和紙の知識(3) 和紙の特徴

わが国独特の和紙は、世界の手づくりの紙のなかで、最も薄くて、しかも強くて、風合いが美しい紙であるといわれています。

この和紙のすばらしさの要因は、原料とその漉き方に見ることができます。

 

原料としては楮(こうぞ)、三椏 (みつまた)、雁皮(がんぴ)などの長繊維である靱皮(じんぴ)繊維を用いており、これらは洋紙が主に木材パルプを原料にしており、中国紙の主流である竹やわが国でも話題になっている非木材質のケナフなどと比べて、いずれも繊維が長くて繊維どうしが緊密に絡み合い、ねばり強く、あるいは光沢があり美しく滑らかで、しかも薄くても強靭な紙をつくることができるなど、きわめてすぐれた特質を備えております。(参照)紙について(6-1) 紙の特徴《基本特性》

 

これらの植物の樹皮を原料にしておりますが、楮や三椏は蒸してはぎ、雁皮は生はぎですが、比較的容易に木芯部からはがれ、その樹皮の表皮をそぎ除いた部分に多量に靱皮繊維が含まれております。

楮の繊維が長く10~20mmほどもあり、絡み合いやすく、網の目のようにネットワーク状に繊維同士がつながりを持ち最も強靭です。雁皮の繊維は5mm内外とそれより短いですが、半透明で光沢があり、ねばり強く、平滑なきめ細やかさを持ち、三椏の繊維も雁皮と同様に短いですが、腰が柔軟で、しかも優美な紙が得られます。[参考]木材繊維の長さ…0.8~4mmくらい(広葉樹:0.8~1.8mm、針葉樹:2~4mm)

 

さらに和紙の大きな特色は、寿命が長いことです。この保存性・耐久性については次の章で述べます。

 

また、今ひとつ和紙のすばらしさの要因を、漉き方に見ることができます。

すなわち、トロロアオイ(黄蜀葵)の根や、ノリウツギ(糊空木)の樹皮などから抽出した粘剤「ネリ」を使い、「流し漉き」という日本独特な技法を取り入れた製法を採用しているところにあります。

 

製紙の方法には溜め漉きと流し漉きとの2通りがあります。

 

溜め漉きとは、古来、中国の紙やヨーロッパなどに伝わる方法で、それがわが国に伝わってきたものです。

その方法は紙料液を漉桁に汲み上げてから、繊維の均等の分散をはかるために簀桁をわずかに揺り動かして、水が自然に切れるまで暫く置くと簀(す)の上に紙料の薄い層(湿紙といいます)ができます。この方法が溜め漉きです。できた湿紙を紗(しゃ)などの布にはさんで、湿紙同士がくっつかないように板の台(紙床)の上に積み重ねていきます。重ねた紙に重しをして水分を切り、その後、一枚ずつはがして張り板(干し板)に張り伸ばして張り付けゆっくりと日乾燥します。

わが国では主流ではありませんが、現在でも溜め漉きは、透かし紋様を漉き込むときや高な証書用紙を作るときなどに行われております。

 

ー方、流し漉きは、わが国で開発された紙漉き法で、現在の和紙作りはほとんどがこの方法です。

流し漉きは、よく叩解(こうかい…木棒で手打ちするなどの方法で繊維を解(ほぐ)すこと)した繊維からなる紙料液の入った漉き舟に、トロロアオイ、ノリウツギなどから採取したネリ(粘状物質)を加えることに特徴があります。

 

漉き網から水が滴り(したたり)落ち脱水されますが、繊維がシート内で配向するのに早すぎないように、ネリを添加して水の粘度を高めて脱水をコントロールし、繊維を水中でよく分散し、浮遊し沈殿しにくくします。しかも均一に絡み合わせて簀の上に紙層が残るようになります。

 

逆に粘性が増加すると、紙料液を漉桁に汲みあげたとき、竹ひごやカヤ(萱)ひごを編んだ簀を使って漉きますが、簀からの水の濾過速度が遅くなり時間がかかるようになります。そこで漉桁を前後左右に、すなわち、縦()方向や横(左右)方向に勢いよく十分に揺り動かして、繊維同士をよく絡み合わせる方法が行われました。

この揺り動かす動作を何回か繰り返すうちに繊維は絡み合って紙の層ができます。紙の厚さはすくい上げる回数で決まりますが、余分の紙料液を簀桁の前先から勢いよくサッと漉き舟の中に流し捨てます。これを「捨て水」と呼んでいますが、この操作によって、繊維は簀桁の縦方向に並び、かつ繊維の不規則な塊や塵、皮屑などの夾雑物が除かれきれいな紙が出来上がります。

 

さらに漉き上げた湿紙を積み重ね、重しをのせて水切りをするのは溜め漉きの場合と同じですが、流し漉きでは紗などの布をはさみません。これがなくてもネリの効果で、湿紙同士はお互いにくっつかないで、一枚ずつ容易にはがれるようになります。その後は、溜め漉きと同じように張り板に張り伸ばして張り付けゆっくりと日乾燥します。

 

以上のように、ネリを使う高度な流し漉きを完成したのは、わが国の紙漉きの極め付きといえます。

 


更新日時:(吉田印刷所)

公開日時:(吉田印刷所)