FAQ(44) 手漉き和紙には、「紙の目」は無いのでしょうか?

ご質問

子供の夏休みの自由研究で「紙」について調べています。「紙の目」は機械ですいたときの水の流れに、繊維が揃うからなどと本に書かれていました。となると、手漉き和紙には、「紙の目」は無いと考えられますが…実際に試してみると、どうも、「紙の目」があるようなんです。本当のところ、どうなんでしょうか?

手漉き和紙だと教えられ買いましたが、機械漉きの和紙だったのでしょうか?教えてください。

(SKさん)

 

回答

お答えいたします。手漉き和紙にも、「紙の目」があります。ただ、わが国の伝統的な手漉き和紙の紙漉きの方法には大きく分けて二通りあります。「溜め漉き」と「流し漉き」です。このうち「紙の目」ができるのは「流し漉き」の方です。

ところで、「横紙破り」という諺がありますが、紙を破るときに、紙の「目」に沿って直線状(縦方向)に裂けやすく、その逆(横方向)には蛇行状になり裂けにくいという特性があります。特に和紙は「流し漉き」の場合のように長繊維を原料にして縦揺りして漉きますので、縦への漉き目が強くその傾向が大きくて、横方向に破りにくいことから、この諺は由来しています。

蛇足ながら同じ意味で「横紙を裂く」とか、「横車を押す」もあります。「習慣に外れたことを無理にしたり、自分の考えを強引に押し通す」意味で使われますが、これは上記のように紙の横方向が縦方向よりも破りにくく、しかもきれいに破れないのに無理して紙の横方向に破ることからきています。

なお、紙を縦横方向に破ったときに、抵抗があり、真直ぐに破りにくく、裂け目の毛羽だちが割りと多いほうが、紙の横方向です。反対に比較的容易に直線的に破れ、毛羽だちが少ないほうが縦方向です。これは紙の縦・横方向を見分ける方法のひとつですので、新聞紙など、いろいろな紙でで試してみてください。

次に「流し漉き」法を少し説明します。

 

「流し漉き」法

よく叩解(こうかい)した靱皮繊維などからなる紙料液の入った漉き舟に、トロロアオイ、ノリウツギなどの植物の根から採取した粘液物質であるネリ(粘剤)を添加します。紙料液にネリを混ぜることで、水中の繊維を均等に分散して浮遊させ、漉き舟の底に沈殿しにくくして、漉きやすくなるという効果があります。

次に紙を漉くわけですが、紙質の形成には紙料液を汲みあげて、簀(漉簀・漉き網)から水が落ちていくまでの時間と漉桁を揺り動かす操作が勝負です。しかし、ここでもネリが大きな役目をしています。

紙漉きのために紙料液を竹ひごやカヤ(萱)ひごを編んだ簀のある漉桁で汲みあげますが、このときに漉簀から水が滴り(したたり)落ち脱水されて、繊維が簀の上で配向し紙質が形成されていきます。この紙質の形成が早すぎないように、紙料液中にネリが添加してあるため、紙料液の粘性が高くなっており、簀から水がすぐに抜けにくくなっています。

すなわち、ネリの濃さで水の粘度を調整し脱水をコントロールしますが、その濾過速度が緩やかになることにより、紙漉きのための動作に余裕が生じ、この間に漉桁を時間を掛けて揺り動かすことができるようになります。

そこで漉桁を前後左右に、すなわち縦()方向や横(左右)方向に何回か勢いよく十分に揺り動かします。しかも、ネリの添加により繊維が水中でよく分散し、浮遊し沈殿しにくくなっており、均一に絡み合い簀の上に紙層が残るようになっていますので、この操作を数回、繰り返すうちに繊維同士がよく絡み合って厚さも均一な紙の層ができます。

紙の厚さはすくい上げる量と回数で決まりますが、余分の紙料液を簀桁の前先から勢いよくサッと漉き舟の中に流し捨てます。これを「捨て水」と呼んでいますが、この繰り返し操作によって、繊維は簀桁の縦方向に並び、かつ繊維の不規則な塊や塵、皮屑などの夾雑物が除かれ、きれいで強い紙が出来上がります。

この簀桁を数回、すくいあげたり、揺り動かすことや、捨て水を捨てることが流し漉きと言われる所以です。この繰り返される操作により簀の上の繊維は、横(左右)方向よりも縦()方向[前後方向]への並びが多くなり、「紙の目」(流し目)ができるわけです。

なお、流し漉きは、わが国で古くから開発された紙漉き法で、現在まで和紙作りの多くはこの方法です。

これに対して、「溜め漉き」とは、古来、中国の紙やヨーロッパなどに伝わる方法で、それがわが国に伝わってきたものです。その方法は紙料液を漉桁に汲み上げてから、繊維の均等の分散をはかるために簀桁をわずかに揺り動かして、水が自然に切れるまで暫く置くと簀(す)の上に紙料の薄い層(湿紙といいます)ができます。「流し漉き」のように、漉桁を前後左右に勢いよく揺り動かさないため、「紙の目」(流し目)ができにくいわけです。この方法が溜め漉きです。

 

長くなりましたが、これがご質問の回答です。なお、ホームページ

をご参照ください。

 


更新日時:(吉田印刷所)

公開日時:(吉田印刷所)