる。
ここでは、ゴミの減量、省資源、地球環境保護および森林資源保護問題から、近年大きくクローズアップされ、重要な位置づけにある古紙とその利用および再生紙を中心に説明する。
古紙の定義は、JIS P 0001(紙・パルプ用語)に「古紙とは使用済みの紙および板紙、または紙、板紙の裁断屑などの総称で板紙原料としてそのまま用いられことが多いが、脱インキ(DIP、脱墨)して印刷、筆記用紙などの原料とするものもある」とうたわれている。すなわち、製紙メーカーから出荷された後、回収されて製紙原料となるものが古紙であって、ただ古い紙が古紙ではない。リサイクル(再生)資源となるものが古紙というわけで、回収されないで再利用されないものは、ただのゴミである。
また、再生紙とは古紙入りの紙のことで、わが国ではその配合率については規制(定義)がない。なお、再生紙という言葉はもともとマスコミ用語で「リサイクルペーパー」とか「リフレッシュペーパー」ともいわれている。
古紙は発生源から見て、家庭から発生するものと企業、オフィスから発生するものに分けられるが、新聞、雑誌、チラシ、段ボール、OA用紙などが古紙として分別・回収され、新しく生まれ変わった紙製品(再生紙)として数多く我々の身近に見られるようになった。
ところで、わが国の紙・板紙の生産量は約2,853万t/年(1994年)で、アメリカに次いで世界第2位であり、世界の約11%を生産している。国民一人あたりの消費量に換算すると年間231kgに相当し、アメリカ、フィンランド、香港に次いで世界第4位に位置する。また、古紙の消費量(1994年)は1,514万t/年で世界第2位の消費国[世界の約15%に相当…全世界の古紙消費量(1993年) :約10,000万t(回収率約40%)]である。
このように見ると、わが国は世界でトップクラスの紙・板紙の生産・消費国であるとともに、有数の古紙の消費国であるといえる。
2.1 古紙利用率
古紙利用率すなわち、紙の原料として使用されている古紙の比率は約53%で、製紙原料の半分以上に古紙が使用されており、わが国は「世界のトップクラスの古紙利用先進国」であり、世界に誇れる実績を持っている。
また、紙・板紙の消費量に対する古紙の回収量すなわち、古紙の回収率はおよそ51%であり、これも世界で上位にある。なお、消費された紙・板紙は確かに回収し、再生可能であるが、トイレットペーパーに代表されるように、回収不可能なものがある。後述するが、現段階での回収可能な古紙の限界率は約68%とされているが、これを基準に考えると現状の古紙の回収レベルは約75%の高位にある。
ところで、ゴミ減量、省資源、環境保護等の観点から、さらに古紙使用比率を高めようと、1990年(平成2年)4月に、日本製紙連合会が古紙利用率を年1%ずつ上げ、5年後('95年3月)には55%に高めようという『リサイクル55計画』を発表。また、翌年の10月には、『再生資源の利用の促進に関する法律』いわゆるリサイクル法が施行され、先の古紙利用率の業界目標55%が行政レベルでも公認、推進されることとなった。
『55計画』は初年度の1990年、91年と順調に伸び、年度目標を達成したが、その後伸び悩み、最終の94年度は53.3%に止まった。これは、いわゆるバブルの崩壊と市況低迷による需要下落で紙の伸びがなく、逆に11年振りのマイナス成長となったこと、円高等による安価な輸入パルプの増加などによる古紙の利用低下、ブームの沈静化もあり、未達となったものである(表)。しかし、目標未達といいながらも、上記のようにわが国の古紙利用率は製紙原料の半分以上は古紙が使用されており、世界のトップレベルにあり、自信を持ってよいと考える(表)。
2.2 古紙活用の意義
では何故、今、古紙なのか。さらに説明する。
古紙を使用することによって、森林資源の利用減と紙ゴミの減量化に役立つとともに、古紙パルプは木材から作るパルプのおよそ1/3のエネルギー消費量で製造できるため省エネにもなる。なお、長期的にみれば、紙・板紙の需要は今後とも伸びていくものと考えられるが、森林や野生生物などへの自然保護政策の浸透で伐採規制が広まり、木材逼迫は世界的に深刻になってきている。このため今まで以上に紙、その他の原料となる森林の保護、育成を促進して行くことが重要となってきた。そのポイントの一つが「植林」であり、もう1つが一度紙になり、活用された後の「古紙」で、その利用拡大である。
ここでわが国における製紙の原料構成を見ていくと、表(省略)に示すとおりで、古紙を利用すればその分、木材および輸入パルプの消費が減り、森林が保護されるわけである。ただ、以前に「古紙1tは立木20本に相当する」という表現のために、あるいは「紙は木から作られる」ということから、紙を作るのに全て「青々とした立木」を原料として使用していると信じられ、紙パ産業は森林を破壊する企業だという悪いイメージが作られてきた。これは間違いで、ここで誤解を解き、理解を深めたい。
[注]「古紙は町の巨大な森林資源」といわれるが、古紙1tから約850kgのパルプが再生される。例えば、これを木材(直径14cm、高さ8m、樹齡30年)に換算すれば計算上、20本分に相当する。
総木材生産量に占める紙パルプに使用される木材の比率は、世界全体では約12%に過ぎず、日本はおよそ40%であり、その約60%が紙以外の建材や合板その他の用途に使われている。しかも、わが国で紙パルプに使用されているのは、天然林から伐採された丸太を原料としているのではなく、製材、建材や合板に不向きな細い木(小径木)や曲がった木などの天然林低質材48%、製材時の残材34%、人工林低質材12%、植林木を育てるために必要な間伐材5%、木材家屋の解体材、風雪などの被害材や古材等1%であり、これらを利用して、紙を作っており、大切な森林を多量に伐採しているということは不適当である。むしろ捨てられる資源を有効活用している環境に優しい企業であるといえる。しかも、わが国は「製紙原料の半分以上は古紙を使用しており、世界のトップレベルにある」こと、かつ国内外で「造林・植林」を推進していることを考えると紙パ産業は森林を破壊している企業だということは当たらない。
なお、森林破壊が進む木材輸出国の熱帯林保護を促進しようと、市民団体・建築家・木材店主らが中心となって「熱帯木林使用削減委員会」を発足させた(1995年10月5日付朝日新聞)。今後、熱帯林の使用削減や住宅や家具に使われる木材の見直しが、活発化して行くと考える。