2.3 再生紙
さて、古紙は有効でかつ重要な資源であるということを強調したが、古紙の利用には製紙原料として使用することと、それ以外の用途に活用していく方法があり、後者の方法についても最近特に、活発に研究開発と実用化(パルプモールド、コンクリート枠板等)が行われているところであるが、まだ、その比率は低い(全古紙消費量の約0.6%位)。今後の用途開発が待たれるところである。
ここでは製紙原料として使用すること、すなわち再生紙についてさらに話を進める。
現在、古紙の回収とその活用を図ることが社会的に急務となっており、再生紙の品種銘柄が増え、また、古紙配合率のアップが進められているが、ここで再生紙の歩みについて振り返ってみる。
およそ2000年の紙の歴史の中で、欧米から洋紙が伝わってきたのは明治の初め(1872年=明治5年)で今から約120年前のことであるが、明治の中頃には木材から洋紙をつくる技術が確立され量産が可能となった。さらに、明治末にはわが国独特の紙である「和紙」の生産量と肩をならべ、それ以降、和紙を追い越し洋紙の時代が到来した。
わが国で洋紙に古紙が使用されたのは、昭和に入ってからであるが、本格的には、戦後の1953年(昭和28年) のことである。まず板紙に、そして新聞用紙にも古紙が利用されたが、具体的に再生紙として認識されたのは、第2次オイルショック(木材チップショック)後の1980(昭和55)年に省資源対策による森林資源保護を目的として、本州製紙と神奈川県庁との共同開発により誕生した『やまゆり』(神奈川県の県花)という銘柄である。
その後、1989(平成元)年は「地球環境元年」といわれるように再び環境問題がクローズアップし、(地球に優しい)再生紙ブームが到来。さらに、上記のように、1990年4月には、日本製紙連合会による『リサイクル55計画』の発表。翌91年から92年にかけて、『再生資源の利用の促進に関する法律』(リサイクル法)と『廃棄物の処理及び清掃に関する法律』(廃棄物処理法)のいわゆる、リサイクル2法が制定、整備され、法的にも再生紙化が強化づけられた。
また、1995年6月16日には『容器包装に係わる分別収集および再商品化の促進等に関する法律』(容器包装リサイクル法)が公布、2年以内(一部5年以内)に施行されるが、消費者・市町村(行政)・事業者がそれぞれの立場で、役割分担してリサイクルを進めることが義務づけられることとなった。これによりゴミの減量ばかりでなく、省資源や環境保護を図ろうというものである。
2.4 再生紙における課題
次に、現状の問題点とポイントについて触れる。新聞用紙や板紙における古紙の回収率および利用率は比較的、高く限界近くにある。一方、印刷・情報用紙いわゆる企業等で発生しているOA古紙などの回収率は当該用紙全体の1/3くらいで、その品種への古紙利用率は10数%に過ぎない(表)。
次の新しい目標[『ポスト55計画』…2000年に古紙利用率56%達成。(参考)古紙回収可能限界率:約68%(表)]に向かって古紙の利用を拡大していくためには、市況とともに紙パ産業の安定が前提になるが、中でも回収とその利用が低い印刷・情報用紙古紙の活用拡大とそれらへの古紙配合率アップが最重要で、積極的に進めていく必要がある。そのためには、より一層の古紙処理技術の向上、再生紙への需要喚起、古紙回収システムの合理化等が急務である。さらに重要なことは、一人ひとりの意識の改革であると考える。トイレットペーパーの例に見られるように新聞や牛乳パックなどの古紙の回収に協力しても、再生紙でできたトイレットペーパーを買わないでバージンパルプでできているものを買うという、これでは、完全にリサイクルに協力したとはいえない。
また、同じことが、紙の白さへの強い要求である。「環境に優しい企業」であるとイメージアップのために再生紙を使い自社をPRする企業が多いが、再生紙を使えば(古紙配合率が増えれば)紙の白さが低下する。これを知りながら、今までと白さは変えないで再生紙を作ってほしいと、強く固守するユーザーがまだ多い。再生紙に対する理解を深め、使用を促進して行く応援・協力体制も必要である。このギャップを乗り越えなければ、古紙の増配合はもとより、再生紙の普及・拡大に結びつかない。
古紙の回収もさることながら、それを配合した再生紙を良く理解しない限り、古紙回収と消費とのアンバランスが解消できず、古紙利用の拡大はあり得ないと考える。
当初、古紙を配合した再生紙(印刷用紙)は表面強度、紙粉、剛度や引張り強さ等の紙力などが劣るとの指摘があったが、古紙パルプの改善や原料配合の修正、抄紙・塗布薬品の使用などによって一般紙なみの品質レベルになっている。例えば、高速オフセット輪転印刷機に掛り、かつ用紙の軽量化が進む中で、印刷作業性・印刷効果面での品質要求が厳しい新聞用紙には、古紙が平均45%配合されており、さらに高配合への検討も行われている。
なお、再生紙は古紙回収経費や脱墨設備が必要なために、一般紙よりは若干、価格が高い。今後、回収コスト低減の努力と、再生紙への認識が一般品なみになり、拡大していけば、価格問題は解消されて行くものと考えられる。
昔、紙は大変貴重なものであったため、使用済みの紙の裏などを使用したり、再び漉き返して使ったといわれる。平安時代には文字などが書かれて不用になった紙を反故(古)ないし反故紙といい、これを集めて漉き返した紙を宿紙(「しゅくし」ともいう=「水雲紙」)と呼んだ。その頃は今のように脱墨技術のない時代であったから、その紙は薄く墨色が残っており、後世このような紙は「薄墨紙」とも呼ばれている。まさに今日の古紙の再利用であり、再生紙である。
現在、われわれは豊富な紙の生活に慣れ、紙は空気のように無限にあるものだと安心しているのではないだろうか。空気がないと生きていけないように紙のない生活も考えられない。なくてはならない「紙」と永遠に付き合うためにも、消費は美徳だという時代は終わったと認識する必要があると考える。ものを大切に思う気持ちがリサイクル化すなわち再生化の始まりであり、自然保護の原点ではなかろうか。
資源保護および再生化は一時のブームではなく継続して実行されなければならない永遠のテーマであり、廃棄物を出している一人ひとりの実行項目であり、企業の責務であると考える。