4.21世紀のキーワード「資源の節約」「環境保全」および「リサイクル」
熟成産業である紙パ産業が、将来ともさらに生き延び、発展していくための最大課題は、「環境保護」への熱意と実践であり、継続的な「資源確保」対策および絶え間ない「技術開発」である。
ところで、「資源の節約」、「環境保全」および「リサイクル」が来る21世紀のキーワードとされているが、製紙産業はまさにこれにピッタリ当てはまる産業であるといえる。以下、説明していきたい。
(1)「資源の節約」(省資源)
わが国の紙パ産業は、省資源に努力しており古紙や木材の有効利用型の企業である。
例えば、
- 紙パ産業は、エネルギーの多消費型産業でかつ、多量の水を必要とする用水型産業であるが、過去10~15年で原単位を各々約 3割削減してきた。この省エネにより、温暖化ガスといわれるCO2の削減にも寄与している。
また、用水については、紙1t作るの平均で水を150tくらい使っていたのが、現在は、100tと大幅に減少しており省資源に努力している。
- 製紙原料の半分以上(1998年実績54.9%)は古紙を使用しており、世界でもトップクラスの古紙有効利用国である。また、古紙消費量(1998年)は、16,211千tでアメリカに次ぐ世界第 2位の消費国であり、リサイクル国であり、紙パ産業は資源循環型企業といえる。
ここで古紙・再生紙について若干触れる。
ここ数年の古紙利用率は年に 0.1~0.4ポイントの上昇で伸び悩み状態にあり、1995年達成目標であった55%[リサイクル55計画]は53.4%と大きく未達に終わったが、1998年は対前年 0.9ポイントアップの54.9%となった。これは紙・板紙の生産自体が減少したなか、100%再生印刷・情報用紙の登場やその拡大に代表されるように、紙における古紙利用量が前年比 5.8ポイント増となり、利用率を押し上げたことによることが大きい。
再生紙が見直され環境対応が定着しつつあるためで、2000年に達成目標である古紙利用率56%[リサイクル56計画]も射程距離に入り、身近になってきた。[注記]99年実績は56.3%で、2000年の達成目標56%を1年早く達成。新しく2005年度までに古紙利用率60%の達成目標を設定。
現在、回収可能な古紙の限界率は約68%とされているが、これを基準に考えると現状の古紙の回収レベル(1998年実績…55.3%)は約81%の高位にあるといえる。
しかしながら、資源保護・再生は持続すべく永遠のテーマである。古紙は有効でかつ重要な「リサイクル(再生)資源」であり、古紙の回収可能限界値(約68%)への挑戦と、さらなる古紙活用を促進していく必要がある。
そのためには、板紙・新聞用紙などに比べて古紙の回収率・利用率が低い上質系の印刷・情報用紙(OA用紙など)の回収・利用を増大することが重要なポイントであり、他の品種、例えば新聞用紙への古紙増量やトイレットペーパーなどへの古紙配合拡大を図っていく必要がある。 それにはもう一段、古紙回収システムの構築と古紙処理技術・脱墨技術の改善・向上や白さ・チリへのこだわりを緩和すること、製紙原料以外への古紙利用の拡大および行政・企業・各団体・消費者の意識改革や、古紙再生品への理解と使用増による需要喚起などを推し進めていくことが重要である。
古紙活用の意義
①紙ゴミの減量…分別回収、使用されれば資源。その分、ゴミが減り美化にもなるとともに埋め立て、焼却などが不要となり、余分な燃料、コストが不要(環境保護)。
②森林資源の利用減…「古紙は町の巨大な森林資源」といわれるが、古紙1tから約850kgのパルプが再生される。例えば、古紙1tで再生パルプ100%のトイレットペーパーが約5,500ロール(114mm幅×シングル60m)が作られる(森林保護)。
③省エネルギー…古紙パルプ製造には木材チップから作られるパルプのおよそ1/3のエネルギー消費量で済み化石燃料の節減(CO2発生の抑制)となるなど環境負荷が少ない。
再生紙の課題…紙の機能と白さ。真っ白でなくてもいいじゃないか
白さが好まれ、白さへのあこがれがあるのも事実である。
確かに、以前は、悪い、汚い、不衛生、安全性に乏しいとの感覚から製品イメージを損なうと考えられ、再生紙はゴミからできたもの。汚いものとの思い込みから、敬遠され、毛嫌いされてきたこともあり、古紙とか、再生紙とかいう言葉はほとんど表面に出ることはなかった。
戦後、まもなくは紙の生産量が少なく、紙そのものが貴重であったから、例えば、不要となった新聞用紙などは物を包んだり、落し紙などに使われたりした。また、当時は現在のような白いトイレットロールはなく、色の黒いちり紙が使われたものである。[注]1人当たりの紙の年間消費量推移:1930~1944(昭和5~19)年…8~19kg、1945~1950(昭和20~25)年…3~10kg。これが漸次増加し 1996(平成 8)年…245kg 、97年…249kg、98年…237kg。
なお、さらにその昔は、紙は大変貴重なものであったため、使用済みの紙の裏などを使用したり、再び漉き返して使ったといわれる。平安時代には文字などが書かれて不用になった紙を反故(古)<ほご>ないし反故紙といい、これを集めて漉き返した紙を宿紙(「しゅくし」ともいう=「水雲紙」)と呼んだ。その頃は今のように脱墨技術のない時代であったから、その紙は薄く墨色が残っており、後世このような紙は「薄墨紙」とも呼ばれている。まさに古紙の再利用であり、今日でいう再生紙であり、貴重に使われていた。
また、洋紙製造が伝わってきた明治初期の頃の紙の原料はぼろ布であり、人口が密集し集荷量が多く、回収しやすい都会地近くに紙製造工場が誕生した。これまた、再生紙である。当時の紙はいずれも貴重なものであった。物が少ないときの希少価値である。
ところが今日、生産量が増え、1人当たりの消費量も増加するにつれ、豊富な紙の生活に慣れ、その中で消費者のニーズに応えて技術・品質対応してきた紙の中から、しかも沢山ある紙の中から、自由に選ぶことができるようになってきた。このことは紙を選択する場合、その機能だけでなく、プラス何かを付加して買う選択肢が増えたことを意味している。
例えば、トイレットペーパーについていえば、拭くということがその紙の機能であり、パルプ物か再生物か、色が白いか黒いか、カラーものであろうが、機能的には関係ないのでどうでもよさそうであるが、ものが種々しかも多々あり、メーカーが多数ある場合には、実際には、そのものの機能だけでは売れない。そのものが持つ機能以外に、品質、価格、安全性、外観、見栄え、サービスなどそれらを総合して消費者の欲求・満足度が満たされて初めて買われるのである。
同じ機能を持ちながら、再生トイレットペーパーより、パルプものの方が売れているのがその例であり、白さへのこだわりがまだ残っているものの1つがトイレットペーパーである。トイレットペーパーは、新聞用紙などと違い、決して古紙として再生されることはない。まさに使い捨てである。再生されることのないトイレットペーパーであるが、白さが上がってきた。使い捨てで、拭くという機能から見たら無駄である。今少し再生トイレットペーパーへの動きがあるが、まだまだである。
しかし、近年は変わりつつある。
1989(平成元)年は「地球環境元年」といわれるように環境問題がクローズアップし、(地球に優しい)再生紙ブームが到来し、今また、温暖化防止、森林保護など地球環境保全・育成のために、また、消化しきれない古紙の余剰対策として、すべての行政・企業・消費者を含めてといっていいほど、関心が高まり、実際面での動きになってきた。
行政や企業・民間団体もイメージアップだけではなく、地球環境保全のためにも再生紙への切り替えや、古紙配合率のアップなどが顕著になってきた。
これは大きな意識と行動の変化である。いや変革といってもよいほどの変わりようである。これが以前のようにブームで終わるか、定着していくかは、地球環境問題や再生紙の意味合いをよく理解し、紙は何もかも真っ白でなくてもよいのではないか、と(みんなが)気付き、白さへの理解とこだわりに妥協しながら再生紙を受け入れることである。今その動きが出てきており、高まりつつある。
また、製紙原料として木材を有効利用している
製紙原料として木材を使用しているため、紙パ産業は「森林を破壊する元凶」であるとか、天然木材を原料に使っているように思われているが、実態は別表(省略)に示すように、製材の残材や間伐材などを使い、有効活用しているのである。
天然林・人工林の健全育成、保護のために間伐しているが、この間伐材をそのままにしておけば廃材となり腐り、地球温暖化ガスとなる炭酸ガスなどを発生させ環境汚染となるものを資源として、有効に活用しているのである。これは紙パ産業は「森林を破壊する元凶」であるということは当たらない。むしろ環境に優しい省資源型の産業であるといえる。木材の有効活用図(端材の利用)[日本製紙連合会資料から抜粋]を別に示す(省略)。
(2)「環境保全」…植林「育てる原料」への取り組み
特に資源の少ないわが国では、安定した資源(原料)の確保は紙パルプ産業の最大の責務で、かつ課題である。紙の主原料は木材であるが、木材の供給源である森林は、「資源」という面と「環境保護」(景観含む)という両面を持つが、地球規模的に環境保全・森林保護に対する関心が高まる中で、ただ単に森林は「資源」というだけで、消費することは許されない。
森林の持つ「地球環境保護」という側面を積極的に育てる必要がある。幸いにも「木」は石炭・石油などの「化石資源」と違い「再生」可能な資源であり、木を原料とする当業界では植林・造林事業への取り組みが一層活発化している。環境保全のためにも、ますます「育てる原料」「森の育成」への取り組みが重大となっている。
[注]
- 1998年末現在:植林総実績…約21万ha
- 2010年までに植林面積を55万ha に拡大[日本製紙連合会「環境に関する自主行動計画」目標( '97年 1月制定)]
- 植林業務促進のために98年 3月に社団法人「海外産業植林センター」発足…植林活動活発化
(3)「リサイクル」…古紙から再生紙へ、植林そして育木へ
これまで説明してきたように、製紙産業は木からパルプへ、そして「紙」に。回収された古紙は、パルプに再生され、さらに「紙」へ。また、植林から「育木」へと、地球に優しいリサイクル(循環)型産業であるといえる。
なお、森林は二酸化炭素(CO2)を固定化し、地球の温暖化防止に貢献しているが、成長した成木よりも成長過程にある若木のほうが、光合成によるCO2吸収が旺盛である。そういう意味では、成長した(しきった)木は、伐採をし有効に活用した方がよく、ほったらかしにして無管理で倒木すれば腐ったりして、逆にCO2を発生させることになる。成木は計画的に伐採し、植林・育木する。このサイクルを繰り返すことは重要なことであり、紙パ産業は、この植林・育木に力を入れている。まさに製紙はリサイクル産業として大きな責務を果たしている。